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六十七 学生、ヒロインの真実を知る

 そもそも学園長は人間なのだろうか。

神様は見た目が尋常じゃなく美しいことを除けば、人とほとんど同じ姿をしている。しかしセバスチャンの容貌は整っているとはいえ、人並み外れているとは言えない。それに、俺基準で言えば、今まで会った二人の女神様よりもエルトリアの方が美しい。

 つまり、現状セバスチャンが神の様な存在であるかどうかは判断が付かない。言えることは、百年以上生きていて、なお若々しい容姿のままでいるということだ。少なくとも、普通の人間とは言えまい。

 一度悩みだすと、頭を空っぽにしてさっさと寝てしまおうと努めても次から次へと考えが湧きだしてきた。

 窓の外は月明かりが僅かに照らすばかりで、周囲に他の建物が無い魔法学園の周辺には夜の帳が降りていた。

 こいつは眠れんな、と思いながら、ぼうっと窓の外を眺めていると、何やら闇の中を動く黒い点を捉えた。窓に近付きよく目を凝らしてみると、月明かりに照らされたそれの姿が露になった。

 ハトだ。

 普通に手紙を送らずにハトを使うということは、緊急の手紙は、もしくは秘密の手紙かのどちらかということになる。

 もし誰かがハトに感覚共有魔法を使っていれば、俺が見ていることを気付かれる危険性もあるし、あまり注視しない方が良いだろう。

 頭ではそう考えつつも、俺は出来るだけ影の中に隠れるようにハトの様子を窺った。

 単純に気になったということもあるが、もしかするとヘレナに関する手掛かりとなるかもしれない。

 しかしハトは女子棟の方には行かず。男子棟の一室の窓に留まった。

 ハトが嘴で窓を小突くと、男が一人、窓を開けて顔を出した。一年も魔法学園で生活していれば、さすがに顔と名前が一致する人間も多い。彼もその中の一人であった。

 名はロバート・コンクェスト。ノルマン伯爵家の長男であった。

 彼はハトの足から何かを取った。恐らく手紙であろう。中に入ってしばらくした後、彼はハトの足に、恐らく手紙を括り付けて、再びハトを空に放った。

 ハトは真っ直ぐ飛んでいき、やがて闇の中へと消えた。

 エルトリアの言葉を思い出す。魔法学園は政治とお見合いの場所。きっと、ノルマン伯爵家も何らかの陰謀を巡らせているのかもしれない。

 しかし、この程度の情報、セバスチャンならば既に何らかの方法で獲得しているのだろう。今の俺の仕事は、あくまでもヘレナに関する調査なのだ。

 自分の仕事を思い出すと、不思議と悩みのことを忘れていた。俺はその機を逃さずに眠りについた。



「ま・じ・で!?」

 えらく驚いた顔をしたナオミの反応に、思わず俺の方が驚いてしまった。

 彼女との会話の中で、何気なくヘレナの名前を口に出した瞬間、ナオミはまるで今まで誰かとお付き合いしていることすら知らなかった友人が、突然別れてしまった、と相談に来た時のような顔をしたのだ。

「その子、ヒロインだよ。乙女ゲームの」

 ん? 今なんて?

「『恋する魔法学園2~ドキ♡ドキ♡ ファンタスティックデイズ~』っていう乙女ゲームのヒロインなんだよ、そのヘレナって子」

 なんだよその痛いタイトルの乙女ゲームは。しかも2って。1もあるんかい。

「それってさ、この世界が乙女ゲームの世界だってこと?」

「どうなんだろう。『ラブマジ』に他国の話とか魔物の話とか出てきてないよ。だから私が思うに、この世界は『ラブマジ』の要素が混じった異世界なんじゃないかな」

「その『ラブマジ』って略称?」

「うん。『ラブ・イン・マジックスクール』で『ラブマジ』。私に勧めてくれた友達は『クソゲー』って言ってたよ」

 クソゲー進めてるんじゃないよ君の友達。

「早速なんだけど、そのゲームの内容について教えてくれる?」

 というわけで、俺はナオミから色々と情報を聞き出した。

 大まかな流れとして、魔法学園に通うことになった少女ヘレナが、そこで出会う六人の貴公子たちと恋に落ち、様座な障害を乗り越えて、ハッピーエンドを目指す物語らしい。その過程で明らかになることなのだが、ヘレナは王族の血を引いているのだとか。・・・・・・こんな所で、王族との繋がりの確証を得てしまった。

「・・・・・・ちなみに、私は1のヒロインなんです」

 うん、だと思った。

 無言でほほ笑む俺の態度に、ナオミは少し照れている様子だった。


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