106.第一試合の終了。衝撃の決着。
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「大したもんだ」
「…そちらこそ」
ライリーの機転と意地は見せて貰った。しかし、今の勝負でナデシコはまた何かを掴んだ。
数字の上では同点だが、正直、ライリーが勝つ未来は見えない。
イザベラを横目で見る。平静を装っているが、手は拳を握っている。
そう言えば、とメグに目線を送れば、
「あら、何かありまして?」
「いや、何でもない」
微笑みを返された。自然体にも見える。少なくとも動揺は見えない。
そんなことをしてるうちに、二人は戻ってきた。
「……さて、残り2回。…同点、面白くなってきた、ね?」
「ユディット先生、お願いがあります!」
「……おや?ライリーなにかな?…怪我は、無いように感じるが…」
「はい。いまさらだけど、ハンデ、無くしてください!」
その言葉に、驚いたのは、恐らく全員だ。
「……ほう…」
「ライリー、何言ってるのよ、大丈夫?」
ナデシコなど、頭の辺りをしげしげと見ている。
「大丈夫だっての!知りたくなったのよ、あんたとの差、ってやつを!沈めてみなさいよ、出来るもんならね!」
「へぇ…いい度胸じゃない。私はいいわよ?」
ナデシコは、その言葉を受けて笑う。それを見ても、ライリーは怯まない。
「……当事者同士の合意があるなら、いいだろう。…しかし、急所への攻撃は無し、それは遵守してもらおう…いいかい?」
「分かったわ」
「はい!」
ライリーは返事の後、こちら、いや同級生の二人を見た。
「……二人とも、ゴメン!あたしから賭けに出たけど、勝ち目を薄くすることして…」
「いえ、わたしが取り戻せばいいだけですので、お気になさらず結構です。」
「どうかお好きになさって、わたくしは勝ちますので。思い切り、悔いなく、楽しんでくださいな」
「……ありがと、二人とも」
短いやりとりだったが、少しだけ、この三人の関係が見えた気がした。
「クックック、勝ち目が薄い?まだ、一片の勝ち目があると思われていたとは、私も舐められたものね…」
分かりやすく悪い顔で、ナデシコは無意味に手の平に魔力を集めてそれを握りつぶした。
「…ナデシコさんは、いつもあんな感じなんですか?」
エマ先生は、俺にこっそりと聞いてきた。
「…はい、楽しんでるナデシコが一番厄介なんです」
俺は苦笑しながら答えるしかなかった。
「そこ!近い!」「……同意見、だ」
ナデシコと担任からのクレームに、俺とエマ先生はお互い、一歩距離を空けた。苦労してるな、お互い。
「……では、気を取り直して、いこう。…次は、二つ。…と言っても、あまり関係ないか、な?」
二つの石を左右の手に持ったユディット、その視線の先には、構えを取った二人がいる。
お互い、石では無く、相手を見ている。
ナデシコが、全身に凄まじい魔力を纏わせているのに対して、ライリーは両手に集中。
例えるなら、全身甲冑とグローブの差。そこまで、差は決定的だった。
だが、ライリーは今、笑っている。ナデシコも油断はしていない。
「……では、始めたまえ」
吹く突風が合図になった。石が宙に舞い上がった時と、ナデシコの踏み込みは同時だった。
一瞬、消えたかと思うほどの、深い沈み込み。体躯が小さい筈のライリーの下からのボディブロー。
「ど、どうしたの、まだ、あたし、沈んでない、わよ?」
それを、ライリーは両手で受けて止めて見せた。いや、違う、ナデシコが狙った所に、手を置いていた。
恐らく、もうライリーはナデシコの性格を見切っている。
急所がないから、頭への攻撃を除外。沈ませて取りにいくという宣言から、腹への打撃に一点掛け。加えて怪我を心配していたナデシコから、殴り飛ばす、のではなく、その場でとどめる打撃と判断。
とんだ博打だ。見誤ったら、怪我じゃすまなかったぞ。
しかし、賭けに勝ったにも関わらず、代償を払うハメになったのも、ライリーだ。
すぐに、反撃するつもりだったのだろうが、ナデシコの一撃を受けた代償は安くなかった。
今も、足が小刻みに震えている。力を抜けば、崩れ落ちてしまうのだろう。
なのに、軽口を返しただけでも、驚異的だ。恐らく、ナデシコが手を引けば、そのまま倒れる。
「ライリー、楽しかったわ。またやりましょう?」
ナデシコは、纏っていた魔力をなくす。困惑したのは、俺以外。
「…ハァ!」
ナデシコは動いてないように見える。しかし、ライリーの背から、衝撃が抜けたのがはっきりと見えた。
「ガ、ハ…」
ライリーは、その姿勢のまま、気を失った。地面に崩れ落ちる前に、ナデシコが支える。
「ねぇ、石、拾ってくるから、預かっててくれる?」
ナデシコは、ライリーを抱えて持ってきた。
「……いや、必要ない。…こうなっては、続行不能、だろう。…形式的には、11対9、とでもしておこうか」
ライリーを受け取った、ユディット先生は、地面に置くとライリーに魔力を流し始めた。恐らく、治癒術。
「ライリーさん!?良かった、息してる……」
エマ先生を始め、在校生が駆け寄ってきたが、穏やかに息をしてるライリーを見て、安堵のため息を漏らしていた。
「…一体、何をしたのですか?」
イザベラの目には、批難の色があった。
「随分しびれてたみたいだし、ちょっと押して、気絶させたのよ。中身を壊さないように調整するには、魔力がちょっと邪魔でね」
「……?」
疑問の色の方が、濃くなった。
ナデシコ使ったのは、寸勁。別名に寸拳、ワンインチパンチとも言う。
超接近距離からの衝撃を伝える打撃、のようなものだ。魔力を使った状態で、放てば、恐らく身体の機能に障害を残したも知れない。魔力を乗せるわけには行かなかったのだ。
「随分、お優しいことで」
わざわざ気絶させなくても、手を引けば、倒れ伏しただろう。
恐らく、気絶させて早めに治療を受けさせる為に、あの一撃を打ったのだろう。
俺の言葉に、ナデシコは機嫌悪そうに、ムスッとしてしまった。
「なに言ってるのよ。自分で倒れたより、私に倒された方が、燃えるタイプでしょ、ライリーって。私の為の投資よ、勘違いしないでよね?」
見事なツンデレ構文。無意識だろうか?
その後、ライリーは無事に目を覚まし、一通り悔しがった後。
「分かったわよ!今は、あたしの負け!……いつか、リベンジするから、覚えてなさいよね!」
「フン!いつでも歓迎するわ!」
見事なツンデレ構文で、再戦を宣言するのだった。ナデシコもそれを受けた。
やっぱり似てるよ、二人とも。




