100.思い合い、見つめ合う二人。朝に吹く風に足を取られないように。
宿はすぐに見つかった。王都には、留学生も多く宿場も多い。
中には留学生と年単位で契約を結び、学生寮化している宿屋もあるそうだ。
そして、空いた部屋は旅行客に貸し出すのだとか。
「ご飯、安いわりには美味しかったわね。量もあったし」
「学生割りもあるみたいだぞ」
「……学生、ね」
二人部屋、特に示し合わせた訳ではなく、同じベッドに座って寛いでいた。
肩に重みを感じる。公衆浴場はラケルと同様にあったので、食事前に二人で済ませて来た。
熱は抜けてるはずだが、ナデシコの熱ははっきりと感じる。
「ヤマトって、銃を格好いいって思うタイプ?」
「え?…ああ、そうだな」
小遣いをエアガンを使う事は無かったが、友達の家にあるそれを見せて貰った時は、素直に格好いいと思ったものだ。
「私もよ。ほら、特撮でもモチーフが銃の武器ってあるじゃない?だからかな、海外旅行で銃が撃てる場所におじいちゃんや、お父さんが行ったとき、喜んで着いていったの」
忘れがちだがナデシコはお嬢様だ。長期休暇で時々、旅行に行っていた。海外にも何度か行っていたはずだ。その中に、銃の試写施設があったとしても不思議ではない。
「全然楽しくなかったわ。音は大きいし、弾も弾痕も小さいしね。それに、銃には近寄れなかったから、こっそり近づこうとしたらこっぴどく怒られたの。『危ないからダメ!』ってね。帰りに食べたアイスの方が、よっぽど思い出に残ったってわけ」
「その話なら覚えてるよ。お土産の海外のチョコを一緒に食べながら、聞かせてくれただろ?」
晩ごはんが入らなくなって、そこでも怒られ、散々だったと。
「……危ないからダメ、か」
今、俺達に、保護者は居ない。何が危なくて、何に近づくのか、それは自分で判断しなくてはならない。
「そうね。でも、一つ、はっきりしてるわ」
「なんとなく、分かる。確かに、魔法は危ない。それこそ、俺達が持ってる魔力って弾丸を、打ち出す拳銃みたいなもんだ」
「しかも、私の拳やヤマトの刀みたいに手加減の方法も知らない。けど…」
それは、手に馴染んだものでもない。元の世界で、自分でも怖がってた力でもある。でも、
「目を反らすのも、背を向けるのも」「くそダセェ」
ナデシコと目を合わせた。笑みを交わし、拳と拳を合わせる。俺達の答えは出た。
その答えをぶつけるのは、明日だ。
「っていうか、ヤマト。昨日、ネリーが居たから、寝る前にやろう、って決めたこと、色々出来なかったじゃない?」
「そう言えば……そうだな」
その答えを聞くと、ナデシコはするりと俺の膝の上に乗った。
驚く暇も無く背中に手を回される。身体の使い方、やっぱり進化してるな。
「はい、ぎゅーってしなさい!」
「終わったら、髪、撫でるからな?」
「望むところよ!」
しばらく、スキンシップをしてから二人で別のベッドに横たわった。
「おやすみなさい、ヤマト」「ああ、おやすみ、ナデシコ」
胸の中にあった、重いものは、半分の重さになっていた。
その夜は短く、朝が来るのは早かった。
二人で、朝の街を歩く。目指すのは、ユディットの自宅。
街は少し騒がしい、気の早い商店が開業し、黒いローブを纏った集団が街を歩く。学生なのだろう。朝の街の気温から、身を守るように深く被り、顔は伺いしれない。俺達には、ないものだ。身一つで、目的地に向かう。
「……あはよう、二人とも。…もう少し、時間をかけても構わない、よ。…なんなら、朝食でも一緒に食べるかい?」
家の扉を背持たせにして、ユディットは俺達を待ち構えていた。昨日の醜態は、ノーカウントらしい。
「大丈夫、朝飯前でね」
「それに、答えを先に出さないと、飯が入らないさ」
「……では、改めて、聞こう」
その魔力が溢れる。まるで突風、力を入れていないと、目も開けられないような圧が、俺達のみに向けられている。
「……本当に、魔法を使いたいか?…この力は、一歩でも間違えば、建物を壊し、人の命を容易く奪い、キミ達が守りたいものすら傷つける可能性がある。…それを知った上で、選ぶ、その答えを、聞こう」
温度のない、自動音声のような無機質さだ。圧は緩まず、首を下げそうになってしまう。
それでも、俺達は真っ直ぐ、ユディットを見返す。
「使いたいわ!でも、使えるようになりたいんじゃない!」
「使いこなせるようになりたい!危険性も、魔法がもたらす可能性も全部知って、だ!」
「……では、もしなにか、あったらどうする?…いずれ『世界最強』にも届きうるキミ達が、その力を間違って振りかざす時は、来ない、と言えるかい?」
鉄面皮は揺るがない。圧は一層増した。
「間違ったら、その時に考えて、出来る限りの事をやるわ!」
「でも、俺達が魔法で悪いことをすることは、絶対にない!」
「私にはヤマトが居て!」
「俺にはナデシコが居る!」
一瞬、ユディットは眉を動かした。
「誰より信じてる。でも、バカしたときには全力で止めるわ!」
「だから、誰より疑う。何かを、誰かを、自分自身を傷付けそうなら、その前になんとかする!」
「……なんとか?」
「そうよ!なんとかよ!話したり、殴ったりね!」
「ついでに魔法も使うさ!」
「……魔法は、ついで、なのかい?」
「あったり前よ!魔法が如何に凄かろうと、何が出来ようと、手段の一つに過ぎないわ!」
「そうさ!俺達の意志で使うものに過ぎない!だから、選択肢の一つでしかないんだよ!」
「………………そうかい」
圧が、止まった。俺とナデシコは、つい前のめりで倒れそうになる。
だから、お互いに支え合って、倒れないようにした。
「……魔力を扱う者には、『あるモノ』がもっとも重要だと考える」
それは、『エサルカ城』で聞いた言葉だった。
「……様々な考え方があるだろう。…だが、ワタシの答えは『意志』だ。…それに付随する、覚悟や責任も含めてね」
ユディットは、力を抜いたように微笑んだ。
「……その『意志』を貫く為の、一手段として、魔法を選ぶというなら、ワタシが教えよう。…そうだな、ワタシの事は『先生』、とでも呼んで貰おうか」
その手を差し出された。こちらの世界は多くにボディランゲージが、共通している。
そして、握手は友好の印でもある。
「よろしくね、ユディット先生!」
「……ああ、よろしく、ナデシコくん」
最初にナデシコが手を取り、ブンブンと振り回す。ユディットは、いや、先生は平然として、笑う。
「ユディット先生、よろしくお願いします」
「……キミは意外と堅いね、楽にしたまえ、ヤマトくん」
そう言えば、ユディット先生から名前を呼ばれるのは、これが初めてじゃないだろうか。
これまで、キミ達、と一纏めで呼ばれていた気がする。心境、いや立場の変化か。生徒の一人として、認識されたのかも知れない。
「……さて、まずは食事でもしながら、より詳しい説明でも……」
「…あ、あのう……」
昨日の女性だ。また、扉を半開きで覗いてきた。使用人、だったりするのだろうか。昨日は俺達も余裕がなく、挨拶もしてなかった。
「……やぁ、エマ。…少し前から話して居た二人だが、改めて紹介しよう」
「いえ、学園長。友人の友人が来てクラスに編入させるかも、とは聞いてましたが、その前にですね…」
エマさん、というらしい。ユディットの態度は親しげだ。エマさんもユディット先生に遠慮した様子はない。
エマさんは俺達、特に俺を警戒しているのか、チラチラと見てくる。俺、何かやっちゃいました?
「ロニア魔法学園は、女学園ですよ?」
……………俺、入れないじゃん!?
次節、学園編、『学びは交響曲』開始します。




