五十 貴族の子、学生になる
セバスチャンと共に「不合格だったら社と共に消滅していたかもしれない試験」から学園長室に戻ってくると、待ちくたびれたのか、毒舌お嬢様はソファーの上で横になり、デクの膝を枕にして眠っていた。
俺達が戻って来たことに気が付くと、デクは気持ちよさそうに眠っているお嬢様の頬を人差し指でぐりぐり突いて彼女を起こした。ねえ、君達付き合ってるの?
指を鬱陶しそうに払いのけながらお嬢様は目を覚ました。まだ眠たそうに眼をこすりながら、寝言の様に呟いた。
「試験にしては随分と早いわね。筆記は無かったのかしら?」
どうやらお嬢様は試験を学園の試験と勘違いしているようだ。もしかすると、お嬢様は天網のことは知らない人間なのかもしれない。
「はい。実技だけで、彼は合格です」
セバスチャンがそう報告すると、学園長がパンッと手を叩いた。
「おめでとうルシウス君。これで晴れて、君もこの学園の生徒だ」
・・・・・・ん? 今なんて?
デクと毒舌お嬢様とは学園長室で別れ、俺はセバスチャンに学生寮まで案内されていた。
「貴方に天網として潜入調査任務を与えます。貴方の兄、ロムルス・イタロスと平民の生徒、ナオミの関係を調べてください」
「突然そう言われましても、あの、学園て確か成人後の十五歳から入学可能になるのでは?」
俺はまだ十三、いやもうすぐ十四歳になるが、どちらにしても年齢が条件に対して足りていない。
「元教師、ニコライが魔道具作製に関して貴方を推薦しています。推薦が受理されたので、特例の入学となります」
ニコライって誰? もしかして神父のことか?
「セバスチャンさんでも調査は可能なのではないですか?」
「別の仕事がありますので。・・・・・・こちらの部屋をお使いください」
話している内に学生寮の目的の部屋の前にまで到着したらしい。セバスチャンが扉を開けたので、やむなく俺は部屋の中に入った。
部屋は机とベッドしかない非常に簡素なものであった。普通の貴族ならぶちぎれるに違いないレベルの扱いだ。
「ノート、筆記具、日用品は本日中に渡します。質問はございますか?」
「・・・・・・調査任務が完了したら、俺はこの学園でどういう扱いになるんですか?」
「次の任務が与えられるまで通えます。他には?」
「もうありません。ありがとうございます」
「失礼します」
セバスチャンは扉を閉めて去っていった。俺は溜息を吐きながらベッドに飛び込んだ。
何故だか突然スクールライフが始まってしまうこととなった。なんだか最近人生の展開が色々と急すぎるような気がする。
しかし、しかしだ。魔道具作製には必要ないとはいえ、ここは魔法学園だ。魔力が無い俺は果たして、まともな学生生活が送れるのか?
・・・・・・駄目だ。考えるたびに不安になる。一旦状況を整理しよう。
俺はマクマホンと名乗る謎の男が仕組んだ、エルトリアの結婚の妨害を含む、三貴族同時弱体化計画に巻き込まれる過程で、諜報機関「天網」の存在を知り、試験を経て加入。その後、唐突に最初の任務を言い渡され、魔力がゼロにも関わらず魔法学園に潜入調査をすることになる、と。
なんだか、急に主人公みたいになった気分だ。
そんな馬鹿なことを考えていると、馬車での移動の疲れや神様との邂逅及び突然に任務言い渡しによる精神的疲労により、強い眠気に襲われた。
俺はそれに抗わずに眠ることにした。
ノックの音と共に俺は目を覚ます。体を起こし、半分寝ぼけた声で「どうぞ」と答えた。
「失礼します」
聞き慣れた声と共に現れたのは、マリアであった。
「どうしてここに?」
「坊ちゃんの身の回りの物を持ってきました。それに、この学園では付き人を一人学園に呼ぶことが出来るそうで、勝手に来てしまいました」
「いや、すごく嬉しいよ」
平民生活から貴族生活、そしてあっという間に学生生活へと生活様式が変わってしまった。でも、いつもそばにマリアが居てくれる。変わらないものがあることを知り、俺は少しだけ嬉しくなった。




