98.魔法学園について。試験の宣告。
あの後、お茶会は解散になった。フルリス様の公務の時間が来たのだ。
「それでは、お二人とも、わたしは立場上、公式に応援は出来ませんが、お二人の帰還をお祈りしています。また遊びにきてくださいね」
ネリーはまだ、俺達について来ようとしたが、フルリス様とユディットに着替えを勧められていた。メイドさんに私室に連行されるそうだ。
「またね!お城で会いたいときには、わたしの書き置きを見せれば通れるよん」
今朝、残された書き置きはどうやら入城券になってしまうらしい。絶対に無くせないな。
王都到着数時間のうちに、人脈がとんでもないことになっている。
一方、俺とナデシコ、ユディットの三人は『エサルカ城』の廊下を歩いている。案内する者も居ない。
最初は、緊張の方が大きく、ろくに装飾を見る余裕もなかったが、各所に花を模したものや、木を模した彫刻や、花そのものが飾ってある。
アーテナイの、ドワーフの旧城では武器だったな、などと思いながら、ユディットの後ろを歩く。
二人は似ていないが、同じ『七天将星』、アーテナイを思い出す。
「そう言えば、ついアーテナイと話すノリだったけど、改めたほうがいいかしら?」
「……いや、母の友人のキミ達だ。…ワタシも同じでいい、が、そうだな……ワタシについて、どこまで聞いている?」
「さっきのお茶会でも話したアーテナイからの人となりの評、くらいだな」
「……あまり詳しくは話さなかっただろう。…アーテナイなら、『自分で判断しろ』とでも言った、と予想する」
「うん。あとは、魔法学園の学園長なのよね?」
「……知っていた、か。……軽く説明しておこう」
ロニア魔法学園。
貴族、市民、種族の垣根を越え、魔法を修める為の施設。ラケルや他の都市からの留学者もいる。
学園長ユディットを始め、各指導員は冒険者を経験した実力者から、研究者を兼ねた知恵者まで幅広い。
年齢制限は特にないが、王都住民は教会での初等教育を終えた12歳から3年ほど通い、魔力の扱いを学ぶ。
その後は、希望者は専門性を高めた内容を3年間。
「それって、中等部と高等部って言ったりしないか?」
「……なんだ、知っていたのか。……それとも『キミ達の故郷』にも、同じようなものがあるのかい?」
「詳しくは省くけど、中学校、高校って感じで別れてるところもあれば、『ここ』と同じく中高一貫もいくつかあるわね」
「……興味深いな」
中等部は魔力の扱いを身につける、魔力についての知識や、各都市の歴史を学ぶ。
高等部については、貴族の通学は義務、魔物との実戦や魔法についてのレポートまで学習範囲に入っている。
王都市民は中等部、高等部は教育費無料。留学者は高等部の授業を選択するのが殆どらしい。
学園生は、図書館棟を利用可能、各種の資料が自由に閲覧可能。自分で集めようとすれば、100回留学費を払っても足りない程の。
留学生の中には授業は受けず、3年間図書室に引きこもる者もいるのだとか。
「……ワタシの著書もある。…希望を募り、他の資料を入荷することもあるのだが、ワタシの写し絵の画集の入荷希望が来た時には、流石に頭を抱えた」
「人気者って大変なのね」
「……次の著書で、表紙をワタシの写し絵にしたら、いつも以上に発注が来た」
「利用してんじゃねぇか」
ユディットの学園の説明は、淡々としているが、どこか楽しげでもあった。
「……前置きは十分だろう。…ワタシは、学園で特別クラスを担当している。…キミ達には、そこの編入試験を受けてもらう。……結果によっては、キミ達に魔法を教えることは、出来ない」
「分かったわ。どんな試験でもどんとこいよ!」
「ああ、世界最高の魔法の授業の為だ。合格してみせるさ」
そもそも、俺達が魔法を習う動機は、アーテナイに言われたからではない。
もう一つの手掛かり、迷宮都市の探索の際に、魔法を身につけたほうがいいと判断したからだ。
それを、俺もナデシコも忘れていない。
「……異論は無いようだ、ね。…ワタシは、魔力を扱う者には、『あるモノ』がもっとも重要だと考える。……何だと思う?」
俺達は考える。魔力、それを使えば、常人を軽く超えることが出来る。まさに「魔の力」だ。
いくつも浮かぶ、冷静さなどの心構え、知識などの備えるべき物などだ。
明確な答えはあるのだろうか。どれも重要に思える。
「……そう。…考えなくてはならない、考え続けなければならない」
ユディットは、俺達が答えを出す前に、そう言った。それはどこかユディット自身にも言っているような気がした。
「……ここから、少々、走る。…ついて来るといい」
「あ、ちょっと!」
「なんて足の速さだ!?」
城を出た後、案内されたのは、『世界樹の若木』の根元だ。その大きさに圧倒されているうちに、ユディットは走り出した。根元を駆け上がり、市街地から離れていく。
当たり前のように、身体強化を使い、道なき道をユディットが先導する。1時間ほど走った。
道中、会話は無かった。いや、違う、俺とナデシコに会話をする余裕がないほどの速度だったのだ。
ユディットは、時折振り返り、俺達を確認する余裕すらあった。
「……よく、ついて来れたね。…正直、キミ達の、奥の手が見れるかも、と期待したのだが…」
森の一角、開けた場所にたどり着いた後、俺達の息が整うまで待って、話しかけてきた。
「本当、どこまで知ってるのよ」
「……想像に任せるよ。…どうやら、気を持たせるのが、ワタシの特徴らしいのでね」
「妹、フルリス様に言われた事、気にしてたのか…」
ナデシコの白いツバサも、俺の桜色の髪のこともバレてるな、これは。
「……さぁ、試験を始めよう」
森の中で、たたずむユディット。
ただ、それだけなのに、森の木々も、空気も、木漏れ日すら従えているようだった。
不意に思い出した。ユディットの異名、それは。
エルフの大賢者。
魔法を得意とするエルフの中でも飛び抜けた存在、その一端を俺達はこの後、垣間見ることになる。




