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【学園編開幕】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章三節】  作者: 沢クリム
『緑ノ章 愛歌のロニア』 第一節 出会いは狂騒曲

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99.エルフの大賢者。三つの試験。



「……試験は、三つ。……一つめは、今から、ワタシが魔法を放つ、見ていたまえ。…決して、目をそらすな」

「それだけ?」

「意図を考えることも、試験のうち、ってか?」

「……意図なら話すさ。…キミ達から見て、ワタシの魔力は大きく見えるかも知れない。…しかし、キミ達がこれから成長をし、その力を合わせるなら、いずれ確実にワタシを越える」

……褒められた、のか?ナデシコと顔を合わせるが、俺もナデシコもその意図は察せない。

ユディットは、言葉を続けた。


「……つまり、キミ達が都市の破壊や、誰かを害そうとも、間違っても、止められる人類は居ない」


その言葉は重くのしかかった。そんな事を、するつもりも、やる予定もない。


「……自覚がない力、それは赤子の持つ刃物に等しい、癇癪のまま誰かを傷つけ、いずれ自分も怪我をするだろう。…そうならない事もあるだろう。…よほど運が良ければ、ね」


だが、重い。何でも思うままに出来る力、間違っても誰も止められない、それはなんて、恐ろしいのだろう。

身体の中に、怪獣が居る、そう宣告でもされた気分だ。


「……故に、キミ達には、破壊の魔法を見せよう。…そして、覚えているといい。…いずれキミ達は『この程度』の力を、いつでも、どこでも、誰にでも放つことが出来る」


ユディットは、地面に一本のナイフを突き立てた。

そして、そこから離れ、懐から杖を取り出す。そして、その杖に、全身に魔力を帯びる。


「……今こそ、英知、女神に示そう」


小指程の小さな魔力の塊だった。それが、杖の先から出た。

その塊は、突き立てられたナイフを中心にゆっくり広がり、地面、空中を包み込む半径1m程の半透明な球体になった。

その外殻が硬質化した事が分かった。感覚で分かった。その空間が切り取られたのだ。

そして、一瞬の閃光。目を焼かれる程ではない。瞬きもしなかった。


「―――『エレメント・イレイズ』。…なにも残さず、消え去るのみ」


ナイフが、地面が、そこに無かった。潰された訳ではない、まるで丸いスプーンで掬った後のように、なにも無かった。

球体が解除される。風が、その中心に向かって吹いた。周囲の土が、その喪失を思い出したように内側になだれ込む。


「……故に破壊の魔法、という訳だ。……これでさえ、キミ達にとっては、通過点だろう…」


もしも、あの魔法をナニカに、ダレカに使ったら…。


小学校の頃、写真の切り抜きをした事がある。修学旅行のまとめ、だっただろうか。

写真をプリントした紙から、自分やクラスメイトの顔を切り取ってレポート用紙に貼った。

ふと、切り抜かれた元の紙を見ると、顔のない身体達があった。気味が悪くて、丸めて捨てた。


それが今、無理矢理広げられて、目の前にあるようだった。


怖気がした。俺とナデシコは、静かに震えた。その様子を、ユディットは無表情に見ていた。


「……キミ達に、想像力があって何よりだ。……試験二つめは、質問に答えて貰おう」

ユディットは俺達の間に来て、俺達二人の肩に手を置いた。


「……本当に、魔法を使いたいか?……答えは、今は聞かない、明日まで待とう。…二人で話し合おうといい」

その声は、優しげですらあった。だが、その発言は一晩考えろ、と言われた気がした。


「……それから、三つめは……」

「…ユディット?」

「…どうしたんだ?」

肩に掛かった体重が重くなってきた。いや、ユディットの身体から力が抜けている。


「……魔力を使いすぎた。……ワタシを王都の自宅まで送ってくれ……」

俺達も、ある意味、力が抜けそうだった。


その後、ナデシコが上半身を抱え、俺が足を抱えるという、けが人等を運ぶ方法で森を歩いている。

抱えられた本人は、王都での自宅の場所を途切れ途切れに話して、やがて目を瞑った。

絵面は誘拐犯か、要救護者の搬送だろう。出来れば後者でありたい。


「よっぽど、消耗が激しい魔法みたい」

「ああ、技としてはラスボス級だろ」

「そうね。あれ以上ってなんなのかしら…」

「さぁな…」


帰り道の足取りは少し重い、荷物になってる人物のせいじゃない。

いや、ある意味、きっかけはユディットだが、先ほどから自分の中で繰り返されている自問自答のせいだろう。そのせいで、ナデシコとのやりとりもキレがない。お互いに、ろくにやりとりもないまま市街地に付いた。

流石にそのままでは運べないので、ユディットをラケルで買った外套に包んだ。ますます犯罪者に近づいた。


「本当に、少し大きいくらいの一軒家ね」

「隣の学園はあんなにデカいのにな」


ユディットから聞いていた場所と特徴が一致した建物、いや家に着いた。

つい、隣の壁とごく普通の二階建ての住居を見比べる。

魔法学園、城を想像したのは世界的ファンタジー作品のせいだろうか。周囲を壁に囲まれたそこは、中にどんな建物があるかも分からない。

そんな事をしていると、玄関が開いた。しかし、半開きで止まった。首を傾げていると、恐る恐る、といった感じで、女の人が覗いてきた。


「…あ、あの、あなた達、誰ですか?どうして、学園長と一緒なんですか…?」


小動物?いや、ネリーにもその表現を使ったが、種類が違う。

人懐っこいのが、ネリーだとしたら、目の前の人物は木陰に隠れて、怯えながらこちらを覗いてくるタイプだ。

黒髪、黒目に黒い眼鏡。黒い衣服。ナデシコとそう身長は変わらない筈の背丈は、曲がってるせいで小さく見える。

学園の生徒だろうか?顔立ちも全体的に幼いようにも見える。よく言えば、可愛らしい。

何というか、ユディットと正反対、という印象だ。


「ああ、怪しい者じゃない。…ないよな?」

「少なくとも悪者ではないわ。一応本人から、依頼を受けてから運んで来たの」

「いや、何があったら、学園長が運ばれる事態に…!?」

「話せば、ますます混乱すると思うから、本人に聞いてくれ」

「じゃあね。後はよろしく」

流石にネリーとの出会いから、門での一騒動、お茶会の経緯を話す暇はない。


混乱まっただ中の女性を尻目に、俺達はユディットを玄関先に置いて立ち去ることにした。

宿屋を探さないといけない。


「えっ!本当に何の説明もない…!?」

閉じたドアの向こうから疑問が飛んできたが、すぐに撤収した。


王都での初めての夜が訪れようとしていた。



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