102.学園規則、特記事項。クラスメイト。
「おはようごさいます。皆さん」
「「「おはようごさいます、エマ先生」」」
魔法学園の一日について触れておこう。
朝、学生はそれぞれの宿舎や自宅から登校を行う。そして、それぞれが担当教師の教室に着くと、教師を待つ。
俺達が早朝すれ違ったのは、早めに来て資料の閲覧や、自主的な鍛錬を行う生徒達だったそうだ。
「入学からそろそろ一ヶ月ですね。学園長の特設クラス、と銘打たれたこのクラスですが、今まで基礎教養ばかりで退屈だったかと思います。皆さんの希望とは言え午後にも授業がありましたからね。いよいよ今日から魔術の基礎にも触れて行きます」
「まぁ…」
「そうですか…!」
「やっとね…!」
午前中は、基礎教養や魔法の基礎を行う。そして、午後については、各生徒が自由に時間を使う。
というのも、中等部と高等部には、貴族や商家、農家の跡取りも在籍している。
貴族は貴族の同士の交流や顔を繋ぐことに奔走したり、商家と農家の跡取りは実家での家業継承に時間を使う。
他の、例えば、冒険者志望のような生徒は、学園内の施設を使って鍛錬を行うそうだ。
そして、このクラスの場合、基礎教養が一通り終われば、ユディット先生直々の指導、という事で、張り切って基礎教養を進めたそうだ。副担任のエマ先生と、3人の女生徒で。
「その前に、皆さんに紹介したい人たちが…」
「……そこから、先はワタシが話そう。…やぁ、面談ぶりだね、ワタシの生徒達」
「「「……!」」」
そんなクラスの様子を伺うものが二人。そう、俺とナデシコである。今は、ドアの隙間に耳を当てて居る。学園内では、不必要に魔力を使う事は禁止されており、俺達も聴力の強化も自重している。
「…このクラスの担任、ユディット。…ここは学びの園、呼び方はエマと同じで構わない、肩書き呼びも、様付けもしないように。…そして、ワタシから、この二人を紹介しよう。…入って来たまえ」
「「はい」」
「「「?……!?」」」
三つの視線動きは、一致していた。まずナデシコを見て、首を傾げ、俺を見て驚いている。無理もない
「ラケルから、アーテナイ様の紹介で編入することになりました。ナデシコ、と申します」
いつ振りか分からない借りてきた猫モードのナデシコは、優雅に一礼する。まるで良家のご令嬢のようだ。これまた久しぶりの高校の制服に黒いローブ。
「その従者、ヤマトです。皆様、お見知りおきを」
やや芝居がかった一礼をする。
ユディット先生の自宅に用意されていたのは、燕尾服や手袋一式。参考にしたのはアニメ、テレビの中の執事だったが、二人の先生からは合格点。
ナデシコからは、今度二人きりの時に、同じ格好をする事を言い含められた。
俺が従者扱いされることに、苛ついていたナデシコの機嫌が直ってよかった。
その時感じた寒気は無視しよう。獲物を見るような目のナデシコなんて居なかったんだ。
「「「従者…?」」」
「ええ。『学園規則、特記事項。学園長が許可した場合、男女の区別無く従者の一時的学園の所属を認める。授業進行の妨害をしない限り、授業への参加も可能』。知らなくても無理はありません。ほぼ、形骸化していた特記事項でしたから。なんでも、使われるのは数百年振りとか…」
驚き混じりの三つの声。それに応えたのは、エマ先生だった。
かつて、人間側の王家が継承問題でかなり揉めた時期があったらしい。
そんな時に、一人の姫様が一時的避難を兼ねて学園に通うことになったそうだ。その時作られた校則が、今日の俺達に役に立った。
「……しかし、あくまで一般生徒として扱う。…そうだな、まずは二人とも、少なくともこのクラスの中では年頃の男女として振る舞いたまえ、口調も、ね。…それがキミ達への課題だ」
「その課題、受けたわ!」
「ああ、そうさせてもらう」
というわけで、借りてきた猫は返却された。
「……皆も、二人のことは、通常の編入生として扱いように、いいかい?」
「分かりましたわ」
「承知しました」
「わかったわ」
神妙に頷く三人娘。こうして俺達の、男が学園に居る事が霞むような大きな事情を背覆った編入生ライフが確定した。
一連の真相を知ってるエマ先生は、こっそり苦笑している。
「……では、生徒諸君。…改めて、自己紹介をいこう。…名前と、魔力の得意系統、現時点の練度…で、十分か、な」
魔力の系統、とは大きく三つに分かれる。
強化、魔力を身体に使い機能を強化する。
付与、魔力を物体に付与し定着させる。
魔法、魔力を形成し放出する。
これらに含まないものもあるが、今はいいだろう。
「…ワタシはユディット、得意系統は魔法、他も指導をする程度の練度はある、と言っておこうか。…では、ワタシの次にエマ、その後は、在校生、改めて編入生で」
魔法の世界最高峰の人物としては、随分と控えめな自己紹介だった。
「はい、学園長!私はエマ、得意系統は全て、どれも同程度には使いこなせます。基礎教養や理論の方で皆さんのお手伝いが出来れば、と思います」
特徴がない。このときはそう思った。
だが、それが特徴だ。誰もが、得意分野を伸ばすものだが、エマ先生は全て公平に伸ばしたそうだ。素質と努力の両方がないとたどり着かないのが、全系統の同練度習得、と後から分かった。
「最初はもらったわ!あたしはライリー、強化が得意よ。強化は、元A級冒険者のお父さんからB級冒険者相当、ってお墨付きをもらってるわ!」
元気よく挨拶したのは、明るい栗毛をツインテールにした、勝ち気なつり目の女の子。
入り口から一番近い席に座っていたその子は、立ち上がると元気よく胸を張った。
「では、席の順、ということで。わたしはイザベラ、得意系統は付与。魔力の扱いは、剣術を幼い頃から習っていますので、その時に身につけました。練度については、同世代では王国一、と言っておきましょう…!」
次の女の子は、静かに立ち上がると自己紹介した。やや黒髪に寄った茶髪、後ろで一纏めにしてポーニーテールにしている。一見、冷静で鋭利に見えたが、自己紹介の後半ではやや自慢げだった。
「最後はわたくしですわね。マーガレット、呼びにくければメグ、とお呼びくださいな。得意系統は魔法、まだまだ基礎の習得途中、ご指導頂けると有難いですわ」
最後の一人は、一番大人びている。それまでの二人には、どこか自負があったが、メグにはそれがない。
しかし、感じる魔力は三人の中で一番高い。くせ毛混じりの金色の髪は後ろで編み込まれ、肩口に掛かるほどまで伸ばされてる。
「先生方、次は編入生のお二人かと思いますが、一つ質問をよろしくて?」
「はい、何でしょうか?」
すっ、と手を上げたメグにエマ先生は応える。
「何か、ご事情があることは分かりますわ。ですが、お二人は、高等部生ではなくて?…この特別クラスは中等部ですわよ?」
ここは、ロニア魔法学園中等部特別クラス。俺達は、高校生から中等部生へ逆戻りをしていた。




