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沙也加と僕  作者: ユキから
9/33

ドラマと現実

ドラマの筋書き。


決戦の日、ご大層に野球部から伝令がやって来て、放課後、すぐにグランドに来いと言ってきた。

打ち合わせ通り、山王寺綾に伝えると、含み笑いをしていた。


制服のまま、3人でグランドに行くと、野球部の連中が整列して待っていた。

約20名に睨まれている。

すると、その中の一人が

「女子は何の用だ?」

『オラのコーチだば。あんたら、そんだけ大勢いるが。なば、いいだべ。』

「コーチ?大丈夫か、それに、ウェアは?」

山王寺綾さんが、僕に代わって返事をした。

「見てくれで判断するから、弱いんじゃないの?そうやって威嚇するのは、俺たちが勝つとでも勘違いしてるから?」

「オヒョー!威勢のいいこと。ま、今の内に好きな事を言っとけ。とりあえず、キャプテンが相手だ。投球練習どうするか?」

すると、小声で綾さんが

「ねえ、イノシシを仕留める時、石を何個投げたの?」

『何個?そんなの考えてると、イノシシが突進してくるじゃん。一個、一個だけ。』

「そう。」

一拍置いて、綾さんが怒鳴るように叫んだ。

「練習はいらないわ。その代わり、キャッチャーの用意して。それから、空振りって条件はキャンセルします。」

「おい、何、今になって逃げるんだ?」

「じゃあ聞きますが、キャプテンがストライクを全部見極めて振ると、約束出来ますか?」

「オッ!」

すると、キャプテンらしい人が

「分かった。キャッチャーはうちのレギュラーにやらそう。アンパイアを付けよう。但し、ここにいるのは、うちの部と君達3人だ。公平なジャッジを命令するから、それでいいか?」

「分かりました。では、いつでも始めて下さい。」


そして、綾さんが僕に言ったのは

「いい?キャッチャーがマスクをかぶるから、じっと見てご覧なさい。きっと、イノシシの顔が見えるわ。見えたら、一発で倒すのよ。分かった?」

『オッ!ああ、イノシシに見えたら、眉間をブッ飛ばしてやる。』

綾さん、僕の真横に立った。

どこから投げるのか教えてくれても、そのままずっと立っている。


アンパイアが「プレイボール」と言った。

キャッチャーを見ると、確かにお面のようなものを被って、ミットを突き出すようにして構えてた。

ジーっと見ていると、不思議なことに、綾さんが言ったイノシシがいた。

そして、恐ろしい目でこっちを見ている。

その時だ。

少し石より大きいが、その分、投げやすかった。

確信した、イノシシの眉間、ど真ん中を撃ち抜いた・・・と。


グランドの周りが、静かだった。

綾さんが、僕の袖を引っ張り歩き始めた。

そして、バットを拾うと、僕の手に渡してくれた。

「今度は鷲を叩き落した時を思い出すのよ。いい、ワシの飛び方って、決して真っ直ぐじゃないでしょ?先を予測して、今回はこれでワシをブッ飛ばすのよ。」

『おお、けど、ちっちゃいぞ。セミでもいいか?あれ、難しくてさ、でも、ススキの

太いとこで』

「今、そんな話し聞いてる暇ないの。ワシでもセミでもいいから、それでどっかへ飛ばしちゃいなさい。」

『お、分かった。』


今度は、誰も、何も言ってこない。


ビッチャーが投げたボールは、僕の頭の上。

少しジャンプして、セミを思いっきり叩いた。ブッ飛ばした感触があった。


山王寺綾さんが

「友達記念日よ、お祝いに行く?」

『あ、けど、オレ、金、ない。』

「バカ、昨日も出してあげたのよ?もう、仕方ないわ。」


歩き出したのは、二人だけ。『太田は?』

「太田くん?腰抜けたみたい。どうせ来るでしょう?」

一連の対決を見ていた目があった。


と、これが第1話のストーリー。


入学式、お母さんと一緒に宝明学園の校門をくぐった。

少し行ったところに、掲示板が置かれている。

そこに貼り出されていたのは、クラス割りの名簿だった。

ひとクラス32名の10組になっている。

1組からゆっくり探して行くが、中々見つからない

5組にかおりの名前が出ていたが、残念、同じクラスになれなかった。でも、本音を言うと、トモ君の名前は、まだなので、ドキドキして凄いことになっていた。

そして、ようやく9組に私の名前があった。

山城の名前を探したが、同じクラスにその名前は無かった。

10組なら、隣だから・・・

顔から血の気が引いて行くのが分かった。

「お母さん・・・トモ君の・・・」

「あら、顔色、真っ青よ、サヤカ?」

「いい・・・トモ君の名前、無いの。なんで?なんでなの?」

そこへかおりが来なかったら、間違いなく倒れていたと思う。


結局、健康管理室という所に連れて行ってもらい、ベッドに横になったのです。

お母さんが付いてくれている安心感からか、2時間ほど眠っていた。

目が覚め、そのまま家に帰ってきた。


ずっと口走っていたらしい、トモ君、トモ君って。夕方、お母さんと交代してくれるようにかおりが心配して来てくれた。

ベッドの横で、手を握ってくれている。

「トモ君、いったいどうしたんだろう?」

「今は、何も考えない方がいいよ。きっと帰ってくるから。」

「うん。そうだよね、私の事、大好きって。おじいさんが治るまでだよね?」

「そうよ、だから、サヤカが倒れちゃったら、迎えて上げられないでしょう?」

「うん。」


でも、結局、その日から4日目、ようやく登校出来る様になったのです。

初めて入った1年9組の教室、もちろん、知っている人もいないから、座る机も分からない。

キョロキョロしていると、まだまだ子供っぽい子がやって来て、「こっちだよ。」と言って、私の手を引いて案内してくれた。

「あなた、野崎さんでしょう?お身体、もういいの?」

「あ、うん。ありがとう。」

「いいのよ、私、阿蘇 真由美。ケヘッ、ちっちゃいでしょ、でも同い年だよ。」

「あ、うん。あ、阿蘇さん?ごめんなさい、何にも分かんないから、いろいろ教えてくれると助かるんだけど。」

「了解です。ああ、でもウワサ通りの美少女ね。羨ましいわ〜。」

「あ、そんなことないよ、私なんか?」

「大変な騒ぎになりそうよ、私、守ってあげようか?」


よく言っている意味が分からないが、なぜか教室の入り口付近が騒がしいようだ。

朝のホームルームで、担任の先生から紹介された。

担任は、多分20代後半くらいの女性教師で、大人の美人だと第一印象。


授業が始まったが、相変わらずトモ君のことしか頭の中に入ってこない。

いろんな想像をして、どうしてもネガティヴに考えてしまう。

「助けて〜!」心から、叫んでみたい。

休憩時間になると、かおりが飛び込んで来た。

「どうだった?きちんと先生の話し、耳にはいった?」

阿蘇さんも横にいた。

「ん?全然だった。どうして?」

「そのことは後で聞いてあげるから、授業だけはしっかり受けなさい。ね、分かった?」

「あ、うん、分かった。」

すると、阿蘇さんが

「ちょっと聞いていい?」かおりに話し掛けて

「何かあったの?身体の病気じゃないの?」

ちょっと怪訝な顔をしたかおりに、阿蘇さんを紹介すると

「お昼休みで良かったら、詳しく説明するね。今じゃ時間が足りないから。」


「ふぅーん、ステキな彼なんだね。何があったんだろう?」

「それが分かれば、サヤカもこんなに苦しまないのに、ホント、ムカつく。」

「かおり、トモ君を責めないでよう。話せない理由が私にあったかも知れないし。」

「すぐそれだ。サヤカは悪くない、そうやって自分を追い込まないのよ。」

「ちょっとしか分かんないけど、野崎さんのせいじゃないと思うよ。かと言って、トモ君?のせいにも出来ないんじゃない?どっかで野崎さんのことを思ってるわ、きっと。」

どうにも野崎さんと言う言い方が馴れそうにない。

お互いに、下の名前で呼び合おうと提案して3人の間で、サヤカ、かおり、真由美と決めた。

かおりが言ったのは

「こうなったら、しばらくトモ君の話しを禁句にして、何かさあ、JKらしいことを探さない?ちょっとは大人に近づいているんだし。」

「例えば、どんなこと?」

「そうね、カラオケデビューとかはどう?」

すると、真由美が

「賛成。行ってみたいと思ってたんだ。うちって、両親が仕事してるから、一度も連れてってもらってないの。サヤカは?」

「ん?私は・・・きっと上手いよ。自信ある。」

「ゲッ‼︎何よ、音痴だったらLINEに載せるよ?」

「いいよ、あ、かおりって、変な声してるから、下手だと思う。」

「言ったなあ、すっごく上手いとは言わない。でも、下手ではない、と、思う。」

真由美が仕切った。

「ようし決まり。ね、3人の友達記念日として、放課後、レッツゴー!」

「オーッ‼︎」


放課後、3人で繰り出したカラオケハウス、受付けで戸惑いながらも、キラキラ輝く部屋に入った。

3人とも、物珍しそうに部屋中をチェックする。


説明書を見ながら、言い出しっぺの真由美にマイクを持たせ歌わせる。

「次はかおりだよ。曲、選んで?」

「やーだ、サヤカが歌ってよ、私は最後がいい。」

「言ったでしょう、私、上手いのよ。一番上手い人がトリだよ。」

「ホント、LINEに載せちゃうよ。もう。」


真由美が歌い始めた。

曲は、あの1人アイドルの歌。ダンスも、所々にいれながら・・・結構、普通?

かおりは、性格そのままに、両手でマイクを持ち、おとなしい歌をしっとり歌った。

いよいよ私、ずっと歌いたかったキャロちんセンターの曲を選択した。

歌い始めると、自分がアイドルになったようで、2人も一緒になって歌ってる。

それが楽しくて、余計にノリノリになって歌った。


「すご〜い、ホントに上手かった。キャロちんみたいに見えたよ。」

「ホント、認めよう。サヤカ、上手い!」

えへへ、鼻高々でいると、もう真由美が次の曲を入れている。

それからは、競い合うようにして、思い思いの歌を歌った。

2時間の時間制限はアッと言う間に過ぎ去った。


「ねえ、明日も来る?」

「いいよ、サヤカにリベンジする。」

「ウフ、返り討ちにしてあげるよ。」


家に帰ると、遅かったからお母さんが心配していた。

「そうなの?良かったじゃない、すぐに声を掛けてくれるなんて、嬉しいね。」

「うん。明日も行くことに決めたんだよ。気持ちいいんだ、歌うって。」

「分かる、サヤカ、一気に明るい顔してる。それだったら、トモ君も喜ぶよ。」

「そっか?そうだよね、エヘヘ、いい事考えた。」

「いい事?なぁに?」

「うん、アイドルになるって、どう?」

「おやおや、また、突拍子もないことを?」

「妄想だよ。テレビとかに出て、私からは見えないけど、トモ君からは見えるでしょう?ずっと手を振ったりして。」

「もうそこまで妄想?」

「あ、そうだ、妄想ノート作ろかな?」

「そうね、日記にしなさいよ。明るい自分を書いて、いつか、トモ君に見せるといいわ。」

「ホント、そうだね。じゃあ、架空のトモ君も作っちゃう。トモ君、男性アイドルにしちゃって、秘密の恋愛?隠れて、コソコソ・・・」

「おやおや、エロいわね。まぁ、好きにしなさい。」


早速、その夜からノートに妄想を書き始めた。

トモ君の出番はずっと先にしようと思う。

面白い。仮想の世界を作って、自分を主人公にして書いていくと、メッチャ楽しい。

面白いように妄想が膨らんで、それこそ時間を忘れさせてくれる。

妄想の世界だと、あり得ないミニスカートも大胆に穿けるし、ティーバックだって平気。胸のサイズもCやDで驚かないよ。でも、今後の成長を考えてFくらいから始めよう。


次の日、登校途中も、妄想の世界に入り浸り。


いつの間に座ったのか、前の席から振り返った真由美。

「えへへ、ジャーン‼︎」と言って、私の前に一枚の用紙を置いた。

何?・・・ワォーッ! メッチャカワイイ3人の女の子の絵。

「エッ?真由美、どうしたのこれ?ね、可愛いんだけど、何てマンガ?」

「えへへ。描いたんだよ、この私が。」

「ん?描いたのは分かってる、なんて言うマンガを写したの?」

「だから〜、私のオリジナルで〜す。上手いでしょう?」

「オリジナル?」

「そうだよ、この真ん中のピンクの髪の子がサヤカ。こっちの茶髪がかおりでしょう。そんで、このブルーが私。どう、似てない?」

「あ、確かに、これ真由美だ。アハハ、目元と唇の感じがメッチャ似てる。あ、かおりもそうそう、怒った時の吊り上がった目がそっくり。あ、でも、私、こんなに目、大きくないよ。こっちの方が断然可愛いんだけど?」

「そうでもないよ、ツケマを想像したら、こうなっちゃった。ま、サヤカは特別だからね。」

「すごいよ、すご〜い。どうして?」

「元々絵が好きってのもあったんだけど、中学の時、教室に通ってたんだ。もう辞めたけどね。」

「羨ましいなぁ〜、こういう絵を描ける人、尊敬しちゃう。」

「何言ってるの?サヤカみたいに、そこに居るだけで美人なんだよ、あこがれるぅー!」


休憩時間にかおりが来ると、もう止まらなかった。


カラオケハウスで真由美が言い出したのは

「ねぇ、この3人のマンガ描こうかな?」

「ん?本みたいに?」かおりが聞く。

「いいんじやない?協力するよ、テーマは?」と、すぐに賛成した。

「それはこれから考える。とりあえず、サヤカを中心にしようと思ってる。」

すると、かおりは

「仕方ないわね、サヤカと競争する子はいない。」

「じゃあ決まり。かおりだけボーイフレンドいることにする?」

「やーだ、ダメダメ、それだけは許して。初恋もしてないのよ、イメージ壊れるから。」

「じゃあ止める。んーと、何部かに所属している名選手ってのは?」

「いいよね、球技がいい。ソフトかバレー?かおり、どっちがいい?」

「2択?なら、ん〜ソフトボールにしてくれる?」

「オッケー。それで、私は運動音痴の文学少女にするね。サヤカは学園アイドルでいい?」

「ケヘッ!時々、パンチラ?」

「自分で言ってるよ、じやあ、ポロリも、ってエロマンガじゃないよ。」

「いっつもこう。ずっと頭ん中、エロだよ。」


言われついでに付けられたアダ名が、エロボ?エロボケだって。これには頭を下げて許してもらった。

その夜、妄想日記を書きながら、これがマンガになったら、どうだろう?と、本気で考えた。



第2話の筋書き


野球部の入部を阻止した後、山王寺綾さんとカフェにいるところから始まる。

そこへ転がるように太田がやって来た。

「お、お前、凄えな。何、あのボール?キャプテンの奴、震えてたぜ。それにあのホームラン、バックネットを軽々越えたぞ。」

『ん?そうなん?俺、綾さんの言う通りにしただけでさ、もし呼び止められたら、走って逃げようってだけ考えてた。走るんだったら負けねえ。』

「あら、そうなの?山の中で走ってたから?」

『ああ、けどよ、木の枝が張り出してんじゃん、それを避けながら走るんだけど、俺、得意。ひょいひょいってさ。』

「お前、スポーツ万能じゃねえか?」

『おかしなこと言うなって。スポーツって、全然経験してねえって。俺、田舎もんだぞ。』

「いいわね、田舎もんをウリにしてるって。」

『俺のことより、綾さん?スポーツ詳しそうだな?どうして?』

「少しやった経験があるくらいよ。それより、山中君の正確さが際立ってるんだよ。ホントにすごいよ。何かやらせてみたいって思うもん。」


翌日、朝から野球部の連中が押し掛けて来て、逃げ回るのにヘキヘキした。

どうにか振り払って校門を出ると、そこに別の部の何人かが通せんぼって、小学生かよって突っ込みたくなった。

『ちょっと道を開けて下さい。』方言を使うのを忘れていた。

「ん?お前、野球部に勝ったから、調子に乗ってるらしいな?」

「そんだったらごとねえぜ、おいは何もしちょらんけ。」

「何言ってるか分かんねえ。今度はサッカー部が相手になってやる。いいか、PK5本勝負だ。これにお前が勝てば入部免除だ。明日、サッカー部のグランドに来い。」

「ちょっくら待て。やったごとねえべ、そんでもやれってか?」

「簡単だ、誰かに聞け。」


生意気な不良め、と思いながら歩いていると、いつの間にか綾さんが隣にいる。

『おーっ、ビックリした〜!いつの間に?』

「そんなことより、サッカー部が何か言ってきたの?」

『ああ、何だった・・PC?』「パソコン!」『PS?』「追伸?」『PT?』「ん?PTA?」『あ、それだ。』「ふざけないで‼︎」『あ、ばれた?』

「そう、PK5本か?もちろん、経験?」

『ないない。あんなに広い平らな土地、山の中にあるわけないっしょ。』

「でも、ボールくらいあった?無かったね。」


途中にある小さな公園、ブランコに乗って話しを続けていた。

「ねえ、何か蹴って獲物を捕ったことは?」

『石ころ蹴ったら、痛そうだし、木を蹴ってどんぐりを取ったことぐらい?』

「それ以外に、本当に無い?」

『ん〜獲物はねえけど、糸トンボなら、でも、水の中からだし?』

「それ、詳しく教えて?」

『夏の遊び、と言ってもひとりでだけど。近くに谷川があるわけ。水が冷たくて、夏になると、近所の人たちもスイカ冷やすんだ。』

「とりあえず、スイカの話しは冷えるまで後回しにしようか?」

『お、うまいこと言うな?谷川の上を糸トンボが、ユラユラと揺れながら飛んでるんだ。それを見つけたら、木の欠片を探して、川の上流から流れてくるように投げる。足下に来たら、回し蹴りしてその欠片を蹴り上げると、糸トンボに命中するね。ま、多少手加減してるから、一旦谷川に落ちるけどすぐに回復して、飛び上がる。』

「木の欠片を蹴る時、水も一緒に?」

『バカだなあ、水の音と水が飛ぶだろ?そしたら、木は?全然飛ばない。水面ギリギリのところで木だけ蹴る。綾さんには無理だろうな?』

「分かってるわよ、それに、そんな山奥、行かないよ。あ、でもそれでやれば、5本くらい入るよ。よし。」

何やら綾さん1人が納得して、翌日を迎えた。


見るからに生意気な不良集団?それがサッカー部の第一印象。なぜなら、ダボダボの半ズボンをだらしなく穿いて、数人はガムを口の中でクチュクチュ噛んでいる。俺の一番嫌いなタイプだ。

ここでも綾さんが注文を付けた。

「PK5本は蹴ります。但し、そっちから蹴るのは無しにして下さい。キーパーを素人にさせるようなこと、その上もし止められたら、末代までの恥ですけど?」

さすがにイヤといえないようだった。


どこから蹴るか教えてもらい、その位置に行くとやはり綾さんが隣に立つ。

素人と言う言葉の意味は絶大だった。

誰も咎める声を出さない。

見ると、キーパーだけは動き回っている。

「いい?地面を水面と考えるのよ。ボールは少し大きな木の欠片。あそこにいるのは糸トンボ。どうする?」

『糸トンボを落とす!』

「けど、その後ろにある網を破るのは?」

『そっちの方が簡単だ。どの辺り?』

「右隅の奥の角は?」

『オッケーです。』


谷川の中、もちろん、走り込むなんて出来ない。その場で足を上げて、蹴る。

やったと思った。自分の感触は糸トンボの目の前でスルリと交わし、右隅の岩に激突。

「オーッ」という声が聞こえてきた。

ボールが戻って来た。


「次は糸トンボの正面からホップさせて、真上の網に当てれる?」

『ん?ああ、真ん中の真上ってこと?』

「そうよ、糸トンボを殺さないで。」

『気絶しかさせてねえよ。』


今度も足だけで。案外、横よりも上の方が簡単だった。


「帰りましょう。」

多分5回蹴ったと思う。綾さんの言葉に促されて、その場を離れた。


追っかけてきた太田が

「おい、なんで立ったままで蹴れたんだ?助走は?」

『助走ってなんだ?ん?PCって、これでいいんだろ?』

「バソコン、2回も使う?」


と言うのが、第2話の内容です。

この撮影で、キャロちんさんが2回もNGを出したんですけど、どこだか分かりますか?エッ?そう、PTAのところです。

実は、先輩の俳優さんが、僕のセリフを読んで、アドリブでこう言えって言われて。そしたら、キャロちんさんが止まっちゃって、吹き出したのが真相でした。

立ったままの姿勢でボールを蹴る、出来ますか?

さすがにクリーンヒットは無理でした。だから、合成です、ごめんなさい。


それから、遡りますが

ギリギリ第一話の収録が終わった翌日、僕の入学式だった。

思い返せば、その日、朝早くにユイさんが僕の家にやって来て、いきなり化粧道具を持ち出した。

『ん?お化粧する為に、ワザワザうちまで来たんですか?』

「私じゃないわ。優也さんに変装してもらうためよ。」

『変装?素顔は不味いですか?』

「だって、謎の人物がウリだよ、大人だったら髭でも付ければいいけど、優也さんの場合、あまり大袈裟な変装だと、余計に目立っちゃうよね?どれにする?」

『どれって、どんなのがあるの?』

「メガネ、カツラ、あ、色違いもあるの。あまり目立たない茶髪にする?それとも、ロングヘアがいい?メガネの流行知ってる?」

『知らない。茶髪のカツラ、見せて?』

「はい、これね。」

そっと被って見ると、案外違和感を感じない。


「あら、いいじゃない。染めたか聞かれても、天然だって言えば通るね。どう?」

『あ、うん。これがいいよ。』

「メガネは、黒縁が流行。」『これ、伊達?』「当たり前でしよう?」

『じゃあ、それにする。あ、ところで、今日だけ?』

「んなわけないでしょう?バレるまでに決まってるでしょう。」


「さあ、次はお化粧するわよ、こっちに座って。」

『エッ?顔をどうするんですか?口紅とか?』

「ちょっとだけね。それと、目元を上げよっか?鼻は、低く見えるように。」

手際よく進めていく。

「制服着てらっしゃい。一応、最終チェックするから。」


カガミを見ると、いつもの自分ではない。ほぼ別人だ、特に、三条優也とは、まるっきりの他人に見える。

「いいんじやない?今の化粧の仕方、覚えた?」

『あ、ええ、覚えました。』


入学式では、ほとんど無口で通した。結構、おしゃべりな人もいたが、何とか避けられた。

それから、3日間出席してから、第2話の収録に入った。

それが、サッカー部との対決だった。



第10話をお楽しみに


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