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八十八 学生、女友達が増える

一部修正しました。2020/5/12

 保健室に入るなり、保険医を大声で呼び出した。慌てて出てきた保険医が回復魔法を使った。俺の父、メディオラヌム・アーレ・スティヴァレ・イタロスがバルを治した時の様に、俺が運んできた人の傷はあっという間に治ってしまった。

 いつの間にか、顔に傷一つない女の子がすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。これは惚れられちまうかもな、なんて。意識が無いのに覚えているわけなかろうて。

 やばい、スルビヤの方を何とかしなくては、俺は女生徒を保険医に任せて、直ぐに森の方へと戻った。

 森のそばに戻ると、女生徒を運び出す時は森の手前にいたウラルの姿が見えなかった。どこかに行ったのだろうか。

 俺がそう考えて森の中に入ると、ウラルの姿を見付けた。

「こんな所で何をしているんです!?」

「『業火』の人物を捕らえるの」

 危険では、とは思ったが、彼女の結界に命を救われたのもまた事実だ。

「気を付けてくださいね」

 俺はウラルをスルビヤの方へ案内した。



 先程までスルビヤがいた所まで戻ってくると、彼は丁度起きたのか、痛そうに自分の顎をさすっていた。

 出会い頭に、ウラルは結界でスルビヤを覆った。薄皮の様に、結界はスルビヤの表面にぴったりと張り付いた。

「その結界、魔力の変化に反応するわ。言っておくけど、何が起こるか保証は出来ないから」

「そいつは怖いですね」

 大げさに怯えてみせたスルビヤの口の中にまで結界は伸びていた。ウラルは結界を自由に操れるようだから、今のスルビヤは、まさに操り人形状態というわけだ。

「立会人のいない決闘は、王国の法律で禁止されているわ。何か弁明があるかしら?」

「ありません。完全に違法行為です」

 驚くほどあっさりと、スルビヤは己の非を認めた。

「・・・・・・ねえ、ウラル様。バルカン家のことはご存じですか?」

「・・・・・・多少はね」

「なら、わかりますよね? この決闘は、仕方のないことなんですよ」

 バルカンの一族は、前当主の遺言により、その死後十年で最も偉大な功績を上げたものに爵位が譲られるらしい。つまり、たくさんいる兄弟の仲で、一番の成果を上げなくてはならない。

 そんな状況下で最も手っ取り早い手段は、参加者の人数そのものを減らすことだ。

 だからと言って、人を殺していい通りが、俺はあると思わない。

 しかし、貴族の歴史は家によってさまざまだ。爵位を巡って兄弟で殺しあうなど、多くは無いが、珍しいという程数少ない出来事でもない。

「貴方は法によって裁かれます。兎に角教師に引き渡しますから、さっさと立って歩きなさい」

「ははは。申し訳ありません。まだ頭がぐらぐらしていて、立てないんです。俺が回復するまで、少しルシウス君と話したいんですが」

 ウラルが俺の目を見る。俺は「構わない」と答えた。

「単刀直入に訊くけど、ルシウス君は人間なのかい?」

「・・・・・・どういう意味だ?」

「あの異常な速さだよ。化け物として恐れられている魔物を遥かに凌駕している。化け物を越えるって君、一体何者なんだよ」

「少し足が速いだけだろ。実際、俺はお前に殺されかけているんだ」

「速いだけって。冗談でも笑えないな。ルシウス君。獣は生き残る為に、レベルアップで身体能力を強化した。人間は身を守る為に、レベルアップで魔法の能力を成長させている。多少の身体能力の向上は確認されているらしいけど、君レベルのものは聞いたことがないよ。化け物だよ、いや、獣か?」

 スルビヤがそう言った瞬間、彼は急に息苦しそうになり、首に手を当ててその場に蹲った。

「黙れ」

 ウラルが結界を作用させたのだろう。俺は彼女に、「大丈夫です」と伝えた。

「わ、悪いねえ。助けれ、もらっちゃって」

 息も絶え絶えにスルビヤが言った。

「俺はお前がアンドレと仲良さそうにしているのを見て、良いやつだと思ってたんだけどな」

「そりゃ、アンドレ君が「良い人間」だからさ。だけど、同じバルカンの一族は皆敵だ。殺すべき悪なんだよ。・・・・・・ねえ、ルシウス君。君は、良いやつ? 悪いやつ? 人間? それとも、獣?」

 俺はウラルが何かをする前に、彼女を静止させるように彼女の前に手を出した。

「何を怯えているんだ、スルビヤ・バロン・バルカン」

 そう言った瞬間、彼は一瞬はっと驚きの表情を見せ、直ぐに何かを悟ったように、ふう、と息を吐いてうなだれた。

「・・・・・・本当は、『業火』なんて使う気は無かったんだ。でも、あの速さで攻撃されたら、死ぬと思ったんだ。殺されると思ったんだよ、君に。・・・・・・わかるかい?」

「わかるよ」

 俺はただ一言、彼にそう告げた。

 俺もやばいと思う度に黄金の笛を吹いてジブリールを呼んだ。その一撃必殺の爪で様々な命を奪った。命の危険を感じる程、早く安心したくなるものなのだ。

「もう立てるでしょ。歩きなさい」

 ウラルに促され、スルビヤは立ち上がった。彼を先頭に、俺とウラルはその後に付いて行った。



 スルビヤを教師に引き渡し、俺は安堵の息を吐いた。

 ウラルも緊張していたのか、ほっと胸を撫で下ろしていた。

「今回は、本当にありがとうございます」

「心から感謝して。私は貴方の命の恩人なのだから」

「・・・・・・うん。本当に、本当に、ありがとう」

 そう言うと、彼女は笑った。どこか、寂しさの影が掛かった笑みだった。

「やっぱり、私は貴方と恋人にはなれないわ」

 何故か振られてしまった。

「私は、思わず守ってあげたくなる男性がタイプなの。貴方は、心が強すぎるわ。・・・・・・でも、良い友達には、成れる気がするの」

 そう言って、ウラルが手を差し出した。

 なんだか、良い話に無理やりまとめようとしている雰囲気があるが、まあいいだろう。

 俺はウラルの手を取り、握手を交わした。


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