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沙也加と僕  作者: ユキから
6/33

合格

始業式の教室、見慣れた光景だが、卒業式を控える僕たちに、いつも以上の興奮があるのか、あちこちの席からハシャギ声が響いてる。

中学生最後の冬休みは、殆んどの人が入試勉強に明け暮れたのだろう。

その反動が今、一気に暴発して、ハイテンション!なんだと思う。


その波が僕をも襲って来た。

先ずは健一。いきなり前の席からこっちを覗き込んで

「おう、ガリ勉くん、どうだった?」

『ガ、ガリ勉くん?よせよ、そう言うアダ名、友達無くすぞ!』

「お前はすぐに反論してくる。どうした、あの写真、貰ったか?」

『ん?・・・あ、ああ、あれはまだ。』

「まだ?まだ貰ってないのか?そっか、だから前から携帯買って貰えって、オレずっと言ってんじゃん。もし持ってたらさあ、すぐに転送だぜ?」

『仕方ないじゃん、持ってねえんだし、別にいいんだよ。』


そこへやって来たのは矢口かおり。

「今、この間のこと話してたの?一応、サヤカに渡したから、トモ君が直接貰ってよ。」

かおりさんは、結構険しい顔でそれだけ言うと、窓際にいるサヤカの方へ寄って行った。

その後ろ姿を追っていると、サヤカと目と目が合った。久しぶりにキレイな顔を目にして、いつもの事ながら、ドキッとした。


ホームルーム終了後、帰り支度をしているとポケットの中でバイブの振動がした。

健一にトイレに行くと告げ、個室に入る。

メールはもちろんサヤカからで、久しぶりにデートしよう、モールのカフェで待ってると書いてあった。

すぐにオッケーの返事をし、急いで近くの階段を駆け下りた。

特に健一とこの後の約束もしてないから、それでも、教室に戻ると帰れなくなりそうだったので、コッソリ抜け出した。


まっすぐ駅に向かい、そして隣駅に到着してモールの中へ入って行く。この近辺の中、高は、今日がみな始業式で、何組か制服を着た人達が見える。

エスカレーターを乗り継ぎ、三階のカフェの前で、サヤカを待っていた。

僕の前を、宝明学園の制服を着た女子生徒が四人、中へ入って行く。

そして、その他の女子高生も、次々と入って行くのだが、なぜかみんなが僕を一瞥しているように見えたが、多分、気のせいだろう?


少しして、いつもの短いスカートその下に見事な長い脚、目立ち過ぎる顔には、満面の笑顔、見るからに完璧な美少女が息を切らせて飛んで来た。

「お待たせ〜‼︎」

と、言うや否や、僕の腕を掴んで中へ連れ込まれた。


中にいた他のお客さんが、一斉に僕とサヤカの方を見て来た。

それらの視線にギョッとしたのは僕だけ、サヤカは、全然気にした素振りも見せず、空いている席を探して座った。


サヤカはマイペース、寒いからと店員さんにココアと言って注文、そして、少しだけ焦らすようにして、カバンの中から自分のスマホを取り出した。

「はい、ねえ、メッチャ綺麗に撮れてるよ。」

『オッ、見せて?スゲえ、あ、やっぱり着物、似合ってんなぁ。キレイだ、サヤカ、サヤカは本当にキレイだよ。』

「エヘッ、ありがとう。トモ君も最高だよ。」


僕たちの会話が聞こえたのか、隣の席にいた宝明学園の女子生徒四人組が、ワザとらしい咳払いをしている。

それに気が付いた僕たち、お互いに舌をペロッと出して首をすくめていた。

ココアを飲みながら、小さな声で話している時、隣から聞こえてきた。

「ねえ、見た?キャロちんの新しいCM。今までで一番いいよね?」

「またキャロちんの話し?ホント、好きねえ。テスト、大丈夫?又、追試だよ。」

「そういう事を言わないでよ、結構気にしてるんだよ、これでも。あ、でもね、今度のは、キャロちん以外に男の人がいるんだよ。」


ドキッとした。急に胸の中が熱くなっている。

「斜めからのアングルなんだけどね、いい感じの人なのよね。」

「どうせジャニ系の誰かなんじゃない?」

「あ、それがね、チャラってないの。何となく大物?」

「本当?大物って分かるの?信じるよ、今度、ようく見てみる。」

「と言っても、まだまだ若い子だよ。おじさんじゃないからね。」


(大物?そんな風に見えるの?)質問したくなった時、サヤカの声が聞こえた。

「・・・って、どう?」

『ん?』

「ん?って、聞いてなかったの?」

『あ、ごめん。なんだった?』

「ちょっと〜!どうしたの、勉強ばっかして眠いの?」

『あ、いや、ごめん。もう大丈夫、で、何?』

「あのね、入試まで勉強するのもいいんだけど、息抜きも必要でしよ?だから、土曜日を今日みたいに会ってお話ししようって提案したんだよ。」

『あ、うん、それはいいと思う。あ、けど、無理だと思った時は、言うんだよ。』

「うん。あ、じゃあオッケー?」

『オッケー‼︎』


いつの間にか、周りにいた他のお客さんが随分減っていた。

僕たちもソロソロ帰ろうとなり、お店を出た。


下りのエスカレーターに乗ると、サヤカは、辺りをキョロキョロ忙しく見回している。そして、横に並んだと思うと、いきなり手を繋いできた。

『オッ、おい⁉︎』

「エヘッ!知っている人、いないよ、大丈夫ギュッと握って!」

仕方ないなあと思い、少し強めに繋ぎ返す。すると、メッチャ可愛い笑顔で見上げてくる。

手を剥がし、サヤカの肩を抱き寄せた、が、これはほとんど無意識に取った行動だった。

「キャッ!」

と、驚いたのだろうが、次にサヤカの取った行動は、頭を傾け、僕のアゴの下にくつつけてきたことだった。

さすがにこの姿勢のままでは、万が一の時、言い訳が付かないと思い、肩にやっていた手を、元のサヤカの手に戻したのだ。

「どうしたの?もっとそのままで良かったのに?」

『あ、いや、ちょっと。一度、やってみたかったんだ、でも、大胆すぎる?』

「あ〜んもう、嬉しかったのに。」

耳元で

「今度、二人っきりの時にしてね。そのままチュウもいいよ。」

『・・・』

「って、無視?」


少しの間だったけど、サヤカのスベスベの手は、僕の手にピッタリとフィット?して気持ちよかった。

サヤカと別れるまで、サヤカのハイテンションは治まらなかった。


数日後。

健一から、久しぶりにマックに行こうと誘われた。

短時間ならいいかと思い、一緒に行くことにした。

くだらない世間話しをしながら、マックの中へ入って行く。


レジの上にあるメニューから、何にしようか決め、、店員さんの前に行く。


(ゲッ?なんでユイさんがいるの?)

驚いている僕に

「いらっしゃいませ、ご注文、お伺いいたします。」

イタズラ心満載の顔で、ワザとらしい聞き方をしてくる。

以前なら僕はどう反応したか、けど、今は僕のマネージャー。

多い時で1日に数回、少ない日でも最低1回はメールが届く。

そう言えば、今朝も早くから届いていたはずだが、こっちに来るなんて全然書いてなかった。


健一も驚いたのだろう、言葉に詰まりながら注文している。


ニコッと笑顔で渡されたトレイを持って、いつもの二階席に上がって行く。

「なぁ、あいつ、辞めたんじゃ?」

『お、そうだと思ってたよ。』

「だよな?あ、でも、ちょっと感じが違って、大人っぽくなってなかったか?」

『ん?わかんねえ。お前、この短時間の間に、そこまで観察してたのか?スゲエな。』

「あ、いや、雰囲気、雰囲気でだよ、オレをストーカーみたいに言うんじゃねえよ。」


と、言って話しているところへ、自分もトレイに飲み物とポテトの袋を載せ、やって来た。

「誰かのストーカーやってんの?警察に連絡しようか?」

「お、おい、よせ、よせよ!」

「私、休憩時間なの、ご一緒させてくれる?」

「もうしてんじゃん、いちいち断らなくても・・・」

「ありがとう。あ、君、名前は?」

『こいつ健一。』

「健一くん?で、君がユウ、あっ。」

アッと思った時、ユイさんが口を慌てて塞ぎ、そして、ユックリと

「あ、有名な友哉くん。」

(フウーッ、乗り切った!)

「そうだよな、トモは有名だよな?」

『何で有名だ?人並み外れたスポーツマンでもねえし、頭も目立つわけねえ。』

「フェイス、顔、顔が抜群にいいわ、ほら、健一くんと、比較すると。」

「チッ、余計なお世話、オレを基準にするの止めてくれよ。自覚してんだから。」

「ん?落ち込んだ?安心しなさい、みんながみんなイケメンを求めてるんじゃないからね。ま、健一くん、プッ!にも、いつか?」

「何だ?途中で プッ?」

僕だけ置いてけぼり、健一とユイさんの掛け合い漫才を見ているようで、腹を抱えて笑っていた。


散々けなすだけけなして、ユイさんは休憩終了とか言って、階段を下りて行った。


健一は、結局、それから帰りに着くまで不満タラタラ、八つ当たりしてくるのには、ホトホト困り果てた。


お店を出る時、ユイさんの姿がなく、出てからも健一は立ち止まってブツブツ文句を言っている。これは、しばらく続きそうだと覚悟を決めた。


ぶらぶら歩いて、家の玄関に到着。

ドアを開けたら、真っ赤なハイヒールが一足置いてある。

まあ、当然かと思い、『ただいま。』


ハモるように「お帰り〜!」


リビングに入って行くと、すっかり馴染んだ格好でソファに座っている。

「健一くん、怒ってた?」

『当たり前だろ?言い過ぎ、からかい過ぎ、八つ当たり、凄かったぞ。』

「えへへへ、案外、可愛いんだもん、つい・・・」


『で、突然、遊びに来たってんじゃないでしょうね?』

「もちろん、お仕事よ。優也さんのマネージャーだからね、監視しに来たのよ。」

『監視が必要な悪さは、しませんけど?』

「そう?何日か前、サヤカさんとお楽しみだったんだって?」

『アッ!母さんだな?』

「だって、誰かに聞いてもらいたいくらい、あなた、嬉しそうに帰って来るから。」

『口が軽いなぁ、で、本題は?」


すると、リラックスして座っていたユイさんが、座り直して仕事モードにスイッチが入った。

「一つは、ご家族にお話があって、こればっかりは、優也さんの携帯に便乗してって失礼なこと、出来ないでしょう?もう一つ、大変な事になってるって、知ってる?」

『あ、知りません。』

「即答?少しは、ご自分に興味を持ってください。SNSで大騒ぎになってるの。メディアからは当然だけど、一般の方が特に凄いのよ。あのCMスポンサーの宣伝課の電話がパンクしそうになってるみたい。キャロちんさんの事務所も大変だって。」

『ヘェ〜、そんなになってるの?さすが、キャロちんさんのパワーって、凄いですね。』

「優也さん、本物の天然?あなたよ、あなたが誰かって問い合わせが殺到しているのよ。でね、急にスポンサーさんから、優也さん主役の連ドラの依頼が来ちゃったの。予定外の出来事、最初の目標は、秋の新番組にそこそこの位置でスタートする予定だったんだけど、のんびりしていられなくなっちゃった。」

『あ、そうなんですね。で、僕はどうすれば?』

「取り敢えず、卒業式まで待つわ。その代わり、式が終了すれば、その足で撮影現場に直行してもらいます。」

『あ、はい。行けばいいんですね?』

「セリフを覚えてだよ、勘違いしないで。」

『セ、セリフ?』

「台本は今日から書き始めてもらっているから、出来次第届くのよ。」

『相手役の人と合わせたりしないのですか?』

「距離的に無理。取り敢えず、私が相手をします。こう見えても、経験はあるのよ。」

『あ、もう一つ、高校は?』

「当然、入学して。あ、秘密にしてたんだけど、いいわ、教えてあげる。優也さんが入学するのは、東京宝明学園、こっちの宝明学園ではないけど、兄弟高校なの。ついでに言うと、うちの会社は?」

『あ、そう言えば、新宝明プロ、関係あるんですか?』

「学園の方はお兄さんの経営、うちは弟さんが社長。ちなみに、お父様は、宝エレクトリックって、世界第3位の家電会社。」

『あ、知ってます。ヘェ〜、凄いんですね。』

「でね、優也さんは既にコースが決まってて、実際、合格してるのよ。」

『まさか、まだ試験受けてないですよ?』

「特待生制度があって、最悪でも合格。但し、正式に入試を受け、合格すれば、コースを芸能にしなくてもいいの。でも、せっかくだから頑張って突破して下さい。あ、そうだ、うちの芸能コースって、難関中の難関、競争倍率は、今年で数十倍?」

『凄い!ヘェ〜、全然知らなかった。東京宝明学園のことも、こっちでは誰も知らないんじゃないかな?』


父さんが帰って来て、東京での住居のことや、当分、三条優也のことは秘密にしておいて欲しい、だから、当面、帰省することが出来ないから、覚悟をしておくようになど、詳しく丁寧に説明をしてくれていた。

そして、サヤカの事になり、数年間、騙し続けるようになるが、会社として、決して別れさせることはない、と、はっきり言い切ってくれた。

母さんに一任されたが、かあさんは、私の演技力次第で左右されるのね、ようしと言って、妙にやる気になっているのがおかしかった。


明日以降、学校から帰ってきしだいボイストレーニングをし、台本が届けば、それこそ時間を惜しんで覚える事になる、そう言い残してユイさんが帰って行った。

どこに泊まるかは教えてくれなかった。


教室で見るサヤカは、前よりもずっと元気になり、周りの女の子たちとキャッキャッしている。時々、矢口かおりが、見るに見かねてたしなめられている。

サヤカ情報によると、かおりさんは、サヤカがあの手紙の後、ショックを隠すため、かなり無理をしてはしゃいでいるんだと、決め付けているらしい。

それで、かおりさんが僕を睨み付ける回数が増えたことに納得できる。

その上、初詣でのお膳立ても、せっかくしてあげたのに、僕の反応が薄すぎると、ずっと機嫌が悪いらしい。

それが面白いから、高校まで秘密を続ける気になっている。


それにしても、サヤカの可愛さは群を抜いている。


その時、うしろの席の子が、隣に座った子と話しているのが聞こえてきた。

「ホントだって、あ、これ見て?ここでも盛り上がってるよ。」

「あ、ホントだ。けどね、キャロちんのCM、見た事あるけど、男の人、出てた?」

「出てるよ、正面からの顔じゃないけど、それでもいいんだよ。」

「あ、でもユミ、前にうしろ姿を見て走り寄って、前を見たとき、どうしたっけ?」

「あ、まだ覚えてたの?あ、あの時は・・・ガッカリした。あ、あれはだって、酷かったもん。今度のは違うって、だって、キャロちんと出てるんだよ?きっとカッコいいと思うよ。今度見てみてよ。」

「はいはい、異常に入れ込んでるね?入試、大丈夫?テレビばっかり見てて、不合格なんてならないでよ。」


ずっと聞き耳を立てて聞いていた。

次の第二段は、キャロちんさんと一言、言葉を交わすシーンを撮ったのを思い出した。まだテープを見ていないから、どう編集されているか急に気になり始めた。


「トモ、どうした?何ボケッとしてんだ?」

『ん?いいぞ、こうやってボーっとしてるのも。あ、ごめん、お前はいつもこんなだったよな?』

「ウッ!痛いところをエグったな。」

『アレッ?怒んねえのか?』

「もう怒んねえよ、だって、卒業まであとわずかだろ?せめてそれまで、落ち着こうと決めたんだ。それから」

『それから?まだあるのか?』

「高校に行ったら、オレ、男になるんだ。」

『アレッ?お前、オンナだったの?』

「茶化すな!いま、いいこと言ってんだぜ、黙って聞け!誰からも頼られるオトコ、なるんだ。」

『分かった。お前の魂胆、読めた。ようするに、ここじゃバレてっからダメだけど、高校だと他の中学からの女子が増える。だから?』

「オッ!なんで分かる?」

『分かりやすいなあ。ま、その線でいいから、頑張れよな。』


笑っていると、矢口かおりがサヤカの手を引いて僕たちのところへやって来た。

「何、自分たちだけで楽しんでるの?」

かおりのうしろに、遠慮がちにサヤカが立っている。

『ん?ああ今の?健一がさ、卒業まで絶対怒んないんだってさ。』

「それがおかしいの?」

『あ、いや、その理由をズバリ当てちゃった。アハハ』

「おいトモ、それ以上言うんじゃねぇぞ。」

「あら、知りたい。ねえ、サヤカも知りたいよね?」

「あ、まあ。ケン君のことだから、別に。」

「おっ、今の何だ?オレには興味無いってことか?」

「うん。あ、ごめん。」

「うん、だって、何、お前。正直にも程がある。」


『あれ?健一、怒ってる?さっきのウソ?』

「お、怒ってねえし。あ、もう、ホント、サヤカって美人だよな?もし、かおりぐらいだったら、総スカンだろうな?」

「どういう事?何を言ってるか、分かってないんだけど?今のって、結局、私の悪口?」

と言った時、かおりの手が伸びて健一の口元を抓っていた。

「テテテッ!」

『アハハ、で、なんか用?』


「あ、そうだった。ねえ、この前の写真の件だけど。」

『ああ、あれ?ありがとう、キレイに写ってた。』

「ちょ、ちょっと、それだけ?」

『ん?それ以外に?』

「あのさぁ、こう、なんて言うのか、なんか奢って。」

『ん?あ、ああ、そういう事?何だ、それならそうと早く言ってよ。いいよ、もちろん。』

と、言ったまでは良かったが、急にボイトレの事を思い出した。

「じゃあ今日、帰り、そうね。マックで許してあげる。」

『あ、いや、あ、それ、マズイ。き、今日はちょ、ちょっと』

「なあに?嫌がってるの?あ、まさか、誰かとデート?」


そのかおりの一言が、時限爆弾のスイッチを押した。

すぐにサヤカの方を見ると、不安そうにこっちを見ている。

『デ、デート?まさか、そんなのあるかよ。』

「おかしいわね、理由を言いなさい。」

『あ、ごめん、もう時間が、ないんだ。』


それだけ言って、僕は教室を飛び出してトイレに駆け込んだ。


授業が始まる合図のベルが鳴り始めるまで、トイレにいた。

そして、教室に恐る恐る戻ると、健一が言ってきた。

「だったら正直に言えよ。」

『ん?な、何?』

「お腹だよ、お前、調子悪いんだろう?かおり達、納得してた。今度にしようって。」

そこで分かった。お腹を壊していると勘違いしてくれたらしい。ちょっと恥ずかしいが、どうにか今日のところは上手く逃げれたようだ。


その夜のサヤカからのメールに、心配してくれる文章が書かれてあった。

僕は、他の人とのデートを疑われて焦ったと、強調して返信しておいた。


10日ほど経った日、家に帰ると、ユイさんが台本を持って待っていた。

『こんなに分厚いんですか?当然、全部暗記するんですよね?』

「そうよ、共演者の方々は、皆さん経験者よ。その人達に迷惑かけられないでしょう?大丈夫、一緒に覚えましょう。」

『はい、よろしくお願いします。』


ボイトレも台本読みも、僕の部屋で行われている。

部屋に入ると

「まず、台本を読んでみましょう。読み方だけど、できる限り情景を想像しながら読むこと。例えば、立って話してるとか、ここは座って、大声だったり、内緒話も。」


その夜は、分厚い台本を何度も読み返したのだった。

もちろん、ユイさんが帰った後も、遅くまでシミュレーションしながら読んだ。

台本には、セリフ以外に、その時々の動作や細かい仕草などが書かれてあり、何度も読み返しているうちに、少しずつだが情景が浮かんでくるように思えた。


ただ、学校の授業と上手く切り分ける必要があることだった。

健一やクラスの連中は、僕の置かれている立場に関係なく話し掛けてくるから、慣れるまでが大変だと覚悟を決めた。



第7話をお楽しみに


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