109.二人の差。第二試合の終了。
「……その通り、皆、分かったようだ、ね。…では、最初に手を上げた、ナデシコくん、キミの意見を聞こう」
「はーい。その前に、ヤマトとイザベラに確認ね。木剣の事、どう考えてる?それから、どれくらい使ったことがある?」
答え合わせが始まった。交流試合だが、やはり授業の一環らしい。質問が来たので答えることにする。
「木で出来た剣、ほとんど使った事が無い、だな」
「練習用の剣、使わない日はありません、ですね」
「二人ともありがと。てなわけで、二人が魔力付与で向上させた性能は、ヤマトが切断力、イザベラが耐久力だったら、あの結果も納得出来るでしょ?そもそも、木剣に対する認識が、根底から違うのよ」
俺が斬ろうとして、イザベラが打とうとしていた。
だから、イザベラの剣が斬れ、俺の剣が折れた。
「……その通り、正解だ、ナデシコくん。…エマ、補足を」
「はい。付与には、対象にただ魔力を纏わせる単純付与。もしくは、ある程度指向性を持たせて、魔力を纏わせる特性付与。この二つが存在します。今日、二人が行ったのが後者、言うなれば『耐久特性付与』『斬撃特性付与』とでも言いましょうか」
これは、後に聞いた話だが、単純付与も、別に程度が低い訳では無い。
全体的な性能の向上が出来るので、むしろ好んで使うものも居るのだとか。
「斬ることが出来たのは、魔力と技量の差。
壊れてしまったのは、損傷対して硬度が高かったから。
そして、当人であるにも関わらず、答えがなかなか出なかったのは、『木剣とはこうである』と二人の中で定義付けされていたから。
それからナデシコさんは、木剣を普段ヤマトさんが使わないと知っていたから、二人の認識の違いにいち早くに気付いたのではないでしょうか」
エマ先生の補足に、ナデシコも頷いている。俺もその解説で納得した。
「ちなみにわたくしは、ナデシコさんが分かった、ということから着想を得ましたの。それに、ヤマトさんの携帯する武器を、事前に見れたことも大きいですわ。剣と言うには変わった形状でしたので、印象に残りましたの」
そう言えば、『姫桜』を見ていたな。そこがライリーとの違いか。
「……二人とも、ご苦労。…さて、すっかり水を差してしまったが、続き、といこうか。…ヤマトくん、イザベラくん、いいかな?」
「ああ、俺は構わない」
俺はすぐに頷いたが、イザベラは俺を近くで見上げている。
「では、その前に一つだけ、ヤマトさん。…わたしは誤解をしていました」
「ん?何を?」
「ヤマトさんをです。試合開始前の不真面目な態度、あれはわたしを試していたのですね?」
「今まさに誤解されてるのだが?」
「その上、わざと損傷の大きい武器を使い、ハンデを拒んだわたしに実質のハンデを与え」
「そんなつもりないよ?」
「しかし、わたしはそれに応える事が出来ず、双方の剣を破壊、という形で新たな学びの機会をいただきました」
「俺も初耳だったよ?」
「ご謙遜はやめてください!」
「話を聞いてくれます!?」
いかん、今までに居ないタイプの……だ。
「ねぇ、イザベラって……」
「そうよ、いい子なんだけどね」
「素直過ぎるといいますか、少々不安になってしまいますわ」
じゃあ、フォロー入れてくれませんかね!?
一塊になって、こちらを見てくるのは女子三人。その声は俺にも聞こえている以上、イザベラにも届いているはずなのだが…。
ダメだ、凄くキラキラした目をこちらに向けている。
馬の耳に念仏、馬耳東風。イザベラの後頭部の揺れるポーニーテールを見ながら、そんな言葉が思い浮かんだ。
そして、結局その後。
「イザベラ!もっと踏み込んでこい!」
「はい!兄上!」
「兄上やめてね!」
「申し訳ございません!兄上!」
「話聞いてる!?」
「はい!兄上!」
「どっち!?」
という会話を木剣を打ち合わせながら行った。試合とは名ばかりの剣術教室になってしまった。
イザベラは、改めて打ち合みて分かったが、実力者だったのだ。今の所、俺に分があるようだった。
結果、俺がイザベラの木剣を3回破壊し、俺の勝利で決着が付いた。
俺もあの後、一度木剣を折られているので辛勝だ。
いきなり、イザベラに『兄上』と呼ばれ、気が抜けた所を折られたのだ。
もし、作戦だったのなら策士と呼べたかも知れないが、
「はっ!…きっと兄上は、自らを追い込み、手本を見せてくださるのですね!」
という誤解が増えた。兄呼びは賭けの条件だった筈だが、聞く耳は無いようだった。もうやだこの子。
「ありがとうございました」
「ご指導、ありがとうございました」
試合の後は一礼。それはこちらの世界でも共通だった。
イザベラはそれまでの騒がしさが嘘のように凜々しく、一礼をした。
しかし、それ終わると、すぐに俺の元に駆け寄ってきた。
「兄上!私の剣は、いかがだったでしょうか?」
「え?あー、そうだな。基礎は十分なんじゃないか。木剣に慣れてるのか、一撃が軽いな」
「はい!」
「ただ、迷いのない振り抜きは良かったと思う。相手の剣を受けきれないと分かれば、回避に専念して隙を伺い、鋭い踏み込みも後半は出来てたしな」
ただの個人の感想だったのだが、言えば言うほど、その瞳の輝きは増した。つい、言葉を重ねてしまう。
「恐ろしい速度で懐いたわね。いいのナデシコ?」
「アレに嫉妬したら負け、って感じがする…」
「……そのわりには、不機嫌そうだ、ね」
「学園長、口は災いの元ですよ?」
「イザベラさんは剣術大会では負け無しで、静麗剣の異名もありますの。打ち負かした相手すら、その姿に見惚れるのだとか。無論、異性も含めてですわ、ナデシコさん」
「なんで私に言うのよ…」
「いえ、知りたいかと思いまして、余計なお世話だったかしら?」
「余計よ。勝ち確状況の次の試合でも、本気を出すくらいにね」
「まぁ、怖いですわ」
こんな会話が繰り広げられているとは、知らず俺はイザベラと話していた。
「流石です!兄上!」
「それはホント勘弁して」
いつか、この全肯定自認妹をなんとかしよう。出来るかな?出来たらいいな。




