四十九 貴族の子、試験を受ける
一部修正しました。2020/4/25
王都の玄関口、万人行き交う門を入るとにぎやかな大通りが中心地の王城手前まで続いていた。しかしそこを離れると、貴族の邸宅が延々と並ぶ通りに出た。その一つ一つが大きく立派な外観をしていたが、通りの端にあったのはそれらを遥かに凌ぐ巨大な建造物だった。
王都の隅、森に隣接するように作られた魔法学園は、王都の中でも人々の生活圏とは隔離されたように位置している。校舎のみならず、庭や各研究施設及び学生寮を含めると、その総面積は王都の五分の一程に当たるとレンが教えてくれた。
校舎の至る所から尖塔が生えている。額に稲妻の形をした傷がある眼鏡の少年が通っていた魔法学校に雰囲気は近いが、正直カッパドキアのキノコ岩にしか見えない。もう少し尖っていた方が格好いいだろうにとは思ったが、レン曰く、始めは鋭く尖っていたそうなのだが、手入れの問題や空きスペースの実用性を考慮して、建物の容積を増やすために尖り具合を小さくしていったのだとか。魔法学園なのに現実的な話をするとか、夢が無さ過ぎて困る。
学園に入ると、レンは学生寮に戻ると言い、俺は校舎の中に入るということなので、ここで別れることになった。
校舎の中に入り、デクが受付の人と何かを話した。受付の人が「連絡しておきます」と言ったのを聞いて、電話もないのにどうやって遠隔の人に情報を伝えるのかと思ったが、神父も天網の本部に情報を伝達していると話していたので、何らかの方法があることは間違いない。しかしそれがどんな技術のものなのかは、残念ながら確認することが出来なかった。
デクに案内されて校舎の中を歩いた。生徒が一人もおらず、少し薄気味悪さを感じた。デクに尋ねた所、今日は休みなのだとか。
毒舌お嬢様は興味深そうにきょろきょろと周囲を見回していた。無意識の内にデクの袖を引っ張りそうになって、俺の存在に気付き慌てて手を引っ込める。彼女の殺意の籠った視線に射貫かれて身の縮む思いをした。
やがて、デクはある扉の前で立ち止まった。彼がノックをすると、少ししわがれた男性の返事か聞こえた。デクが扉を開けた。来客用の机とソファーの奥に、大きな椅子に深々と腰掛けた老人がおり、その横には黒髪黒目の眉目秀麗な執事が控えていた。
「カナリアス。よく来てくれた」
「ご無沙汰しています、学園長」
デクが恭しく礼をした。
「早速本題に、と思ったが、試験がまだであったな」
「はい。彼を案内していただけると幸いです」
「わかった。セバスチャン」
「かしこまりました」
学園長に指示を受けた執事は、俺の方に近付くと、「こちらです」と言って学園長室を出た。俺はわけのわからぬままデクを見るが、彼は直ぐ終わる、と囁くだけで、これから起こることの説明を一切してはくれなかった。
一体何が起こるというんだ。
俺は不安に苛まれながらも、執事セバスチャンの後に付いて行った。セバスチャンの一挙手一投足があまりにも洗練されている為に、俺は彼が実は悪魔なのではないかと少し疑う程であった。
校舎を出て、セバスチャンは学校の外に広がる森へと向かった。森の周りには結界を張る魔道具が設置されている様子が無く、この森には獣が出ないのか、と推測をしながらどんどん森の奥へと入っていくセバスチャンの後を追った。
「あの、試験って何ですか」
道中、俺は思い切ってセバスチャンに尋ねた。
「組織の加入試験です。二人以上の推薦は、あくまでも受験資格なので。ちなみに、試験内容は秘密です」
セバスチャンは俺が聞きたかったことまで完璧に答えてくれた。
しかし、試験か。魔力ゼロだから失格、なんてこともあり得るんじゃないだろうか。もしそうなったら俺はどうなるのだろう。記憶を消されてしまうのだろうか。・・・・・・あれ? なんかお腹が痛くなってきたぞ。
お腹を抱えるようにしてしばらく歩いていくと、やがて目の前に社が現れた。
「中へどうぞ」
セバスチャンの案内はどうやらここまでのようだ。俺は社の戸を開いて、薄暗い社殿の中を進んでいく。外観よりも中は開く、どこまで歩けばいいのやらわからなくなるような広さであった。やがて、暗い道の先に光が見えた。その光を抜けると、どこまでも果てしなく広がる、真っ白な空間が現れた。
──────見覚えしかないよ!
これ転生した時の神様が居た空間じゃないか! え、何? 試験って神様が絡んじゃうの? 天網の天てそういう意味なの?
「そうだよ」
困惑する俺の頭の中に天上の調べが響いた。それが言葉であるとわかると、それが誰かの返事であり、俺の心の声を聞いて答えたことを直ぐに察した。
しかし辺りを見回すが、神様らしきものの影も形もない。どういうことだと考えると、つんつんと何かが背中を突いた。咄嗟に振り向くも、何もいなかった。
「こっちだよ」
反射的に下を向いた。
俺の足元に、女の子がしゃがんでいた。艶やかな赤い髪の、赤ん坊の様な弾力を感じる肌を染み一つない白い衣で包んだ黄金の瞳の少女。
まだ幼くも、万人が愛らしいと思ってしまうような容貌であり、将来は女神の如き麗人なるだろうと容易に予想が付いた。
俺は驚いて後ずさりし、危うく尻もちをつきかけた。
「あの、貴方は」
「リンゴちゃん、ってみんな呼ぶよ」
ああ、グリーンダカラちゃん的な感じだね。うん、多分違うね。
「貴方は、合格」
「・・・・・・へ?」
「だから、合格。もう帰っていいよ。・・・・・・あっ、私が神様だってことは、みんなには内緒だよ」
「・・・・・・内緒なら、何故わざわざばらすような真似を?」
「驚くと思って!」
この神様はどうやら、見た目と精神年齢が一致しているらしい。
帰ろうと思い前後左右に目を配るが、どこもかしこも真っ白な空間で、出口などどこにも見当たらなかった。
「・・・・・・あの、出口はどちらに」
「あっ! ごめんごめん。今帰すね」
───────気付くと、俺は森のど真ん中に立っていた。すぐそばにセバスチャンが立っていたが、先程まで入っていた社はどこにも見当たらなかった。
本当に、何がどうなっているのかさっぱりわからなかったが、セバスチャンが「合格おめでとうございます」と言ってくれたので、合格したのは間違いないだろう。
・・・・・・あれ、合格してなかったら俺、もしかして社ごと消えてた?




