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55話

意図せず、クローディアに白状させられてしまった。洗いざらい全部だ。


 彼女の追求には感情もなく、相槌もない。話が進むにつれて更に濃くなっていく。ただ淡々とした抑揚のない声に冷たさを帯びた能面のような表情は、ぶるりとした寒気すら覚える。


「どうして黙っていたの?」

「そうしたほうがいいと判断した。ルッタとこいつにもそう指示した」


 こわごわとしているシリウスとは対局に、エリクはどこまでいってもあっけらかんとしていた。もうここに至っては無駄だと諦めているのかすらすらと淀みがないし、態度にもいつもの不貞不貞しさが出ている。


「あの騎士・・・・・・・・・レイモンドが言っていたのはこのことなのね・・・・・・・・・」


 落ち着けるようにとハーブティーが用意されているが、それにも手をつけない。なにかを堪えているような、苦虫を噛み潰した面持ちを保ち、視線を自身の手の甲に置いている。


「もしかして、お母様が亡くなったのも呪いというもののせいなの?」

「ああ」

「私がシリウスとのことを、色々なことを忘れているのも?」

「そうだ」

「クローディア様、申し訳ございません」

「私は、ずっと自分のせいだとおもっていたわ」


 ぽつりと漏らした一言を境に空気が変わっていく。


「父上にも兄上にも迷惑をかけて。皇女だというのに帝族の務めさえ満足に果たせず、ただ死を待つだけの一生を送っているのは。この離宮で寂しく暮らしているのは。病になった私のせいなのだと」

「クローディア様・・・・・・・・・」

「だけれど、もしもしも誰かの手によってこんな生活を強いられているのだとしたら、お母様さえ失ったのなら許せない・・・・・・・・・!」


こんなクローディアを見たかったわけではない。


 悲嘆に暮れ、怒りに呑まれているようなクローディアにするために呪いのことを喋りたかったわけではない。


 だが、想像できて然るべきだった。自分を脅かし家族の命さえ奪った相手への感情はこうもなるだろうと。そして、それを隠していたエリクとシリウスに対するやりどころのない絶望感。


「貴方が一番大切にしていたのはなに? 私の命? それとも呪い? それとも自分自身? 答えて、エリク。答えなさい」


 空間が、歪んでいく。


 クローディアを中心にゆらゆらとした蜃気楼が立ち昇って、周囲の景色がぐにゃりぐにゃりと湾曲していく。広がり、濃くなりつつある。目に見えるクローディアの怒気、感情の発露に呼応しているみたいだ。チリチリとした揺蕩う黒色を帯びていく。


(瘴気!?)


 しかし、クローディアは呪いの発作がおきていない。今までの経験でいえば、エリクが施した魔術の効果が薄れているとき、呪いの発作に苦しんでいるとき顕現するものだ。だが、クローディアにその気配は無い。


「大変です皇女殿下!」


 庭師であるサムが荒々しく部屋へと入ってきた。


「今それどころではありません。私は今――」

「それどころじゃありません! 宮廷より火急の使者が!」


 血の気を失い、息を整えることさえ忘れたサムは、その場でへたり込んだ。尋常ならざる気配に四人は訝しみ、けど誰も動こうとしない。動けないのだ。


「どうしたんだ? なにがあった?」


 シリウスはサムの元までやってきて、問いただす。


 急に上げたかとおもえば、なにか出かかっているものを堪えるように顔中をしわくちゃに。


「なにがあった?」

 がっしりと押さえた肩を何度か揺らし、先を促す。


「お、皇子が・・・・・・・・・」

「お兄様が? なにかあったの?」

「第一皇子が亡くなったと・・・・・・・・・」


 しん、とした静けさとともに、瘴気が薄れた。


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