彼女はアイドルー2
サクラの名が頻繁に出始めていることは、ユイさんから毎日のように聞かされている。
もちろん、その都度嬉しさが込み上げてくるのは当然だと思う。
僕はといえば、毎日、沙織さんに誘われているアリーナツアーの準備。
折角のチャンスだからと、社長が大乗り気になって、そのツアーの為、新曲を3曲も作ってくれレッスンに明け暮れていた。
僕にとって、最初のCDを売り出したとき、10万枚を超えたところでオリコン3位だった。丁度あの時、キャロちんさんのグループの売り出しと重なり、向こうは当然ミリオン達成していたので特に僕は騒がれた思い出は無い。
最近はサクラの曲が売り出されると、ミリオンに近づくくらいの売り上げで、その上、沙織さんとの仲良し関係がメディアに頻繁に取り上げられる様になり、勢いに拍車がかかっている様だ。
アリーナツアーがいよいよ翌週に迫った日、都内のスタジオに集合がかかった。
一応、リハーサルをしておこうということで、勿論、本番を想定してのことなのでスタッフさん達も来るらしい。
そのスタジオに、朝9時に到着するとサクラが既に到着していて
「おはよ!」
何時に起きたのか、いつもの元気な姿、そしてめっちゃ可愛い笑顔を見せてくれた。
『おはよ。んふ、早いね。』
「ん?今来たところよ、ト、あ、優也さんこそ・・」
サクラはもうレッスン着に着替えていたので、僕も着替えることにした。
まだ夏の真っ盛り、膝下までの短パンと、ゆったり目のTシャツ。スポーツタオルを持って戻ると丁度沙織さんたちが到着したところだった。
そのシーンは何度か見たことがある、野村さん、妙見さんたちとのさながら掛け合い漫才?といったところ。
あっという間に空気を入れ替えてしまった。
準備をしていたスタッフさんたちの手が止まり、何事が起きたのかと振り返る人、いつもの事だと既に楽しむ顔をして笑顔になっている人、様々だが、明るくなったのは間違いない。
少しだけの打ち合わせ、真っ先に歌うことになったサクラは、緊張のためだろうかすぐに沙織さんからダメ出しの声。
「そんなんじゃダメよ。いい、オープニングの第一声は音程なんか意識しないでいいの、お客さんに強烈な一撃を与える重要な役割を担ってるのよ。」
サクラは、その気迫に押されたのか、気をつけの姿勢になって聞いている。
「もうそんなだったら、んー、決めた、3曲通しでやりなさい。」
打ち合わせでは、サクラ、野村さん、妙見さん、僕、沙織さんと順番に歌うはずだった。
「エッ、えーっとさ、3曲連続ですか?」
さすがにサクラも驚いたのだろう、声に出して確認した。沙織さんは、なんでもない様な顔で
「そうよ、しっかりね。」
「あ、はい。」
と、応えたものの大きなプレッシャーを感じたのは目に見えて分かったが、すぐに曲が流れ出した。
すると、サクラは、最初の出だしからマックスと言えるくらいの声量で歌い始めた。
2曲目、3曲目と休む間もなく続く。それぞれの曲には必ずダンスが付いているが、それもサクラは手を抜くことなく必死に踊っている。
終わった時、息を切らせたサクラの顔から汗が吹き出していた。
「いいじゃん、さすがだね。どう、歌ってみて?」
沙織さんが話しかけると
「あ、楽しいです。気持ち良かった。」
少しの休憩後、野村睦子さんのヒット曲が流れて歌い出す。
妙見理沙さんが歌い終わると、曲調がガラッと変わる僕の曲がかかる。
そして、沙織さん。真打ちの登場で一気にパワーアップすることが予想出来る。
沙織さんが2曲歌い終わると、野村さんの歌が再び流れ、この時、全員で歌うことになり、僕も仲間に入る。
各自の持ち場を沙織さんが決め、その都度調整される。
僕の持ち歌5曲は、結構いいところに充てがわれオーバーアクションをとるように求められた。
サクラはというと、持ち歌以外にもアイドルの歌をダンス付きで歌っている。
沙織さん達と一緒に踊るところもあり、それは馴れないダンスなので何度も途中でストップしてしまう。
ダンスを指導してくれるスタッフの方にお願いして、スタジオの片隅に移動、特訓してもらった。
空腹も忘れ没頭していた様で、お昼休憩の声がかかった時、時計を見ると3時になろうとしていた。
およそ6時間、ぶっ通しでやっていたことになる。
「汗、すぐに拭いた方がいいよ。クーラーが効いてるから風邪ひくよ。とりあえず着替えて昼食にしましょう。あ、安心して、まだまだやるからね。」
沙織さんのレッスン風景を見ていたが、一番若いサクラよりはるかに動き回っていた様に思うが、疲れなど全然感じさせないで言い放った。
この日の昼食はケイタリングのカレーライス。中辛にしてくれのは沙織さんの気遣い、このお店の辛口だと誰も完食出来ないらしい。
中辛とはいえ、せっかく汗を拭いたのにおでこから汗が吹き出している。
それを見て、沙織さんや野村さんたちがニヤニヤしていることから、又、イタズラに巻き込まれた様だ。
そして、夕方6時、長〜いリハが終了した。
「優也くん、この後空いてるんでしょう?」
『あ、はい。何も・・』
「サクラさんは、あ、当然空いてるわよね?うちのお店でデートしなさい。」
「あ、はーい。えへへ〜。」
サクラは嬉しそうな笑顔を僕に見せてきた。
野村さんと妙見さんは夜、テレビの録画撮りの仕事があるからと言ってここで別れた。
沙織さんと僕たちは一緒にお店に向かった。
“さおり&れい“は相変わらず混み合っていて、沙織さんが中に入っていくと一気にボルテージが上がり、中には悲鳴の様な歓声が聞こえてくる。僕とサクラを個室に入れると、沙織さんは来店してくれているお客さんのお相手をしばらくする。
僕とサクラが先に席に着くと、ウエイトレスの方が飲み物を運んでくれる。
レッスンで喉が渇いたままだったので、とりあえず冷たいお水を一気に空にした。
「トモくん、早いよ。疲れた?」
『ああ、何分にも初体験だからね。サクラは?そっか、慣れてるから平気だった?』
「そうでもないよ、だって、最初のところでドジったでしょう。あれで一気にプレッシャーが来て、夢中でやっちゃったから、さすがに今日は息が上がったよ。」
『ふぅーん、でもさすがだなぁって思った。』
「お待たせ。あら、話の邪魔だった?」
沙織さんが入ってきて第一声がこれ、冷やかしの言葉。
『残念でした、今日の反省会の様な話ししかしていませんでした。』
「なーんだ、チュウとかしてないの?」
「そ、そんなこと・・・」
「してくれない?つまり、サクラの期待を相変わらず・・・ってか?ダメだなぁ優也くんは。」
『ダメ?え、え〜〜〜!』
「あはは、真面目!」
沙織さんは何枚かの用紙を持っている。
お店の人に食事の注文をした後、その用紙に目を通し始めたので、静かに見守っていた。
「へ〜〜〜、これ、気になるな〜。あ、ちょっと待ってて。」
そう言うと、一枚の紙を持って部屋を出て行った。
そして、すぐに戻って来た。
その背後から綺麗な落ち着いた雰囲気の女性が付いてきた。
「どうぞ。相席みたいになっちゃうけどいいよね?」
「あ、はい。お邪魔します。」
「ねえ、ここに書いてあること、本当?」
「ええ。沙織さんが初恋の人を追い続け結ばれた、そして、ずっと幸せにされていると知って、実は私の従姉妹たちと同じだと。それで、一度どういう心境でそうなったのか、お話を聞きたくなっちゃいました。」
「あなた、森村由美さんって言うの?いいわよ、あ、そうだ、今から友達になれる?」
「えっ?友達って、沙織さんとですか?いきなり、いいんですか?」
「もちろんよ。そっか、由美・・でいい?森村さんって言い辛いから。」
「ええ、みんなから言われてます。」
「じゃあ、由美・・・質問に答えようか。あ、初恋のことだよね、ウフ、丁度良かった、この二人は・・・あ、まだ知らないか?」
ここでようやく僕たちが同席していることを、この森村さんに教えようとして。
「あ、もちろん知ってます。三条優也さん、野生児でデビューされて以来、すごい人気の方。」
「へえ〜、よく知ってたわね。優也くん、人気者〜〜。」
『やめて下さいよ、沙織さん。たまたまですって。』
そして、森村さんが言ったのは
「実はですね、私の従姉妹の旦那さんになった方が優也さんと同じ漢字の名前なんです。小暮優也って名前なんですけど。そんなこともあって、私、すぐに三条さんのファンになりました。」
「奇遇、で、従姉妹とはどうなの?」
「結婚しちゃいました。それも、在学中に。」
「ワァオ、最高じゃん。大学何年生?」
「それが、違うんです。」
「違う?」
「高校生の時です。優也くん、あ、こっちのですけど、18歳の誕生日にです。」
「負けた。ガクッとする。羨ましい、ねえ、サクラ、どうする?」
ここまで真剣に聞いていたサクラが、やっと口を開くことになったので耳を傾けて聞いてみた。
「あ、完敗です。私よりすごいカップルがいたんだ。ん〜もう、めっちゃ羨ましいです。会ってみたい。」
「本当よね、私も俄然興味が出てきた。ねえ由美、連れてきてくれない?」
「あ、いいんですけど、東京じゃないんです。ちょっと遠いので。」
「そっか、で、今、その二人はもうお仕事?まさか、大学に入ったとか?」
「あ、今は共働きしてます。」
「で、どこに住んでるの?」
「札幌なんです。遠いですよね。」
「サッ、サッポロ?ん〜、コンサートで3回かな、行った。いいところよね、優也くんは?」
『もちろん、行ったことはありません。』
「私も、あ、でもいつかは行きたいところです。美味しいんですよね、食べ物。」
「ん?食べ物?ってことは、サクラはここじゃ物足りないってこと?圭太に言っておくわ。」
「あ、アワアワ、そんなつもりで、もちろん、ここのお店のお料理が一番です。」
『おいサクラ、沙織さんのいつものやつだよ。慌てるなって。』
もちろん、サクラ以外が声を出して笑ったのは当然です。
「由美、この二人も、実は初恋の相手同士なのよ。こっちは山野サクラって言って、プッ!、もうクランクアップしたんだけどテレビドラマで“高校生夫婦”って番組に出てるの。おかしいわ、どこまでも奇遇だわ。ねえ、あなた達と一緒にサッポロ、行っちゃう?スケジュール合わそうか?」
『僕はオッケーです。ユイさんに聞けばすぐに分かります。』
「私ももちろん、沙織さんと一緒ならどこでも。」
「おいコラ、私じゃないでしょう?優也くんが、でしょう?なんか、サクラって信用出来ない?」
「あ、そんなぁ。あ、お願いします、いじめるのは優也さんだけにして下さい。」
『お、おい、売ったなぁ?』
「わかった、言う通りにする。」
『ゲッ、沙織さんまで?どっちが味方?』
アリーナ3か所ツアーが終われば、サッポロに行こうと決まった。
すると、由美さんが少し遠慮がちに言い出した。
「あのう、一つ教えて頂きたいんですけど、もし、もしプロの方に公演して頂くとして、費用とか、何処に申し込むとか。」
「ん?そうね、いろいろだけど、例えば?コンサートでいいの?」
「ええ、沙織さんは無理だと思うんですけど?」
「無理ってどういうこと?私は失格?」
「あ、いえいえ、そんな。沙織さんには相手にしてもらえないですから、一般的にはということです。」
「会場によるかな?それと、目的。どの位の人の前とか、お客さんの種類で要相談ってとこね。」
由美さんの表情を見ていると、どうしようか迷っているみたいに見えた。
さすが沙織さん、すぐにその様子に気づいたので
「どうしたの、話してごらんよ。悩んだよね、今?」
「あ、はい。あのう、実は今、急に思ったんですけど、皆さんのような方がコンサートを開いてくれると、盛り上がるんじゃないかなぁと。あ、アリーナみたいに大きくて立派な会場じゃないんですけど、体育館を少し大きくした感じの。そこが、近く完成して杮落としを考えているんです。」
「いるんですって、由美が?ん、由美って何者?女子大生だよね?」
「あ、そうなんですけど、その計画はこっちの優也くんたち夫婦がやっていて、あ、サッポロでですけど。」
「ちょっと待って、要するに、サッポロに新しい体育館が出来る、そこでコンサートっていうこと?」
「あ、はい、そうです。」
「ん〜、でもね、公共の場だと今ここでやるって言えないよね。」
「公共の場って、市立とかって事ですか?それなら違います。民間の会社の体育館なんです。」
「なんだ、民間の会社だったら簡単・・・って、その会社の大切な行事でしょう?それを若いご夫婦と若い由美が、って、まさか3人ってことじゃないんでしょう?」
僕は、二人の話を聞いていて、およそ想像がつかなく、少し助けを求めるようにサクラを見た。
サクラもどうやら同じように理解出来ないのか、ポカンとした目を向けてきた。
「ねえ由美さんのお家って、会社?経営者の娘さんなの?」
「あ、そんなに大きくないんですけど、一応。」
「ふぅーん、社長令嬢か、だから落ち着いているんだ。そっか、じゃあ少し具体的に話そうか。で、由美がプロデューサーでいいの?」
「いえ、中心は優也くんと従姉妹、あ、未唯っていうんですけど。この二人が中心です。私は相談役です。」
「そうなの、で、今、私たちがこんな話しをしていることは、もちろん知らないよね。」
「ええ、全然。」
すると、急に沙織さんが考え込むように腕を組んだ。
僕はすぐに気づいた、沙織さんが何かいつものイタズラを仕掛けようと考えていると。
「よし、由美の考えに乗った。その代わり、そっちの優也くん達には何も言わないって約束して。」
「えっ、あ、もちろん言いません。けど、何か?」
「んふふ、体育館だと詰めて500人?」
「あ、いえ詰めると2000人くらいは入れるはずです。」
「えっ?そんなに?舞台は狭い?」
「あ、一応、ステージは広くしてます。それに、楽屋も用意出来てます。ちなみにですが、料理が出来るような施設も。体育館の隣のグランドは野球場で、体育館との出入りが出来るようになっています。このアイデアは全て二人の。」
「なんてことを、まるで私たちがそこに行くって決めてた?アハハ、ねえサクラ?」
「あのう、想像できないです。どんな会社ですか?あ、そっちの優也くん?と未唯さんって人に早く会いたいです。」
『ホントだ、僕は聞いてみたい、そんな体育館とかグランドとか、何に使うのか?必要?』
「あ、それは私が答えます。あの子達が始めた子供さん達との触れ合いが評判良くて、丁度工場用地の買収したところだったので、そこに。そしたら、あの子達のアイデアが次々に出てきて、そしたら、会社の目的がすっかり変わって、儲けは二の次にして地元の人たちを巻き込んで楽しもう。」
『すご〜い。なんか、そういう会社に貢献したい。楽しいって、最高〜〜。』
「私も、いつまで続くか見ていたい。」
「こらサクラ、続くわけないって?」
「あ、もう〜、そうじゃなくて、いつか仲間に入れてもらいたいって思ったんでスゥ。」
そして、沙織さんの考えをしっかり聞かせてもらい、想像するだけでその日が待ち遠しくなった。
(森村由美、小暮優也・未唯が登場したのは “初恋をいつまで” yukichama-sa amebaにて)
つづく




