108.王室護衛官の娘。イザベラ。
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ライリーの母は、王室護衛官である。
元々、貴族の三女であった彼女が、その道を歩むきっかけになったのは、幼い頃に新年祭に見た人間側の王家の、その護衛官を見たことである。その姿勢や、立ち姿に憧れた。
そこから剣を持ち、鍛錬の日々、男所帯の騎士学園に単身乗り込み、筆頭をかっさらい歴代最強とまで呼ばれた剣で夢を掴んだ、否、切り開いた人生だった。
念願の護衛官の職を得た後に、彼女の両親は大層涙した。そう、娘のもらい手がいない、と。
両親の心配を余所に、王城の勤めの料理人と大恋愛の末結婚し、子宝にも恵まれた。
三年ほどで、護衛官に復帰したが、休日には娘の相手も欠かさない。
「いいですか。私は周囲に認められ、応援され、私の道を掴みました。もし、貴女が剣の道以外を望むなら、父と母は全力で応援します。しかし、もし剣の道を選ぶのなら、母はとても厳しくなります。イザベラ、貴女を誰より愛する故に」
かくして、厳しい修行に耐えたイザベラには、同世代に今まで敵という敵が居なくなった。
しかし、その自負はあれど、慢心は無かった。母が強すぎたのだ。
剣を使おうが、魔力を使おうが、無手の母に打ち込むことさえ出来ていない。恥じると同時に、研鑽を楽しんだ。
故に、イザベラは不真面目と言うものには、人一倍敏感であった。
『鍛錬を怠る者に、強者無し。』
約12年の人生で得るには、強すぎる持論で武装していた。
「…キミがイザベラくんだね。…教会時代の筆記成績も良好。魔力も申し分なく、付与の適正も高い。…なにより、剣術大会の優勝記録は驚異的だ、ね。…単刀直入に言おう。我が学園の特別クラスに入る気はあるかい?…もし、望むなら、その剣の道の一助となることを約束しよう…」
胸を張って、頷いたのを覚えている。同世代に、自分以上の鍛錬を積んだものが居なかったからだ。
その誘いは、自分のこれまでの鍛錬の成果、とさえ思った。
剣の道を究める自分が、勉学も魔法も疎かにするわけにはいかない。
「……無論、3年後、中等部課程を終え、騎士学園に編入を望むも自由だ。…何?別に騎士を目指していない、剣は趣味?……キミは、変わっているね…」
そう、これを言うと、たまに不可解そうにする相手が居るのが、少しの悩みだった。
イザベラ、彼女は目標は、剣の道を究めることである。
ちなみに母は、それもまたよし、としている。父は鍛錬後の二人の食べてる様子を見るのが何より好き。
そんな性根も真面目で成績もいい為、分かり辛いが、イザベラは純粋培養の天然だった。
同級生の二人についても、ライリーは一緒に鍛錬をしてくれるから好き。メグは自分より勉強と魔法が出来るし、たまにお菓子をくれるので好き。という単純な尺度で見ている。
イザベラは、頑張っている人が好きなのだ。
そんなイザベラから見て、試合が始まるまでのヤマトの印象はというと…。
まず、ヤマトの立ち振る舞いから、腰の杖状のものは剣であると察しが付いた。それをいつでも抜けるようしている。
次に、ライリーとの試合の際に、探りを入れてみたが、確かな観察力を持っていることも分かった。
ここまでは、好印象だったのだ。
しかし、語尾にニャン、主との過度な接触、武器選びの雑さ。これらによって、イザベラは、ヤマトを『不真面目』、と断じた。
そう言えば、じろじろと見られていた気さえした。自分もその時、見ていたのだが、華麗に棚上げした。
ただ、ひとたび剣を握れば、そのような私情は廃される。
何度、この構えを取っただろう。
木剣を握ることは日常。時に敬愛する母へ、吊された木や空に向かって、剣を振った。
木剣はもはや自分の一部、確認した損傷箇所は、先端付近、打ち付けるのに影響は、限りなく小さい。付与も一瞬で完了した。
そう、後は技を比べあうだけ…。始まりの合図も聞いた。まずは一歩踏み込み、間合い詰める。
という思考までは、覚えている。
故に、イザベラにとって木剣が切り落とされたことは、しかもその瞬間を認識さえ出来なかったことは、いつの間にか自分の腕を切り落とされたに等しい。
この日、イザベラは同世代で自分以上の剣の使い手に、初めて会った。
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「…………」
「……じゃ、次、行こうか…」
固まっているイザベラに声を掛ける。折れた剣の半分を拾い、樽へ向かう。
気まずい、本当なら一本取ったことに喜べたのに、力の入れすぎで折れていては、どっちが勝ったか分からない。
イザベラの付与で木剣が想像以上に堅かったのもある。次はそこも考慮に入れなければならない。確かに、知識と経験が刃となる。これには相手への理解も含まれるのだろう。
ふざけた名前だったが、『けんけんぱ』、奥が深い。
「ちょ、ちょっと、待ってください…!」
「ん?なんだよ。……ああ、先に壊れたのはそっちだから、イザベラから選ぶんだろ?分かってるって」
今度は、ちゃんと選ばないとまた呆れられるな。頑張ろう。
「……いや、ヤマトくん、少し待ちたまえ。…丁度いい教材だから、ね」
イザベラと俺は、ユディト先生に招き寄せられた。
二人の手にはそれぞれ、折れた木剣と、切れた木剣がある。
「…さて、今の現象を、整理しよう。…このように、二人の木剣は、別の壊れ方をした。…解説出来るものは居るか、な?」
ユディト先生は、生徒を見回す。そして、試合を中断された俺達も、その輪に入れられた。
そして、俺達を見比べ、何かに気付いて最初に手を上げたのは、ナデシコ。
それを見て、次に手を上げたのは、メグ。
ライリー、イザベラ、それに俺も考えたが答えが出ない。
「……なるほど、ではヒント、といこう。……付与の特性を、思い出したまえ」
「ついでに、私が先に分かったのは、二人を客観的にみれたからよ」
「わたくしは、ナデシコさんが分かったことから、気づきましたの」
付与の特性、武器や防具に使えば、耐久力や性能の向上、だよな。
客観的に、つまり俺とイザベラの違い?
ナデシコが先に分かったということは、俺を知っているから分かった、ってことだよな。
ああ、もしかして……。
「木剣に対する、認識の差…?」
俺の言葉に、ライリーもイザベラもハッとした。
イザベラ母「護衛官格好いい。私もなろう」←なった
イザベラ 「剣、かっこいい。わたしも究めよう」←剣術大会優勝
イザベラ父「いっぱい食べるキミ達が好き」
というド天然一家。




