95.緑風との出会い。何気ない『普通』という言葉。
「ねぇ、ヤマト。私達も何か出しましょうよ」
「お茶請けならラケルのドライフルーツがあっただろ。今、出すよ」
焼き菓子はすっかり数を減らしていた。消費量が二倍になったせいだろう。お茶会の後は、地面の蟻達は大層喜ぶに違いない。
荷物から、ドライフルーツの詰め合わせの袋を取り出した。
「ふふ、ラケルのドライフルーツですか。私も好きですよ。お二人にとって、故郷の味、というわけですね」
メイドさんがいつの間にかそばに控えていた。そのメイドさんに袋を渡すと、お皿に見事に並べてみせた。
「他にラケルの物もあるの?」
「ああ、料理に使う刃物とか調理器具も一通り持ってきた。どれもドワーフ製だ」
刃物、と言った時にメイドさんからの視線を感じた。出さないって。
「後は、『アーテナイさまぬいぐるみ』もあるわよ。はい、試作二号ぬいさま」
ナデシコも荷物からぬいぐるみを出した。
ちなみに初号は、今も商店で看板娘をしているだろう。
『アーテナイさまぬいぐるみ』はデフォルメされたアーテナイのぬいぐるみだ。
ラケルでは、一家に一人、職場にも飾られたりする。売り上げの一部が、開発者である俺達の元に入るので、旅費や生活費にも苦労していない。俺達の異世界での資金源だったりする。
これがなかったら、地道に冒険者をして資金を稼ぐルートもあったかも知れない。
今更だが、そっちの方が王道だったな。すでに王道からサヨナラ売買してたみたいだ。
「まぁ、可愛らしいのですね。アーテナイ様とは、何度かご挨拶する機会がありました。つい緊張してしまうのですが、この方ならば大丈夫そうです。はじめまして、二号さま」
ぬいぐるみを受け取った、フルリス様はその頭を撫でながら挨拶した。実年齢はともかく、少女のような純真さだ。
一方、ネリーはそのぬいぐるみとナデシコの鞄を見比べている。二つは、ほぼ同じサイズだ。
「ナデシコちゃん。あのぬいぐるみ、どうやって入ってたの?」
「……残念だったわね。トリックよ」
残念なのはその言い訳だろう。ナデシコよ。
このバックパック、『取り寄せバックパック』は実は一つの進化を遂げていた。この世界の物が入るようになったのだ。
相変わらず、俺達の物以外は入らない等のいくつかの制限があるが、ますますチートアイテムじみてきた。
気付いたのは、アーテナイとの修行でアーテナイに二人で一撃入れた夜。
俺達は、かってにレベルアップ記念だと思っている。
決して、考えても分かんないし便利だからいっか、みたいな投げやりな結論ではない。
「………興味深い、な。…体積的な矛盾、にも関わらず、魔力を消費した様子もない。…詳しく、見せてもらえないか…?」
知らない声が耳元で聞こえた。その人物が居たのは、丁度俺とナデシコの中間地点。
弾かれたように、その場から離れる。椅子が倒れる一瞬内に、ナデシコは構え、俺は腰の『姫桜』へ手を伸ばす。
「………すまない。…驚かせるつもりは、なかったのだが…」
その場に残ったのは、一人の長身の女エルフ。目算で俺より少し背が高い。俺達以外も、今その人物に気付いたようだった。皆、絶句している。ユグドラシル親子も、メイドさんもだ。
「……会うのは2回目、なのだが。…ああ、あれはワタシが一方的に、キミ達を見つけたの、だったか…?」
その人物は、周りに一切配慮した様子はない。
その姿は、光を反射するような白金に近い金髪、髪色と同じ長いまつげ、気だるげな垂れ目は緑。
怪しい人物ではあるが、一目見たら忘れられそうにない美女だ。
「……では、自己紹介から、始めよう」
風が吹いた。魔力を帯びたその風は、目の前の人物から吹いている。抑えていたものを外した、そのような印象を受ける。
事実、それまでは感じられなかった魔力は、確実に俺達より上だ。それも数段。
「……七天将星、緑のユディット。…よろしく、アーテナイの友たち」
その魔力は、まるで夜の森の泉だ。静謐でありながら、底が見えず、覗き込めば飲み込まれるようだった。
七天将星、その名をいたずらに名乗るものはこの世界に居ない。俺達は少しだけ警戒を解くことにした。
「………ユディットお姉様!?」
「…え?ユディットちゃん!?」
一拍遅れて、ネリーとフルリス様の二人も驚いたようだ。ネリーは大きく目を見開き、フルリス様はぬいぐるみを、ギュッと抱きしめた。
その二人にのんきに手を振るユディット。…いや、待て今の発言に聞き捨てならない言葉があったぞ。
「……やぁ、フルリス、久しぶり、だね。…お母様も、お父様との思い出の地巡りから、一時帰宅されたばかりかと思いますが、お邪魔しています」
フルリス様を軽く撫で、ネリーに一礼する。つまり、フルリス様の姉で、ネリーが母で。と言うことは、この人も…。
「……ああ、今キミ達がしている想像は、若干違っている。…ワタシはすでに、王家に籍はない。…家族であることは変わらないが、ね。…まずは、落ち付いて、話をしようじゃないか。……時間は、あるだろう?」
ユディットは、懐から短い杖を出し、振る。俺達が倒した椅子は、宙に浮かび、元あった場所に戻った。
「…キミ、ワタシの椅子とお茶を……おや、もう用意したのかい?…いい子だね」
「は、はい…光栄です…!ユディット様!」
メイドさんは分かりやすく、照れていた。確かに、パンツルックのユディットは、まるで男装の麗人のようだ。物語から出てきた、という形容詞すら負けてしまうかも知れない。
なにせ、このユディットを元にした物語すら、この王都にはあるのだから。
偽物、勘違い、その線はすでにないだろう。ナデシコと目を合わせ、自分の席にもどる。
「それじゃ、名乗らせてもらおうかしら」
たたずまいを直して、ナデシコがユディットに視線を真っ直ぐ向ける。
「え?普通に?」
とは、フルリス様のお言葉。
ナデシコは、無言で立ち上がった。そして、俺にも無言で起立を促した。
やるんだな!?今…!ここで!?
2回目ですよ?週に一回で丁度いいと思うんですけど!?
目線で語りかけるが、ナデシコに譲る気は無いらしい。
ユディットは首を傾げ、一度見た王家のお二人はなんだか楽しげだ。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
2回目につき、以下略。




