103.先輩と後輩。模擬戦のお誘い。
時刻は、朝まで遡る。
朝食が終わり、学園の一日についての説明などを聞いた後、特別クラスについての話になった。
「……私達が所属しているクラスというのもあるが、中等部の特別クラスに、編入してもらう予定だが、問題ない、ね」
ユディット先生はこちらの様子を伺っている。
「ん?…ああ、ナデシコもいいよな」
「問題ないわよ?…それにしても、この前、中学を卒業したと思ったら、逆戻りね」
「仕方ないさ、『ここ』では俺達は一年生だ」
いや、正確には一ヶ月ちょいだが。
「分かってるって、基礎を疎かにして、迷宮に挑む程、頭に血は昇っちゃいないわ」
そもそも、俺達が魔法を習う動機は、アーテナイに言われたからではない。
もう一つの手掛かり、迷宮都市の探索の際に、魔法を身につけたほうがいいと判断したからだ。
それを、俺もナデシコも忘れていない。
ユディット先生の近く居る事で、別の手掛かりを手に入れられるかもしれないしな。
「……キミ達の年頃の人間は、数年の年齢の上下に意味を見いだす、と思っていたが…」
ああ、そういう意味だったのか。あいにく、年下に混じって勉強するのが嫌、って程ガキじゃない。
「『こっち』にもあるのね、先輩後輩…」
「ま、これまで通り、極力、目立たなければいいだろう」
「そうね」
「…学園長、この人達、自分達が居るだけ大目立ちって、自覚ありませんよ?」
「……とりあえず、クラス内での理由付けで十分だろう。…ワタシの蔵書目的で、学院生も学園内には来るから、ね」
俺達は進んで目立とうとしてるわけではない。ただ、そそられる方に流れると結果的に目立ってしまうのだ。
というやりとりが、今朝あったのだ。
俺達の前のクラスメイトに目をやる。皆、ナデシコより一回りほど小さい。
皆、整った顔立ちをしてるが、美人、というより可愛らしい、という感想が先に来る。
中学生の頃は、小学生が子供に見え、高校生が大人に見えた。皆から見た俺達は異物なのだろう。質問もやむなしだ。
「……その質問、ワタシが答えよう、メグくん。…ワタシが、必要と判断し、許可した。…以上だ」
何も説明してない。いや、説明されても困るのだが…。
俺達は、基本的に異世界の事情は隠している。正気を疑われる類いのものだし、かかる火の粉が増えるのも厄介だ。
この世界の人たちは、基本的に善人だが、若干の警戒は残してる。
信頼できる人物か、仲良くなったら、別にいっか、のガバガバセキュリティなのだが。
気付けば、事情を知る人物も両手を越えてる。まだまだ増えそう。
「学園長自ら……分かりましたわ。中断させてしまい、申し訳ありませんでしたわ」
メグは何か話す訳にはいかない、深い事情があると、思ってくれたようだ。逆に申し訳ないな。
「気にしないで、メグ。じゃ改めて、私はナデシコ、得意は強化ね。魔物との戦闘が何度か、生き残れたから運はいい方だと思うわ。今まで本格的な魔法の使用は禁止されてたから、ここで覚えたいと思うわ」
熊、アーテナイ、巨大トカゲ、蛇の魔物の群れ、亀。どれも勝ちはしたが、たしかに運も良かった。
あ、やべっ、自然にアーテナイを魔物カテゴリに入れてた。アーテナイはそんな、か弱い存在ではない。
「俺はヤマト。得意は付与。少し変わった剣を使ってる。従者であっても、護衛ではない。後は、ナデシコと同様、だな。よろしく頼む」
刀はこちらの世界では伝わらないし、剣でいいだろう。それも自己流だし、戦いのプロ、とは言えないのだ。
「へぇ…強化、ね」
「剣、ですか…」
「まぁ、では一緒に基礎から魔法を学べますのね。楽しみですわ…」
俺達は値踏みされた、三者三様だが確かに。ナデシコはその視線を楽しげに受け止める。俺は、俺でこちらの世界の剣術に興味がある。ドワーフ達は、斧や槌が殆どだったのだ。
「……ふむ、いい傾向だ。…互いに、関心を持っているようで、なにより」
ユディット先生は興味深げに。俺達を見比べる。
「……ではキミ達、挨拶が終わったのところで、野外で交流、といこうか、な?」
「学園長?今日は基礎の座学の予定ではなかったのですか?」
「……基礎さ、座学ではなくなったが、ある種、もっとも実践的な基礎…即ち、彼我の実力差の把握…」
「凄く嫌な予感がします!」
「……模擬戦、無論、ある種の制限やルールの上で、ね。…いかがか、な?」
その問いかけに、エマ先生を除く、全員が笑顔で承諾した。
これが、この特別クラスの生徒が初めて一致団結した瞬間だった。
「ねぇ、せっかくだし、あたし達と賭けをしない?」
ライリーは、俺達を見上げる。
「いいわね、チップは?」
ナデシコは即受けていた。似てるな、この二人。
「そうですね。……呼び方、というのは、どうでしょうか?勝った方が、先輩、ということで」
イザベラは、少し考えてからそう提案した。
「なるほど、歳は俺達が上だが、先に学んでいたのは自分たち、ってか」
絶妙に嫌なラインだ。
「あら、それでは少々釣り合いが取れませんわね。わたくし達が負けたら、お兄様、お姉様とお呼びしましょう」
「「はぁ!?」」
なるほど、メグは厄介だな。二人が嫌がることを分かった上で、自分にはノーダメなことを提案してきた。その狙いは、恐らく二人に本気を出させるため、ってとこか。
「面白いわね。じゃ、それでいきましょう!今のうちに、普通に呼んでおこうかしら、ライリー、イザベラ、メグ、掛かって来なさい!」
ナデシコは楽しそう、なによりだ。
「昨日まで平和で静かなクラスだったのに…」
「……昨日までより、騒がしいが、楽しい学びになるさ。…なにせ、キミとワタシの初めての共同教室だから、ね」
盛り上がる俺達を余所にへこんでしまったエマ先生を、ユディット先生は楽しげに撫でていた。
ヤマトナデシコの事情を知る異世界人。(二人からの視点)
ラケル9人:アーテナイ、アメリアちゃん一家の4人、リニー、ベン、シェーヌ、工房長
ロニア3人:ネリー、フルリス、ユディット




