ドラマと現実
ドラマの筋書き。
決戦の日、ご大層に野球部から伝令がやって来て、放課後、すぐにグランドに来いと言ってきた。
打ち合わせ通り、山王寺綾に伝えると、含み笑いをしていた。
制服のまま、3人でグランドに行くと、野球部の連中が整列して待っていた。
約20名に睨まれている。
すると、その中の一人が
「女子は何の用だ?」
『オラのコーチだば。あんたら、そんだけ大勢いるが。なば、いいだべ。』
「コーチ?大丈夫か、それに、ウェアは?」
山王寺綾さんが、僕に代わって返事をした。
「見てくれで判断するから、弱いんじゃないの?そうやって威嚇するのは、俺たちが勝つとでも勘違いしてるから?」
「オヒョー!威勢のいいこと。ま、今の内に好きな事を言っとけ。とりあえず、キャプテンが相手だ。投球練習どうするか?」
すると、小声で綾さんが
「ねえ、イノシシを仕留める時、石を何個投げたの?」
『何個?そんなの考えてると、イノシシが突進してくるじゃん。一個、一個だけ。』
「そう。」
一拍置いて、綾さんが怒鳴るように叫んだ。
「練習はいらないわ。その代わり、キャッチャーの用意して。それから、空振りって条件はキャンセルします。」
「おい、何、今になって逃げるんだ?」
「じゃあ聞きますが、キャプテンがストライクを全部見極めて振ると、約束出来ますか?」
「オッ!」
すると、キャプテンらしい人が
「分かった。キャッチャーはうちのレギュラーにやらそう。アンパイアを付けよう。但し、ここにいるのは、うちの部と君達3人だ。公平なジャッジを命令するから、それでいいか?」
「分かりました。では、いつでも始めて下さい。」
そして、綾さんが僕に言ったのは
「いい?キャッチャーがマスクをかぶるから、じっと見てご覧なさい。きっと、イノシシの顔が見えるわ。見えたら、一発で倒すのよ。分かった?」
『オッ!ああ、イノシシに見えたら、眉間をブッ飛ばしてやる。』
綾さん、僕の真横に立った。
どこから投げるのか教えてくれても、そのままずっと立っている。
アンパイアが「プレイボール」と言った。
キャッチャーを見ると、確かにお面のようなものを被って、ミットを突き出すようにして構えてた。
ジーっと見ていると、不思議なことに、綾さんが言ったイノシシがいた。
そして、恐ろしい目でこっちを見ている。
その時だ。
少し石より大きいが、その分、投げやすかった。
確信した、イノシシの眉間、ど真ん中を撃ち抜いた・・・と。
グランドの周りが、静かだった。
綾さんが、僕の袖を引っ張り歩き始めた。
そして、バットを拾うと、僕の手に渡してくれた。
「今度は鷲を叩き落した時を思い出すのよ。いい、ワシの飛び方って、決して真っ直ぐじゃないでしょ?先を予測して、今回はこれでワシをブッ飛ばすのよ。」
『おお、けど、ちっちゃいぞ。セミでもいいか?あれ、難しくてさ、でも、ススキの
太いとこで』
「今、そんな話し聞いてる暇ないの。ワシでもセミでもいいから、それでどっかへ飛ばしちゃいなさい。」
『お、分かった。』
今度は、誰も、何も言ってこない。
ビッチャーが投げたボールは、僕の頭の上。
少しジャンプして、セミを思いっきり叩いた。ブッ飛ばした感触があった。
山王寺綾さんが
「友達記念日よ、お祝いに行く?」
『あ、けど、オレ、金、ない。』
「バカ、昨日も出してあげたのよ?もう、仕方ないわ。」
歩き出したのは、二人だけ。『太田は?』
「太田くん?腰抜けたみたい。どうせ来るでしょう?」
一連の対決を見ていた目があった。
と、これが第1話のストーリー。
入学式、お母さんと一緒に宝明学園の校門をくぐった。
少し行ったところに、掲示板が置かれている。
そこに貼り出されていたのは、クラス割りの名簿だった。
ひとクラス32名の10組になっている。
1組からゆっくり探して行くが、中々見つからない
5組にかおりの名前が出ていたが、残念、同じクラスになれなかった。でも、本音を言うと、トモ君の名前は、まだなので、ドキドキして凄いことになっていた。
そして、ようやく9組に私の名前があった。
山城の名前を探したが、同じクラスにその名前は無かった。
10組なら、隣だから・・・
顔から血の気が引いて行くのが分かった。
「お母さん・・・トモ君の・・・」
「あら、顔色、真っ青よ、サヤカ?」
「いい・・・トモ君の名前、無いの。なんで?なんでなの?」
そこへかおりが来なかったら、間違いなく倒れていたと思う。
結局、健康管理室という所に連れて行ってもらい、ベッドに横になったのです。
お母さんが付いてくれている安心感からか、2時間ほど眠っていた。
目が覚め、そのまま家に帰ってきた。
ずっと口走っていたらしい、トモ君、トモ君って。夕方、お母さんと交代してくれるようにかおりが心配して来てくれた。
ベッドの横で、手を握ってくれている。
「トモ君、いったいどうしたんだろう?」
「今は、何も考えない方がいいよ。きっと帰ってくるから。」
「うん。そうだよね、私の事、大好きって。おじいさんが治るまでだよね?」
「そうよ、だから、サヤカが倒れちゃったら、迎えて上げられないでしょう?」
「うん。」
でも、結局、その日から4日目、ようやく登校出来る様になったのです。
初めて入った1年9組の教室、もちろん、知っている人もいないから、座る机も分からない。
キョロキョロしていると、まだまだ子供っぽい子がやって来て、「こっちだよ。」と言って、私の手を引いて案内してくれた。
「あなた、野崎さんでしょう?お身体、もういいの?」
「あ、うん。ありがとう。」
「いいのよ、私、阿蘇 真由美。ケヘッ、ちっちゃいでしょ、でも同い年だよ。」
「あ、うん。あ、阿蘇さん?ごめんなさい、何にも分かんないから、いろいろ教えてくれると助かるんだけど。」
「了解です。ああ、でもウワサ通りの美少女ね。羨ましいわ〜。」
「あ、そんなことないよ、私なんか?」
「大変な騒ぎになりそうよ、私、守ってあげようか?」
よく言っている意味が分からないが、なぜか教室の入り口付近が騒がしいようだ。
朝のホームルームで、担任の先生から紹介された。
担任は、多分20代後半くらいの女性教師で、大人の美人だと第一印象。
授業が始まったが、相変わらずトモ君のことしか頭の中に入ってこない。
いろんな想像をして、どうしてもネガティヴに考えてしまう。
「助けて〜!」心から、叫んでみたい。
休憩時間になると、かおりが飛び込んで来た。
「どうだった?きちんと先生の話し、耳にはいった?」
阿蘇さんも横にいた。
「ん?全然だった。どうして?」
「そのことは後で聞いてあげるから、授業だけはしっかり受けなさい。ね、分かった?」
「あ、うん、分かった。」
すると、阿蘇さんが
「ちょっと聞いていい?」かおりに話し掛けて
「何かあったの?身体の病気じゃないの?」
ちょっと怪訝な顔をしたかおりに、阿蘇さんを紹介すると
「お昼休みで良かったら、詳しく説明するね。今じゃ時間が足りないから。」
「ふぅーん、ステキな彼なんだね。何があったんだろう?」
「それが分かれば、サヤカもこんなに苦しまないのに、ホント、ムカつく。」
「かおり、トモ君を責めないでよう。話せない理由が私にあったかも知れないし。」
「すぐそれだ。サヤカは悪くない、そうやって自分を追い込まないのよ。」
「ちょっとしか分かんないけど、野崎さんのせいじゃないと思うよ。かと言って、トモ君?のせいにも出来ないんじゃない?どっかで野崎さんのことを思ってるわ、きっと。」
どうにも野崎さんと言う言い方が馴れそうにない。
お互いに、下の名前で呼び合おうと提案して3人の間で、サヤカ、かおり、真由美と決めた。
かおりが言ったのは
「こうなったら、しばらくトモ君の話しを禁句にして、何かさあ、JKらしいことを探さない?ちょっとは大人に近づいているんだし。」
「例えば、どんなこと?」
「そうね、カラオケデビューとかはどう?」
すると、真由美が
「賛成。行ってみたいと思ってたんだ。うちって、両親が仕事してるから、一度も連れてってもらってないの。サヤカは?」
「ん?私は・・・きっと上手いよ。自信ある。」
「ゲッ‼︎何よ、音痴だったらLINEに載せるよ?」
「いいよ、あ、かおりって、変な声してるから、下手だと思う。」
「言ったなあ、すっごく上手いとは言わない。でも、下手ではない、と、思う。」
真由美が仕切った。
「ようし決まり。ね、3人の友達記念日として、放課後、レッツゴー!」
「オーッ‼︎」
放課後、3人で繰り出したカラオケハウス、受付けで戸惑いながらも、キラキラ輝く部屋に入った。
3人とも、物珍しそうに部屋中をチェックする。
説明書を見ながら、言い出しっぺの真由美にマイクを持たせ歌わせる。
「次はかおりだよ。曲、選んで?」
「やーだ、サヤカが歌ってよ、私は最後がいい。」
「言ったでしょう、私、上手いのよ。一番上手い人がトリだよ。」
「ホント、LINEに載せちゃうよ。もう。」
真由美が歌い始めた。
曲は、あの1人アイドルの歌。ダンスも、所々にいれながら・・・結構、普通?
かおりは、性格そのままに、両手でマイクを持ち、おとなしい歌をしっとり歌った。
いよいよ私、ずっと歌いたかったキャロちんセンターの曲を選択した。
歌い始めると、自分がアイドルになったようで、2人も一緒になって歌ってる。
それが楽しくて、余計にノリノリになって歌った。
「すご〜い、ホントに上手かった。キャロちんみたいに見えたよ。」
「ホント、認めよう。サヤカ、上手い!」
えへへ、鼻高々でいると、もう真由美が次の曲を入れている。
それからは、競い合うようにして、思い思いの歌を歌った。
2時間の時間制限はアッと言う間に過ぎ去った。
「ねえ、明日も来る?」
「いいよ、サヤカにリベンジする。」
「ウフ、返り討ちにしてあげるよ。」
家に帰ると、遅かったからお母さんが心配していた。
「そうなの?良かったじゃない、すぐに声を掛けてくれるなんて、嬉しいね。」
「うん。明日も行くことに決めたんだよ。気持ちいいんだ、歌うって。」
「分かる、サヤカ、一気に明るい顔してる。それだったら、トモ君も喜ぶよ。」
「そっか?そうだよね、エヘヘ、いい事考えた。」
「いい事?なぁに?」
「うん、アイドルになるって、どう?」
「おやおや、また、突拍子もないことを?」
「妄想だよ。テレビとかに出て、私からは見えないけど、トモ君からは見えるでしょう?ずっと手を振ったりして。」
「もうそこまで妄想?」
「あ、そうだ、妄想ノート作ろかな?」
「そうね、日記にしなさいよ。明るい自分を書いて、いつか、トモ君に見せるといいわ。」
「ホント、そうだね。じゃあ、架空のトモ君も作っちゃう。トモ君、男性アイドルにしちゃって、秘密の恋愛?隠れて、コソコソ・・・」
「おやおや、エロいわね。まぁ、好きにしなさい。」
早速、その夜からノートに妄想を書き始めた。
トモ君の出番はずっと先にしようと思う。
面白い。仮想の世界を作って、自分を主人公にして書いていくと、メッチャ楽しい。
面白いように妄想が膨らんで、それこそ時間を忘れさせてくれる。
妄想の世界だと、あり得ないミニスカートも大胆に穿けるし、ティーバックだって平気。胸のサイズもCやDで驚かないよ。でも、今後の成長を考えてFくらいから始めよう。
次の日、登校途中も、妄想の世界に入り浸り。
いつの間に座ったのか、前の席から振り返った真由美。
「えへへ、ジャーン‼︎」と言って、私の前に一枚の用紙を置いた。
何?・・・ワォーッ! メッチャカワイイ3人の女の子の絵。
「エッ?真由美、どうしたのこれ?ね、可愛いんだけど、何てマンガ?」
「えへへ。描いたんだよ、この私が。」
「ん?描いたのは分かってる、なんて言うマンガを写したの?」
「だから〜、私のオリジナルで〜す。上手いでしょう?」
「オリジナル?」
「そうだよ、この真ん中のピンクの髪の子がサヤカ。こっちの茶髪がかおりでしょう。そんで、このブルーが私。どう、似てない?」
「あ、確かに、これ真由美だ。アハハ、目元と唇の感じがメッチャ似てる。あ、かおりもそうそう、怒った時の吊り上がった目がそっくり。あ、でも、私、こんなに目、大きくないよ。こっちの方が断然可愛いんだけど?」
「そうでもないよ、ツケマを想像したら、こうなっちゃった。ま、サヤカは特別だからね。」
「すごいよ、すご〜い。どうして?」
「元々絵が好きってのもあったんだけど、中学の時、教室に通ってたんだ。もう辞めたけどね。」
「羨ましいなぁ〜、こういう絵を描ける人、尊敬しちゃう。」
「何言ってるの?サヤカみたいに、そこに居るだけで美人なんだよ、あこがれるぅー!」
休憩時間にかおりが来ると、もう止まらなかった。
カラオケハウスで真由美が言い出したのは
「ねぇ、この3人のマンガ描こうかな?」
「ん?本みたいに?」かおりが聞く。
「いいんじやない?協力するよ、テーマは?」と、すぐに賛成した。
「それはこれから考える。とりあえず、サヤカを中心にしようと思ってる。」
すると、かおりは
「仕方ないわね、サヤカと競争する子はいない。」
「じゃあ決まり。かおりだけボーイフレンドいることにする?」
「やーだ、ダメダメ、それだけは許して。初恋もしてないのよ、イメージ壊れるから。」
「じゃあ止める。んーと、何部かに所属している名選手ってのは?」
「いいよね、球技がいい。ソフトかバレー?かおり、どっちがいい?」
「2択?なら、ん〜ソフトボールにしてくれる?」
「オッケー。それで、私は運動音痴の文学少女にするね。サヤカは学園アイドルでいい?」
「ケヘッ!時々、パンチラ?」
「自分で言ってるよ、じやあ、ポロリも、ってエロマンガじゃないよ。」
「いっつもこう。ずっと頭ん中、エロだよ。」
言われついでに付けられたアダ名が、エロボ?エロボケだって。これには頭を下げて許してもらった。
その夜、妄想日記を書きながら、これがマンガになったら、どうだろう?と、本気で考えた。
第2話の筋書き
野球部の入部を阻止した後、山王寺綾さんとカフェにいるところから始まる。
そこへ転がるように太田がやって来た。
「お、お前、凄えな。何、あのボール?キャプテンの奴、震えてたぜ。それにあのホームラン、バックネットを軽々越えたぞ。」
『ん?そうなん?俺、綾さんの言う通りにしただけでさ、もし呼び止められたら、走って逃げようってだけ考えてた。走るんだったら負けねえ。』
「あら、そうなの?山の中で走ってたから?」
『ああ、けどよ、木の枝が張り出してんじゃん、それを避けながら走るんだけど、俺、得意。ひょいひょいってさ。』
「お前、スポーツ万能じゃねえか?」
『おかしなこと言うなって。スポーツって、全然経験してねえって。俺、田舎もんだぞ。』
「いいわね、田舎もんをウリにしてるって。」
『俺のことより、綾さん?スポーツ詳しそうだな?どうして?』
「少しやった経験があるくらいよ。それより、山中君の正確さが際立ってるんだよ。ホントにすごいよ。何かやらせてみたいって思うもん。」
翌日、朝から野球部の連中が押し掛けて来て、逃げ回るのにヘキヘキした。
どうにか振り払って校門を出ると、そこに別の部の何人かが通せんぼって、小学生かよって突っ込みたくなった。
『ちょっと道を開けて下さい。』方言を使うのを忘れていた。
「ん?お前、野球部に勝ったから、調子に乗ってるらしいな?」
「そんだったらごとねえぜ、おいは何もしちょらんけ。」
「何言ってるか分かんねえ。今度はサッカー部が相手になってやる。いいか、PK5本勝負だ。これにお前が勝てば入部免除だ。明日、サッカー部のグランドに来い。」
「ちょっくら待て。やったごとねえべ、そんでもやれってか?」
「簡単だ、誰かに聞け。」
生意気な不良め、と思いながら歩いていると、いつの間にか綾さんが隣にいる。
『おーっ、ビックリした〜!いつの間に?』
「そんなことより、サッカー部が何か言ってきたの?」
『ああ、何だった・・PC?』「パソコン!」『PS?』「追伸?」『PT?』「ん?PTA?」『あ、それだ。』「ふざけないで‼︎」『あ、ばれた?』
「そう、PK5本か?もちろん、経験?」
『ないない。あんなに広い平らな土地、山の中にあるわけないっしょ。』
「でも、ボールくらいあった?無かったね。」
途中にある小さな公園、ブランコに乗って話しを続けていた。
「ねえ、何か蹴って獲物を捕ったことは?」
『石ころ蹴ったら、痛そうだし、木を蹴ってどんぐりを取ったことぐらい?』
「それ以外に、本当に無い?」
『ん〜獲物はねえけど、糸トンボなら、でも、水の中からだし?』
「それ、詳しく教えて?」
『夏の遊び、と言ってもひとりでだけど。近くに谷川があるわけ。水が冷たくて、夏になると、近所の人たちもスイカ冷やすんだ。』
「とりあえず、スイカの話しは冷えるまで後回しにしようか?」
『お、うまいこと言うな?谷川の上を糸トンボが、ユラユラと揺れながら飛んでるんだ。それを見つけたら、木の欠片を探して、川の上流から流れてくるように投げる。足下に来たら、回し蹴りしてその欠片を蹴り上げると、糸トンボに命中するね。ま、多少手加減してるから、一旦谷川に落ちるけどすぐに回復して、飛び上がる。』
「木の欠片を蹴る時、水も一緒に?」
『バカだなあ、水の音と水が飛ぶだろ?そしたら、木は?全然飛ばない。水面ギリギリのところで木だけ蹴る。綾さんには無理だろうな?』
「分かってるわよ、それに、そんな山奥、行かないよ。あ、でもそれでやれば、5本くらい入るよ。よし。」
何やら綾さん1人が納得して、翌日を迎えた。
見るからに生意気な不良集団?それがサッカー部の第一印象。なぜなら、ダボダボの半ズボンをだらしなく穿いて、数人はガムを口の中でクチュクチュ噛んでいる。俺の一番嫌いなタイプだ。
ここでも綾さんが注文を付けた。
「PK5本は蹴ります。但し、そっちから蹴るのは無しにして下さい。キーパーを素人にさせるようなこと、その上もし止められたら、末代までの恥ですけど?」
さすがにイヤといえないようだった。
どこから蹴るか教えてもらい、その位置に行くとやはり綾さんが隣に立つ。
素人と言う言葉の意味は絶大だった。
誰も咎める声を出さない。
見ると、キーパーだけは動き回っている。
「いい?地面を水面と考えるのよ。ボールは少し大きな木の欠片。あそこにいるのは糸トンボ。どうする?」
『糸トンボを落とす!』
「けど、その後ろにある網を破るのは?」
『そっちの方が簡単だ。どの辺り?』
「右隅の奥の角は?」
『オッケーです。』
谷川の中、もちろん、走り込むなんて出来ない。その場で足を上げて、蹴る。
やったと思った。自分の感触は糸トンボの目の前でスルリと交わし、右隅の岩に激突。
「オーッ」という声が聞こえてきた。
ボールが戻って来た。
「次は糸トンボの正面からホップさせて、真上の網に当てれる?」
『ん?ああ、真ん中の真上ってこと?』
「そうよ、糸トンボを殺さないで。」
『気絶しかさせてねえよ。』
今度も足だけで。案外、横よりも上の方が簡単だった。
「帰りましょう。」
多分5回蹴ったと思う。綾さんの言葉に促されて、その場を離れた。
追っかけてきた太田が
「おい、なんで立ったままで蹴れたんだ?助走は?」
『助走ってなんだ?ん?PCって、これでいいんだろ?』
「バソコン、2回も使う?」
と言うのが、第2話の内容です。
この撮影で、キャロちんさんが2回もNGを出したんですけど、どこだか分かりますか?エッ?そう、PTAのところです。
実は、先輩の俳優さんが、僕のセリフを読んで、アドリブでこう言えって言われて。そしたら、キャロちんさんが止まっちゃって、吹き出したのが真相でした。
立ったままの姿勢でボールを蹴る、出来ますか?
さすがにクリーンヒットは無理でした。だから、合成です、ごめんなさい。
それから、遡りますが
ギリギリ第一話の収録が終わった翌日、僕の入学式だった。
思い返せば、その日、朝早くにユイさんが僕の家にやって来て、いきなり化粧道具を持ち出した。
『ん?お化粧する為に、ワザワザうちまで来たんですか?』
「私じゃないわ。優也さんに変装してもらうためよ。」
『変装?素顔は不味いですか?』
「だって、謎の人物がウリだよ、大人だったら髭でも付ければいいけど、優也さんの場合、あまり大袈裟な変装だと、余計に目立っちゃうよね?どれにする?」
『どれって、どんなのがあるの?』
「メガネ、カツラ、あ、色違いもあるの。あまり目立たない茶髪にする?それとも、ロングヘアがいい?メガネの流行知ってる?」
『知らない。茶髪のカツラ、見せて?』
「はい、これね。」
そっと被って見ると、案外違和感を感じない。
「あら、いいじゃない。染めたか聞かれても、天然だって言えば通るね。どう?」
『あ、うん。これがいいよ。』
「メガネは、黒縁が流行。」『これ、伊達?』「当たり前でしよう?」
『じゃあ、それにする。あ、ところで、今日だけ?』
「んなわけないでしょう?バレるまでに決まってるでしょう。」
「さあ、次はお化粧するわよ、こっちに座って。」
『エッ?顔をどうするんですか?口紅とか?』
「ちょっとだけね。それと、目元を上げよっか?鼻は、低く見えるように。」
手際よく進めていく。
「制服着てらっしゃい。一応、最終チェックするから。」
カガミを見ると、いつもの自分ではない。ほぼ別人だ、特に、三条優也とは、まるっきりの他人に見える。
「いいんじやない?今の化粧の仕方、覚えた?」
『あ、ええ、覚えました。』
入学式では、ほとんど無口で通した。結構、おしゃべりな人もいたが、何とか避けられた。
それから、3日間出席してから、第2話の収録に入った。
それが、サッカー部との対決だった。
第10話をお楽しみに




