111.交流戦、第三試合。戦闘魔法。
休憩中はあれから、何事も無かった。
ナデシコはライリーから、最後の一撃について質問攻めにされていた。
その横で、イザベラはメグへ最初こそ、激励していたものの、途中から先ほどの立ち会いについて話していた。
俺はと言えば、なんとなくその中に入ることが躊躇われたので、壁に背を預け、回復に努めていた。
ほら、女子同士の中に入って行くのってハードル高いし。
「……さて、先の2試合にならうなら、魔法についてのおさらいを、入れる所だが、ね。……なにせ、魔法は定義が広く、複雑だ。……今日の所は、戦闘に使う『魔法』に限定し、エマ、キミからの解説を頼もう」
しばしの休息の後、ユディト先生は俺達を集め話始めた。
「はい、学園長。魔法の定義については魔力を形成し放出する。というのが、簡潔な説明ですね。魔力の形成については、属性と形状の指定を声に出すことを詠唱と呼びます。しかし、このように…」
エマ先生は指を立てた。すると、その先端に魔力が集中するのが分かった。
その魔力は結晶に代わり、指先を壁に向けると、壁へ飛んだ。壁に当たれば、砕けて消えた。
「詠唱無しでも使う事が出来ます。では次に、『ストーン・バレッド』」
懐から杖を取り出すと、先ほどと同じ現象が起る。ただ、結晶が形成される時間も、飛んでいく速度も段違いだ。壁にも、はっきりと痕跡が残っている。
「杖は魔力の収束を早めます。詠唱は生成のイメージを明確にします。さらに、収束や生成に使っていた魔力を放出に回せる為、威力と速度を高めることが出来ます。そうですね、個人差もありますが約二倍とも言われます。杖は多種多様で一部武器には、杖の機能がある武器もありますね」
その実例を俺とナデシコは見ている。アーテナイの『ファイア・プリズン』だ。
初めて見た時、杖無しでデカい肉を焼くのに使っていた。いや、マジなんだって。
次に見た時は、槌を携え、大型の魔物を拘束するのに使っていた。恐らく、アーテナイの槌は、杖の機能を果たす武器なのだろう。
まぁ、この二つの差は、アーテナイの本気度合いの差でもあるのだろうが。
「では次に属性や形状の解説を…」
「……ありがとう、エマ。…また、後日、ね?」
「…はい」
やんわりと止められたエマ先生は、少し恥ずかしそうだった。
「……さて、種目を説明しよう。…壁に描いた的当て、だ」
最後にしては、随分シンプルだった。
説明されたルールは以下の通りだ。
壁に円形の的を書き、バツを付け、四つに分ける。その四つのどこかに当たれば、1点。
的の大きさと的からの距離は、手の平ほどの正円とそこから十歩。線の太さは指先ほど。
そして、その線上に当たった時、隣り合う場所も得点になる。つまり、線上に当たれば2点、的の中心の一点に当たると4点。
回数は4回。最大16点だ。
「……さて、今回はハンデはない。…キミ達は、魔法に不慣れだから、ね。…それ以外は、同条件、としよう」
ユディト先生は、持ってきた木箱から短い杖を何本か取り出した。
「……練習用の杖、特に性能差はないよ。…壁の的は二つ用意した。…三人とも、5回まで練習したまえ、その後、転入生の二人のうち、一人が代表としてメグくんと競う。…何か質問は?」
スッと、メグは手を挙げた。ユディト先生は、無言で促した。
「わたくしは自主的に、似たような訓練をしていますの。そこで、まずわたくしが手本を見せる、というのはいかがかしら?それから、練習も結構ですわ。お二人も、何点を目標にすればいいか、わかると思いますの」
「……ということだが、どうするか、ね?」
メグのそれは、自主的なハンデ宣言にも等しい。そして、選択権は俺たちにあるようだ。
「へぇ、舐めてくれるじゃない。いいわよ、それで。ヤマトもいいでしょ?」
「ああ、いいけど…」
ナデシコが若干、苛ついてることが少し気にかかった。二人の間でなにかあったのだろうか?
「では、遠慮なく、行かせていただきますわ」
ナデシコの挑発的な視線を受けても、メグはあくまでにこやかだった。
杖を受け取ると、位置について、杖の先端を的に向けた。
「『ストーン・バレッド』『ストーン・バレッド』『ストーン・バレッド』『ストーン・バレッド』」
間もおかぬ四連射、その軌道は寸分たがわず、的へと吸い込まれるように着弾した。
全弾的中。場所、中心ど真ん中。16点満点。
「まぁ、運がいいですわ。…あら?確か、これで27点ですわね。そう、現在14点のお二人が、勝つには…14点ですわね」
つまり、勝つには三回中心に当て、残る一回も線上に当てることが最低条件。
仮に一度でも的から外すと、俺たちの負け。的に当たっても、一度でも線から外れると引き分け以下。
「先に学んでいた、『先輩』として、お二人の健闘、願っていますの。頑張ってくださいませ」
メグはあくまでにこやかだ。
そう、まるで小悪魔のように、にこやかだった。




