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73話

 待て。


 ちょっと待て。


 一体どういうことだ。


「え?え?なんで?どうして?え?」

「なにやってんだお前は」

「驚いてるんだよ!そりゃそうだろう!だっ、だって君がいきなり!」


 バレた。


 バレていた。シリウスが今まで秘密にしていて誰にもしられたことがなかった秘密が。よりにもよってエリクに。


 これでパニックになるなと言うほうがどうかしている。


「ちょ、なんで?!」

「・・・・・・」

「話せ! 一体いつから! なんでわかった!」


 エリクの胸倉を掴みあげ詰め寄る。ガクガクブンブンと揺すり促すものの喋ろうとしない。


「前に一度王妃の墓があるあそこで襲われただろう」

「あ、ああ!?」

「あの後お前俺達抱えて離宮まで行っただろ」

「それがなんだ?!」

「あのとき、俺はお前を治療しようとした。そんときに知ったんだよ」

「な、ば、あ?」


 離宮までの道のりは馬車を使った。離宮に到達したとき気が抜けて意識を失った。起きたら離宮だったのだ。


「ま、ま、ま、まさか・・・・・・」


ある事実に気づいて、愕然としながら一歩後ろによろめく。


「見た・・・・・・のか? 僕の体・・・・・・」

「・・・・・・」

「触ったのか?」

「・・・・・・」

「どうなんだコラアアアアアアアア!!」

「・・・・・・見た」

「!」

「触った」

「ぐ、ひぐ、こ、この。」


ぐちゃぐちゃだ。


シリウスの頭も心も。

「な、なんで、この・・・・・・」

「こっちだって見たくて見たわけじゃねぇよ」


おまけになんて酷い言い草だろう。

「そ、そういえばあのときなんかよそよそしいとおもっていたけど・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「うわあああああああああああああ! このやろおおおおお!」

「な、なんだよ! そうしねぇと危なかったし、男だっておもってたんだからしょうがねぇだろ! 逆にルッタを誤魔化すのに大変だったわ!」

「ご、誤魔化してくれた、のか? なんで?」

「男だって偽ってたら、罰せられるだろうが」

(あ、やさしい)


 トゥンク♡ と胸が弾んだ。

 

 それに、よそよそしかったというのは女性とわかったシリウスと気まずかったということだ。


「そ、それは・・・・・・・・・僕を女性だって意識していたってことか・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 沈黙がそのまま回答になった。


(うわ、うわわわわわわぁあああ・・・・・・・・・)

「それくらいクローディアを守りたいって覚悟なんだなっておもったしよ。幸い俺しか知らなかったし。だから・・・・・・」

(僕のことを慮って・・・・・・)


 トゥンクトゥンクトゥンク♡


 胸のときめきが止まらない。


「そ、そうか・・・・・・」


 エリクがシリウスの秘密を知った経緯については納得できた。だがそれでも事情が変わってきてしまう。


 今までは男であることが前提の関係だった。距離感だった。自分の恋心を自覚しながら別の人と想いあっている。そんなときに女という秘密まで知られたとなると・・・・・・。


(とんでもないことだ!)

「安心しろ。秘密は守る」

(うう、なんでこんなときに限って柄にもなく優しいんだこいつはあああああ!)

「けどお前よく今まで隠してこれたな」

「そ、それは・・・・・・・・・」

「まぁ、お前の性格じゃ皆男とおもうわな」


 ムカッ。


「女らしさとは無縁だし」


 ムカムカッ。


「いつだったか一緒に風呂入ったときも怪しいとおもえなかったしよ」

「このおおおおおお!」

「なんだよ!」


 エリクに女である自分を否定されるのはとてつもなく悔しい。


「つまり君にとって僕は女として意識されないしする価値もないってことだな!」

「なに怒ってやがんだ! 褒めてやってんだろうが!」

「どこがだよ! 馬鹿にしてるのか!」

「第一、俺に女に見られようが見られまいが関係ないだろうが!」

「!」

「クローディアが一番でそれ以外どうでもいいだろ! だから騎士になって――」

「わかってるさそんなこと!」


 我慢できなかった。


「君がクローディア様が一番で! 僕もクローディア様が一番大切で! 僕のことどうでもいい女とさえ見れないということも!」


 そう。わかっていた。だから封じるつもりだった。

 だが、とめられない。


「それでも! 好きになっちゃったんだから仕方ないだろ!!」

「は?」


 シリウスはそのまま、エリクの後頭部を押さえつけ、自らのほうへと引き寄せる。唇と唇を重ねた。


「!?!?!?!?」

「~~~~~~~~~~~~~!」


 いつぞやの、薬を飲ませるためにしたのとは違う。愛情を、好意を籠めたキスは、なんとも穏やかな興奮とうっとりとした幸福感に満ちたものか。


「ん、ぷは・・・・・・・・・」

「お、お前・・・・・・・・・なにを・・・・・・・・・」

「ざ、ざまぁみろ・・・・・・・・・・これで僕が女だって、意識せざるをえないだろ・・・・・・」


 狼狽しているエリクにこう言っているが、シリウスはやってしまった、という慚愧の念が多少ある。敬愛するクローディアの想い人に。不忠ともとられかねない狼藉。


「ああ、そうさ。僕は君が好きだ。好きになった。なっちゃったんだ・・・・・・」


 だが、これだけでいい。この接吻と自分の好意を伝えるという行為だけで充分満足なのだ。例え自分を見てくれなくても、気持ちが届かなくても。


「ただ、伝えたかった・・・・・・・・・それだけだ・・・・・・・・・」

「お前は・・・・・・・・・」 


 どちらも見つめ合う瞳を逸らさず、まっすぐにぶつかる。


「どういうことなの・・・・・・・・・・」


 ビクっと竦みながら声のした方向を振り返る。


 エリクの部屋の扉が開き、


 カトレア、ルッタ。そして、


「く、クローディア様・・・・・・・・・」

「シリウス、貴方、なにをしているの・・・・・・・・・?」


 三者は三様のまま呆然と立ち尽くしこちらを、シリウスとエリクへと視線を注いでいる。


「貴方は私のお友達でしょう・・・・・・・・・え? どうしてキスを? え? 好き?」

「シリウス様、女の子だったのですか・・・・・・・・・?」

「あ、姉上、これは・・・・・・・・・?」

「あ、あなた達が遅いから呼びにきたんだけど・・・・・・・・・あはは・・・・・・・・・」


 血の気が引いていく。


 自身がしてしまったことを三人は見ていたのだと直感が告げていた。

 カトレアはまだしも、二人に、よりにもよってクローディアに全部知られてしまった。

「シリウス様!」

「うわ!?」

「わ、私はシリウス様が女の子であっても! 全然大丈夫です!」

「なにを言っているの!?」

「シリウス! ダメ! あなたは私のお友達でしょう! エリクとそんな―――ダメ!」

「も、申し訳ございませんクローディア様! でも僕はエリクと恋人になったり関係を持とうとするつもりは! エリクが悪いのです!!」

「はぁ!? お前なにを!?」

「き、君が僕を否定するからだ! そうじゃなかったら僕だって一生秘密にするつもりだったんだ!」

「責任転嫁すんな! 誰も否定なんざしてねぇ! 女として見れねぇなんざ誰も言ってねぇだろが!」

「え、それって僕のこと意識して・・・・・・(トゥンク♡)」

「だめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 クローディアはシリウスを押しのけ、エリクに抱きつき、そのまま熱烈なキスをする。シリウスとは比べものにもならないくらい情熱的で、淫靡なやつだ。


「!?!?!? く、クローディア様はしたない!」

「はしたないのはどちらよ! そ、それにこれくらいはしたないうちに入らないわ! もっと凄いこともしているのだし! あなたじゃできないこともね!」

「ぼ、僕は――――」

「私、あなたのことを思い出して嬉しかったのよ? 大切なお友達だったのよ・・・・・・? なのに、そのお友達に――――」


 キッ!と鋭く睨んでくる。ぐっと怯んで


「好きな人を寝取られるだなんて!!」

「!?」

(ぼ、僕が?!寝取る?!)

「クローディア様、それは的確ではありません。寝取るとは肉体関係を持って初めて成立するものですし、それにシリウス様も最初はエリク様にクローディア様を寝取られたのですからおあいこということでは――」

「ルッタ! あなたどちらの味方なの!?」

「まぁまぁクローディア様。据え膳食わぬは男の恥と言うでしょう? それにクローディア様とエリクが結婚すればエリクは帝族。一夫多妻も珍しくは―――」

「お黙りなさい!」

「シリウス様! 」

「お、落ち着いてください!僕は別にエリクを寝取ろうだなんておこがましいことは!」

「ダメ! エリクは渡さない!」

「あわわわ」


とんでもない大騒ぎになってしまった。まさかこんなことになってしまうだなんて。


「いえ! これはエリクが寝取られるというだけではないわ! だってシリウスは私のお友達だから、エリクにシリウスを奪われたということでもあるじゃない!」

「ぼ、僕が!? そ、そんなこと・・・・・・・・・・おいエリク!」


 エリクは窓から逃げようとしている。後ろから腰に抱き着き、壁に爪先と太腿を引っ掛けながら阻止しようとするが、いかんせん魔術を発動しているので引っ張られていってしまいそうだ。


「おい待てどこにいく!」

「離せ! 面倒ごとはごめんだ!」

「1人にするな! さっき言っただろ!僕の傍にいてくれと!」

「そういう意味で言ってんじゃねぇよ!」

「だったら、クローディア様が好きなら僕のこと振ってしまえばいい! それで全部終わりだろ!」


 そうだ。そうしてくれればいい。元より叶わぬ恋だと自覚していたのだから。


「・・・・・・」

「なんで黙りこむんだ!あっけらかんとしろおおおお!」

「うるせぇ! そもそもお前が女なのに騎士になったりキスするからこうなったんだろが!」

「な、な、な!」


 エリクは頬を染め、


 照れている。恥ずかしがっている。そんなエリクに期待をしてしまう。


 もしかして、自分を意識している・・・・・・・・・?


 もしかして、自分を選んでくれる可能性が・・・・・・?


「~~~~~~! 馬鹿野郎おおおおおお! クローディア様を振るつもりかああああああああ!」

「どうしろってんだよ!? お前滅茶苦茶だぞ!」

「~~~~僕のせいだっていうのか! ふざけるな! 責任とれえええ!」

「なんのだよ!」

「エリク!」

「シリウス様!」

「はははは~~。やっぱり領地に戻るのはもう少し先にしましょうか」





 これから彼ら、彼女らはこれまでと比ではない苦労に見舞われていく。




 しかし、当分の間は。



「エリク!」

「シリウス様!」

「ほほほほ」

「逃げるな!」

「ええええい!?」



 宮廷とも、継承権とも、政略とも、陰謀とも闘争とも無縁の騒動に明け暮れるのだ。


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