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沙也加と僕  作者: ユキから
8/33

高校生

夜ごはんを食べる時、ずっと無口な私にお母さんが言った。

「この世の終わりのような顔してるわよ。そんな顔、友哉さんに見せられるの?」

「だ、だって、ずっと楽しみにしてたんだよ。受験勉強だからとか、試験が終わってからだって、卒業式が終わればって。今日からだよ、ずっと一緒にいられるって思ってたんだよ。」

「いいじゃないの、今、何日か会わなくたって、どうせお嫁に行くんでしょう?」

「うん。絶対に行く。それはそれでしょう?でも、会いたいんだもん。」

「合格発表の日に会えるかもしれないし、入学式だったら確実でしょう?我慢しなさい。さあ、ブスっとした顔は止めてにっこり笑わなきゃ。」


お母さんの言うことにも一理ある。

今日だけしかないんじゃないと、いつでも会えるんだと思うことにしよう。

ずっとスマホを横に置いて、メールの着信を待っているが、悔しい事にうんともすんとも鳴らない。

壊れているんじゃないかと、何度も裏返して見たが分からない。


結局、トモ君からの連絡がないまま、合格発表の日がやって来た。

朝、お母さんが一緒に行くって言ったけど、かおりと約束していたので、やんわりと断わった。

発表の10時に、私たちは到着していた。

大きな掲示板に合格者320名の名前が書かれた用紙が貼り出される。


かおりの名前を先に私が見つけると、そのすぐ近くに私の名前もあった。

そして、トモ君の名前も見つけ、ホッと胸を撫で下ろした。

こういうのは記念に写真を撮るべきだと思い、スマホに納める。

アングルを変え、トモ君の名前と一緒に写るようにもした。


大勢の人たちが集まっているが、一向にトモ君の姿が見えない。

かなり期待して来たので、一目会うまでと思うと中々帰れない。

お母さんには、合格した事を電話で伝えておいたからいいようなものの、かおりから何度も「帰ろう。」「帰らないの?」と、催促されている、が、トモ君が現れるのを、じっと待ち続けていた。


いつの間にか人垣がなくなり、新たに訪れる人も減って来て、しょうがなくなって帰ることにした。

ずっと付き合ってくれたかおりをお茶に誘った。


「ねぇかおり、トモ君、どうしたんだろう?」

「さあ?おじいさんのところじゃないの?」

「おじいさん、相当悪いのかな?足でも折ったのかな?」

「心配してどうなるの?」

「心配だよ、ずっと電話してるんだけど、繋がらないし・・・。」

「そっか、・・・ん?ちょっと待って。今、何て言ったの?」


あっ、と気が付いて、慌てて口を両方の手で押さえた、が、遅かった。

「ちょいちょい、ん?トモ君って、いつから携帯持ってるの?で、なんでサヤカが知ってるのかな、ん?」

「あっ、いや、今の、間違い。そう、間違っちゃった。」

「遅いって!ねぇ〜、まさかと思うけど、まさか?」

「あ、ん?あ、エヘッ?あ、ごめん。」

と言って俯いた。もうダメ、隠せないと観念した。

「おいコラッ!今から質問する事に、ウソは言わないって約束しなさい。」


かおりの口調は、今までになくキツイ、ど言うことは、正直に話すこと?

「あ、うん。」

「じゃあ、ズバリ聞くけど、トモ君と付き合ってますか?」

「あ・・・はい。」

「ゲッ⁉︎それは、いつからですか?」

「あ・・・ん?」

「ん?じゃあない、いつからか言いなさい。」

「・・・トモ君の・・・お誕生日。」

「グェッ‼︎・・・絶句!・・・あんた、が、仕組んだの?それとも、トモ君?」

「あ、トモ君じゃないよ・・・」

「サヤカ?ま、そういうのを企むのはサヤカよね。で、今、何を思ってる?」

「あ、かおり・・・に言わなかった・・ことを、反省してます。」

さっきからずっと、顔を下に向けたままで、かおりが鬼の形相になっている事は、容易に想像が出来る。

「反省してるのね?だったら顔を上げて、こっちを見なさい。」

「あ、いや、こ、怖い。怒ってるかおりの顔、見れない。」

「分かった、じゃあ怒るのやめるから、ケーキ注文していい?」


ようやく顔を上げて、すぐに店員さんを呼んだ。

「何個でもいいよ、食べて。」

「ケーキを何個も食べられないでしょう、ホントにサヤカったら。」

お昼もまだ食べていない事に気付き、オムライスも二人で注文した。


「あのね、サヤカがトモ君と付き合っている事を怒ったんじゃないの。むしろ、良かったし、嬉しいわ。ただ、なんで教えてくれなかったの?」

「あ、本当のことを言うね。実は、あ、最初からね、あのかおりがお手紙を渡してくれた日、夜、知らないアドレスからメールが届いたの。恐いじゃん、迷惑メールだったら。ゆっくり開いたら、「手紙、ありがとう。」だけの文章でさ。でも、すぐに思ったの、トモ君かも知れないって。だから、「誰?トモ君?」余計な事を書かずにそれだけにして送った。そしたら、知らない電話番号から電話が掛かって来て。」

「ふぅーん、それから?」

「メッチャ嬉しかったよ、天にも昇る気持ちって言うんだよね?」

「そう言うのいいから、続けて?」

「何を話したか、夢中になって何か喋って・・・トモ君も、ずっと私の事が好きだったって言ってくれたの。」

「はいはい、それで私に言わなかったのは?」

「あ、それは・・・ずっと好きだったの。」

「知ってる。バカ、分かってるわよ。」

「何て言うか、その気持ちを抑えてたよね、つまり、欲求不満になってた。それが、両思いになっちゃったら、取り返そうって、あ、欲求不満解消?しないと、収まらないでしょう?二人っきりの時間が欲しかったの、解消するまでの。」

「エッ?サヤカ、ん?もう、やっちゃったの?」


声が大きい。周りに座っている人が驚いてこっちを見ている。

「か、かおり、声、おっきいよう。」

すると、気が付いたのか、小さな声で

「ねぇ、やったの?」

「やったのって、どっち?」

「どっち?って、ん?最後?」

「それって、エッチ?あ、いやいやいや、まだだよ、全然まだ。私の方は、いつでも準備出来てるけど、トモ君?ダメなんだよ。」

「あ、じゃあチュウは?」

「そっちもまだ。あ、でも、結婚の約束はしたけど。」

「ウェッ!け、結婚?」

「そうだよ、トモ君のご両親にハッキリ言ったよ、そしたら、よろしく頼むって。」

「トモ君の意思は?」

「大丈夫よ、トモ君、大好きって言ってくれたもん。」

「ああ〜、まぁ、良かった。念願だったもんね、そっか、だったら気になるわね?」

「うん、メッチャ、メッチャ気になるよ。行ったところが分かったら、すぐにでも行きたい。」

「あ、一つだけ手があるじゃん?」

「何、なに?ナニ?」

「トモ君のお母さんに聞いた?」

「あ、まだだ。そっか、お母さんに直接聞けばいいんだ。」


ようやく次の一歩が見つかり、ホッとしたような?



監督さん達一行が到着すると、休憩する間もなく撮影が始まった。

いろんな位置に照明が配置された教室に、僕だけが座っているシーンからだった。

この場面にセリフは無く、目の動きと、エンピツを動かすシーン。

NGではないのに、何度も撮っている。

これは、ドラマの最初のシーンではない。途中のシーンに出てくる。

撮影のやり方を、ユイさんから聞いていた。

少しずつ、小分けにして撮影する、それを、編集して繋ぎ合わせて一本のドラマが完成するらしい。


このドラマの筋書きはこうだ。

とある山奥に住む僕、廃校が決定している中学校の最後の生徒。そんな田舎から、おじいさんに引き取られ、大都会東京の高校に入学することになった。おじいさんは、よく分からないが、とんでもないお金持ちらしい。

いざ登校すると、全てが違っている。

私立高校に通う生徒は、田舎と違いカッコいい。女子も綺麗に化粧して登校する。

驚きの連続の中、たった一人、味方になってくれた女の子が、学校一の美少女だった

田舎者の僕をターゲットにして、やった事のない運動部からの、嫌がらせを含めた挑発をどうやって交わしていくか?

都会の高校に潜む喜怒哀楽を体験しながら、堂々と躍動するドラマだ。


今回のロケは、一週間の予定、どれだけのカットを撮るのか、僕にはわからない。

ただ知っているのは、この山奥での生活を、何度も繰り返し思い出すシーンが、毎週出てくる設定になっている。

そのシーンには、大雨の中でのシーンや、雲一つない青空の下、そばを流れる谷川でのヤマメ釣り、ニワトリが卵を産んだ瞬間手で受けるなど、難しいシーンの撮影も生撮りするらしい。


撮影は真剣勝負なので、全員がピリピリしている。ただ、NGを誰かが出した時だけ、緊張の糸が切れ、笑いが起こる。

その反動からか、休憩時間になると面白いことがたくさんある。

ある人は、みんなの前に突然立ち、音程の外れた歌を歌いだす。

ある人は、真っ赤なマントを羽織り、マジックショーを始め、ところが、そのマジック、タネがバレバレで全員を笑いの渦に巻き込む。

僕は、その一つ一つをじっと見ているだけだった。


宿泊は、この山奥のさらに山の頂上に、歴史を感じる旅館があり、そこに泊まる。

山菜の天ぷらが今の季節、最高の料理だと教えられ、確かに初めて食べた僕にも、美味しいことが分かった。

睡眠時間はほぼ毎日、4〜5時間、深夜の撮影は大変そうに思っていたが、スタッフの気遣いによって楽しいものになっていた。


こうして、一週間のロケ収録が無事に終了。

地元の人やエキストラ出演してくれた人たちに感謝しながら、ロケバスに便乗して東京に戻った。


ずっと見守ってくれているユイさんから

「中々良かったんじゃない?監督さんが、内緒だけど、いい筋してる、顔も若いが迫力を感じるって仰ってたわよ。」

『あ、ありがとうございます。』

「いい出足で良かった。優也さん、自信持っていいわよ、私まで感動させる演技してたわ。」

『あ、僕はただ無我夢中で、皆さんに迷惑をかけないように・・・』

「ね、今の気持ちをずっと続けましよう。自分が中心じゃなく、自分を中心にしてくれる人たちが沢山いるんだ。」

「そうですね、ずっと感謝しながら仕事をしていきます。」


すると、後部座席に座っていたカメラマンさんが、身を乗り出して

「それが中々出来ない役者さんを、何人も見て来ましたよ。初心忘れる空役者って呼んでるんですが、2〜3本に出たぐらいで大物気取り。ま、私たち裏方は仕事のうちだって我慢してますけどね。そういう役者って、いつの間にか出演機会が減って。」

ユイさんが

「確かに、うちの事務所にもいるわ。アッと言う間にお呼びがなくなり、担当のマネージャーに毎日、当たり散らして。」

「でしょうね。でも、今日の帰り際、いいものを見させて貰いました。地元の人やエキストラさん達に、あそこまで丁寧にしている人、三条さん、ずっと続けてくれたら、俺たち、いい顔にして撮り続けてやるよ。」

『あ、ありがとうございます。いい顔・・・ですか?嬉しいです、約束ですよ、撮って頂けるようにずっと続けます。』


ロケバスを空港で降り、飛行機で東京に向かった。

「今から、優也さんの新居に案内するわね。広くないけど、寝るだけならいいんじやない?」


連れて行ってもらったのは、3階建てのそう大きくないマンション。

そこの3階の端の部屋。ドアを開け、ユイさんと一緒に入った。

「わぁ〜!メッチャキレイじゃん。」

短い廊下の奥に、磨りガラスのドアがあり、その中にはベッド、ソファ、テーブル、壁際にテレビもある。

ユイさんがカーテンを開ける。窓の外に小さな公園、その向こう側は民家が建ち並ぶ住宅地のようだ。

公園に一本の桜の木。まだ咲いていないが、近いうちに満開の日が来るんだろう。


ユイさんは、水回りを確認している。

「バスルーム、キレイだよ。」

大声で見に来いと呼んでる。

思ったより広いバスタブと、シャワー設備。

「どう、最初のお風呂、一緒に入る?」

『ゲッ?冗談にしては酷い。』

「ホンキよ。」

と言って、ジャケットを脱ぎ出そうとするから、その手を押さえて止めさせた。

「なあんだ、ガッカリね。もうオトコかと思ってたのに?」

『コレッ、僕がサヤカしか興味ないこと知ってるくせに。』

「アハハ、ちょっと誘惑してみたら、どうするかな?って。悔しさもあるけど、合格。」

『悔しさって何ですか?』

「それはね、こう見えて、結構いい身体してるのよ。時々、見せたくなっちゃう。」

『エッ?それって、変態ですか?』

「変態いうなッ‼︎」

頭を思いっきりポカッと殴られた。ユイさんに「変態」は禁句にしとこう。



4月に入ると、私の制服が出来上がった。

早速、部屋の鏡の前で試着してみる。

お気に入りは、短いフレアのスカート。クルッと回ってみると、フワッと花が開くように広がる。

上着を着て、ピンクのブラウスにエンジ色のネクタイを結ぶと、鏡の中の私が、アイドルのように見えた。

これを着て、トモ君と腕を組んで歩くんだ。


あれから、結構日が経ったのに、夜になると涙が溢れて来る。

でも、今は・・・会えたら、絶対飛び付いて、誰に見られてもいい、ファーストキス、それも、息が止まるようなディープなのをする、って決心してるの。



東京に帰って来てからの撮影は、主に撮影所内のセットを使用して撮る。

例えば、おじいさんの家に居候するんだけど、その家の外観が必要になるので、何話分か、まとめ取りをしておくから、ロケの回数は極端に少なくなった。


あの大物俳優さんが、おじいさんの役で、圧倒されながら必死に演技をしている。

そんな方が、控えに回ると明るい。いろんな事を話し掛けてくれる。

そして、興が乗ってくると、他の女優さんや俳優さんを呼び集める。

そこで、何かしらの芸を強制し、もちろん、自らも率先してふざけて見せることもあるが、一大宴会を開いている。そして、誰かがその犠牲になっているのを、笑い飛ばしている。


撮影は順調に進んでいるようだ。

ストーリーで見ると、大都会に出て来た田舎者が私立高校に入学、言葉の訛りを笑われる。部活に参加するよう言われるものの、たったひとりの中学にそんなものは存在していなかった。それを知ったいろんなクラブの勧誘がエスカレート。

やった事のない野球、サッカー、バスケ、柔道、空手、その他にもいろんなクラブがからかって来る。

例えば、野球部から勧誘された。

テレビを見てどういう球技かの知識はあるが、グラブを嵌めた事もなければ、ボールを目にするのも初めて。バットという丸い木の棒を持ってボールを打つなんて、出来るはずもない。

なのに、3日後、ヒットを打てば、その上、主将から空振りを取れば入部を免除すると。出来なければ強制的に入部させるというもの。

たった一人、一度だけ口を利いたクラスの中にいる知り合い?に、助けを求めた。

ところが、その男、全然運動が苦手な子だった。

それでも、彼は誰かからボールを借りて来てくれたのだ。


ボールを投げてみるが、とんでもない方向に飛んで行く。その様子を見ているのがキャロちんさんだ。

薄暗くなるまで、何の変化もないまま、ボールをあっちこっちに投げていた。


次の日、今度はバットを手に入れてくれた。

山の中で育った僕だが、こんなにツルツルに、細いところと太いところがある木の棒には、お目にかかったことがなかった。

どっちを持つかなんて、全然分かんねえ。テレビで見ていても、そこまで詳しく見るわけじゃない。


前の日から使っている小さな広場?に行って、とりあえずぶん回してみるが、体まで遠心力によってグルっと回って、アッと言う間に尻餅をついてしまった。

すると、気になる笑い声が聞こえてきた。

昨日からこっちを見ていた女の子が、今、初めて声を出して笑ったのだ。


それで、僕と彼は手を止めてじっと見た。

その女の子は、スタスタと歩いてこっちに来る。

「ねえ、昨日から何やってんの?あなた達、漫才師?」

「ち、ちげえよ、もう。こっちは真剣なんだ、あんなに大声で笑うの、失礼だろ?」

「あ、ん?真剣なんだ?だったらゴメン。で、真剣に何?」

『あ、俺んことだべ。明日、ボールさ放って、ん?空振りとかさせんならんけ、そんでから、この棒さで・・・ん〜』

「あのさ、早く言えば、野球部のキャプテンから空振りと、ヒットを打てば入部しなくていいんだよ。こいつ、そういうの、やったことねえんだって。」

「エーッ?やったことないのに、空振りとヒットを?信じられない。」

『わがったらけえれ。おなごに見られッパラ、こっぱずかしか。』


「明日でしょう?ムダよ、それより、どっから来たの?随分訛ってるね?」

「こいつ、九州らしい。とんでもない田舎?」

「あ、ね、今からお話ししない?さつきみたいな練習したって、何にもなんないから。それより、私と話した方がいいと思う。要は、野球部に入りたくないんでしょう?」


都会には、こんなに可愛い子がいっぱいいるんだと思って、ついて行った。

行ったお店は、綺麗な感じのカフェで、主に女性が多いように見えた。


「まず、基礎知識からよ。中学では何部だったの?」

『何部って、クラブ活動なんて、何も無かった。』

「あら?さっき訛ってたのに、今のは?」

『嫌だなあ、今時、方言なんてほとんど使わないよ。』

「ん?じゃあ、どうして喋ってたの?」

『俺が田舎者だからさ。それは隠しようの無い事実だし、恥ずかしいとも思ってない。言葉で判断されるか、人として判断されるか?どっちでもいいけど、都会を知るには田舎者の方がいいと思っただけ。』

「アハハ、面白い人ね。ね、じゃあ、今のところ、友達は、彼?」

「俺、一応太田 忠って名前あるんだけど。」

「太田くん、で、田舎者君は?」

『中物 大』

「ん?前に イ を付ければ、田舎者だーい、だよ。すご〜い。」

『なわけないでしょう。本当は 山中 翼 これが本当。』

「なあんだ、案外普通。ま、どっちにしても、田舎に関係してるね。わたしは 山王寺 綾 東京生まれ。あ、知らないでしょうけど、君達と同じクラスだよ。」

『同じクラス?あ、そう言えば、太田って名前も知らなかった。女の子は・・・いい匂いがしてた。』

「ん?あ、今の、気を付けなさいよ、セクハラって騒がれるから、私はいいけど。」

『オッ、わかった。』


「はい、では、田舎でのこと、聞かせて。」

『親は農業。米は少し、主に芋、豆、その他葉物野菜は母さん。俺は、お手伝い。』

「お芋って、美味しいんでしょう?」

『うん、旨いよ。けど、売り物だから俺たちが食うのはクズ芋だよ。』

「クズ芋って、小さなお芋?」

『デッカいのもあるよ、たまに、顔ぐらいのが出てくるよ。』

「エーッ?そんなに大きいの?」

『オッ、俺の顔じゃねえよ、赤ん坊の顔ぐらいのことだよ。大人サイズはさすがに。』

「あ、ああー、安心した。アハハ、さすがに・・・だよね。」

『けどさ、襲われるんだよな。』

「襲われるって?」

『収穫期になると、イノシシやサルが掘り出して食っちゃう。』

「どうするの?」

『ああ、やっつける。サルは石をぶっつけると、キャッキャッ言いながら逃げてく。』

「イノシシって、襲って来ない?」

『そうだよ、でも、眉間の辺りを狙って石をぶっつけると、バタンと。その後、飛んで行って、竹ヤリで仕留めるってわけ。』

「殺すの?」

『俺、去年は3頭仕留めた。猪肉ってご馳走なんだよ、近所に分けて。』

「あ、じゃあサルは食べないの?」

『サルは不味いだろうな?だってさあ、肉、無いじゃん。石をぶつけると、何日も戻ってこないから放っとくさ。』


「段々分かってきたわ、山中君は野生人なんだね。」

『野生人?・・・は酷くないか?』

「いいじゃん、褒め言葉よ。ねえ、他に動物相手の話しってないの?」

『後は、小物かな?鳥、鳥だとワシかな?一度しかないけど、木の棒で殴り落とした。山の上で弁当食ってたら、襲って来てさ、持ってた杖代わりの棒で見事一撃。』

「エッ?ワシって、あの大っきいんでしょう?」

『羽を広げて測ったら、190cmだった。』


「すご〜い。・・・アッ⁉︎」

山王寺綾さん、しばらく腕を組んだまま黙ってしまった。


「ねえ、野球部に入りたくない?」

『野球部だけじゃなく、団体競技とか、格闘技?そう言うの、苦手だな?』

「じゃあ、明日、私の言う事聞きなさい。いい?私、見えた、言う通りにしたら勝てる。」

「言っちゃ悪いが、女子に出来るのか?」

「太田くんより頼りになると思うわ。もし勝てたら、友達になってあげてもいいよ。」

「それ、俺のか?」

「ん?バーカ、山中くんに決まってんでしょう。」

「だよなぁ〜。けど、俺っち、山中の友達じゃん。」

『そうだっけ?名前知ったの、さっき・・・』

「ひでぇ、ボールもバットも手に入れてやったのに?」

『あ、忘れてた。』



第9話をお楽しみに

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