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沙也加と僕  作者: ユキから
7/33

新世界と苦難の道

やっと入学試験が今日で終わった。


試験会場にいる同じ中学からの受験生は、何人もいる。

その中に、人一倍輝いているのが、今、こっちに近付いているサヤカだ。

まっすぐそばまで来て

「お疲れ!一緒に帰ろ。」

『ああ、お疲れさん。かおりさんは?』

「エヘッ、健一くんとデートだって?」

『ん?まさか。』


「どうしたの?帰ろうよ。」

『オッ!』

何をどうしたんだろう?サヤカのヤツ、どんな奥の手を使ったんだ?


一緒に廊下を歩いていると、他校からの受験生が何故か道を開けるように横に寄ってくれる。その人たちの視線を見てみると、男子のほとんどがサヤカを目で追っている。分からなかったのは、女子の視線。と言うのは、僕の方に集中しているように見えた。


校門を出て歩いていると、うしろから健一とかおりさんが追いついて来た。

そして、かおりさんが意外な事を言い出した。

「サヤカ、これでいいんでしょう?みんな二人をしっかり見てたわよ。」

「ありがとう。ひと安心ね。」

「どう言うことだよ、いきなりオレに一緒に帰ろうなんて言って?」

『どう言うことがあった?』

僕も健一も、今は、経緯が知りたかった。

「教えるから、お昼、食べに行かない?」

サヤカは、クールな顔で何を企んだのか、話したいようだった。


日頃、あまり行かないファミレスに入って行った。

今日だけ、ユイさんから少し自由時間を貰っていた。


このお店で美味しいと評判のオムライスを、四人とも注文した。

「で、説明して頂きましょうか?」

店員さんが去ると、すぐに健一が聞いた。

すると、かおりさんが口を開いた。

「サヤカったら、トモ君と仲良く歩きたかったみたいよ。」

「ん?お前ら、付き合ってんのか?聞いてねえぞ?」

「知らなかったの?サヤカがトモ君を好きだって?」

「ゲッ、ん?てことは?」


一応、バレない事にしているので、僕は健一の方を向き、人差し指を立て口元に持っていった。

その仕草だけで、健一は言いそうになった事を、途中で飲み込んだ。


「でね、入学してから他の子に手を出して欲しくないんだって。つまり、付き合っていますよアピール?」

「付き合ってますアピール?そんなのあるんか?」

「あ、でもさっき、うしろから見てたでしょう?女子の目、みんなトモ君を見て、横のサヤカを見て、ガックリ肩を落としてたでしょう?」

「ん?そうだっけ?・・・ああ、確かに、見較べてたような?あ、でも男子もサヤカからトモ。あ、どっちも同んなじだった。」

「男子の方は、ほとんど見てないから分かんないけど、きっと成功したんじゃない?」

「かおり、協力ありがとう。後は、トモ君の心を高校で掴むだけ。」

「お、おいトモ、今の告白・・・告白だぞ?お、お前の返事は?」

『なぁ健一、オムライス来たぞ。テーブル開けろ。』

サヤカがクスッと笑ったのを聞き逃さなかった。


家に帰ったのは3時過ぎ、ユイさんが待ちかねているだろうと思っていた。

「おかえり、案外早かったのね。サヤカさん、納得してた?」

『ん?多分。特に引き止められなかったよ。』

「あ、そうそう、配役決まったよ。優也さんの相手役にキャロちんさん。スポンサーのご威光みたい。後は・・・・・という人たち。かなり豪華メンバーになったわね。」

『凄い、ほとんどの人の名前、知ってます。エッ、皆さんに会えるんですよね?』

「何言ってんの?三条優也がその中で主役よ、一番露出が多いのよ。」


すぐにセリフの稽古を始めた。

入試の結果など、もうどうでもいいと思った。

一緒に演じてくれる人たちの、足手纏いにだけはならないようにしようと思った。


卒業式前の最後の土曜日、授業終了後ユイさんと電車に乗った。

ドラマ出演者の初顔合わせに出席するためだ。

緊張感が半端じゃない。それを察したユイさんが、色々とアドバイスをくれるが、ほとんど上の空なのだ。

「こら、そんなに弱気でどうするの?いい、他の俳優さんたちだって、初めての時を経験してるのよ。色々教えてもらえるチャンスなのよ、最初って、人生一回きりの出来事よ、ねえ、一緒に楽しもうよ。最初の失敗も、なんでも一回しか経験出来ないって、ある意味、凄くない?」

ユイさんと話していて、一生懸命、僕の緊張感を解そうとしてくれている事に感謝していた。最初って、人生一回きり、それを楽しむ・・・


出演者全員のスケジュールの中、顔合わせが出来る時間は限られているので、夜の遅い時間だった。

ドラマを放映するテレビ局の、かなり広い会議室に集合するのだ。

僕とユイさんは、1時間前に会議室に入った。


まだ空っぽの部屋、ロの字に囲む長テーブルと椅子、テーブルの上にはそれぞれ出演者の名札が置かれていて、その中央に三条優也の名札を見つけた。


その後部に椅子が、周りをグルっと取り囲むように置かれているが、ユイさんによると、各マネージャーの席と言うことだ。


姿勢に気を付けて座っているようにユイさんに教えられ、背筋を伸ばして座っていた。

「おはようございます。」

と言って、最初に入って来たのは、何年か前から、若手の俳優さんの中でもかなり人気がある人だった。

僕は、慌てて立ち上がり、『おはようございます。』と、頭を下げながら言った。

「やあ、よろしく。」

手を上げてくれたが、その仕草が決まっていて、テレビで見るようにカッコ良く、すぐに惹きつけられる魅力を感じた。


次に「おはようございます。」と言って二人、入って来た。

少し年長の女性は、教師役の方で、以前、教師役が嵌まっているドラマを見たことがあった。

もう一人も、いろんなドラマに出演している男優さんだ。

そこからは、名前を思い出す暇もないくらい、次から次へと到着していた。

ほとんどの席が埋まった頃、この出演者の中で、最も芸歴が長い大物俳優さんが笑顔で登場した。

全員から挨拶を受けると、にこやかに手を上げ僕の近くに座った。

そして、僕に

「おう、君が三条君か、よろしく。」

僕は、慌てて立ち上がり『よろしくお願いします。』と、頭を下げた。


残る席は、隣の席ひとつ。

予定時間の2分前、「おはようございます。」と、大きな声で部屋に入って来たのは僕の相手役、キャロちんさんだ。たった今まで仕事をしていたんだろう、ステージ衣装の上にコートを羽織った格好だった。

そのコートを脱ぎながら僕に

「お久しぶりです、今回はよろしくお願いします。」

『あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします。』

簡単な言葉を交わす時も、あのアイドルの顔のままで、今回もドキッとさせられた。


全員が席に着いたところで、司会役の方がマイクを持って立ち上がる。

ドラマの概略を説明してから、出演者の紹介が始まった。

一番目に三条優也の名前を呼ばれて、僕は立ち上がりお辞儀をした。

司会役の方から、僕のプロフィールが紹介されたが、今までほとんど披露していないから、しばらくの間、このまま謎を続けると言ってくれた。

キャロちんさんは、全員が知っているアイドルなので、みんな、笑顔で見ていた。

大物俳優さんも、オーラ満開で、全員の視線を集めていた。

こうして、全員の顔合わせが終了した。


会議室を出る時、キャロちんさんが話し掛けてきた。

「案外早かったね?」

『エッ?』

「実は、初めて会った時、こうなるんじゃないかって予感してたんだよ。」

『あ、そうだったんですか?』

「たっぷり楽しんじゃおうね。ドラマの中で恋人?えへへ、私、初体験。」

その時、キャロちんさんのマネージャーが

「行きましょう、時間がありません。」

そう言って連れて行った。


エッ、今からまだ仕事?ん、恋人役?っていうのが正直な気持ちだった。

すると、ユイさんに

「優也さんもすぐにあのくらいだったらなれるわよ。さあ、行きましょう。」


テレビ局を出たのは午前2時過ぎ、東京の夜は、それでも明るい。

ただ、地下鉄などの公共交通機関は止まっているので、僕とユイさんは会社がチャーターしてくれたハイヤーに乗り込む。

行き先は、もちろん、僕が泊まるホテルだ。

ちなみに、ハイヤーに料金メーターは付いていない。不思議に思ってユイさんに尋ねると、タクシーより確実に乗れるわ、と、簡単に一言で済まされた。


「明日は日曜日だけど、一度会社に行くことになってるの。社長に面会、その後、お昼前には帰りの電車に乗れると思うわ。今日は疲れたでしょうから、あまりゆっくりで寝過ごされるのも困るけど、おやすみなさい。」

そう言って、僕は降ろされた。


ホテルの部屋に入って、スマホの電源を入れると、サヤカから3回、メールの着信がある。

最初はいつもと同じような、次は、返信がないから、で、最後は結構、苛立っている文面。

少々頭の痛いことだけど、さすがに今からだと変に疑われそうだから、明日、朝

一に返信しようと決め、すぐにベッドに横たわった。


そして、僕の言い訳。

スマホのバッテリー切れをメインに、眠気に負けうたた寝をしてしまい、気がついたら夜中の3時頃になっていた。

そのときは、充電も完了していたが、まさか、そこから返信は非常識、それに、サヤカは優しいから、きっと分かってくれる。

これで完璧な言い訳が出来たと思い、送信。


ふと、この後、すぐに電話が掛かって来たり、メールが届いたりすると、相手をする時間がない。電源を切った。

ビクッとしたのは、もう一台のスマホがほぼ同時に鳴り出したからだ。

もちろん、相手はユイさんだ。

電話に出ると、すぐに会社の隣にある喫茶店に来るよう言われた。


慌ててホテルを飛び出すと、小走りして向かった。


「おはよ。朝ごはん、まだでしょう?一緒に食べようと思って。」

『エッ?その為に、急いで来いって言ったんですか?』

「ん?急いで来いとは言ってないよ、すぐに来るようにって言ったのよ。」

『どんだけの差?寝起きでここまで走ったんですよ、もう。』


社長に面談、2回目の入室でも結構緊張する。

社長から激励された。

「三条君、実は私も驚いているんだよ。こんなに早く主演のオファーが来るとは。

ま、それは君にとっても、会社にとっても大きなチャンスだ、思い切ってチャレンジしなさい。」

そう激励の言葉を頂き、少し雑談して会社を後にした。


「さあ、これで当分ここに来る事は無いわ。と言うことは?」

『何ですか?』

「アーッ、伸び伸びと出来るようー!」

ユイさんは、大きく両手を上に挙げ、思いっきり伸びをしている。


予定より早く電車に乗って家に帰った。

電車の中で話していた時、今後のプライベートのことが話題に出た。

「あ、優也さんのスマホ、持って行かないほうがいいね。サヤカさんと、しばらくの間連絡を絶った方がいいからね。」

『分かりました、解約した方がいいですか?』

「それは自分で判断して。将来、何年先になるか分かんないけど、連絡する時が来るかもしれないし、来ないかも知れない?」

『じゃあ、家族と相談します。』

「後3日?中学生の授業は?」

『そうですね。でも、本当は授業にならないと思いますけど。』

「合格発表はその後?」

『そうです。』


話しが途切れた。

いよいよサヤカと会えなくなると思った。

初恋が実って喜んだのも束の間、結果として騙す事になるのか?それとも、将来の夢としてボンヤリとだが迎えに来ようか?とも思い始めている。

今、この道を歩いて行かなくても、サヤカの一生を背負うだけの仕事に付けるかとなると、自信がない。

父さんや母さんは、多分、サヤカなら僕を待っているだろうと考えたんだろうと思う。だから、今の道を選ぶように勧めてくれたのだと思う。

この事を考える度、結論は決まっている。

この未知の世界を歩き、サヤカとの夢を叶えよう、だった。

悩むのはこれっきりにしようと決心した。


いよいよその日がやって来た。

卒業式には母さんが出席する。ただ出席するだけじゃなく、僕が受け取る卒業証書などの荷物を持って帰る役目もしてもらう事になっていた。

僕は、裏口から抜け出し、そこでユイさんがタクシーで待っているのだ。


前日、健一から卒業パーティーに誘われたが、それは一度家に帰ってから待ち合わせようと、申し訳なく思いながら決めている。

それに参加出来なくなる理由に、おじいちゃんを引っ張り出し、母さんが伝言役をしてくれる。

サヤカにだけは、スマホが通じない言い訳を、これも母さんの役目となった。

考えられるあらゆる事に、それこそ台本を用意して卒業式に出席した。


最後のホームルームが終わった時、謎の俳優、三条優也の始動だった。

躊躇することなく動いた。

トイレに直行するフリをして、階段を駆け下りると、裏口で待っていた母さんに荷物を預け、開いていたタクシーのドアの中へ飛び込んだ。

窓を開け、母さんに手を振ると、横からユイさんがお辞儀をしていた。

タクシーはすぐに走り始めると、一気にスピードを加速させる。

駅に向かうとばかり思っていたのに、違う方向へ走っている。


『駅に行くんじゃないの?』

思ったことを聞いてみた。

「ん?空港に向かってるのよ、現場は九州だよ、台本がそうなってたでしょう?」

『あ、確かに。山奥の・・・』

「今からだと、現地に到着するの、早くて夕方?夜のシーンから撮影出来るね。」

『オッ、早速?』


急いで来たので、飛行機の出発まで1時間ほど余裕がある。

ユイさんが、お昼を食べようと言って、空港内のレストランに入って行く。

「何にする?」

『ん〜と、トンカツ定食がいい。』

メニューを見ながら言うと、ユイさんは天ぷら蕎麦を選んだ。

「ここまでは順調ね。卒業式で泣いた?」

『どうして?嬉しいのに泣くんですか?』

「ほら、感激して胸が熱くなってきて、ポロっと。」

『ん〜、無かった。台本が気になって、頭の中でセリフをブツブツつぶやいてました。ずっと、でしたから、先生の話も全然。』

「そうなんだ?いいよ、仕事に集中できる、いい心構え。」


飛行機のフライト時間、1時間ほどで熊本空港に到着した。

『あ、まだ2時過ぎですよ、かなり早く着くんじゃないですか?』

「ここからがね。」


ユイさんは、空港に隣接しているレンタカー店に入って行く。

ん?車?運転出来るのか?


外で待っていると、手続きを終えたユイさんが、女性店員さんと一緒に出て来て、車の方へ向かう。借りた車が意外だった。

かなり大型のワンボックスカー、色は白。

あまり背が高くないユイさんが、この車を運転出来るのか、ちょっとビビった。


運転席に座っているユイさん、僕はその隣の助手席のドアを開ける。

「優也さんはうしろよ。」と、言われたが

『あ、僕も前がいいです。前からの景色を見たい。』

本当だった。いつも父さんにうしろの席にしか乗せてもらえなくて、一度でいいから前の席に乗りたかった。

普通の乗用車より、かなり高い位置に座っていると思った。

「じゃあ出発しますね。」

エンジンが作動し始めると、ユイさん、ギアを操作して動き始めた。


「怖くない?」

『何がです?』

「私の運転。ちっちゃい女の子が、運転なんて?」

『あ、でも確かにそう思いました。でも、この車を見て安心しました。』

「ん?どういうこと?」

『これが普通の車だったら、多分、心配だったと思いますが、こんなに大きいのに乗れるって、運転に自信があるんだと思いました。』

「あ、なるほど、よく分かってくれたね。免許証取って3年かな?最初からこのくらいの大きい車しか乗ってないの。ほら、眺めいいでしょう?足下もしっかり見えてるし、安心出来るの。」


空港近くのインターから高速道路に入った。

「やっぱり夕方かな?明るいうちは、難しいな?」

『え、そんなに遠いんですか?』

「高速を下りてからがね。ほら、あのシーンを想定してごらんなさい、どのくらいの田舎?」

『あ、そうですね。高齢化の過疎地でしたね。』


そうこう言っているうちに、インターを下りた。

もちろん、都会などと違って、交通量は全然少ない。それこそ、スイスイと走ってる。

カーナビが勝手に案内してくれるから、ユイさんの運転もスムーズに行っている。


すでに空港から2時間ほど走り続けていた。

道路ぎわに、道の駅の案内板があり、車はそこへ入って行く。

「ちょっと休憩。トイレに行くね。」

僕もトイレに入って行った。


10分ほどの休憩で再び車は走り出した。

そこから道幅が狭まり、周囲を高い木が囲っている。

日当たりが悪いので、急に暗くなったように思える。車は、ずっと登り坂を上っている。家は全然見えない。


そして、少しずつではあるが、民家が点在し始め、ついに何軒かの家、小さなお店もある。こういう所を村と呼ぶのかなと思っていた時、あまり広いとは言えないグランドのある学校に入って行った。


グランドの片隅に、撮影隊の車だろう、何台かが停まっている。

ユイさんは、その車に横付けするように停めた。


辺りは、もう夕闇迫るって感じの薄暗さ。

車を降りようとした時、スタッフらしい女性が2人、駆け寄ってきた。

「お疲れ様です。」

その言葉に、僕は咄嗟に答えた。

『お世話になります。」

すると、クスッと笑われたので、ポカーンとしているとユイさんが

「なあに今の?まるで、どっかの旅館に到着したみたい。」

『エッ?変でした?じゃあ、なんて言うの?』

「まあ、同じ事を返せば?お疲れ様です、って。」


スタッフに案内され、校舎の中へ。

この建物は、3年前まで地元の中学校だったが、廃校になってしまったらしい。

僕が出演するドラマでは、廃校目前、最後の卒業生の役だから、ほぼ似ていると思った。

撮影隊は、すでに準備中で忙しくしている。簡単な挨拶をして校舎の中を見て回る。


すると、一つの教室に何十人かが集まって、スタッフから説明を受けていた。

ドラマに出てくれるエキストラの方々だと教えてもらい、よろしくお願いしますとご挨拶を。

すると、皆さんから拍手をもらったのだ。

エキストラの中には、地元の中学生や高校生。小学生も何人かいて、急に責任感のようなものが湧いてきている。



待ちに待った卒業式。

私は、これからは毎日、トモ君と一緒にいようって決めている。

中学の友達が、高校生になってまで恋愛に口出ししてこないと思うから。

かおりは仕方ないとしても、少し大人に近づく今から、それに、黙っているけどトモ君の気持ちは確認している。

何より力強いのは、トモ君の家族の応援がある。

気が早いと言われようが、冗談でなくお嫁に行くって宣言して、受け入れてくれた。


今日は、特に仲良しが集まって卒業パーティーを開くと、健くんから誘われた。

もちろん、トモ君が出席するってことは確認してある。

最後のホームルームが終わると、トモ君がいつも以上に早く教室を出て行くのを見た。でも、この時はまだ、パーティーで会えるからと余裕があった。


クラスのみんなにお別れの挨拶をして、かおりと一緒に学校を出た。

「ねえサヤカ、トモ君も合格してたら、どうするの?」

かおりには、相変わらずお付き合いしていることを黙っているので、心配してくれている。

「アタックあるのみ?だって、ホントに、本当に好きなんだもん。あれくらいでへこたれないよ。あ、今の作戦、聞きたい?」

「作戦?」

「エヘッ、押し倒しさくせ〜ん。大人しく迫ってダメなんだから、エロッちゃう?」

「エロッちゃう?何々、どうするの?ヤーだ、まさか?」

「まさか?ん?あのね、どっかの公園に行ってさ、芝生の上で、よろけたフリして上に乗っかって・・・キスもしちゃっていいかな?」


かおりに頭をコツンと叩かれた。

「何、ボケてんの?おお〜怖っ!そんなんじゃすぐに弾き飛ばされるのがオチよ。」

「そっかなぁ?じゃあ仕方ない、脱いじゃおうか?この突き出た胸を、目の前に?」

「もう知らない。もう聞かない。アホ‼︎」


ボケでもアホでもないよ、本当にするつもりだよ。トモ君、きっとあんなことやそんなこと、いろいろしたいんじゃないかな?いいよ、全部。やっちゃおう・・・って歌、あった?


卒業パーティーの場所、ファミレスの個室を予約してくれていた。

着替えてきたのはいいけど、ちょっとお洒落過ぎた?完全に他の女の子から浮いている。みんなから冷やかされているがトモ君用の格好をして来ただけよ。

可愛いミニスカート、白いブラウスには、薄いピンクの薔薇が散らばっている。その上にパープルカラーの薄手のセーター。

髪の毛は、カチューシャで決めている。


理解者が一人だけいる。かおりは、この格好を見て、ひと言、「いいんじゃない。」

健一くんが、すでに集まっているメンバーをチェックしている。

そんな事はどうでもいい私は、トモ君がまだ来ていない事だけが気になる。

集合時間の3時少し前に、健一くん、電話してくると言って部屋を出て行った。

すぐに戻って来たが、頭を傾げながらだった。

かおりが気を利かせて聞いてくれた。

「友哉くん、これないの?」

「あ、いや。家に電話したんだけど、生憎、誰も出ねえ。」


3時になった時、トモ君以外、全員揃ったようだ。

発案者の健一くんが、しゃべり始めた。

「もう一人、トモがまだなんだけど、アイツが約束破るわけねえし、なんかの都合で遅れてるんだろう?取り敢えず、こうして集まったんだから、卒業パーティーを始めよう。」

飲み物は、各自、ドリンクバーに取りに行く。

食べ物は、パーティー用のセットがあるみたいで、健一くんが注文したとのこと。


みんなで一度、部屋から出て飲み物を取りに行った。

私もかおりと一緒に行き、オレンジジュースを取ってきた。

見栄えのする料理がテーブルに並ぶと、誰彼となく思い出話しを始める。

ところが、みんなに言えない私の秘密がある。それは、ここに来ている男子の中に、名前と顔が今でも一致していない子が、実は二人いるんだ。

それがネックで、あまり話しの中に入れないのだ。


30分経っても、トモ君はまだ。

1時間ほど経った時、健一くんがまた、電話をかけると言って部屋を出て行った。

出来ることなら、私が彼のスマホに電話をしたかった、が、彼の了解なしに勝手なことは出来ない。


健一くんが、元気なく戻って来た。いつもより1オクターブ低い声で言い始めた。

「あいつ、来れねえんだ。あいつのお母さんと話したんだけど、どっか遠くにいる爺さんが、木から落ちて怪我したらしい。オヤジさん、仕事だし、行けねえから、アイツ、僕が行くって。仕方ないよな?」

「仕方ないじゃないよ、お父さんたちの代わりに行ったんでしょう?えらいじゃない?親孝行してるんだよ、ガッカリしないで。」

かおりが健一くんだけじゃなく、私や他の人たちを元気付けるように言ってくれた。


でも、私だけは落胆した気持ちが治りそうにない。

待ちに待った日、大好きなトモ君に会いたかった。

かおりが、優しく隣の席で私の手を握り続けてくれていたので、どうにか倒れずにいた。


家に帰っても、力がはいらない。それをお母さんに見つかり、心配させたのです。

部屋に入って、早速電話を掛けたけど、電源が入ってないか、電波のないところにの感情の薄い声しか聞こえない。

メールをしてみたが、返事をそう期待出来ないだろうと思いながら。




第8話を楽しみに





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