表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沙也加と僕  作者: ユキから
3/33

どうしたの?

待ちに待った土曜日の朝、ちょっと早起きしてしまったみたい。

まだ真っ暗だったけど、目覚まし時計の時間は5時を少し過ぎていた。

冷え切った部屋に、電気ストーブのスイッチを入れると、赤い部屋になった。

部屋着のガウンに腕を通し、ベッドの脇に立つ。

思いっきり両腕を上げて背伸びする。

あの電話の声を聞いてから、私の心はストーブの明かりなんか問題にならないくらい、真っ赤に燃えたままになっている。

夕べ、お母さんにその事を悟られてしまい、結構、恥ずかしい思いをした。

でも、お母さんなら、積極的に迫ってみると聞かされ、尚一層、燃え盛っているみたい。

登校時間まで、悶々とした時間を過ごしたが、悪くない気持ちがした。


家を出る時、お母さんったら

「あら、今日のサヤカ、いつもより一段とキレイに見えるわ。」

「お母さんったら、まだよ。着替えに帰ってくるんだよ。」

「ああ、そうだったわ。アハハ」


学校に到着しても、緩んだ頬が戻っていないみたいで、かおりから、どうしたのって突っ込みが何度も入った。

いつもなら行動を共にする土曜日だけど、今日は誘われないよう、お母さんとお出掛けすると昨日から話してあったので、トモ君とデートするとは思っていない。

その事も刺激になっていた。

我慢出来ずに何度かトモ君をチラ見したんだけど、その度、トモ君は冷静に見えた。

出来ることなら、少しは意識して欲しかったけど、仕方ないか?


土曜日の午前中が、こんなに長いのかと呆れたが、ようやく終了した。

僕の早帰りは、クラスでも有名なのでその点に関しては問題ない。

校門を出てからが、いつもと違っていた。

ランニングとダッシュを交互に、結局、一度も歩くことなく急いで家に帰った。

『ただいま。』

「お帰り。随分早いわね、あ、着替え、用意しておいたわよ、お小遣いも置いてあるから、忘れないでね。」

『感謝!』

「何?せめて、サンキューじゃないの?」


お気に入りのズボンとお洒落なトレーナー、上に羽織るジャケットも用意してくれていた。

財布にお金を入れ、スマホは落とさないようジャケットの内ポケットに仕舞い準備オッケー。

階段を下りていくと、下で待ち構えていた。

「グルッと回ってみて?」

『ん?』

言われるままに回ってみる。

「よし、いいわ。ねえ、やっぱ、あんたって結構イケメンね。芸能人にでも?」

『ハイハイ、急ぐんで、そういう話しのお相手は、別の機会に。』


駅前の自転車置き場にマイチャリを停め、改札を入った。

僕が乗るホームの反対側に、、何人か人がいるが、こっちには僕だけしかいなかった。そして、10分ほど待った頃、電車がホームに入って来た。わずか、2両編成の電車、最後尾のドアから乗り込んだ。

乗客は、疎らで、座れる席がいっぱいで空いている。

近くに人がいない席を選び座った。


心ここに在らず、そう言う心境で座っていると、突然、ドンと人がぶつかってきた。

それも、結構勢い良くだった。そして、そのぶつかって来たのは、かなり短いスカートを穿いた女性だと、ヒザ上までズリ上がったスカートの裾が目に入った。

「キャッ!アハハ、ゴメン、痛かった?」『エッ?お、サヤカ?』

「ウフフ、同じ電車になっちゃったね。良かった〜。」

『こんなに早く来れたのか?』

「多分、トモ君も早いと思って、お母さんに駅まで送ってもらっちゃった。ギリギリ、そしたら、トモ君見えたの。」

『そうだったんだ?あ、スカート・・・』

「アッ!エヘッ、いいよ、前に人いないし、トモ君にならむしろ喜んで・・・」

『オッ?あ、じゃあ近過ぎない?』

「イヤ?私ならこのままでいいよ。長かったモヤモヤを、1日も早く解消するんだもん。いいよね、そのくらい?」

『あ、まぁそのくらい・・・なら。』

「トモ君・・・大好き‼︎」


結構、大きな声だった。周りに人がいないからいいが、かなり。

「ねえ、トモ君は?」

『ゲッ?僕も言うの?』

「うん。」

『うんって、僕も・・・大好きだよ。』


サヤカの嬉しそうな顔が目に入って来た。


駅の改札を出て、真っ直ぐショッピングモールに入って行き、三階にあるイタリアンレストランへ直行。

クリームパスタとミックスピザを注文した。

運ばれて来た時、

「ねえトモ君?どっちも美味しそうね?」

『ああ、旨そうだ。』

「半分っこしようよ?」

『いいよ。』


僕は、ピザの一片を持ち、噛り付いた。

少し熱かったので、残りをお皿に戻した。

サヤカは、器用にフォークにパスタを巻き付けると、大きな口を開け食べている。

そして

「ピザ、食べていい?」

『ああ、どうぞ。熱いよ。』と言って、お皿を差し出すと

サヤカは、僕の食べ差しているピザを掴み、アッと言う間もなく口に放り込んだ。

『エッ?それ?』

「トモ君、パスタ食べるでしょう?」

と言って、お皿を僕の前に置きながら、自分が使ったフォークを僕に持たせる。

その行動が、素早くて、逆らう事など出来ない。

そう、考えることなくそのフォークを受け取り、口に運んだ。


可愛いクリッとした目で、こっちを見ている。ニコッと笑って

「美味しいね。」

『あ、うん。』

そして、その食べ方は、結局、最後まで続いた。


「私ね、トモ君を好きになった時から、もし付き合ったらこうしようとか、こんな事したいとか、いっぱい考えてたんだよ。だから、これからは全部、付き合ってもらうからね。」

『全部?まぁ、出来る範囲で。』

「ダメだよ、私の事、ずっと好きだったって言ってたじゃん。」

『それは本当の事だから。』

「だったら、こんなに待たせた責任は?優しく責任取ってね。」

『あ、それを言われると弱い。けど、やっぱり出来る限りだな?』

「まぁいいわ。一つ聞かせて、私の事、どれくらい好きなの?」

『ああ〜・・・それなら、間違いなく、サヤカが僕を好きな気持ちの倍だよ。』

「倍ってすごいよ!私、メッチャトモ君の事、好きだよ。だから、倍って無理ね?」

『いや、いくら言ってももう負けないぞ。先に倍って言った方が負けないんだよ。ずっとだからね。』

「何言ってるの、私の方が上・・・ん?あっ、ヤダッ、私が倍。」

『そう?だったら、僕はその倍になっちゃうね。』

「もう〜‼︎それって、意地悪じゃない?あ、だったら、一生私と一緒だよ、気持ち、変わらないって誓える?」

『ああ、誓える。』

「じゃ、じゃあ浮気しない?」

『それは、電話で既に誓ったぞ。まぁ、サヤカが僕を嫌いになったら、そこまでだけど。』

「そこまでになっちゃうんだ?」

『そりゃそうだよ、ストーカーにはなりたくねえから。』

「そっか?あ、でも全然大丈夫だよ、私、ずっとトモ君が好きだから安心して。」


サヤカは、かなり敗北感を味わったみたいで、勢いが鎮まりつつあった。


お店を出て、次に行くところを決める事にした。

「次?ベタだけどね、プリクラだよ。二人で撮った写真なんて無いじゃん。初デートに、初プリクラ、行こ。」


連れて行かれたプリクラコーナー、何台もあった。

「ねえ、どれにしようか?」

『全然分かんねえ。初めてだから・・・』

「そうなんだ?私はかおりと何回も撮った。あ、そうだ、一ヶ所だけまだのところがあるから、それにする?」

『ああ、いいんじゃない?』

そして、その中に入って撮り始めた。

「ねえ、チュウする?」

『チュウ?いやいやしない。』

「ふう〜ん、イヤなんだ?2倍好きだって言ったの、ウソだったんだね。」

『オッ?そう来るか?いずれ時が来たら、いっぱいするから、今日は大人し目にしておこうよ。』

「そんなに待たせないって、約束してくれる?」

『オッ、分かった。』


こういう事から、すぐに優越権を奪われるんだと感心しながら、写真に収まる。


写真シールを持って、空いているベンチに座った。

「ねえ、携帯出して?」

『携帯?』

「わぁ、いい感じ。トモ君にピッタリのスマホだね。」

そんな事を言いながら、裏蓋を開けている。

黙って見ていると、その裏蓋に二人で撮ったシールを貼っている。

蓋を閉め元に戻すと、僕に返してくれた。

今度は、自分のスマホをバッグから取り出し、同じように裏蓋を外し、同じシールを貼る。

「はい完成。」

『オッ!お揃いってこと?』

「ん?恋人の証しだよ。だって、まさか、嫌いな人や、愛情のない人のなんて、貼りたくないでしょう?」

『そりゃそうだ。なるほど、ずっと一緒だから、こりゃいいな。』

「エヘヘ、大好き!・・トモ君は?」

『大好きさ。』


「この後は?どうする?ねえ、ずっとお金出して貰ってるから、今度は私が出すね。なんか飲む?」

『あ、あのさぁ、ウチの家訓なんだけど、何時でも女性にお金を使わせてはならないってのがあってさ。だから、そう言う気は使わないでいいんだよ。特に、今日は臨時に小遣いを貰ってきたから、あ、まだまだ残ってるから。』

「ウソだ、そんな家訓なんて、聞いたこともないよ。私にも少し出させなさい。」

『やだよ、その上から目線の言い方、可愛くないぞ。』

「ゲッ!可愛くないって言われちゃうと、ちょっと落ち込む。分かった、じゃあパフェが食べたいから、奢って。」

『おう、それってメッチャ可愛い。』

「思ってないくせに、酷くない?」

『ん?メッチャ可愛いよ。ずっと思ってるのは、呆れるほど美人だよ、サヤカは。』

「ホント?私って可愛いの?可愛いと美人の違いって何?」

『可愛いってのは、性格かな?明るくて、元気な人。美人って、そうだな、個人の優れた能力じゃないかな?サヤカだと、スベスベのお肌、均整のとれたスタイル。小さな顔に、ピッタリくる大きな目、スッキリ通った鼻筋。口角が上がっている口元に真っ白い歯、言い出すときりがなくなる。あと、細くて長い脚もキレイだよ。』

「ふう〜ん?ありがとう、なんか、そこまで見てくれていたんだ。ねえ、自信持っていい?」

『もちろんだよ。・・・あ、でも、他の人にモテない方がいい・・・かな?』


「じゃあ次、トモ君の事はなんて言えばいいの?普通にイケメンとかでいいの?」

『イケメン?僕はそんなんじゃないよ。どっちかって言うと、普通?案外臆病だし、口下手でもある。運動能力も大して無い。あまり他人より優れているところなんて無いなぁ?』

「ウソばっか、メッチャカッコいいよ。脚だって異常に細くて長いし、顔は、ウフ、ねえ、もう私だけのものなんだよね?」

『ああ、そうだよ。』

「あれっ?脱線しちやった?鼻筋、綺麗。唇、軟らかい?キスが上手そう。」

『オイッ!脱線!』

「あっ、だってね、こんなに近くから、トモ君をいっぱい見れるのって凄いよね。

ずっと見ていても飽きないよ。」

『それならサヤカだって・・・あ、でもサヤカの場合、ちょっと違うかな?』

「飽きてくる?」

『いや、眩しくて目が眩む。』

「エヘヘ、なんかさあ、こんな話しを・・・私たちが一緒にいると、他人からはどう見えるんだろう?」

『美女と野獣だろ?ガオーッ‼︎』

「アーレ〜、早く襲って〜。」

『バーカ、怖がって逃げろよ。』

「ヤーだよ、くっついている。あ、こうしちゃうから。」

人目があるのに、本当にサヤカは僕に抱きついてきた。

その時、サヤカの胸がムギュっとばかりに押し付けられてきた。

『オイッ、そう言うのはやめなさい。』

「あっ、怒った?」

『怒ったんじゃない、注意したんだ。』


すると、少し離れて俯いた。


「どう、結構、大きいでしょう?軟らかいし。」

『ゲッ?今の、ワザと?ひでぇ奴だなぁ。』

「中3でCカップ、この1年で結構膨らんだよ。」

『そう言う解説、いらないから。』

「見たい?触りたい?それともどっちも?・・・はい、三択クイズ〜!」

『クイズになってねえ。って言うか、サヤカは隠れた天然か?』

「はい、天然正解でーす。」


サヤカは、どこまでも元気な子だった。時々拗ねた顔を見せるんだけど、結果を思うと計算尽くめの演技。それら全部が可愛いと思う。

こんなに美人なのに、少しもその事をひけらかしたりしない。


辺りが薄暗くなり始めた頃、そろそろ帰ろうとなった。

僕にはあと一つ、言い残していることがある。

思い切って切り出した。

『あのさぁ、サヤカ、明日って用があるんだろう?』

「明日?うん、多分かおりに付き合わされると思うよ、何で?」

『あ、いや、いいんだ。』

「何?明日、何かあるの?トモ君のお家にご招待してくれるとか?だったりして。んなわけないか?」

『実はそうなんだ。』

「エッ?」

『その通りなんだ、けど、いいよ、予定あるんだし、かおりさんとは仲良くして欲しいから。』

「ちょっと、ちょっと待って。ねえ、トモ君のお家に行ってもいいの?」

『あ、ああ、母さんが、連れて来いって。』

「お、お母さん?あ、あそうなんだ?早く言ってよ、行く、行く行く、メッチャ行きたい。」

『あ、でも、かおりさんは?』

「そんなのいいって。お母さんよ?将来のお姑さんにご挨拶出来るんだったら、絶対そっちでしょう?」

『ん?将来の?』


帰りの電車に乗る時も、サヤカは能天気な考えを披露した。

『エッ?一緒の電車に乗るの?』

「うん、なんで?」

『いや、それはマズイだろう?もし誰かに会ったら、なんて言い訳するんだ?』

「言い訳、必要なの?デートしてたって言ったら?」

『いやいやおかしい、おかしいって!秘密にするってのはどうするんだ?』

「あ、それもそうね?じゃあ、私は・・・お母さんと一緒に買い物に行って、先に帰っちゃう事にする。トモ君は?」

『僕?ここでコッチに?じゃあ、どうすっかな?何か買い物に行ったんだけど、良いのが無かった、クツにしようかな?で、電車の中でサヤカに会った。』

「うん、いいんじゃない?・・・トモ君・・・」

『ん?』

「ウソつくの、上手いね?」

『お、オイッ、そう来るか?』

「私にウソは禁止だよ、分かってるわね?」

『あ、本当のウソつきにしちゃったよ。』


幸いにも、サヤカとバイバイするまで、誰にも会わなかったので、ウソは必要でなかった。


家に帰ると、母さんの第一声は、いつものおかえり じゃなく、サヤカが明日、来るか?だった。

来るよって言ったら、それからずっと鼻歌。


そして日曜の朝、いつも通り起き、すぐに部屋の掃除。

別にサヤカが来るからという理由ではない、ずっと続けている習慣だから。

一通り終わってから下へ降りて行く。

階段の中程に着くと、何やら笑い声が聞こえてきた。

その声に、母さん父さんともう一人の声が混じっている。

慌ててリビングのドアを開けると

「おはよう。」

三人同時に言ってきた。

『あ、おはよう。って、こんなに早く?』

「トモ君、お掃除済んだ?」

『あ、ああ。』

「あはは、どうした友哉?いい子だな、サヤカさんは。よくやったと褒めてやろう。」

「ホントね、お母さんも嬉しいわ。想像してた以上に、綺麗だし可愛いわ。」

「おう、その上、第一声が良かったよ。なぁ母さん。」

「ええ、そりゃもう、あれ以上のってないわよ。」

『ゲッ?何、何と言ったんだ?』

サヤカの方を向いて、睨みつけるように聞いた。

「ん?ご挨拶させて頂いたの。」

『だから、どう言ったのか聞いてんの。』

「別にいいじゃん、トモ君に挨拶するんじゃないから。」

「そうだ。サヤカさんの言ってる事が正しい。友哉は気にすることない。」

「そうよ、お父さんの言う通り。」

「ンフフ、気にしない、気にしない。」


プクーッと膨れたところに、朝食が出て来た。

「サヤカさんもどうぞ。」

「はあーい、いただきます。」

何か釈然としないまま、トーストに噛り付く。

サヤカは、上目遣いで目を細くして、トーストにパクつく。

「ねえ、トモ君、どこ受けるの?」

『宝明だよ、サヤカは?』

「良かったぁ、私も第一志望、宝明。でも、トモ君と同じところにするつもりだったから、第一志望とは言わないか?アハハ。」

『いいのか、駒木女子の方がレベル上だろう?』

「いいのよ、私はトモ君と一緒の学校がいい。」


「もうすぐ冬休みだよ、どうするの?」

『勉強も少ししないと、それこそ受験、失敗しちゃうからな?サヤカは?』

「取り敢えず、希望は・・・イヴとお正月はトモ君と一緒がいい。後は、適当に勉強しようかな?」

『イヴと正月僕はいいけど、矢口かおりが何て言うか?』

「あ、そっか?まだしばらくこのまま秘密にしていたいから、んー!何か考えるね。」

『無理するなよ。』


「イヴはうちで過ごせば?ご馳走、用意するわよ。」母さんが言ってくる。

「いいんですか?あ、だったら、お父さんの会社のパーティにとか言って、かおりとはクリスマスに会おうって言う。」

「決まりね、何かワクワクしてきたわ、今迄、ずっと男二人が相手だったじゃない?何か、つまんなくて。」


「つまんなくてすまなかったなあ。」

父さんと口裏を合わせたわけじゃないのに、同じことを同時に言っていた。

「あら〜お見事にハモったわね〜。」


結局、僕のことはほとんどそっちのけで、母さんとキヤッキヤッ仲良く騒ぎ、時々、父さんがオヤジギャグで絡んでいた。

そして、夕方になりサヤカは帰ることになった。


もちろん、途中まで送って行ったのは当然だけど。


その帰り道、偶然にも健一に遭遇してしまった。


「おう、どっか行ってた?」

咄嗟に口から出た言葉。

『本屋で立ち読みさ。』

「そっか?ついでだ、マック行っか?」

変に勘繰られるのも嫌だから、付き合う事にした。


店内にユイさんの姿がなく、ホッとして飲み物だけを持っていつもの二階席へ。

すると、そこにユイさんと、初めて見る背広姿のキチンとした男の人二人がいた。

ユイさんの目がコッチを見たとき、背広姿の二人も振り返って見てきた。

「あっ、この席!」

と言って、立ち上がろうとするから、いいです、こっちに座りますと合図し、健一と反対側の席に座った。


「誰だ?見掛けないよな?」

『そうだな、でもいいじゃん。それより、お前、何してた?』

「母さんのお手伝い。何か届けてくれって言われて、渋々。」

『そっか?』


取り留めのない話しを、いつも通りグダグダ言って、1時間ほどで店を出た。

健一とはそこで別れ、一人歩いている。


商店街を抜け、住宅街に入ったところで、後ろからずっと聞こえていた足音の人たちに声を掛けられた。

「友哉くん、ちょっといい?」

その声がユイさんだとすぐに分かったので、立ち止まって振り向いた。

一緒にいるのは、さっきの背広姿の二人で、街灯だけでは分かり難いが、一人は父さんくらい、もう一人はかなり若い人のようだ。

『どうかしたんですか?』

「丁度良かった、あのね、突然で悪いんだけど、今から、私たち、お邪魔させてくれる?」

『お邪魔って、僕ん家ってことですか?』

「そう、お父さんかお母さん、いる?」

『ええ、二人とも、今日はいますけど。』

「良かった、じゃあお願い。連れてって?」

背広姿の人達も悪い人達には見えなかったので、仕方なく連れて帰ることにした。


ただ、玄関前で少し待ってくれるように言い、僕だけ家族に理由を説明する為家に入った。

いつものユイさんとは違い、真剣な表情に圧倒されたからだ。


父さんに、何の話か分からないが、真面目な話のようなので・・・と言うと、会ってみると了解がとれた。


リビングに案内すると、早速背広姿の年長者の方が、名刺を父さんに渡している。

受け取った父さんが、その名刺を見て、その人の顔と名刺を何度も見較べている。

少し落ち着きを取り戻した時、もう一人の若い方も名刺を渡した。

リビングの入り口に、僕と母さん、そしてユイさんも隣りに立ったままだった。


父さんは、ようやくその人達にソファに座るよう促すと、母さんにお茶を淹れるように言ってきた。

ユイさんを見ると、相変わらず真剣な面持ち。ようやく、僕の視線に気付いたのか、ぎこちない愛想笑いを浮かべている。

父さん達の話し声は、断片的にしか聞こえて来ないから、どう言うことを話し合っているか想像も付かない。

暫くすると、それまでになかった笑い声が聞こえ始めた。


「友哉、こっちに来なさい。あ、お母さんも、それに、そこのお嬢さんも。」

僕と母さんは、父さんの横、ユイさんは背広の人達の少し後ろに腰を下ろした。


「友哉さん、今、お父様にお話ししてお願いしたんだけど、うちのプロダクションに来てくれないかな?」

『エッ?あ、プロダクションって何ですか?』

「あ、そうだね、詳しく言うと、新宝明プロダクションと言う芸能事務所に入ってもらいたいんだ。」

『げ、芸能事務所?あ、何を?』

「もちろん、芸能人として仕事をしてもらうんだが?」


突然の話しに、混乱して、助けを求めるようにユイさんの方を見ると

「友哉さん、ごめんなさい驚かせて。実は、あなたをスカウトしたいの。私は、全国を回って新人発掘をしている新宝明プロダクションの社員なの。」

『エッ?ユイさんって、高校二年生じゃなかったの?』

「うん、もう20歳を超えてる。ちっちゃいから、高二ぐらいでも通用するかなと思って。あ、それでね、いろんな地方に行って、ようやくうちの会社が求めている人材に、友哉さんがピッタリだったの。」

「申し訳ない事をしました。勝手に友哉さんの事を観察させてもらったりして。このユイから、随分前に報告があり、色々検討して、もちろん、スポンサーにも承諾してもらい、こうしてお願いにあがったと言う次第。」


いろんな事が頭の中を駆け巡っている。まだ、中学生の僕に結論が出せるはずもないと思った時、父さんが

「友哉、お父さんの考えは、悩む前にチャレンジしてみるのがいいんじゃないか?」

『チャレンジ?芸能人になるって、どう言う事かも分かってないのに?』

「そう難しく考えないで、新宝明プロさんに任せてみれば?手伝ってくれないなら、わざわざスカウトになんて、来ないから。特に、社長さん自ら最初に来てくれるなんて、絶対あり得ない。」

「まぁ、そうですね、あ、私が偉いと言ってるんじゃないですが、どうしても友哉さんを見たくて。そしたら、偶然にもあそこでお会いした。お顔を拝見した瞬間に、こうビビッと来ましたね。あなたなら、すぐに一流のスターになれます。安心して来て下さい。」

「どう、お母さんはどう思うかな?」

「そうね、まだ子供だから心配は心配。けど、お父さんの言うように、降って湧いたチャンスね。いずれ就職することを考えれば、今でもいいんじゃない?」

『あ、でも、今まで、まるっきり考えた事も無かったけど?やれるかな?』

「オッ、決まったな。社長さん、大切な一人息子ですが、よろしくお願いします。」


父さんの決心は、電光石火のごとく早かった。

その時の僕?社長さんの後ろにいるユイさんが、頼りになるように思え、賭けてみようと思ったんだ。


冬休みに入ってから、正式な契約を結ぶことになり、三人は帰って行った。


「友哉が芸能人?まだ信じられないけど、テレビで見れると思うとそれはそれでお母さん、楽しくなっちゃいそうよ。」

「お父さんもそうだよ。」


突然、僕の運命が大転換してしまった。




第4話をお楽しみに



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ