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六十六 学生、執事の秘密を知る

 ヘレナに気付かれる可能性を考慮した俺は、素早く礼拝堂の屋根に上り、祭壇に光を差し入れる窓から中の様子を窺った。

 少女は一時間も祈りを捧げた後、ようやく満足したのか礼拝堂を出て行った。

 少女が学生寮の女子棟に向かったのを確認した後、さすがに付いて行くことは出来ないと判断して、追いかけることはしなかった。

 せっかくだし、神様に関する知識でも集めようと思い、俺は図書館へと向かった。



 魔法学園の図書館は非常に巨大であり、前世の記憶にある並みの町の図書館よりも遥に蔵書数が多い。検索機械もないのに一体どうやって無数にある本の中から目当てのものを探すのかと言われれば、実にファンタジックな仕組みがあった。

 図書館には至る所に鳥がいる。インコであったりフクロウであったりするが、彼らに話しかけると、目当ての本がある場所まで飛んで案内してくれ、しかも取りにくい所にある本は鳥が取ってくれるのだ。勿論爪にはカバーが付いており、本を傷つける心配はない。

 その仕組みは、理屈は単純だが、実行は困難なものだった。鳥に水魔法で暗示をかけて、図書館内の全ての本の場所を記憶させているのだ。話だけ聞くとなるほどと思うが、一冊一冊記憶させているのか、それとも全ての本の配置を覚えている人間がいて、その人の記憶を移殖しているのかなど、具体的な方法は不明だ。

 調べれば見つかるのかもしれないが、今は神様に関して調べようと思った。

 教会に祀られている神様に関しては、何冊かの聖典らしきものが見つかった。だが、分厚過ぎてまとも読む気になれなかった。

 まあ、最初に創世とかしてくれるだろう。

 そう思ってパラパラとページを捲るが、一向に神様らしき存在の名前は出てこなかった。これはあれですかい。みだりに名前を唱えてはいけないというやつですかい。

 そんなことを思い、俺は読むのを辞めた。

 もっと昔話の様なものがまとめられた本はないのだろうか。探してみたが、そんなものは無かった。昔話は語られるものであり、書かれるものではないということだろうか。

 ちくしょう。魔法に関する研究資料は山の様にあるのに。

 そう愚痴りながら、ふとあることに思い至った。

 魔法の中には、太古の神々が用いた神秘の御業を魔法で再現しようとする研究分野があったはずだ。実際、神様は召喚魔法に似たようなものを使っているみたいだし、研究方針は悪くなさそうだ。それに、そういう分野の研究ならば、文献調査もしっかりとされていることだろ。

 探してみると、目当てのものはあっさりと見つかった。かなり昔の研究資料だった。

 マリアの故郷の教会や、魔法学園の礼拝堂で崇められていた神の名はエデン。楽園? それとも偶然の一致か? その神様が作った箱庭はエデンの園と呼ばれたそうだ。日本語に訳した時に「~の」を人名にとり間違えたとか。まあ、そんなわけないか。

 運命を操る悪戯の神様らしい。創世神ではないようだ。何で悪戯の神様が崇拝されているんだか。人間に勝手に期待して、勝手に失望する。良いことも悪いこともしたらしい。だが、どうしようもなく人間臭い。きっとそういうところが好かれたのだろう。

 やがて、その神の化身と称えられる人間が表れた。その者の名はエデン。神様と同じ名前だ。本名かどうかはわからない。兎に角その人は運命を操る様な奇跡を多く為して、それが怖くなった人間の罠にかかり命を落とした。そして死後に神になったようだ。本元の神様はあまり有名ではなかったらしいが、人間のエデンの存在によってその名は知られ、今や王国の国教の神として崇められている。

 リンネという名前の女神様についても書かれていた。異なる世界の間の魂の行き来が正常に行われているかを見定める神様の様だ。かつて存在していた異教の神らしい。果たして、今信仰している人がどれだけいるのやら。

 リンゴちゃんのことについては書かれていなかった。

 そうやって様々な神様のことがその資料には列挙されていたが、結論としてはどの神の奇跡も再現方法が見つからないという結論に至っていた。相当な量の文献を調べ実験しただろうに。成果が出なかったとは。

 著者に少し同情してその名前を見て、俺は目を丸くした。


 ──────セフィロス。


 これ、セバスチャンの研究資料だったのか。だがおかしい。一体何年前だ? 百年前? 馬鹿な。どう高く見積もったって四十はいっていない見た目だぞ。間違いなく学園長より年上じゃないか。

 執事が隠しておきたかった秘密は年齢のことだったのか。というか見た目! 何であんなに若いんだ? というかバレたくなかったらこの研究資料処分しとけよ。

 俺は資料を元に戻しながら、俺は嫌なものを見てしまったと後悔した。このことを報告すべきなのだろうか。しかし、報告したら処分されてしまうのではないだろうか。

 俺は頭を悩ませながら、図書館を後にした。



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