101.学園の歴史。学園規則、第一項。
「そもそも、ロニア魔法学園は、女性が魔力を使い方を覚えるの為に作られたんです」
あの後、家に招かれた俺達の前には、朝食が広がっている。焼けたパンに、スープ、果実。
食器まで俺達の分まで用意されていたが、俺達が朝食を抜くことまで予測していたのか?
今、話してるのはエマさん。ユディット先生は、のんきにパンをかじっている。
「今はありませんが、黒竜災害の直後、王都では男性には兵役が課されました。そこで、魔力の適正検査もあり、素質のある者は魔力の扱いを習い、魔物の討伐等を行ったのです。一方、女性にも労役は課されましたが、炊事洗濯のみで、適正検査はありませんでした」
「……もったいない、だろう?…せっかくの才能が埋もれる、というのは…」
黒竜災害、人類を追い詰めた災禍。魔物を活性化させる黒竜と、その魔物による被害の総称らしい。
その黒竜を討ったとされるのが、ユディット先生、ラケルで出会ったアーテナイを含む、『七天将星』。
「そこで、王都の女性を集めて適正検査を行い、扱い方を教えたのが…」
「……ワタシ、というわけだ。…そのうち、国からの正式な依頼も受けて、ね。…丁度、各都市の施設整備も、一段落付いた所だったので、研究の片手間に、受けたのさ。……ワタシ一人では、手が足りなくなり、他の教師を雇い、蔵書を公開し……いつの間にか、学びの園、学園、と呼ばれるようになった、のさ…」
ユディット先生は懐かしむように宙を見て、力を抜いて笑った。そこには、500年の歴史があるのだろう。
「そして、男性の兵役が無くなり、労役も男女ともに無くなったのです。しかし、その頃には学園はすっかり女性の通うもの、という印象が出来ていた為、学園とは別に学院、という名前で別の施設が作られました」
「……ちなみに、学院の理事長は我が兄上だ。…少々うるさいが、指導者としては申し分ない」
そう言えば、フルリス様の絵には男が二人、描かれていた。アレは、エサルカさんと二人の兄さんだったのか。
しかし、少々うるさい、か。物静かなユディット先生に比べれば、誰だって音量で上回ると思うのだが。
「実は学園と学院は、どちらがより優れているか、度々比べ合う事がありまして……」
「……実践的交流戦、当時は軽く受けたのだが、王都の一大行事になるとは、な。…競い合うことでより高みを目指せる。…当時、兄上に流されたが、一部教師陣まで過熱することは、少々予想外だった」
それは、まぁ、仕方ないだろう。マウント合戦は、何かが二つあれば起こりうる。
西と東、男と女、吹き替えと字幕、きのことタケノコ。おっと、これ以上はやめておこう。ガソリンを辺りにばらまくようなものだ。
「今年度から発足された特別クラスもある意味、その一環なのです。今年度、学院理事長直々に指導するクラスが発足されると大々的に発表されました。すると学園でも是非、という声が教師や卒業生からも届きまして」
「……本音を言えば、名義のみの特別クラス、とするつもりだったのだが……今年度には本当に見所のある入学生が揃ってね。…基礎が出来上がってから、指導に入るつもりだったのさ。……そこに一時的に、キミ達を加えて、その力を見極める、という計画を立てた」
「でも、女学園なんでしょ?」
「大丈夫なのか?」
「……問題ない」
「問題ありです!」
……どっちなんだよ。
「ああ、そう言えば、まだ名乗って居ませんでしたね。私はエマ、その特別クラスの副担任をしています」
「……元学園筆頭で冒険者を経験した優秀な、ワタシのパートナー、さ」
何故か、ユディット先生の方が自慢げだった。
「私はナデシコ、ヤマトは私のパートナーよ」
「張り合うなよ。俺はヤマトだ。二人でラケルから来た」
生徒かお手伝いさんじゃなかったのか。童顔だからてっきり、年齢が同じか少し上くらいかと思ってた。
この一軒家に二人きりでパートナー、なるほど……。間に挟まってはいけないものかも知れない。そっとしておこう。
「はい。よろしくお願いします。…お二人の魔力、先ほどの問答、どちらも特別クラスに入るだけの資質はあると思うのですが、二人一緒となると…」
「……心配ないさ、エマ。…学園規則、第一項がある」
「なによ。ちゃんと例外の規則があるのね」
「例外が第一項に来るのか?」
しかし、学園規則が何か分からないが、大丈夫そうで一安心だ。
「『原則、学園長の意向を最優先する』ですか?」
「……そうとも」
「大丈夫じゃなかったわ…」
「独裁者かよ…」
誰だこの規則を作ったのは、いや本人か。なんで一番の無法者が法を作ってんだ。
「……では、それ以外だと、方法は二つある。…一つは、女装」
「それにしましょう!」「却下だ!」
なんで食い気味に行ったナデシコ。1秒でバレるわ。
「……では、もう一つは…」
その方法を聞いた各員の反応は……。
「俺に異存はない」
俺は納得し、
「…まぁ、一緒に通えないよりマシね…」
ナデシコは不機嫌ながら承諾。
「確かに、反則ではありませんが、不正利用というか……いえ、結局、学園長の裁量によるので…。いざとなれば、第一項で…」
エマさんは考え込んだが、最終的には納得していた。
「……では、早速今日から、編入、ということで、いいかい?」
「上等よ!」
「分かった」
「……いいのかなぁ…」
ちなみに、ナデシコ用の制服と思われる黒ローブや、俺の為の『ちょっとした小道具』まで揃っていて流石に引いた。
どこまで先読みしてるんだ、この先生。




