94.幸せを語る絵。女王のお仕事。
あの名乗りの後、他のエルフ達は俺達とネリーを見比べ、妙に納得のいった表情をしていた。どういう意味だろうか。
類は友を呼ぶ、この言葉はこちらの世界にもあるのかも知れない。
その後、場は解散となった。
フルリス女王はネリーをお茶会に誘い。俺とナデシコは、それ同行を許可される形で招待された。フルリス女王が直接、一介の『旅芸人』を誘う形には出来なかったのだろう。
そう、旅芸人。また肩書きが増えた俺達だった。
「改めて、ヤマト殿、ナデシコ様、この度は我が母、コルネリア・ユグドラシルがお世話になりまし」
「はいコレ、フルリスちゃんが小さい頃に書いてた絵だよ~」
「お母様!?」
お茶会の会場は庭園だった。世界樹の木陰のこの庭園に置かれた机と椅子には、俺とナデシコ、ユグドラシル親子の4人しかいない。ネリーも聞き慣れた言葉使いだ。
そして、携帯していた下げ鞄から、まるでフォトフレームのようなものに紙が挟まれた、それを取り出したネリーは俺達に寄越す。旅の間も携帯していたのか。
「へぇ、上手ね」
「ナデシコ、そこは敬語の方がいいんじゃないか?」
「大変よろしゅうございますなぁ」
「何故に京言葉?」
俺達も若干、気が緩んでいる。眼の前に置かれた、香しいお茶と焼き菓子がそうさせるのだろう。
このティーセットは、メイド服のエルフさんが運んできてくれた。ナデシコと俺は興奮しきりだったのは言うまでもない。
今も会話の聞こえない所まで下がって控えている。しかし、その長い耳にはうっすらと魔力が集まっているのが、注意すれば分かる。多分、実力者だ。ますますわくわくする俺達だった。
だって、生のコンバットエルフメイドだよ?そりゃ、テンションも上がるさ。
「いえ、お二人の楽な言葉遣いで構いませんよ?ここは私的な場所ですので。私はこの言葉使いが素なので、お気になさらず。」
「そうなの?じゃ、いつも通りで。改めて、ナデシコよ。よろしく、フルリス様」
「俺はヤマトだ。旅芸人、アーテナイの弟子、さすらいの料理人、人形達の産みの親とか、好きに呼んでくれ」
「お二人は、お忙しいのですね。………あの、そろそろ絵を返して頂けると…」
「「もうちょい待って」」
絵はなかなか味のあるものだ。手足は棒だし、主要パーツは丸だ。男女の区別が付く程度だが、人影は5つ、男2女3。
ネリーから3人の子供がいるとの発言があったし、家族写真のようなものか。
ネリーは右端だろう。小さい身長で、顔の下に丸が二つある。すると、左端の男がエサルカさんか。
ネリーの話の直後だからか、この絵がとても尊いものに感じてしまう。
この、皆が手を繋ぎ、笑顔の一枚の絵が。
「ん?アーテナイちゃんの弟子?………あ、絵はわたしに返してね?旅の大事なお供なんだから」
ネリーは、一瞬首を傾げたものの。すぐに、手を差し出してきた。
「はい、ネリー。見せてくれて、ありがとう」
「ああ。いい物が見れた。感謝する」
ナデシコは絵をネリーへ手渡した。フルリス様は一瞬手を伸ばしたものの、掴み損ねていた。
ネリーは手元のそれを、愛しげに見つめた後、大事そうに下げ鞄に納めた。
「……また、取り返せませんでした…」
謁見の間では、優しくも厳格な女王といった感じだったが、ネリーに振り回されている今の状態が素なのだろう。力なくお茶を口にしているが、それは自然体に見えた。
「…旅のお供、ということは、いつも旅してるのか?」
ふと、気になった。この『エサルカ城』に到着してから、ネリーは終始楽しげだ。
フルリス様の事も好きなのだと、態度の端々から伝わる。
「んー、ここ10年くらいのマイブーム?エサルカくんとの思い出巡りだよ!女王は忙しかったのです。フルリスちゃんも、とっても立派な女王になったしね」
「気が長いマイブームね。いや、エルフ感覚だとそうでもないのかしら?」
「フルリス様も忙しい中、出迎えお疲れ様です」
「いえ、入場門から審査を受ける分いつもより大人しいのですよ?」
「普段はどうなのよ」
「いつもはねー。門のみんなに挨拶してから、門を飛び越えてるよ」
ネリー以外の三人で頭を抱えた。
その後、お茶を飲みながら、女王の仕事を教えてもらった。
俺達だから、という訳ではない。この国の一般常識の範囲だそうだ。なんとも、豪華な教師陣だった。
人間側の王家や貴族が、王制の元、行政や都市運営がその役割だとする。
一方、エルフ王家は女王制の元、『世界樹の若木』の管理が役割だ。
『世界樹の若木』は魔物の侵入を防ぐ『防魔林』の親株、のようなものらしい。
管理することで、街道の安全を確保し、株分けで安全地帯を増やす。
女王は毎日、『世界樹の若木』の状態を特別な魔法で探り、必要に応じて魔力を注ぐ。
空き時間はあるが、休日のない、旅行など行ける筈もない業務であった。
『世界樹の苗木』だった頃は、持ち運び可能で、魔物避けにしていたそうだ。
ある意味、ここは世界的防衛機構の本拠地、とも言えるはずなのだが……。
「ナデシコちゃん、甘い物好きなんでしょ?焼き菓子は蜂蜜入りと茶葉入りはどっちが好きだった?」
テーブルの上には、クッキーのようなものがあった。
その味は二種類、ほんのり甘く香りのいい蜂蜜入り、甘さが控えめで茶葉が練り込まれたものだ。
「私はどっちも好きよ。ちなみに、甘味に一家言あるのはヤマト」
「そうでもないぞ。だが、あえて言わせて貰えば、俺は蜂蜜味が好きだ。シンプル故にお茶とよく合う。だが、茶葉入りはその香りで、口の中の風味をお茶に戻す事が出来る。故に、この二つ味が同数用意されているのだと思う。蜂蜜味を摘まみ。お茶を飲む。会話を楽しんでいる途中、口の中の風味を変える為に茶葉入りの焼き菓子を摘まめば、またお茶を飲みたくなる。会話とお茶が進む、見事な組み合わせだ」
「……本当に、『さすらいの料理人』なのですね」
「ちなみに、二つ同時に食べても、また別の味わいがあるぞ。あまり、行儀は良くないが」
「…もぐもぐ……あ、ホントだ!香りと甘さの組み合わせだね!」
「胸元が汚れてるわよ?ネリー」
このように親戚の家に遊びに来たようなノリでいいのだろうか。
メイドさんから、「コイツ、出来る…!」という視線が送られたが、スルーすることにした。
今回掲載分からタイトルを一部変更しています。
旧:異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~
新:異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~
内容や方針に変更はありません。よろしくお願いします。(作者)




