新しい始まり
ホテルの部屋に戻った時、日付が変わった。
「うふふ、ねえトモ君、これって夢じゃないよね?」
サヤカが、ちょっとはにかみながら部屋の中へ入って行く。
『多分・・・現実だと思うよ。』
「多分?あっ、ねえ、ケーキあるよ。誰か用意してくれてる。」
『おっ、そっか、お祝いだもんな。嬉しいなぁ・・』
二人っきりの部屋、ソファに座る時、サヤカが甘えるように腕を絡めてくっつくように座ってきた。
「トモ君、一つ聞いていい?」
『ああ、なんでもいいよ。』
「突然の結婚、後悔してない?あ、というか、後悔しない?」
『しないよ、するもんか。僕さぁ、いっつも思ってた。サヤカの前から隠れるようになって、ヒヤヒヤしてた。そんな時、いつも考えてたのは、再会した時、すぐにプロポーズしようって。』
「ひど〜い、再会してから何ヶ月?全然ウソに聞こえる。」
『ウソじゃないよ、僕って、いざとなると、う〜ん、中々勇気が出なくて、ごめん。』
「うう〜ん、トモ君、昔のまんまだね。ある意味、よかった。」
『おっ、ある意味?』
「えへへ、すぐに言われたら、軽いよね。都会に染まってないってことでしょう?」
『そ・・染まりようがないよな。友達が少ないから、うん、特に男性がいないよなぁ。だからじゃない?影響を受けてないのは。』
「よかった、私にとって最高のことよ、ありがとう、友達少なくて。」
『おいおい、それって褒め言葉?アハハ、でもいいか。』
ケーキを食べようとした時、なんとなく雰囲気が・・・優しいキスが・・・
「うふふ、いいね。」
『あ、そうだ、どうする?』
「ん?何が?いいよ、すぐに?」
『おっ、ち、違うよ。入籍したことを発表する?どうしようか?』
「あ、ホントだ。トモ君の結婚だと、ファンの人たちから・・・わぁ、どうなるんだろう?」
『こら、僕だけじゃないだろう、サヤカの方が大変だろうが?今、一番勢いのあるところだぜ。』
「二人共ってこと?どうする、秘密にしてようか?」
『それだって、バレたときの影響が大きいだろう?お互い、ファンの人たちに祝福されるような発表って、無理かな?』
「誰も裏切ってないから、気にすること無いんでしょう?けど、そうもいかないか?」
『いっそ週刊誌とか・・・てのも、大騒動だろうな?』
「どう、沙織さんに全てお願いするって。」
『ん?どうお願いするんだ?』
「どっかで暴露してくれないかなぁ?大爆笑、とってもらうとかだったら?」
『そりゃいいよなぁ。でもさ、引き受けてくれるかな?』
「沙織さん、いたずら心でやってくれるんじゃない?あ、でも、その後が三条優也さんとしての新しい顔に変身しなければね。」
『ん?あ、そうだな、お笑いを取り入れなきゃ。ま、元々頭、そんなに良くないから、すぐに対応出来る?』
「ねえ、私もイメチェンするね。えへへ、どうしようかなぁ?おバカキャラって、結構難しそうだよ。」
『サヤカは、そこまでしなくてもいいんじゃない?そうだな、もっと笑顔を磨くってのは?』
あれこれ二人で時間が経つのも忘れ、ファンの人たちに納得してもらえる方法を考えていた。
「ねえ、明日、沙織さんにお願いすることにして、もっと肝心な話ししない?」
『肝心って、結婚式のこととか?』
「それはいつでもいいの。どこに住むの?」
『そうだよ、それを考えなきゃ。今のところは、なんか新婚向きって感じじゃないな。せっかくサヤカと楽しい毎日を過ごすんだから、どっか探そうか?』
「あのね、私、一つだけワガママ聞いてくれる?」
『ああ、もちろんだとも。なに?』
「お部屋のことなんだけど、最低でも2LDKにして欲しいの。」
『おう、分かった。けど、なんでそれがワガママ?』
「えへへ、かおりと真由美。ずっと前からサヤカが結婚したら、お邪魔虫って言われても絶対に泊まりに行くから、部屋を用意するようにって、エヘヘ、約束してるの。」
『なんだ、そういうことなら、ワガママでも何でもないよ。よし、最低限の希望が決まった。』
「ありがとう。やっぱり優しいね。」
『優しいのがこれ?もっと優しくなれるんだけどなぁ・・・』
『そうだ、同居とかは、家が決まらないと無理じゃん。せっかくだからと言うのも変だけど、沙織さんが公表してくれるまで、これ以上に進まないってのはイヤかい?』
「あは、おかしい。トモ君ったら、もう沙織さん頼みに決めたみたい。」
『おっ、そう・・・だな。アハハ、すっかり人任せにするのが身に付いたようだな。』
「と言うことは、当分はチュウまで?う〜ん、でも、いいよ、その事も沙織さんに報告するよ。」
『それは僕から言うよ。』
「結婚・・・したんだよね、えへへ、そう言えば、市役所の人、バレなかったよね。」
『名前が本名だし、あ、でも、沙織さんの名前を確認した時、ちょっと小首を傾げてたんじゃないか?』
「あ、そうそう、その時、私たちを二度見してた。不思議だったんかなぁ?」
『ま、そこまで有名じゃないからね、いい思い出にしとこうよ。』
「うん、はっきり覚えてる。」
それから、眠ることなく新居の話しや、家具とか食器、部屋着の話しとかまで楽しい話題で盛り上がった。
朝、それぞれにシャワーを浴びて、朝食の用意がしてあるレストランへ降りて行った。
そこはバイキング料理で、開店の数分前に着いたので入り口で待っていた。
そして、開店と同時に中へ入る。
『あはは、子供みたいだ。』
「だって、お腹すいたもん。お夜食がケーキと飲み物だけだったんだもん、当然でしょ?」
『まあ、確かに。今、言ったのは、修学旅行に行けなかったから、色々想像するクセがあってさ、なんか並ぶんじゃないかと、そういう気がしたんだ。』
「修学旅行か・・・っていうか、ほとんど恋人みたいなお付き合い、してないね。うふ、なのに、お嫁さんになっちゃった。なんか、順番が無茶苦茶だよ。」
『確かに。取り敢えず、いろんなことを飛ばして、大きな目標に到達した。これから、抜けたことを一つ一つ探して埋めて行こう。』
「うん。あはは、もう焦ることなんか何もないもんね。たっぷり甘えちゃうからね。」
『いいぞ、そういうの夢に考えてた。』
「夢に?ねえ、どんな風になってた?」
『あはっ、ちょっと言えないな。なんか、サヤカ、怒りそうだ。』
「わあ、そんなに酷いことなの?怒んないから教えてよ〜。」
僕の腕に絡みつくようにしてきた時、レストランのドアが開いて中に入れるようになった。
中に入ると、和食と洋食の2種類が用意されていて、美味しそうに、しかも種類が豊富に並んでる。
「トモ君、どっち?」
『そうだなぁ、いつもはパンと飲み物くらいだから、和食にしようかな?』
「あ、じゃあ私、洋食にする。少しずつ交換して食べよ。」
『お、いいね。じゃあ大盛りにすっか。』
バイキング料理の良い所をふんだんに使ってみた。
朝食なのでお肉やお魚には限りがあるが、種類が豊富なのでいっぱいお皿に盛り付けたくなる。サクラのお皿を見ると、同じぐらい盛っている。
「ねえー、トースト食べるよね、何枚?」
『ご飯あるから、1枚でいいよ。』
「分かった。いっぱいになったから一度席に置いてくるね。」
『じゃ、僕も。』
「ウフ、優しい。」
いつのまにか、人が増えていて少し並ばなければいけなくなっていた。
ただ、今のところここにいる人に気付かれていないようで、気兼ねなくトレーをいっぱいに出来た。
「ンフ、すごい。いっぱい取ったね。」
『ほんとだ、これ、全部食べれる?』
「食べるよ、ユウヤは無理なの?」
『いや、大丈夫だよ。けど、周りの人たちを見てごらん、うちの半分くらいじゃない?』
「ねえ、それより見て!玉子だけでも、スクランブルエッグ、目玉焼き、玉子焼き、ゆで卵・・ん?生卵?」
『あ、これ?卵かけご飯用にだよ。あ、そっか、和食コーナーの全部だけじゃなく、洋食コーナーのも全部だったんだ。アハハ』
「スクランブルエッグとかゆで卵、美味しそうだったんだよね。ねえ、卵かけご飯、一口頂戴ね。」
『お、いいよ。ようし、頂きます。』
二人で両手を合わせて声を揃えた時
「ちょっと待った。一緒に食べるから、いいでしょう?」
沙織さんと圭太さんの二人だった。
『あ、おはようございます。手伝いましょうか?』
「いいから、すぐに来るから待ってて。」
さすがに沙織さんだと、周りがほっておかない。
すぐに騒然となって、早朝から何事かと訝る人もいる・・・そうでもない?
多分、ついでに僕とサクラも注目されていて、声がかかるようになって、面映ゆい顔のままお辞儀を繰り返していた。
「ねえ、携帯は?」
沙織さんがトレイを置きながら、話してきた。
『あ、僕は部屋に。』
「あ、私もお部屋・・。」
「でしょうね、一緒に食べようと思って電話したのに、どっちも繋がんなくて。」
『すみません、ごめんなさい。開店前に並ぼうと思ったら、携帯のこと、すっかり忘れてました。』
「いいのよ、怒ってるんじゃないから。」
朝からすごいオーラを出しているのだろう、他の席からの視線が異常なくらい多くて、食事に集中するのが難しい。
「寝れた?」
沙織さんが、周りのテーブルには聞こえないくらいの小声で言ってきた。
『いえ、二人とも起きてました。』
「あら、ウフフ・・」
と言って圭太さんと目配せして、ニヤッとしている。
『あはっ、勘違いさせちゃいました。ずっとこれからの事を話し合ってました。』
「ん?ホント?まさか?」
『あ、多分、まさかだと思います。沙織さんが今想像している通りだと思います。』
すると、目を大きく開いて沙也加に
「サクラ、本当なの?」
沙也加は少し照れながら言ってる。
「はい、色々話してると、簡単じゃないことが分かって相談していると朝になってました。」
「あらあら、よく我慢出来たわね。ま、焦ることもないか?で、何が簡単じゃないの?」
僕はもうここだと思い、沙織さんに面倒を見てもらおうと決めていた。
『どういう風に公表しようかと。あと、住むところとか。』
「発表か?で、どうするつもり?」
『あ、いや、実際のところ、夜中に相談する人もいないので、結論は・・・』
少しタイミングを外すようにして
『沙織さんにお願いすることに決めました。』
沙也加の腕を引っ張り、頭を下げて『よろしくお願いします。』と、声を揃えた。
「まあ仕方ないわね。見届け人だもんね、ただ、社長さんとかに相談してからにしよう。私は最後を引受けるから。あなた達のスポンサーとかも問題ないようにしてもらわないとね。」
『あ、はい。それじゃ申し訳ありませんが、そのようにさせて頂きます。』
「うん、乗り掛かった船、そのかわり、私になったら破茶滅茶になること、覚悟しておきなさい。」
『はい。それが楽しみで、夕べからワクワクしているのは、エヘヘ。』
「じゃあ一つ解決した。あと、住むところ?




