まさか、こんな筈では・・・
3大アリーナツアーが始まった。
さすがだと思ったのは、前売りチケットが販売開始と共に即日完売したと聞かされたこと。
山口沙織さんの人気は相変わらずで、そこに野村睦子、妙見理沙が加われば常にこうなんだろうと納得していた。オープニングの前、ステージ衣装に着替えて鏡の前に立つ、すると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
J系のようなキラキラ衣装、どう考えても似合わないだろうと思った。ユイさんに
『これって、間違いじゃない?めっちゃ恥ずいけど。』
「あら、似合ってるわよ。あ、でも恥ずかしいと思うなら一つだけ教えるね。衣装より自分を見ろってくらいの迫力を出しなさい。アイドルじゃなく、映画監督からの演技指導が入り、演技するのよ。NGなしで。」
『分かった、あ、その代わり笑ったりしないでよな。』
出演者に集合がかかった。
ステージ裏に行くと、サクラが胸をさすりながら目を閉じて上を向いている。落ち着かないのだろう、足を動かし、時々息を大きく吐き出している。
僕は、その横に行き声をかけた。
『キレイで可愛いよ。』
「あ、ありがとう。ねえ、めっちゃ緊張してるんだけど。」
『落ち着く方法、分かんないけど、どう、僕に聞かせてくれるってのは?』
「エッ?あ、そうか、今日だけみんなをトモ君にしちゃおうか?そしたら、うん、聞いててくれる?」
『もちろんだよ。あ、内緒だけど、上手くいったら僕ん家に招待してもいい?』
「ん?エッ、ホント?や、約束だよ、今夜。アハッ、やった、ようし聞かせるぞ〜。」
『急に男か?』
沙織さん達も集まってきて、みんなで気合いを入れそして、サクラが先陣を切るためステージ中央の幕の裏に立ち準備している。
観客席からは、待ち焦がれた色々な掛け声が聞こえてくる。
そして、サクラのデビュー曲のイントロがかなり大きな音で流れ始めた。
すると、「お〜〜、お〜〜お〜〜」と、地鳴りのような気がする。
サクラの最初の歌声は、観客の皆さんの度肝を抜いたのではないかと思う、そうインパクトのある声で始まった。僕は、ステージ横から観客席とそっちに向かって大きく手を振りながら、横顔だけでも分かる満面の笑顔で、うん、堂々と歌っている。
ステージ正面まですすむと、気持ちいいくらいのダンスも付いている。
観客席からは、色取り取りのサイリウムが振られ、掛け声も見事に揃っている。
一曲目が終わる、間髪を入れずにすぐに二曲目。三曲目になると、それまでの応援、声援より数倍の勢いでサクラを鼓舞してくれている。
歌い終わるとステージ上が真っ暗になり、次いで、一筋のライトがグルグル回って、艶やかな衣装に包まれた野村睦子さんを照らし出す。
その間、多分10秒程の後、再び歓声が蘇ってきた。
僕はこの後の妙見さんに続くので、ステージ後方にある階段の上、中央にスタンバイして待つ。
妙見さんの歌が始まると、急に緊張感が増して来た。
サクラがあんなに頑張っていたのだから、僕だって頑張らなければ。
ふと肩を叩かれ、驚くと横に沙織さんが
「よっ、サクラ、よかったよね。優也は・・上がってしまって、ミスってみる?うちのだったら、そういうのもアリだよ。えへへ、気楽に行こうね。」
それだけ言うと、沙織さんはサッサと降りて行った。
妙見さんの歌が終わりに近づき、観客の参加を煽っているのは、前にテレビで見たことがある。
そして、終わった、ライトが消えた。
僕の曲は、出だしは今までの3人とは、打って変わって静かに始まる。
真っ暗なまま歌い始める、数秒後、スポットライトを浴び、そこからアップテンポな曲に変貌する。
リハの時、派手なダンスを教えられ、何度も繰り返しレッスンを重ねた結果、練習以上に気持ち良く乗れていた。
一心不乱にやっていたつもりだったが、観客席からは何も聞こえてこなかった。
それでも、最後までしっかりやり遂げ、ステージ袖に引き下がった。
すぐにユイさんからお水のペットボトルを受け取り、あっという間に3分の1くらい飲んだ。
「良かったよ、沙織さんからの伝言。」
『ん?ホント?』
「沙織さんの2曲が終われば、ステージに集合するんでしょう、MC楽しみにしてって。」
『あ、そう。』
サクラ達が揃って僕のいるステージ袖に集まって来た。
「優也君、良かったじゃん、最高!」野村さんからそう声を掛けられると、妙見さんも。
サクラまでも。
『サクラ、ノリまくってた。よかったよ。』
「でも、今のところ優也の方がトップ?」
『ん?』
沙織さんのMCが始まる。
「みなさーん、今日はこんなにたくさんの人、ありがとう〜〜。さあ、みんな、出てらっしゃい。」
野村さんから妙見さん、サクラ、最後に僕、の順番で中央に進み出た。
沙織さんは、サクラからペットボトルの水を受け取り、一口飲んで、息を整え、話し始めた。
「皆さんに、取り敢えずご紹介しなければならないお二人から。」
すると、思いっきり手を挙げ、前に飛び出したのは・・野村さんと妙見さん。観客のブーイングとほぼ同時に
「何、あんた達、引退するの?勝手にすれば?」
「ひど〜い、引退なんてするもんですか。」
すると、タイミング良く、観客から
「エーッ?」
「エーッ、って誰?どういうこと?」
掛け合い漫才って、こういうのだろう。ステージと客席が、あっという間に一体化し、笑い声に包まれた。
「どう、最近、このワンパターンが受けるの。アイドルで売れなくなったら、こっちの道に行く・・らしいの、この二人。」
「トリオだよ、沙織をリーダーって呼んであげるからさ。」
「アハハ、では、真面目に・・・まずは、野生児、三条優也〜〜!」
名前を呼ばれたので、お辞儀をした。すると、沙織さんからのアドリブ
「あ、あのさぁ、お辞儀をしてお仕舞い?聞いてみようか?皆さん、今ので許せますか〜〜?」
観客席からの声は 「許せませ〜ん!」
「だって。なんかしゃべりなよ。」
僕はマイクを口元に持っていき
『何を喋ればいいんですか?』
「そうね、まずは自己紹介でしょう、それから、んーと、初恋はいつでどうなったか?」
『ゲッ、え、え、そんな〜。いくらなんでも、ここじゃ〜〜。』
「あら、言えない?恥ずかしいことなの?それとも、思いっきり失恋した?」
『あっ、ホ、本気ですか?』
「もういいわ、ほら、お客さんを見てごらんよ、みなさん優也君の初恋を聞きたがってるわよ。ねぇ、みなさん、三条優也に初恋が無かったはずはないと思いません?」
「思う、思う。」「どんな人か知りたーい。」
「で、どうします?私、ご存知の通り、今の主人は初恋の人です。」
「知ってる!羨ましい!そんな沙織さん、大好き〜〜!」
「ありがとう。ほら、優也君、ファンの人って、こんなに優しいのよ。ま、今日は許してあげる。でもね、大切な初恋が進行形なら、早く発表しなさいね。」
客席から一斉に声援が聞こえてきた。
「ということで、わたしが作った曲 “ファースト ラビィング” をあなたの次の曲にしなさい。そうね、デュエット曲になってるから、サクラ・・・一緒に歌う?」
いきなり振られたサクラ、驚きながらも
「あ、いいんですか?わたしが歌っても・・?」
「サクラにもどうせ初恋の経験あるでしょう?二人を指名するから、全国の初恋を大切にしている人たちを応援してみようよ。みなさん、どうですか?」
「いいぞ。」の声ばかり。中には、「印税は?」
「アハハ、印税はもちろん、頂きまーす。」
そして、リハーサルでは無かった、沙織さんの曲 “ファースト ラビィング” が流れた。
まだ演奏してるのはギターだけの伴奏しか流れていないが、両サイドに僕とサクラを並ばせて。
もちろん、この後のステージも大盛り上がり、当初予定の時間を1時間近くオーバーして終了した。
楽屋に戻る前、ステージの裏にみんなが集まって成功を祝っていた。
「どうだった、サクラ、優也君は?」
『酷かったです。何かあるだろうと覚悟はしてましたけど、まさか、初恋の話しを振られるとは?』
「ンフフ、で、あの時、サクラはどう思ってた?ハラハラ、ドキドキ?どっち?」
「ドキドキしてました。」
「だって。言うと思った?」
「ん〜、言ってもいいと思ってました・・かな?あ、でも、無茶振りだと思いました。」
「今度のアリーナで、私がバラそうか?」
「あんたはダメよ、初恋を何十回もしてるんでしょう?敵を作るから。」
野村さんを抑え込んだ。
「ひどっ、何十回もないわよ、初恋だったら、5~6回だよ。」
「アハハ、今度の掛け合い漫才に使う?」
「あ、でもあんなステキな曲、二人に頂けるんですか?」
「うん、いい曲でしょう?この前、森村由美さんと会った日、思いついたの。」
「すご〜い、そんなに早く出来るんですね。」
「次のステージで披露してね。優也君のところ、いいでしよ?」
『あ、はい。下手に歌えないですね。サクラと相談して、感情込めて歌おうと思います。』
「サクラはさぁ、歌うたびに優也君からプロポーズされるんだよね、それ、照れないでね。」
「えへへ〜、ですよね、もうプロポーズは済んでるんですけど、やっぱり嬉しい。」
「済んでる?まあ、よく言うわ、この子ったら。」
その後、約束通りサクラを僕の住居に連れて帰った。
マンションの入り口、オートロックのドアを開けていると、サクラはキョロキョロ辺りを見回している。
そして、エレベーターに乗り込むと
「ンフフ、とうとう来ちゃったね。」
『そうだな、遅くなってごめん。』
「謝らなくていいよ、もうすぐ・・・ンフフ。」
最上階、と言っても3階建ての3階、すぐにエレベーターが止まり、部屋の前、鍵を開けて中へと誘導した。
「お邪魔し、まー〜す。」
部屋の中を確認するように眺めながら、リビングに。
ベッド、ソファ、テーブル、それにテレビが1台しかない部屋に、一歩踏み入れたサヤカ。隅から隅まで何度か眺め回し、ようやく声を出した。
「キレイ、まさか、女性が?」
『ん?お、おい、どうしてそれが第一声?』
「だって〜、キレイ過ぎる。どこも散らかってないし、あ、普通、男の子って、ここまでする?」
『あ、普通って知らないけど、コンサートで恥をかかないようにどうするか考えた結果、部屋の中をキチンとすればいいんじゃないかと。』
「すご〜い、そんなこと考えて整理整頓?私も見習おうっと。じゃあ女性の影はない、よしよし。」
『よしよしって、疑ったことをごめんなさいだろう?あ、なんか飲む?』
「ううーん、ね、座っていい?」
『あ、ごめん、どこでも座って。』
すると、サクラが真っ直ぐ向かった先は、僕のベッド。
そして、思いっきりジャンプして飛び込むようにうつ伏せ。
「キャ〜ッ!・・・えへへ、こういうの、一度やってみたかった〜〜!」
『お、そっか。あ、あのさぁ、いいんだけど、ちょっと過激?』
「ん?何が?」
『ま、丸見え。スカートの中。』
「えっ、キヤッ、あ、ごめん、穿いたままだった?」
そう言いながら、ベッドから起き上がり僕の方に向かって来る。
「ねぇ、いつになったら襲ってくれるの?」
『お、襲う?』
サクラは、僕の顔を、すぐ近くから見上げるようにして、おねだり?
もちろん、僕もすでに今夜こそ挑むつもりだった。
そして、優しく両手でサクラの肩を抱き寄せるようにした・・・
まさに、テレビドラマのような展開
本当にタイミングは、サクラが目を閉じて唇を突き出してきた・・・その時
サクラの携帯が鳴り出した。
多分、あと数センチ?
『あ、電話。』
「んもう、いい。ほっとく。」
『先に出なよ、気になって落ち着けない。』
サクラは不承不承、携帯を取り出して
「真由美だ、お邪魔虫め。もしもーし、なによ〜〜・・・・」
そう言って出たが、何やら黙って聞いている。そして、
「分かった、すぐに行く。あ、うんタクシーで行くから、分かると思う。うん、じゃあね。」
サクラの表情がみるみる変わっていったことから、何かがあったのだろうと思い聞いた。
『どうした?』
「あ、かおり、病院に。大丈夫だと思うけど、ごめん、行くね。」
『あ、僕も行くよ。』
「え、トモ君も?」
『ああ、恩人だろ、僕たちの?』
「あ、そうだね、ありがとう。」
すぐにマンションを飛び出し、偶然にも通りがかったタクシーを停め乗り込んだ。
サクラは心配そうにほとんど喋らないまま、30分ほどで病院に着いた。
夜の遅い時間、もちろん、面会時間はとっくに過ぎている、夜間出入り口の所に真由美さんが待ってくれていた。
「真由美、かおりは?」
「大丈夫よ、さっき目が覚めた。あ、ちょっとだけ面会出来るから行こ。ねぇ、トモ君と一緒にいたの?」
「そんなことより。」
真由美さんの余裕を見て、僕はホッとしていた。
病室に入ると、かおりさんが
「ごめーん、こんなことになっちゃった。」
見ると、左肩から手首近くに白い包帯が巻かれてある。
サクラは、それを見て
「大丈夫なの?ここだけ?頭とか打ってない?他には?」
そう言いながら布団をめくったりしながらチェックしている。
「足に青アザがあるくらい。さっき先生が脳波に異常がないから、2,3日で退院出来るって。」
「そっか、よかったぁ。もう、突然病院とか、入院なんて聞かされたら、心臓が止まりそうになったんだよ。」
「お騒がせしてごめん。で、ところで、サクラ、どうしてトモ君がいるのかな?」
『あ、いや、今日はアリーナツアーの初日でさあ、僕からサクラを誘った、んだよ。』
「そ、そうよ。あんなに大勢の人に応援、されてさあ、それのお祝い?しようかなと思って。」
「おかしいなぁ、二人っきり?だよね。ってことは、私がこんなことになってなかったら、ひょっとして?」
すると、真由美さんまで
「そっか、とすると、かおり、あんたのドジ、一生ついて回るぞ。おー怖ッ。」
「ご、ごめん。それも、サクラの靴を履いて階段から落ちた。」
「ん?聞いてないんだけど、私の靴を勝手に履いて、それで転んだ?酷っ、酷〜〜い。」
とどめの一言は真由美さん。
「ああ、あのヒール、折れちゃってたから、サクラ、買い直しね。」
「ま、まさか、買ったばっかりのアレってこと?赤のパンプス?」
かおりさんの容態が思った以上に軽そうだったので、病室だという事を忘れて話し込んでいたが、巡回の看護士さんから注意されることになった。
かおりひとりを残し、僕たち3人は病院を出た。
『さあ、送って行こう、タクシーを捕まえてくる。』
時計を見ると、ほぼ0時、タクシーが捕まえられるか不安だった。
近くの広い道路に出て探していると、サクラと真由美さんが側に来て
「あんた、もう一度行って来なさいよ。私は一人で帰るから。」
「いいよ、一緒に帰る。かおりがいないんだよ、真由美を一人にさせないわ。」
二人の話し声を聞いて僕は決めた。
『あのさぁ、僕を泊めてくれる?』
真っ先に驚いたのは真由美さんの方だった。
「エッ、ウチに?あ、ま、いいけど。あ、でも、明日の仕事は?」
「明日は二人とも夕方からよね?」
『ああ、』
「未来のお嫁さんが、どんな所で、どんな生活をしているか、見たい?」
「やーだ真由美、未来のお嫁さんって。」
「違うの?なら、強奪・・」
言い終わらないウチに、サクラの行動が素早かったので、見逃した。
「イッテッ!」
「ね、トモ君、私の部屋で寝るよね。」
『バ、バカな。リビングかどっか。あ、なんだったら起きていてもいいんだよ。』
そして、真由美さんの実家だという家に初めて足を入れた。
「どう、女子だけの世界よ。ここにオトコが入ったの、初めて。」
「真由美、言い方が変。オトコって、なんかいやらしい。」
「いいじゃん、あなたたちは恋愛中、私は?」
『あ、気がつかなかった、ごめん、帰ります。』
「あ、冗談、冗談よ。つい意地悪をしたくなって。ねえ、なんか食べるでしょう?とりあえず座って。」
『エッ、いいの?』
すると、サクラが僕の腕を引っ張ってソファに座らせた。
「ホントはね、真由美、嬉しいんだよ。今までは、トモ君とあまり直接お話し出来てないでしょう?それが、急にこうなったから、照れ隠ししてるんだよ。」
「こらサクラ、勝手に想像で喋んないでよ。それより、軽い物しか出来ないけどいい?」
「うん、何でもいい、手伝おうか?」
「いいよ、邪魔になるから。それより、イチャイチャしてなさい、見ないから。」
「はあーい、お言葉に甘えて。」
『な、何言ってんだよ。そんなつもりで来てるんじゃないんだ。』
「だって。真由美、せっかくのご好意を無碍にされました。」
その後、3人でずっと話し込んでいた。
つづく




