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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第77話 吼える猛斧

 魔力が膨れ上がる音が聞こえるようだった。グロムの全身から溢れる魔力の圧が、地面をうねらせるように広がっていく。


 その異様な気配が広がる最中、俺の頭の奥で声が響いた。


『……武器に、大量の魔力が流れている。斬撃そのものが、魔法として作用しているな』


(カイラン……)


『気をつけろ。ただの力任せじゃない。あれは、魔力によって斬撃の軌道や圧が歪められている。通常の予測では捉えきれん』


(なるほど……通りで読みにくいわけだ)


 カインはグロムの動きを睨みながら、深く息を吐いた。


 セリスが前へ出たのは、その直後だった。


「行きます!」


 風を纏うように走り出すセリス。《風哭》の刃が、斧の隙を突く。

 だが、グロムの振るった一撃は、常識を超えていた。


「——っ!」


 重く広がった斬撃が空間ごと切り裂き、セリスをはじき飛ばす。彼女の体が宙を舞い、地面に叩きつけられて数メートル転がった。


 砂埃の中、セリスは呻きながらも身を起こそうとする。肩を押さえ、痛みに顔をしかめながらも、剣を手放さなかった。


(く……動ける……でも、近づくのは危険すぎる)


 彼女の手がわずかに震える中、それでも立ち上がろうとする意志があった。


「セリス!」


 エルンが駆け寄ろうとするが、俺はそれを制した。


「俺が行く。エルン、すぐに魔法で支援してくれ」


 同時に、俺はルナに視線を送る。


「ルナ。お前は、ここから離れて様子を見ていてくれ」


「えっ……ルナはまだ……」


「頼む。今のお前じゃ、あの斧に触れた瞬間が最後になる。冷静に戦況を見てくれる方が助かる」


 ルナは唇を噛みしめ、悔しそうにうなずいた。「……わかった」


 ルナは素早く身を翻し、後方の安全な岩陰へ移動する。


 俺はエルンに声をかけた。


「エルン、あいつの視界を遮れるか? 風で砂を巻き上げてくれ」


 エルンと目が合う。彼女は小さく頷いた。「任せてください」


 彼女が詠唱を始める。


「疾風の精霊シルフィードよ、我が魔力を代償に、渦となって舞い上がれ——《ウィンドブラスト》!」


 突風が起こり、大地の砂塵がグロムを覆った。グロムの視界を奪い、輪郭がぼやけていく。


 その瞬間を狙って、俺は動いた。


 気配を殺し、まるで静寂な的に向かって矢を放つ弓使いのように、精神を一点に集中させる。殺気を完全に沈めたまま詠唱を開始した。


「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち、砂塵を穿て——《蒼閃》」


 グロムを取り巻く砂塵の中心に向かって青白い閃光が走った。空気を裂く一閃が、姿の定かでないグロムの影を貫く。


 グロムは何かを感じ取り、身を引こうとしたが遅かった。斬撃は肩口をかすめ、分厚い鎧を切り裂いて、赤い閃きが飛び散った。


「いいぞ、小僧……ようやく血が滾ってきた!」


 肩から垂れる鮮血が地面に滴り、熱をもって蒸気を上げる。だが、グロムはその痛みに顔をしかめるどころか、むしろ満足げに笑った。


「久々の痛みだ……いい。これこそ、俺の求める戦いだ」


 その異様な高揚に、エルンとルナは思わず息をのんだ。まるで痛みさえ快感と感じているような獣のような目だった。


 俺はグロムにつけた傷を見ながら冷や汗を流す。


(当たった……けど、まだ足りない)


 喉の奥が焼けるように熱い。極度の緊張による疲労なのか。


 俺は剣を構え直すと、ちらりとエルンとルナの方へ視線を送った。ルナは心配そうにこちらを見守り、エルンは次の詠唱の準備に入っている。


 グロムの傷は深くない。だが、今の一撃で確かに通るという手応えを得た。


(次は、もっと深く斬り込む。そのための隙を——)


 俺の目は獣のように鋭い光を帯び始めていた。

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