驚きの遠征
アリーナツアーは大盛況、三か所全てが満員で終了した。
さすが山口沙織さんは、トップアイドルとしての地位を譲らない、そう実感させられた楽しいイベントだったと心から思い、その場に出席させてもらったことに感謝した。
終了後、全スタッフさんたちとの打ち上げパーティーでは、皆さんからサクラの強烈なアイドル性を褒められていて、聞いているだけで僕は嬉しかった。
この3回の公演で、益々サクラが輝きを増してきているのは、すぐ側で実感していた。
挙句、僕にも同じように、多分よいしょだと思うが絶賛してくれていたことは、悪い気はしなかった。
沙織さんのお店、“さおり&れい”の個室に行ったのは2日後の夕方だった。
もちろん、サクラも一緒だったのは言うまでもない。
あれだけ踊り、歌っていた沙織さんは、疲れなど微塵も感じさせないでお店に出ている。
「もうちょっと待っててね、あと少しで終わるから。」
お店の中にあるサテライトでDJの真っ最中、これを楽しみに来ているお客さんを相手に楽しませていた。
この日、僕もサクラも完全オフ、ユイさんとルミさんの2人は少し遅れて到着した。
部屋に入って来るのに、ノックを何回にも分けて、その都度返事をしているのに中々入って来ないので、僕は仕方なくドアを開けに行った。
『どうかした?返事してるのに。』
すると、ユイさんが
「あ、今は二人っきりだから、なんかしてる?急にドアを開けちゃったら、困る?」
『何を言ってる?そんな、まさか?何もしてねぇし、そういうのを止めるのがマネージャーの仕事じゃん。』
すると、今度はルミさんの方
「止めないわよ、ただ、写メとか撮られて拡散っていうのは阻止するけど。」
「そうよ、いつになったら・・・」
『はいはい、もういいです。どうしてそういう事を平気で言えるか、不思議なマネージャー?』
サクラはと言うと、ルミさんの方に何かの合図を送っているし。
お料理が運ばれてきた時、沙織さんも部屋に入って来た。
「はあい、お待ちどう様。ん?この雰囲気だと、差し詰め優也くんが餌食ってとこ?」
『そうっす、助けて下さい。』
普段の僕からすると、かなり大きな声、切羽詰まった顔で助けを求めたつもりだった。
「ん〜、もうひとつかな?目が笑ってる。ま、演技としてはNGだね。」
軽くいなされてしまった。
「ところで、もうすぐ由美が来るから、今夜は打ち合わせするよ。」
「えっ、それって、サッポロに行くんですか?」
「そうよ、来月初旬。」
『おっ、スッゲエ。行くのかあ、北の大地。』
「でね、ちょっとスケールの大きな事を考えてみたの。それを由美と相談するのよ。」
いつもながら美味しい料理を食べていると、森村由美さんが到着した。
「遅くなってすみません。」
「全然、挨拶はいいから座って。」
少しドギマギしたようだが、沙織さんを見ると安心したのだろう、すぐに食事を始めていた。
「美味しい、やっぱり美味しい。」
「ンフ、今日のは圭太のお料理よ。どんなもんじゃいって言うのを作るって。」
『ホント、旨いっす。なあ。』サクラに振ると、大きな目を細めて可愛い笑顔で
「美味し〜〜い。」
その一言に全員が同じように、満面の笑みになっていた。
「いつに決まりそう?」沙織さんが由美さんに聞く。
「10月1日です。日曜日が重なるし、切りがいいから、それに大安。」
「そっか、で、そっちは?」
今度はユイさんとルミさんの番。
「あ、大丈夫、オッケーです。前後、5日間は。」
「ようし、決定。あの子たちは後で聞くとして、最低3人でもいいよね。」
由美さんは、何が起こるのか想像できていないようだ。
圭太さんが部屋に入って来た。
「ねえ、言っていた件、10月1日になるけど、お店、閉めれる?」
「ああ、みんなには慰安旅行することにして、もう心は北海道になってるよ。」
「じゃあよろしく。」
ついに、由美さんが
「あ、あのう、何が起こるんですか?」
「ん?知りたい?」
『当然ですよね、僕たちも知りたい。』
「杮落としジャック、差し詰め、沙織一座?ンフフ、北海道だけに、ドサ廻りってどう?ドサって、ほら、道産子って言うじゃない?」
『あはは、説明が詳しい。そこまで言わなくても分かります。で、何すか、演劇?』
「赤城の山も・・・って、バカ!ライブに決まってるでしょう。」
ノリ、ツッコミの良さは天性のもの、ホント、沙織さんの発案には頭が下がる。
ここから私、森村由美がこの場を借りて
「ミイさん、どう?」
「あ、由美、ん?ユウとはラブラブだよ。毎晩・・」
「聞いてないよ、バーカ。工事の方よ、もうまったく。」
「なあんだ、順調だよ。予定通り、9月半ばには完成するね。グランドの方も人工芝にしたから、もう完成してる。建設会社の、あの人達、すごい頑張ってくれてるんだ。」
「そう、良かった。で、今、優也くん居る?」
「うん、替わる?」
『もしもし〜、由美さん、ご無沙汰です。』
「ねえ、ミイの天然振り、何とかならない?」
『あはは、無理です。』
「即答?ま、仕方ないね。ところで、杮落としのことなんだけど・・・」
『あ、そうなんですよね、どれにしようか、中々決まらなくて。』
「だと思った。それでね、全て私に任せてくれない?」
『全て?そりゃ全然いいですけど、大変じゃないですか?僕たちもお手伝いしますよ。』
「あなた達は、その後の運用をしっかり頑張らなけりゃならないでしょう?そこに私、協力出来そうにないから、せめて杮落としだけでも仕切らせてくれない?」
『分かりました。ご迷惑をおかけしますが、是非お願いします。あ、準備することがあったら言ってください、何でも。最近、こっちにレンタルリース屋さんがオープンして、この間セールスに来てましたから、何でも出来そうですから。』
「へえ〜、それは助かるわね。」
『で、ちなみに、どんなことを考えてるんですか?』
「一応、コンサート形式で、ま、私の友達がメインだけどね。それと、美味しい料理を用意するとか。」
『コンサートか、それは考えてなかった。いいなぁ、ついでに、みんなで歌うなんてことも?』
「それも考えてる、料理は何人前か考えておいて。料理するメンバーもこっちから連れて行くからね。で、実施日は予定通り10月1日にして、そうね、かなり大袈裟に集客してくれる?そうね、少なくても満員。」
『はいはい。ご期待に添えるようにします。あ、ミイが代われって。』
「もしもし〜由美、なに、全部仕切り?助かったあ〜。」
「何が?」
「赤ちゃん。」
「えっ、出来たの?」
「まだだよ、作れるじゃん。その時間がとれるでしょう?」
「アホッ。ホント、じゃあね。」
そして、サッポロでは
『コラッ、言い過ぎだろ?せっかく由美さんが協力してくれるってのに、どういうことだ?』
「アハッ、怒った?いいのよ、あのくらい言うと、由美って燃えちゃって、今考えてることより数段上になると思うから、ちょっと刺激したのよ。ねぇ、それより、ユウ、刺激された?」
『バ、バカッ。ここんとこ毎晩だろ、今夜は休養だ。』
「やーだ、休ませない。」
「コンサート形式って、由美の友達、バンドを組んでるとかかな?」
『さあ?ああいうんじゃない、将来的にプロを目指して活動してるとか。きっと上手いだろうなぁ?』
「あの路上ライブとかかな?」
『それとも、大学のコーラス部とか、生音楽部とか?とにかく、由美さんが自信あるからいいよな?』
「だったらさぁ、舞台じゃなくステージ、うん、本格的なステージにしようか。音響設備を最高にして、あ、そうだ大型スクリーンをステージの上に上げて、カメラで歌っている人を映す。盛り上がるよ。」
『それいいね。もしかして、将来有名になれば、みんなの思い出になる。あ、料理は何人前かだって。』
「お料理か?そっちはさすがに全員の分は用意出来ないよね。費用じゃなく、そんな人出は無理だもんね。」
この事の最終決定者は、隣に住むミイのご両親。
僕たちはそこを訪れた。
『こんばんは、お邪魔します。』
「おお、こんばんは。珍しいな、まあ掛けなさい。」
「お母さんは?」
「ん?もう直ぐ来るだろう?お風呂上がりだよ。」
「じゃあ呼んでくる。」
ミイは勝手知ったる家、呼びに行った。
「で、どうかした?」
『あ、杮落としの最終相談にお邪魔しました。』
「おお、いよいよだな。いいよ、相談の必要なし。それで決めなさい。」
『あ、そ、それはダメでしょう。』
そこへ、専務であるお母さんとミイが入って来た。
「あらあら、来るなら来るって言ってくれれば、ね、食事は?」
「あ、そうだ、食事、忘れてた。」
「何それ、忘れることじゃないでしょう。もう、しっかりしなさい。と言っても、用意してないから、お寿司でいい?」
「うん、あ、茶碗蒸しと赤だしつけてね。」
『こら、言い過ぎだろ?』
「いいのよ、いつものことだから。」
「えへへ、で、もう話したの?」
『うん、でも、ほとんど。』
「またぁ?お父さんったら、任せた?」
「何を言ってるんだ、この件に関しては、最初から一任してるだろうが。報告の必要なし。」
そこへお母さんもコーヒーを淹れてくれて揃った。
「お父さんもお母さんも、今夜はじっくり聞いてください。」
すると、お母さん
「あらあら、真面目に聞けばいいのね。珍しい。」
「茶化さないで。」
『杮落としの事ですが、予定通り10月1日に決定します。どういう式典にしようかと考えていたところ、さっき、由美さんから全て仕切って下さると連絡があり、お願いしました。』
「ほう、由美が仕切ってくれるのか?」
「いいんじゃない?」
『概略ですが、どうやらコンサート形式でのお披露目になりそうです。由美さんのお友達に歌ってもらえるそうで、ユイとさっき相談したんですが、ならそれを派手にしようということで、舞台を本格的なステージにして、その中央にスクリーンを設置して、様子を映します。』
「あ、テレビで見たことがあるわ。いいじゃない。」
『皆さんで一緒に歌うことも考えてます。もちろん、その時はお父さんたちにも参加してもらいます。』
「おいおい、もちろん、森村もだろうな?」
「ええ、由美に誘ってもらうつもり。」
「ならまあ、仕方ないな。ただ、少し練習するから、曲名だけは絶対教えてくれよな。」
「あはは、ヤダ〜お父さんったら、目立つつもり?好きね〜。」
「当たり前じゃん、私がんーと、センターっていうのか?」
『あ、アイドルですね、分かりました、由美さんに言っておきます。』
「母さんとデュエットするか?」
「私はいいわ、そんな、恥ずかしい。」
「あれっ?お母さん、若い頃目指したって言ってたよね?」
「そりゃまあ、近所じゃ有名な美人だったからね。」
『じゃあ決まりましたね。それから、料理は由美さんの知り合いを連れて来てくれるので、全部任せました。』
「そうか、で、何人分?参加者全員か?」
『あ、いや。もちろん、理想ですが、なにぶん、体育館を満員にするよう言われてますので、そうなると2000人以上になりますので、ちょっと無理?』
「無理?無理はいかんなぁ、料理人を集めればどうだ?食材なら、前もって準備しておけばいい。」
『えっ、いいんですか?』
「だって、2000人も集めて、あなたは食事を、あなたはお帰りください、って、優也さんが決める、それともミイさん?」
「そんな・・・こと、出来ないから、分かったわよ、2000人分、グランドをフル活用するわ。」
「じゃあ解決したな。他にあるか?」
『いえ、以上です。』
丁度お寿司が届いた。
お父さん達はすでに食べ終えていたらしく、おつまみにお刺身、ワインを飲み、僕たちと一緒に食べてくれた。
「由美が仕切ってくれるって、思ってなかったなあ。あの子もさすがだな。」
「私もでしょう?さすが、我が娘。」
「いやいや、お前はまだまだ。」
「なによ、そのダブル言葉って、おかしくない?」
『ダブル言葉?案外いいかも。上手いなぁ。』
「ちょっと〜、上手いってどういうこと?」
真面目な剣幕で僕を睨んできた。
『あ、いや、このお寿司、旨いって言ったんだよ。』
「はい、優也さんの勝ち。やっぱりミイさんはまだまだ。」
「もう〜みんなで寄ってたかって。今度、お返しするからね。」
自分たちの家に戻ると、由美さんに電話した。
料理はどうしても全員の分、そして、ステージをこういう風にしようと思っていることを伝えた。
もちろん、依存がないことを確認出来た。
優也さん達からの連絡を、わたしは沙織さんに報告した。
「ヘェ〜、なかなかやるじゃん。舞台じゃなくステージって、けっこう期待出来るね。問題は、2000人分の料理か?さすがに圭太達だけでは人出が足りないわね。ちょっと時間頂戴。」
そう言って、電話が切れた。
「どうする?」
『予定していたのは、うちのメンバーで500食がいいところだったんだ。それも、前日の夕方から徹夜で。どうするか、問題は味だよな、なるべく同じようにしたいからなぁ。』
「そうだよね、圭太のお料理に合わせられる料理人って、そうそう居ないわね。」
『いや、そんなことはないけど、知らない人に、徹夜とか、無理なことを頼めないだろう?』
「そっか、そっちだったんだ。そうだよね、無理が・・・ん?居るよ、居たよ。少々の無理が通る人達。」
『まさか?』
「そうよ、金ちゃん。あ、私、連絡する。ん?あ、そうだ、行ってくる。」
『おっ、サオリにか?それだったら確実だな、でも、いいのか?』
「大丈夫、日帰りだから寂しくないよ。」
『ん?何を心配してる?』
沙織の行動はいつもながら素早い。もちろん、アポなど必要なしで翌朝、飛び出していった。
久しぶりに駅の改札を出て、お店、サオリの前に立った。
満員とは言えないが、席は8割方埋まっているのが見えた。
私は、そっと裏口から侵入して、調理場のドアをゆっくりと開けた。
知らない人の向こうに、懐かしい金太郎が忙しなくしているのが見えた。
私に気が付いた人には、口に指を立てて騒がないように抑え、金ちゃんの後ろに立った。そして
「おい、そんな手付きで美味い料理が出来るのか?」
面白かった、その時、金ちゃんの手元が狂い、危うく指を切りそうになって包丁を放り出した。
そして、振り向いた時、私は後ろを回った。
「誰だ?」
そして、ようやく目と目が合った。
「シャ、シャオリン?わぁおっ、ど、どうしたんすか?エッ、久しぶり・・・」
「んふふふ、圭太から聞いてるわよ、儲かってるらしいね。」
「あ、あはは、ぼちぼちでんな。」
「余裕、関西弁覚えたの?」
「テレビですけどね、あ、突然どうしたんですか?って、まあ、シャオリンの得意技ですけど?」
「あら、ご迷惑?帰ろうか?」
「あ、またあ、せめて食べて行ってくださいよ。」
「お金ないし、高いんでしょう?」
「あはは、いつまで続けます?」
「あ、じゃあバイトする。だから、賄い料金で。」
「賄い料金って、ん〜なるほど、タダってことですね。ようがす、最高の料理を食べてもらいます。」
私がフロアに出ても、以前のような歓声が上がらない。ちょっと悔しくなって、大声を出してみた。
「みなさーん、ご来店ありがとうございます〜〜。」
突然のことに驚かれたのか、一瞬の間が開いた後、どよめきと共に歓声が上がってきた。
「キヤーッ、沙織?ウッソ、本物?わあ〜、キレイ〜〜。」
キレイに乗っかった。
「キレイ?誰が言った?なんかあげたくなっちゃう。」
すると、ほとんどの席から キレイ の連呼。
いつの間にか写メ会が遠慮なく始まり、数分後、聞きつけたお客さんが溢れ、満席で済まないことになった。
私は、もちろん上の階のイタリアンに行くからと誘導することも忘れなかった。
そして、2階のドアを開けると、さすがに1階の出来事が伝わっていたのだろう、すでに満席状態になっていて、ここのチーフ、コロちゃんが満面の笑みで迎えてくれた。
「すっごいね、さすがコロちゃん、いつも満員とは?」
「あ、早速ですか?いつも満席になりませんけど、けっこう・・・」
「そっか、良かった。あ、賄いですよね、任してください。」
「ん、じゃあバイトしろってことね。」
「あ、いや、でも、そうですね、えへへ〜。」
「うん、成長してる。じゃあ騒いでくるね。」
久しぶりに堪能していた。
お店が休憩時間になったので1階に行くと、こちらも久しぶりのお母さんが待ってくれていた。
「お母さん、ご無沙汰してます。お元気?」
「ようこそ、って。あはは、沙織さん、変わってないね、嬉しい。」
「あ、シャオリン、賄い出来てます。お母さんと一緒にどうぞ。」
「あ、金ちゃんもコロちゃんも一緒に食べよ。今日はお願いがあって来たのよ。」
「お願いっすか、オッケーです。なんなりと。」
「まだ何も言ってないって。」
つづく




