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沙也加と僕  作者: ユキから
31/33

感動

10月1日

朝7時、僕はホテルの部屋で目を覚ましていた。

そこへ、電話がかかってきて、着信画面を見ると沙織さんの名前が出ている。

『おはようございます。』

「おはよう、起きてた?」

『ええ、いい天気で良かったです。』

「そうね、日頃の行いかな。ところで、すぐに出れる?」

『はい、あ、もちろん変装してですよね?』

「そうだよ、じゃあ1階のコーヒーラウンジに集合ね。」

『分かりました。』


僕は、今日の変装用に用意してきたダメージジーンズを履いて、上は日ハムのユニフォーム。帽子も日ハムで、伊達めがねを掛けて部屋を出た。

ステージ衣装などはユイさんが運んでくれることになっているので、財布とスマホだけを持ってだった。


小走りにコーヒーラウンジに入って行くと、沙織さん?らしき人を見つけ近づいて行くと、やはり、変装した沙織さんだった。

日頃の見慣れた茶髪じゃなく、黒髪のロングで、それをポニーテールにしているから年齢が?

言えるはずもないので、その変装ぶりを褒めるだけにした。

「そっか、ユニフォームとは考えたね、ここが本拠地だもんね。」

『そうですね、これが一番無難かと思ったんで。』


そこへサクラもやって来た。

サクラは、太めのダボダボとしたデニム、赤と白が目立つスニーカー。上は、ショッキングピンクの半袖トレーナー。髪は金髪のウィッグでショートヘア、目元に違和感を感じてようく見ると付けまつ毛が厚い。

「どうしたの、変かな?」

『あ、いや、全然違う人みたいだから・・・』

すると、沙織さん

「二人ともまあまあね。どっちかって言うと、遠慮してるね。もっと年齢を不釣合いにしてもよかったのに。」

『あ、そういう事ですか?』

「ん?どういう意味?」

『あ、いや、沙織さんが年齢不詳に見えたんです。』

「それって、老けてるってこと?失礼な。」

『あ、すみません、ごめんな・・・』

「アハハ、いいのよ、その通り。差し詰め40代を意識したのよ。どう?」


8時前、由美さんとレイさんが迎えに来てくれた。すると、レイさんが

「お、お姉さん、急に老けた?」

「こらっ、一言目がそれ?」

「あっ、アハハ、で、でも・・・あの山口・・プッ・・・沙織?」

「こら〜、もう。アハハ、これでお料理のお手伝いしてたらバレないよね?」

「えっ、お料理・・・するんですか?」

「だって、2時開演だよ、それまでする事ないじゃん。レイちゃんは12時からお客さんに手渡すんでしょう?」


会場になる体育館のずっと手前でタクシーを降り、そこから歩いて入って行った。

調理場はすでに賑やかに、それでいて真剣なムードの中忙しく動いていた。

沙織さんは、みんなに挨拶をしながら圭太さんの方へ歩いていく。

僕とサクラもその後を追っていく。

そして見つけた。出来上がる料理をお皿に盛り、並べる。これなら手伝えると思い、すぐに取り掛かると、サクラも隣に来て同じように始めた。

沙織さんがそばに来て

「ウフフ、なかなかお似合いよ。」

そして、小声で意外な事を囁くように言って、そのまま圭太さんの方へ戻って行った。


12時を過ぎた頃から体育館の中から少しずつざわめきが聞こえてきて、お客さんの入場が始まっているのが分かった。

そして、だんだんその賑わいが多くなり、時計を見ると間もなく開始の時間になっていた。

サクラは、すっかり緊張しているのだろう、ずっと無口になり、僕を見ようともしない。

『どうした?』

「・・・緊張度がハンパないの。」

『そっか、じゃあ中の様子見に行こうか?』

「一緒に行ってくれる?」

『いいよ、行こ。』


ステージ横に行くと、すでに会場内の電気が消え、真っ暗だった。

ステージ上の幕も閉まっていて、いよいよ開始がすぐに迫っているのが分かった。

『何も見えないな、どうする?』

「あのね、悪いけど・・・ハグしてくれる?」

僕は、精一杯の優しさを込めてサクラを抱き締めた。

「ウフッ、トモ君、ありがとう。これで落ち着いて歌える。」


トモ君と言った言葉に、僕はジーンと来るものがあった。


場内に音楽が流れ始めた。

それは、ようく聞いていると「高校生夫婦」のテーマ曲だと分かった。

そして、ステージの幕が開き、大型スクリーンの辺りが明るくなってきた。

それとほぼ同時に、会場に不思議な歓声が上がっている。


変装姿のまま、マイクを持ったサクラが映像を見ながら歌い始めた。

半信半疑などよめきが起こって、それが所々の場所ではサクラと確信したのだろう、大歓声になり、そして、サクラの名を叫ぶ声が増えてきている。

サクラは、歌いながら金髪のウィッグを取り去って、あの付けまつ毛も取り去った。

その一つ一つの動作に、多分高校生くらいの子たちだろう、悲鳴のような声が聞こえてきた。


次の出番を待っている僕の近くに、由美さんが誰かと来ている。

「ね、ね、由美、誰?あれ、本物?本物の山野サクラ?ね、どうして?」

「さあ?本物かなぁ?」

サクラの3曲が終わると、スクリーンが「野生児」の映像に変わった。

そして、僕も歌いながらスクリーンの下へ向かう。

途中、メガネを外し、帽子も脱いだ。嬉しい事に、声をかき消されるくらいの歓声の中、無事に歌い終わった。


すると、打ち合わせに無かった事が始まった。

ずっと姿を見せていなかった野村睦子さんと妙見理沙さんが喋りながら登場した。

「あんた、また遅刻よ。いっつもなんだから、今日はホント許さないからね。」

「遅刻してないじゃん、見てよ、お客さん怒ってないじゃん。」

最初、二人が誰か分からなかったのだろう、ところが野村さんと妙見さんだと分かった時から再び大喧騒が始まったのだ。

そして、散々文句を言い合って会場を盛り上げている二人に、とうとう真打ちが参戦して来た。

「うるさいわね、あんた達、いい加減にしなさいよ。」

白衣の調理師の格好をした沙織さんが、マイクで怒鳴りながらステージに上がって行く。

「なによこのおばさん、誰かー給食のおばさんと一緒に来た方、いるー?」

「きゅ、給食?違うわよ、私は高級料亭のシェフよ。」

「うっそ!おばさんに高級料理なんか作れませんって。」

「うっ・・・わかった、どれだけ美味しいか、あんた達が上手く歌えたら食べさしてあげるわ。」


沙織さんのことはまだバレていない。それほど核心の演技をしてステージを降りて行った。


野村さんと妙見さんの歌が始まって、再び、歓声の渦となった。


そして、約束通り、二人が歌い終わったところへワゴンに乗った料理を沙織さんが運んで来て

「ま、下手じゃなかったので、食べさしてあげるわ。」

お皿に盛りつけてあるのは、圭太さんの得意なタマゴ焼き、それを口にした二人、本当に美味しいんだと思える顔をして、大声で叫んだ。

「ねえ、サクラと三条くんも出て来なさい。」

これも打ち合わせに無かったが、すでに変装姿からステージ衣装に着替えていたので呼ばれた通り上がって行った。

沙織さんのことは、まだ知られていないようで、あくまでも給食のおばさんとして野村さんたちは扱っている。

僕とサクラも、美味しそうなタマゴ焼きを口に入れて、噛み締めていると、なんと・・・それこそ今の今まで話題にも出ていなかった事が起こった。

突然、大スクリーンにまた「野生児」の映像が流れ始めた。

僕は、ミスったもんだと思い、拍手をしてくれているお客さんに丁寧に感謝のお辞儀をした。


「ちょっと待ったァ〜!」

何人かの女性の声が、マイクを通して聞こえてきた。

そして、バタバタと5~6人が駆け込んできて

「ずるいよ〜、私たちもお腹、ぺこぺこなんですよ。」

と言うのが早いか、口に入れるのが早いか・・・

で、その人達を認識したのは、前の方にいたお客さんだった。


「キヤーッ、キャロちんだァ。わぁ〜」

「ワァー、ワァー」

僕は腰を抜かしそうなくらい驚いていた。

サクラも同じなんだろう、目をパチクリしながら僕の腕にすがりついてきている。


ギッシリ入ったお客さんたちの、パニックとも言える大騒ぎは簡単に収まりそうになく、気がつくと、沙織さんの姿がステージから消えていた。

すると、野村さんが仕切り始め、キャロちんさん達を改めて紹介している。

「ねえ、あなた達、何しに来たの?」

「何しにって、今日、サッポロで楽しいことやってるって聞いたからよ。」

「あ、うん、ま、楽しいことに違いない・・・けど、そんなことで来れるの?あんた達って、ヒマなの?」

「あ、エヘッ、ま、ヒマ・・・だったのがこの5人・・でしたね。」


お客さんたちの興奮がまた始まる。

「で、歌うの?」

「もちろん。せっかく三条さんがいることだし、あれ、歌っちゃいます。」

全然リハもないまま、すぐにメロディーが聞こえてきて、ステージの前に連れて行かれた。

そして、一緒に踊るよう促されたが、簡単にいくとは思えない。

そんな僕にキャロちんさんが曲に合わせてくれ、リズムを思い出させてくれている。

歌い始めると、それまでは統一感がないお客さんたちのサイリウムの振り方だったのが、ほとんど全員が同じように振り始めていて、おかげさまで気持ち良く曲に乗っていけた。

いつの間にか、野村さんたちも、サクラも一緒になって歌っている。


今度はキャロちんさん達だけで、一番のヒット曲が歌われ、会場内が一体となりもう悲鳴が飛び交うことになっていた。

そして、MCの時間になった。

ここで再び、給食のおばさん、沙織さんが登場した。

「あんた達、歌、上手ね。まるでプロの歌手みたい。」

野村さんと妙見さんが、絶妙なズッコケを繰り出すと、僕たちも真似て全員でズッコケたのだ。

沙織さんはというと、我関せずのようすのまま、新しい料理を目の前に出してくれた。

「さあ、出来たてのピザよ、食べなさい。あ、皆さんの分もあるから、終わってから食べてね。」

お客さんに向かって叫んだ。

割れんばかりの拍手と、大喜びの歓声が上がった。


食べ始めると、沙織さんが

「そうだ忘れてた。由美さ〜ん、そっちの優也さん達を連れて来て!」

森村さんが、二人を連れてやって来た。

「みなさ〜ん、今日の主催者を紹介しますね〜って、ごめん、私、あまり知らないから、自己紹介して。」


小暮優也さん、ミイさんのことは、お客さんの方が知っていた。

みんなからお礼の言葉が飛び交う。

そして、ミイさんがバラしてしまった。

「あ、あのう・・・山口沙織さんじゃありませんか?」

僕たちメンバーの動きが止まった。それと同時に、お客さんたちの半信半疑の悲鳴が


「ん?私?私は料理人の・・・名前は・・・山口沙織でーす!」


この時、お客さんの様子が違った。上手く言えないが、発狂寸前まで行ったようだった。


ここからの沙織さんのMCは凄かった。

由美さんとの出会い、小暮夫婦の初恋が自分に相似していたこと、合間に野村さんたちを落とすことで笑いを取る。キャロちんさんたちが時間を調整して、遠いサッポロまで来ることを快く承諾してくれたことは、アイドルとしての立派さだと褒め称えている。

キャロちんさん達は、すでに何年もアイドルグループのトップに君臨しているからだろう、沙織さんの突っ込みを面白おかしくボケながら返している。こういう光景は、なかなかテレビでも見れないと思う。


そして、盛り上がっているなか

「では、今から三条くんとサクラの新曲、聞いて下さい。あ、近いうちにはCDを出すんで買って下さいね。私が作詞、作曲してるので、印税をがっぽり稼ぐことが目的だからね。」

「何、それだけ言いたかったんでしょう?」

野村さんからの突っ込みをきっかけに、曲が流れ始めた。

ステージ上に二人で残り、まずは顔を見合わせ、リズムに合わせ踊り始めた。

今日の日のため、みっちりとレッスンを重ねて来たので、調子良く歌え踊れた。


曲が終わると、次は沙織さんの独演がスタートした。

数え切れない程のヒット曲がある中から、デビュー曲を皮切りにして合計5曲も歌ってくれた。


フィナーレが近づき、今度は沙織さんからの集合の合図で、由美さんや小暮夫妻、そして、ここの体育館の本家、森村グループの社長さんの家族、兄弟会社山岸グループの社長夫妻、そして、サイリウムを寄付してくれたT&Jの高城レイさんがステージに立った。


これがアイドルの歌、だという曲が流れ始め、全員で歌い始めると、お客さんたちも一緒になって歌ってくれた。



幕が閉まる。


ステージ裏の楽屋に行くと、沙織さん達全員がハイタッチで笑い合っていた。

「お疲れさま〜。さあ、今から私のダーリンの料理を食べるよー!」

素早くステージ衣装から私服に着替え、体育館の横に用意されている特設テーブルに向かった。


その途中、サクラとキャロちんさんが僕の真後ろで話しているのが聞こえてきた。

「で、いつ頃?」キャロちんさんの声。

「えっ、そんなの決まってないです。イヤだなぁ、認めちゃったですよ〜。」

「いいじゃん、とりあえず秘密にしとくから。でもね、少し悔しいよ。」

「悔しい?」

「優也くん、他の女性に興味を示さなくってさ、どんな人が相手かめっちゃ気になってたの。なるほどね、サクラさんなら分かる。」

「えっ、あ、ありがとうございます。」

「ねえ、結婚式、呼んでよ。披露宴だけじゃなく、ほら、身内の方たちが出るやつ。」

「えっ、いいんですか?私の方は是非に、ですけど・・・」

「ホント?本当に本当よ、約束!あ、私ね、サクラと親友になりたいの。あなたの持ってるムード?オーラかな・・・すごい好き。立派な女優さんで、アイドル、仲良くしてね。」

「そんな〜、こっちこそ、トップアイドルのキャロちんさんと・・なんて、お、お願いします。」


外に出るまで、僕は聞こえていたが敢えて口を挟まなかった。

外に出た時、キャロちんさんに肩を思いっきり叩かれたのは、応援してくれる証しだと受け止めた。


グランドに出ると、いつの間にかテントが多数張り出され、そこに屋台が並んでいる。

多くのお客さんたちの、笑顔がその美味しさを物語っている。

ステージから見えていた風景とは違う、別の顔は、きっと小暮さんたちが今まで築き上げてきた信頼だろうと思う。

それは、子供たちが小暮夫妻の周りを取り囲み、そこにはさすがの沙織さんでも寄って行けなさそうで、野村さんたちとお相手をしているのは、少し大人の人たちだ。


そして、いつの間にか僕はキャロちんさんたちと、そしてサクラも当然のようにすぐ近くにいる。

多分、女子高生が中心で、中学生、同年齢ぐらいと思える人たちに囲まれていた。

屋台から持って来た料理の数々を、その人たちと各々分け合って食べるのは、初めての経験で楽しい。

時々、口の回りにソースが付いたと大騒ぎする。

キャロちんさんは、ソースを付けにはしゃいでる、サクラは、誰かに付けられたのだろう、ほっぺに何か付いていて、仕返しを狙っている。すでに、仲間を作ったのか、一人の女の子を羽交い締めにさせ、今まさに近づいている。


北の大地、北海道の10月は夕暮れが早く、5時前になるとかなり気温が下がり、日も暮れ始めていた。

2時間近くの大パーティは終了を迎えた。

感謝の言葉を言いながら、お客さんたちは帰って行った。


2000人もの人たちを持て成した料理、見ると何も残ってない。

が、僕はその時心配していたのは、後片付けの事だった。

同じようにサクラも気になってたのだろう、僕の横に来て一緒に屋台の方に戻ってる。

「すごかったね、こんな経験なら、何度でもやりたいよう。」

『おっ、同感!すごいよなぁ、あ、サクラはさあ〜、キャロちんさんたちが来る事、知ってた?』

「ん、ん?知らなかったよ、驚いたぁ、ていうか、びっくりしたよ。」


これは後からゆっくり聞くことにしようと決め、屋台に到着した。


そこには、もうほとんど片付いて、今はテントをたたんで車の荷台に乗せているところだった。

お客さんのお見送りは、僅か30分ほどだったように思うが、これは?

体育館の入り口に圭太さんの姿を見付けたので、聞いてみた。

『もう片付け、終わったのですか?』

「そうなんだよ、あっという間だったから、実は私たちも驚いているんだ。」

すると、小暮優也さんがやって来て

「お疲れさまでした、本当にありがとうございました。」と言って、丁寧に頭を下げてくれた。

僕は聞いてみた。

『あのう、後片付けが済んでしまったのですけど?』

「あ、そうですよね。実は、この体育館の工事を請け負ってくれた方たちが、感謝の意味で、どうしても片付けさせてくれと言ってくれて。食事の途中、聞かされてお願いしたんです。」

「すごい、工事をした方たち?」

「とても喜んでくれてね、あれだけの人気スターのコンサートなんて、一生縁の無いものだと思っていた。その上、高級料亭の味まで経験させてもらえて、何もしなかったらバチが当たるとか言って、やってくれました。」




次話をお楽しみに



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