感動の後に・・・また感動
森村グループの杮落とし公演が、出演した僕も驚く大盛況のまま終了した。
体育館の中に入って行くと、ステージの下にみんなが集まっている。
そこへ行くと沙織さんが
「ねえ、今から打ち上げしてくれるって言うの、いいよね?」
すると、キャロちんさんが
「ごめんなさい、私たち、明日、九州でイベントがあるの。今夜、7時の飛行機で帰ります。」
「あら、じゃあ、近いうちうちに来て。美味しいのをいっぱい用意するから、絶対よ。」
「やった〜。絶対に行きます。あ、出来ればサクラと三条さんも・・・」
「分かった、約束ね。」
キャロちんさんたちが帰って行った。
打ち上げに参加したのは、僕とサクラ、マネージャーの二人、沙織さん、野村さん、妙見さんと、圭太さん達料理人さん達約20人。
もちろん、主催は由美さんと両親。参加したのは小暮夫妻と山岸夫妻。そして、高城レイさんだった。
これだけの大人数が、急遽決まったからと言ってどこに入れるのだろうと思っていたが、どうやら心配することがなさそうだった。
森村さんがすでに予約していて、準備出来ていたようだ。
由美さんとミイさんの声が聞こえて来た。
「由美ったら、どこまで驚かす気?」
「良かったんでしょう?それとも、嫌だった?」
「嫌なはず無いでしょう、もう。でもね、信じてないよ、山口沙織さんが友達とかって、言ってたよね?」
「あ、そうだった?」
「そんなの、聞いてないし、嘘でしょう?」
結構大きな声だったので聞こえたのだろう沙織さんが
「友達よ、本当に。それより、あなたも友達の中に入ってるんだけど、いいでしょ?」
「えっ、えっ、私もいいんですか?」
由美さんがニンマリしながら
「ほら、素直にお願いしなさい。」
「あ、お、お願いします。よ、よろしくお願いします。」
「こっちこそよろしくね。あ、サクラと三条くんもだよ。この二人、絶対に伸びるからね。」
「ちょっと待って、私達は?」野村さんと妙見さんが噛みついた。
「んー、伸びる?」
「わっ、失礼な〜。ねえ、ミイさん、私達も友達になったげるね。」
「あ、ありがとうございます。」
「どうして上から?そう言う点がね、人気に・・・」
「あ、いや、これは妙見の言葉で、私はもちろんお願いしますだよ。」
「ダメだこの子は。ねえ沙織さん、今度から野村無しにしません?」
「野村はノンにしちゃう?」
「ゲッ、今の使われそう、ヤバッ!」
二台のマイクロバスは、北海道一の料理を食べさせてくれるお店だと聞かされた。
僕は、圭太さん達料理人の方が乗っているバスに便乗させてもらうことにした。
すると、隣りに座っている圭太さんが
「いいの、怒られるんじゃないか?」
『えっ、あ、まあいいんじゃないですか?沙織さんだって向こうですから。』
「おいおい、うちはもう何年も一緒だから、今さら。でも、優也くんたちは、聞くところによると長いブランクがあったんだろう?」
『あ、ええ、3年間、音信不通でした。』
「らしいね。沙織が言ってた、そんなの耐えられない、サクラさんが可哀想だって。」
『あ、ええ。これからその分を取り返します。と言っても、女性の心理が・・・』
「アハハ、一番簡単な方法、教えようか?」
『あ、是非、是非お願いします。』
「よし、いいか、絶対に逆らわない事、そして、気に入らない事があっても、口にしない、全てを受け入れることが幸せになれる。」
『圭太さんは、それで上手く行ってる?』
「いや、幸いにも沙織は・・気を使わなくてもいいんだ。ただ、もしもの場合を考えているだけ。」
『なるほど、そうですよね、沙織さんを見ていると逆らう必要なんてないですよね。その上、心配する必要もないですよね。』
「サクラさん、一つ気になるんだけど?」
『えっ、なにがですか?教えて下さい。』
「思い過ごしかも知れないが、優也くんにかなり遠慮してるように見える。少ししか見ていないが、我慢してるなぁ。どうなんだい、そう躾けてるのか?」
『いえ、躾けなんて、考えた事もありません。』
「ならいいんだ。少し進むのは?会社から規制されてるとか?」
『そう言うのは全然です。サクラの方も、むしろ、両方とも公認してくれてます。』
「なんだ、それだったらサクラさんの肩の力を抜いてあげれば?」
『あ、はい。』
「おいおい、決心出来ないって顔してるぞ。どうだ、今夜、襲ってみるってのは?」
『お、襲って・・・?』
「アハハ、嫌われたらって考えただろう?大丈夫だよ、僕が保証する。」
『あ、ありがとうございます。うわぁ・・・その勇気が・・』
「ただし、その後からの事、女の方が強いからな、うん、間違いない。結婚するんだろ?」
『ええ、僕はそのつもりです。』
「沙織と一緒に呼んでくれる?」
『はい、もちろんです。あ、ただし、襲うことを教えて頂いた事は、秘密で。』
「ああ、墓場まで持って行く。優也くんこそ、僕から聞いたなんて沙織にもサクラさんにも言うなよ。」
『はい。指切りします。』
それからの僕は、必死に・・・
バスが目的地に到着して降りて行くと、沙織さん達が先に降りて待ってくれていた。
その隣りには、サクラが笑顔で立っている。
ドキっとしたのは、きっと・・その気持ちを悟られないようにぎこちない笑顔を見せた。
それからの慰労会は、あまり覚えていない。
ただ、豪華な料理を美味しく口に運び、話しかけられることに、丁寧に応対していた。
ここでも主役は沙織さんで、森村家などの主催者を心ゆくまで楽しませている。
野村さんと妙見さんが盛り立て、存分に発揮している沙織さんから、見習うべき道を教えられている。
楽しい時の時間は早い。
いつの間にか、10時になっていた。
みんな名残惜しそうだったが、お開きになった。
記念撮影だと言って、何枚も。小暮優也さんとは握手して。
そして、宿泊は、サッポロ一番と言われているホテル。
ただ、部屋は、いきなりだったことから、バラバラの部屋だった。
「優也くん、どうするの、サクラと一緒にでいいよね?」
沙織さんが部屋割りを考えてくれて、どうしてもツインルームが一つ、男女が一人ずつ残ってしまうことになってしまったようだ。
「でないと、マネージャーと?まさかね、そんなヤバいこと出来ないから、我慢しなさい。いい、サクラ?」
予想していなかったのだろう、サクラは、普段でも見られない固い表情で頷いている。
ユイさんとルミさんを見ると、何故か二人でOKサインを送ってくる。
僕は、そのホテルの18階のルームキーを渡せられ、みんなとエレベーターに乗り込む。
助かったのは、誰からも冷やかしの言葉が出なかったこと。そして、みんなが順番に降りて行き、僕とサクラだけが一番上の階だったようで、二人きりになったのだ。
エレベーターを降り、部屋を探して歩いていると、サクラの携帯に着信音が鳴った。
「うん、分かった。あ、1812号室だからね。はあい、待ってまーす。」
『どうした?』
「あ、ルミさんがね、飲み物を買ってきてくれるって。あ、優也くんのもだよ。」
『おっ、そうか。気が効くな。』
部屋の前、カギを開けようとした時、急にドキドキしてきた。
『おっ、ヤバッ!』
「ん?どうしたの?」
『震えてる。聞くの忘れてたけど、いいのか?』
「ここ?いいに決まってるでしょ。それとも、イヤ〜ッ!とか、言っちゃう?」
『あはは、それもな。』
ドアを開けると、サクラが僕を押し退け窓際に走るように行き、カーテンを開けた。
「ワーッ、キレイな夜景だよ。」
『部屋、広〜いぞ。こんな部屋でいいのかなぁ?』
部屋の中を探索していると、ドアがノックされて、ルミさんがサクラに買ってきた物を渡してる。
そして、すぐに「おやすみなさい。」と、僕にも声を掛け出て行った。
何種類かの飲み物と、スナック菓子。それと、何やら包装紙に包まれた箱のようなもの。
僕は、相変わらずドキドキしているが、思い切って大きく深呼吸をした。
すると、サクラも追いかけるように深呼吸をしてる。
「ああ〜ッ、ねえ、今からトモ君って言ってもいい?」
『もちろん、サヤカ。』
「エヘッ・・・」
僕は、それ以上何も言わせないように、サヤカの腕を引っ張って抱き寄せ、唇を合わせた。
襲ってみる・・・ところが、サヤカの勢いの方が強かった。
どのくらいかなんて、時間を計ったわけでもないが、離すのが惜しいという気持ちが優っていた。
ようやく離れた時、サヤカが笑い出して言った。
「好きになりそう、これが本物のキス?」
『僕もだよ、ごめん、長く待たせたね。』
「ホントだよ、怒ってもいい?」
『もちろんだよ、ぶってもいいよ。』
「ウフフ、そんなことしないよ、だって、大好きなんだもん。トモ君・・・好きッ!」
『サヤカ・・・僕は・・愛してる。サヤカの倍だよ。』
「ウフフ、嬉しい・・・けど、私はその倍だよ。」
『えへへ、残念でした、だったら、僕はその倍になっちゃう。これって、もう僕が優位なんだよ。』
「エッ、どういうこと?ん?・・・あっ、ホントだ、ヤダーッ・・あ、でも、いいや、と言うことは私が好きな時に、いつでも倍だよね?拒否しないよね、ウフフ・・・」
『ゲッ、僕より上手?ま、いいか。その通り、いつでもサヤカの倍だよ。と言うことで、こっちにおいで。』
改めて部屋の中央にある豪華なソファに腰を下ろした。
「ん?こっちって、こっち?」
『ああ、どこだと思った?』
「イヤだ、教えない、って言うか、トモ君って意地悪になった?」
『そんな事ないよ、昔のまんま。』
「そうかなぁ?なんか変。」
『変?』
「そうよ、普通、もう・・・。」
『普通?ん?』
「あのね、女の子に言わせるの?もう・・・」
『ごめんごめん、実は聞いておきたいことがあって。』
「何?」
『あ、いや・・・あのさ、これからの事なんだ。サヤカは、どう思ってるか?』
僕はそう言って、買ってきてくれた飲み物をグラスに注ぎ、スナック菓子の袋を開けた。
その様子をじっと見つめているサヤカが、真面目な顔で
「トモ君と一緒にいるって決めてる。けど、聞かれるってことは、迷惑だから?」
『あ、いや、誤解しないで欲しいんだけど、サヤカの覚悟が知りたくて。』
「あー、そういうこと?びっくりしたあ、なんかイヤな予感したよ。あのね、私はトモ君の近くにずっと居られればそれ以上望まない。あ、でも、好かれてだけど。ストーカーみたいになるのはイヤだよ。」
『何もそういう事じゃなくて、もし僕たちが・・・あのさ、この業界ってファンがあっての仕事じゃん。もしかすると、続けられなくなってしまったら?』
「いいよ、今の仕事が出来なくなっても、そうね、どっか過疎化が進んでいる田舎?そういうところで農業とかするのも、トモ君と一緒だと明るい家庭を作る自信がある。子供、いっぱい産んで、お金無くてもいい。お野菜を育てて、自給自足の生活だね。」
『そっか、覚悟が出来てるんだ?』
「うん。モンペ姿?えへへ、それも可愛いと思わない?」
『ああ、サヤカだとお似合いだろうなぁ。よかった、じゃあ、結婚しようか?アハハ・・・。』
「ん?・・・・・ねぇ、今の、プロポーズ?」
『そう・・・だよ。おかしい?』
「エッ、あ、エッ、あ、あ、お願い・・します。エッ、ここで、今?」
『よかったぁ、ずっとドキドキしてたんだよ、もし、断られたら?とか・・』
その時、ドアがノックされた。僕が立ち上がりドアを開けに行く。
「ヨッ、入るよ。」
と言って、沙織さんと圭太さん、ユイさんとルミさんも入って来た。
サヤカは、何が起こったのか、起ころうとしているのかかなり不安げな表情を浮かべて、立ち上がりソファの横へしりどいた。
沙織さんが
「あら、お邪魔した?サクラったら、恐がってない?」
「あ、いえ。どうしたんですか?みなさんで?」
「今、優也君と話してた事、サクラの本心よね?」
「エッ、話してた事って?」
「どんなに苦労しても、トモ君?優也君と一緒にいるって言ったでしょう?」
「エッ?ど、どうして、あ、なんで知ってるんですか?」
驚き様が凄いので、僕が説明した。
『あ、ごめん、実は携帯、沙織さんとずっと繋がってたんだ。だから、聞かれた?』
「エッ、どういうこと?ちょっと待って、ん?つまり、盗聴してた。あ、言い方、ごめんなさい。」
「ま、いいわ。それより、さっさと済ませましょうか?」
沙織さんが圭太さんの方を向き、封筒を受け取ると、ユイさんがボールペンを取り出して、それを僕達の前に置いた。
「さあ、お書きなさい。」
「エッ?こ、これって?」
『サヤカの気が変わらないうちに、僕は書くね。』
「サクラ、あなたはどうするの?今さらだけど婚姻届、書くの?書かないの?」
「あ、も、もちろん、もちろん、喜んで書きます。あ、でも、どうして?」
「後でゆっくり優也君から聞きなさい。」
住所と名前を書き込み、用紙をサヤカの前に差し出した。
そして、それを見たサヤカが驚いて
「えっ、ほ、保証人にさ、沙織さんと圭太さんが・・・あ、ありがとうございます。うわー、夢みたい。」
そう言うと、野崎沙也加と丁寧に書いている。
そして
「あ、印鑑、持って来てないよ、どうしよう?そ、それと、お母さん・・・」
「はい印鑑、それと、戸籍謄本とパスポートも念のため用意してるわよ。」
ルミさんがサヤカが驚いているのを見て、楽しむ様に渡してる。
僕の方にもユイさんが渡してくれた。
『えっ、随分手回しが良くない?』
すると、ユイさんが意外なことを言い始めた。
「いつも用意してわよ。いつこういうことになっても困らない様にね。あ、特に今回は確率が高いと思ったので、お二人のご両親にお話しして、了解をもらった上で、戸籍謄本を送って頂いたのよ。」
「ということは、知らなかったのは、当事者の二人だけってこと?」
沙織さんが、全てお見通しよという顔でサラリと言ってのけた。その上、圭太さんも余裕の笑顔で僕を見ている。
『えっ?でも、僕達の話し合いは、さっきが初めてですよ。』
「そ、そうですよ、第一、トモ君とプライベートなお話し、全然してないですよ。あ、もしかして、ドッキリとかじゃないですよね?」
「バカね、ドッキリに本物の婚姻届の用紙をわざわざ用意する?私、さすがにそこまでヒマじゃないよ。」
「あ、いえ、沙織さんを疑ってるんじゃありません。こんなにスムーズに、いいのかなと?」
すると、決定的な出来事が起きた。
「はい、優也さん、社長からお祝いのメールが届いてるわよ。」
「サクラさん、あなたにもよ。」
そう言うとユイさんとルミさんからスマホを渡され、そこには本当にお祝いのメッセージが丁寧に書いてあり、その文面では何も問題が起きないように考えてくれているようだ。
『あ、ありがとうございます。わぁ、ここまでしてくれてるんですか?』
「ま、喜ぶのはこれを区役所に届けて、晴れて夫婦になってからにしなさい。」
「エッ?ここって札幌ですけど?」
「アハハ、そうだよ、婚姻届ってのはどこで出してもいいんだよ。一応、本人確認が出来るものとか、戸籍謄本とかがあればだよ。それは揃ってるから、問題はないよ。」
圭太さんが、落ち着いた雰囲気で教えてくれた。
二人共、婚姻届に書き込み、捺印を済ますまでほとんど時間がかかっていないことなど、誰も気にしていない、まるで既定の事実を知った人たちと、流れ作業のような進行具合。
「準備出来たわね、区役所の場所までタクシーですぐらしいから、行ってらっしゃい。私たちはここまでよ。」
『あ、はい。ありがとうございます。では、サヤカ、行こうか?』
「うん、えへへ、なんか、嬉しい。」
『僕もだよ、夢じゃないことを祈るよ。』
「はいはい、そう言う話しは帰って来てから二人っきりでするのね。で、このことは、公表するかとか、どこに住むかとか、色々考えなけりゃならないことがたくさんあるわよ。」
『あ、そうですね。じゃあ、行って来ます。』
僕とサヤカ、エレベーターで一緒に一階まで降り、ホテルの玄関先に停まっているタクシーに乗り込んだ。
「ねぇトモ君、いいの?」
『いいの?って、それは僕が聞きたいよ。僕は、喜んでるけど、サヤカは複雑じゃない?』
「うううん、嬉しいけど、なんか、どうやって喜んでいいのか、本当は・・・」
『本当は?』
「えへへ、抱きついて、なんか叫びたい気分・・というのを想像してた。」
『ヘェ〜、僕は、いざとなった時、ドギマギして上手く言い出せないんじゃないか、とか考えてた。』
「全部上手く行った。ンフフ、婚約期間なし?」
『おっ、ホントだ。そうだよ、指輪とかもあげてないね。』
「そういうのはいい。それより、住むところ。えへへ、つまり愛の巣。」
運転手さんに聞こえないよう、僕の耳のそばで囁くように言ってきた。
僕は、ずっと繋いでいる手を思いっきり強く握った時、タクシーが区役所の時間外入り口だというところに横付けしてくれた。
次話をお楽しみに




