広がる輪
サッポロ行きの10日前、沙織さんから呼び出され “さおり&れい” に集まっていた。
もちろん、由美さんを中心にして最終打ち合わせ。
ただ、そこに1人、初めての女性がいた。
アイドルといってもいいくらいの可愛らしい子で、年齢もそう変わらないだろう。
「あ、まず紹介しますね。」
そう言って沙織さんから聞かされた。
「この子、れいちゃんといって、このお店の名前になっているもう1人の方。私の妹。ずっと海外出張してたのよね。」
「高城れいといいます。レイって呼ばれるのが好きです。」
「あ、ちなみにレイちゃんは、この若さでT&Jって会社のCEOしてます。」
すると、由美さんが
「エッ、T&Jさんの?」
「ん?由美、知ってるの?」沙織さんが聞くと
「ええ、あ、先代の社長さんのお嬢さん?あ、そう、よかった、また新しい素敵なお友達が出来た?出来そう?」
「あら、失礼ですけど?」
「森村由美さんよ、知ってるの?」
すると、レイさん、驚いたように顔を見つめ、そして
「お姉さん、この方、すごい方よ。森村グループって日本でも、最近では海外でも有名、そこの一人娘?」
「あ、そんなに。それに、私の親ですが、私は私です。でも、もしよろしかったら今後仲良くして頂けませんか?」
「こっちからお願いします。」
「ふぅーん、道理で・・・なんとなくわかってきた。その森村グループの体育館ってことね?」
「あ、もう一つ、山岸エンタという兄弟会社も入ってます。うちの優也さんのいる方ですけど。」
「えっ、山岸エンタさんもですか?知ってます、北海道に基盤を移してから急成長してる。」
僕とサクラは、いま話題になっている世界は、当面無関係だろうと思うが、若い人達って、どんな経営者になるんだろうと、ある意味、興味があった。
そうして、知らなかった世界を少しだけ知って、話しが本題に入った。
「とりあえず、お料理についてだけど、こっちから12名連れて行ける。だから、後7~8人用意出来る?」
「あ、それだけでいいですか?一応、料理学校に優秀な人をお願いすることで話はついてます。」
「そう、じゃあ和、仏、中、伊で2人ずつ。それでいいわね。」
「あと、コンサートだけど、この間のアリーナとほぼ一緒にしようと思うの。ただし、サクラと優也のデュエット、“ファーストラビィング”を正式に組み込むから、2人で合わせておいてね。テープは用意したから。」
「それから、絶対にバレないようにステージに立つのよ。だから、ここは由美の力、楽屋までの道に誰も近寄らせないでもらいたいの。私たちは、そうね、相当の変装をして行こうと思うの。各自、そのつもりで用意して来るのよ。サクラ、可愛い格好なんて意識しないでね。むしろ、誰も近寄らない格好がいい。」
「はあーい、了解しました。ウイッグになんか付けちゃう?」
『ごはん粒とか、生クリーム?』
「じゃあ優也くんは?」
『土が付いたデニムに、よれよれのジャージ。破れたスニーカーでも履いて、あ、髪型はボサボサ?』
「あのね、ま、いいけど変質者と間違われて捕まらないようにしてね。」
「沙織さんはどうするんですか?」
「私、教えない。ま、普通じゃないわね。えへへ〜。」
話しが少し雑談っぽくなってきた時、レイさんが手を挙げた。
「お姉さん、ちょっといいですか?」
「いいわよレイちゃん、どうしたの?」
「あのですね、私も何か参加させてくれません?あ、ステージに上がるなんてことじゃなくて・・・」
「ん?何?あ、そういうことか、レイちゃんの心にズバッと来たのよね、で?」
「お姉さん達のことだと、何かハデなことにしたい。それで、今ふと思ったんですが、アイドルのステージを見るお客さんって、サイリウムを振るんじゃなかったですか?」
「うん、アリーナツアーでも凄かったよ。」
「じゃあ、サイリウム、私が用意しますから、皆さんに配ってくれません?」
すると、由美さんが
「でも、2000人以上を予定してるし、沙織さん達のことは極秘にするのよ。」
「そこなんですよね、なぜ?って思われるかなぁ?」
「私たちはありがたいよね、サクラ、どう?」沙織さんが中に入って
「あ、そりゃテンション上がるのは間違いないですね。ね、優也?」と、僕に振ってきた。
『お、僕は・・慣れてないけど、確かにそれだと気合いが入ってくる。」
「だったら、分かりました。レイさん、用意してくれます?私、友達を驚かせるから用意するとかで協力してもらうことにします。」由美さんが引き受けた。
「よかった、お手数かけますけど、よろしくお願いします。で、どこに売ってます?」
「あっ、知らないで言ったの?それって、ホント、思い付きだよ。」呆れたように沙織さん。
「えへへ、ごめんなさいお姉さん。」
手のひらを顔の前で合わせ、憎めない顔で沙織さんに謝っているが、その微笑ましい様子に、みんなが大笑いさせられたのだ。
直接レイさんの名前が受け取った人達には伝わらないが、それでもいいんだと言ってレイさんは嬉しそうだ。
一方、サッポロの方では
「ねえ優也、随分参加してくれる人が集まっているんだけど、由美の方、大丈夫かなぁ?」
体育館が完成して、今日はステージの飾り付けの準備に入った。
ミイと2人でいろいろ視察のような事をして、今までの机上計画より数段出来が良く、その上、大型スクリーンを設置すれば、大袈裟でなく超大物のコンサート並みに仕上がるだろうと思っていた。
『何が心配?』
「ん?このステージに見劣らないかなぁ?」
『うーん、もしそうなってもいいんじゃないか。僕もミイと一緒なところ、あるよ。けど、由美さんが満員になるように人集めをお願い?された事を重視しようよ。それと、これだけのステージを用意することが出来るって、来てくれる人って、どう思うかなぁ?』
「えへへ、まぁ、嫌な思いはしないね。そっか、何だったら、お祭り?途中からステージに上げるのも有りか?」
『そういゃ、由美さんから言ってきたお父さん達の歌、どうなった?』
「あ、それはCDを送ってくるから、んーと、今日あたり届くかなぁ?」
『で、ミイは?』
「あはは、他人事みたい。優也もよ、惚けないでよ。」
『あ、僕は・・・口パクでいいんだろ?』
「ま、曲によっては・・・センターも有りよ。」
そして、その夜、驚きの声が上がった。
2人で家に帰ってみると、由美さんからCDが届いていた。
「ねえ、お母さん達と一緒に開けない?どんな顔をするか見ようよ。」
『こら、何か悪さを考えてるだろ?』
「いいじゃない、大いに楽しむ、これがコンセプトでしょ?」
『そりゃそうだけど、いいか、程ほどにしておけよ。』
驚きは、真っ先にミイを襲った。
お父さん達の家に行き、荷物を封切った。
そして、中から出て来たCDのジャケット。
「エッ、エーッ!」
「どうした?」お父さん、お母さんの2人が同時に身を乗り出した。
すると、ミイは、驚きの後の笑い声を交じえて
「これ、アイドルだよ。あはは、歌える?」
そう言って、お父さん達に渡した。
ジャケットに写っているアイドル?見たお父さん、
「おお〜、こりゃいい。この子は知ってるぞ、すごい有名だよな?」
お母さんに手渡しながら、お父さんはミイに話し掛けた。
「そうね、今でもトップだよ、すごい人気。あはは、いいかもね、これをうちの家族で歌っちゃえば、入場者全員の合唱になるかもよ、ねえ優也。」
『ああ、そういうことか、何となく由美さんの考えが読めてきたかな?』
お母さんは
「あら、これだったらステージ衣装、いるわね。」
「ん?お母さんったら、もうその気?いいけど、ミニスカートは止めてよね。」
「あらどうして?一度くらいいいじゃない?」
「お、母さんのミニスカートか・・・だったら、俺は・・・」
「お父さんまで?いい加減にしてよね。」
「あ、優也さんだったら、何でも似合いそうね、どんなのにする?」
すでに僕の意見や、ミイの心配事など無関係、その上、お母さんはと言うと、CDプレーヤーを取りに席を外した。
「なあミイ、これを森村も歌うんだろな?」
「そうじゃない?だって、体育館の本家本元だよ、うちだけってことないわよ。聞いておく。」
そして、夜遅くまで曲が流れ、お父さん達がノリノリになっていた。
自分たちの家に帰る時、お母さんの一言に驚いた。
「明日、カラオケ用意しておくから、おいでよね。晩ごはんはうちで・・・」
「すっかりその気、でも、これで心から楽しめそうね。」
『驚いたが、すっかり飲んでくれたのは驚きだったよ。』
「ねえーっ、私もタジタジだよ、何、お父さん達、おっかしいよね。」
『おかしくなんてないよ、嬉しいよ。何一つ嫌な顔しないで、やっぱりいい家族だなぁ。』
「それを他人事って言うのよ。お父さん達、優也が絡むと絶対反対しないんだもん、ちょっとジェラシー?」
『考え過ぎ、娘が可愛いからに決まってるだろ、ミイは素直だし、いっつも明るく笑顔。こう言う子がいるって、嬉しいだろうなぁ。』
「ンフ、よかったじゃん、こんな可愛い奥さんで。」
『コラッ、すぐにそうなる。』
「優也さん、新幹線?」
『だよなぁ、やっぱり、せっかく行くんだから、行きは新幹線、帰りは飛行機。』
「一緒に行くでしょう?一応、ルミさんに話してるんだけど。」
『いいのか?僕は問題ないけど。』
「どういうこと?いいに決まってるじゃん。それとも、ミイさんと?」
『そうじゃないよ、アイドルだろ、サクラは。』
「うーん、アイドルより、恋人、ってね。えへへ、ねえ、何時間掛かるか知ってる?」
『どのくらい?』
「多分、8時間くらい?まず盛岡まで、そこで乗換えて函館、そこからは特急かな?」
『ふぅーん、じゃあ、ゆっくりデートするか?って、マネージャー付きでだけどな。』
「えへへ、でもいい、優也さんのすぐそばだもん。」
『美味しい駅弁とか、サクラと食べれるんだ。』
「あ、お菓子とかも買ってくね。」
『太ったって知らないぞ。まるで、修学旅行じゃん。』
もうすでに2人とも、心はサッポロに向かっていた。
本番前日、早朝にもかかわらずサクラは元気一杯に現われた。
「おっはよー!」
ルミさんももちろん一緒に、こっちもユイさんと。
『おはよう。元気だなぁ、こんなに朝早くから・・・』
「あら、優也さんは眠いからテンション低いとか?」
『そんなことはないけど・・・あ、そうだ、とりあえず優也さんって言いかた替えよう、慣れてない。』
「ん?実は私も思ってたの、他人行儀だなって。ま、そういう部分は多少あるけど・・・」
すると、ユイさんとルミさんの2人が顔を見合わせ、吹き出しながらからかってきた。
「あら、まだ他人?アハハ、もう済ませちゃったと思ってたのに。ねえー。」
「なるべく時間を空けてあげてるでしょう?」
2人とも勝手なことを言ってくる。
『時間?はいはい、ま、そういう事にしておきましょう。あ、この車両だよ。』
“はやぶさ1号”新函館北斗駅行きは、6時32分東京駅を静かに出発した。終点函館には10時57分に到着予定だ。
座席は、社長の好意から4人ともグリーン車を用意してくれていた。
早朝のグリーン車は僕たち4人以外お客さんの姿がなく、とりあえず貸切り状態でスタートした。
座ってすぐ、サクラがバッグを開け、中から何かを取り出した。
「ユウくん、朝ごはんまだでしょう?サンドイッチだけど食べるよね?」
『おっ、サンキュ。買ってくれたの?』
「えへへ〜、実は、かおりと真由美が4時頃に起きて作ってくれたの。」
『すごい、いい友達だなぁ。僕なんか、車内販売でと思ってたのに、ふーん、なんかお土産考えよっか?』
「ピンポーン、カニとジンギスカン用のお肉だって。」
『えっ?決まってるの?』
「そういうこと。ま、あの二人だもんね、タダじゃ済まないよ。それもね、一番高いのだって。」
『アハハ、では、遠慮なく頂きます。・・・うん、美味い。』
ユイさんもルミさんも、美味しいと喜んで食べてる。
大宮駅を出ると仙台まで1時間ほど止まらない。
「ねえユウくん、以前、キャロちんさん達のステージで歌ったんでしょう?」
『ああ、もう2年以上前だけど。』
「その時の歌って、今も歌える?」
『多分歌えると思うけど、なんで?』
「あ、いや、ほら、私とデュエットするじゃん。これもずっと歌えるかな・・と思って。」
『大丈夫だよ、サクラと歌うんだ、死ぬまで歌えるよ。』
「大袈裟よ、死ぬまでって、何曲覚える気?ん?まさか、今回の一曲だけ?」
『オッ、ここでそう来る?いや、セリフよりしっかり覚える・・ことにしようかな。』
「なんか頼りない、でもいっか。あ、私は今のところ、お芝居のセリフでいっぱいいっぱいだからね。」
『ズル〜っ!』
一方、サッポロでは
『沙織、買い物まで付いて来るのか?』
「ウフフ、ケータが行くところ、どこにでも付いて行くわよ。ま、北の市場っていうの見たいんだ。」
『なあ、まさかとは思うけど、料理も参加するんじゃないだろうな?』
「ん?私、まさかが大好きなの、知ってるでしょう?金ちゃんは歓迎してくれたよ。」
『金・・・あいつ、ひと言も触れてないぞ。』
「あ、でもね、しっかり変装してやるから安心して。」
『ま、一緒に出発するって言ったから、何か企んでるとは思ったけどな。本業の方に影響しない程度にセーブしてよな。人手が足りないんじゃないからな。』
「えへへ〜、ケータ、優しいね。でも大丈夫だよ、めっちゃ楽しいんだ。」
もう一方では
「ねえ優也、お肉は言われた通り届いたけど、お野菜、大丈夫かなぁ?」
『心配ないんじゃない?それより、料理人さん達、半分は魚市場だろ、後の人たち、すでに始めてるよ。』
ミイはどうやら何かしたいのに、由美さんが一通り仕切っているのですることがなく、手持ち無沙汰なんだ。
そういう僕も、2000人ものお客さんをもてなす日を翌日に控え、すでにすることがない。
体育館の中は、何度も覗いているが、どこから見ても立派なコンサート会場だ。
「どうする?由美、もうすぐ到着するけど、暇だから迎えに行く?」
『そうだな、お昼ごはんでも食べながら打ち合わせしようか?』
正午を過ぎた頃、札幌空港に由美さんが到着した。
由美さんは一人では無かった。
「あら、お迎え?わざわざありがとう。」
「暇だから来たのよ、由美が仕切ってくれたからすることなくなっちゃった。」
「そっか、それでミイは不機嫌なんだ。アハハ。」
「笑わないでよ、明日よ、なのにする事ないの。で、その方は?」
由美さんの後ろから、ずっと笑顔で僕たちを見ている。
「高城レイさん、私の親友よ。どう、お上品で可愛いでしょう?」
「高城レイです。小暮優也さんと、奥様のミイさんですね。」
「こんにちは、あ、どこかのお嬢様ですか?」
『こら、失礼な聞き方をするんじゃないよ。初めまして、小暮です、よろしくお願いします。』
「お二人とも素敵なご夫婦ですね、由美さんが自慢されるはずですね。」
それから、途中、人気のあるレストランに入って行った。
「由美、大丈夫?」
「何が?」
「会場のレイアウトは完璧に仕上がったよ。ま、そこいらのコンサート会場より立派よ。まるで、数万人規模のアリーナ並って言っていいんじゃない?」
「あら、ミイってアリーナに行ったことあった?」
「あっ・・ないけど、多分・・・で、どんなメンバーが来てくれるの?」
「ん?どんなメンバー?普通・・かな?ね、レイちゃん。」
「そうですね、普通。あ、でも、しゃべりはすごいかも?ま、少しは楽しくなると思います。」
「そういうこと、きっと受けるよ。あ、それより、お料理の方がメインだと思うよ。今、東京で大人気のお店の人たちにお願いしたんだからね、楽しみにしててね。」
「凄そうな人達だった。リーダーみたいな人、テキパキと指示して、それを聞いている人達、すぐに理解して動いてたよ。あ、一人だけ女性がいたよ。」
「女性?」
僕はその時、由美さんとレイさんが顔を見合わせ、ニコッとしたのを見逃さなかった。
そして、由美さんがとんでもないことを企んでるだろうことは予想出来たが、実態が何か掴めなかった。
サクラ達とお昼ごはんは、新函館で一旦改札を出て駅前でお寿司を食べることになった。
「美味しいね、よかった〜駅弁にしなくて。」
『ホントだ、こんなに新鮮な魚だといっぱい食べれる。』
「でも一つ不安、夕飯は何食べる?お寿司以外だと・・・」
『ジンギスカンとかかな?』
「なるほど、あ、でも焼肉の方がいいかな?」
『じゃあそうしよう。美味しいお店、ウォッチングしなきゃな。』
するとルミさんが
「でもネット検索はダメよ。案外なお店が多いみたい、その上、旅行客が多くて落ち着けないと聞いた。」
『なるほどね、じゃあ誰かに聞こうか。』
次話をお楽しみください




