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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百年目の勇者と拐かされたお姫様

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8.ゴオレム退治

 領主にゴオレム停止の目処が立ったことを伝えて、次の襲撃に備えた。

 備えたといっても、いつものように魔物相手にレベル上げ――だが、今回は単に殴って倒して終わりではない。「ゴオレムにひっそり書かれた“タヒ”の上に横棒を刻む」というトリッキーなことをしなくてはならないのだ。

 パワーと俊敏さと繊細さの三つが要求されるなかなかのミッションである。

 オリさん顔負けのパワーはあっても俊敏さと繊細さに若干の不安があるテル坊だ。ゆえに、次の襲撃までみっちりと、魔物を相手にその辺を特訓したのである。


 やってることは普段とあまり変わらないが、今回は、魔物の攻撃を避けつつ私やカシェルの指示するとおりの傷を付けるというものに集中した。

 ゴオレムはでかいので、なるべくでかい魔物を探してだ。


 なかなか骨の折れる特訓ではあったが、テル坊の弱点だった繊細さはかなり補完できたのではないだろうか。

 俊敏さに関しては、個人の資質にも左右されるため理想どおりとはいかなかったが、そこは頑丈さとカシェルのバフでカバーということにした。




 そして、いよいよ襲撃当日である。

 城壁の上にはテル坊とゴーレムの戦いを見届けようと、たくさんの兵士が鈴なりになっているが――兵士って暇なのか。それとも、ゴオレムが来ている間は他の魔物の心配はいらないということか。

 考えてみれば、ゲームでも前回の魔王でも、イベント戦闘中に他の魔物が乱入したりなんてことはなかったから、大丈夫なのかもしれない。


「テル坊、牽制と援護は私たちに任せて、一画足すのに集中してね」

「はい!」


 ズン、と地響きとともに、ゴーレムがどこからともなく姿を現した。

 そういえば、こいつはいつもどこから来るんだろう。まさか、マッドなアルケミストはゴーレム用の秘密基地まで作ったのだろうか。

 その秘密基地、探したいな。


「じゃあ、テル坊、カシェル、行こうか」

「はい!」

「ええ」


 返事とともに走り出したテル坊の後を、私とカシェルは追う。あまり町に近いところで戦って万が一があってはいけないからだ。

 途中、私とカシェルは左右に分かれてゴオレムの側面に回り込んだ。

 カシェルはテル坊のバフと回復を、私はゴオレムの牽制を受け持つ形だ。


「考えてみりゃ、こいつ倒せればオリハルコンでウハウハなんだよね」


 そう、仕様書にあったゴオレムの素材は、予想どおりオリハルコンだった。他にも金銀銅の貴金属もふんだんに使われている、とてつもない贅沢品なのだ。

 この全質量が貴金属とオリハルコンのみとは限らずとも、この一割がオリハルコンと仮定するだけでも一財産以上だ。

 マッドなアルケミストがどこからそんなもの引っ張ってきたかは知らないが、それだけあれば予備の勇者剣も百本は作れるだろう。鎧だってオリハルコン製にできる。

 牽制用の矢を射込みながら、私はついにやついてしまう。


 とはいえ、作戦は単純でも、やはりテル坊は苦戦している。

 どうにかあの文字に横棒を付け足そうとしても、その部位が問題だ。首前面、だいたい喉のあたりに相当する、奥まった目立たない場所なのだ。

 そこに刻まれた二文字の上を狙い、振り回される腕を回避しつつ懐に入り込み、いい感じの横棒をひとつ、一発で刻まなければならないのだ。

 ヘタな傷で文字を台無しにすれば、そこで我々の戦いは終了してしまう。

 とはいえ、ゴオレムには自己防衛機能も付いているため、そう簡単にはいかない。文字の部分をきちんとカバーする動きを取るのだ。


 だよねー、私が作成者でもそうするわー。


 それにしても、なぜネットスラングなんか採用したんだろう。

 しかもちゃんと停止方法の話も伝わってないし、仕事が中途半端過ぎる。

 制作からたったの百年なのに、下手したら、停止機能の話すら虚空に消えていた可能性すらあったぞ。

 ――もしかして、わざと弱点伝わらないようにしてたのか? 錬金術師って、自分のオリジナル技術を人に教えたがらないものだし。


 ときおり腕を避け損なったテル坊が吹っ飛ばされ、地面にめり込んでいる。

 が、さすが特製勇者鎧とカシェルのバフ&回復だ。即座に復活したテル坊は、またゴオレムへと突っ込んでいく。


「……魔法が効けばなあ」


 ほぼすべての魔法への抵抗を持つゴオレムに、影縛りみたいな魔法矢は効かない。カシェルの使えるデバフの弱体化とか麻痺とか足萎えとかももちろん効かない。

 攻撃魔法も、ゴオレム相手では不発に終わる。

 たぶん、魔法的な影響を受ける回路を塞いでいるんだろう。

 知らんけど。


 魔法使い(アルカナマスター)なら、あれを止められる魔法の一発や二発持っているんだろうが、我々は百年経っても相変わらず、深刻な魔法使い不足で……


 いや、待てよ?


「ゴオレムの分類の人造って、たしか――」


 攻略本のモンスター設定を思い出す。あれに書かれていた解説とこの世界に伝わるモンスターの特徴は概ね一致していたはずだ。

 この世界、モンスターに関して生物学みたいな細かく詳細な研究はされてない。

 だから私の体感でしかないけれど、だいたい攻略本に書かれている内容の特徴は持っている、ようだった。

 ゴオレムみたいな人造のモンスターもいくつかあったけれど、全部「人造魔物」みたいなくくりだったはずだ。


「――カシェル!」

「なんですか!」


 ゴオレムを挟んで向かいにいるカシェルに、私は呼びかける。


「こういう魔法とか錬金術とかで作られた魔物の動力って、魔力だよね!?」

「そうですよ!」

「で、動力が無くなれば、動きも止まるよね!」

「当然ですね、でも、それがどうか……」


 カシェルも気づいたらしく、「あ」とゴオレムを凝視する。


「試してみるからフォローよろしく! テル坊は防御専念で!」

「はい、師匠!」


 上位の魔法を全部捨てれば、撃てる中和矢は全部で六本くらい。一本一本でカバーできるエリアはいいとこ人一人分……半畳くらいのスペースだから最大で畳三枚分、てところか。

 ギリかな。


「テル坊、ゴオレムがあまり歩き回らないようにして!」

「わかりました!」


 テル坊は逃げ回るのをやめて、盾と剣を駆使してゴオレムパンチを捌き始めた。

 すかさずカシェルがバフを飛ばし、鎧と盾の耐久力を補強する。


 私は腰に固定した矢筒(エヴァーラスティング)から矢をつがえる。

 的はゴオレムの足元なので、狙いは適当でも外す気はしない。それよりも、一射めから六射めまでをいかに速く射るかのほうが重要である。

 もたつけば、全部撃ち終わると同時に一射めの中和が切れてしまうのだ。


「行くよ……三、二、一、ゼロ!」


 エルフ族ならではの速射も使って、立て続けに矢を六本放つ。

 ゴオレムが一歩でも範囲を出たり、一本でも外したりすればこの戦いは終了だ。また次回までに策を練るしかない。


 が、まあ……何度でも言うけど的はでかいから外しようはないし、足留めもテル坊とカシェルの二人がかりでやってるのだから、あまり心配はしていなかった。

 あえて言えば中和の失敗が心配だったが、それもつつがなく完了した。

 私もゴオレムへと走りながら、「テル坊!」と声を張り上げる。


「今から長鳴鳥の一声くらいの間だけ、動かなくなる、はず――」


 ――だから、と全部言い終わる前に、ゴオレムの身体がぐらりと揺れ、盛大な地響きと共に倒れ込んだ。

 中和の矢の効果は、最初に射った矢の効果が切れるまでおおよそ三十秒くらい、だろうか。テル坊がゴオレムの身体を雑に駆け上がる。


「――師匠! 向きが悪いです、頭を持ち上げないと」

「カシェル!」

「わかってます」


 ゴオレムは頭を俯けるようにして倒れていた。

 これでは、頭が邪魔で横棒が足せない。

 おまけに、中和の中じゃ身体強化のバフも効果は出ない。


「カシェル、いっせーのせで持ち上げよう。テル坊はなんとか潜り込んで!」

「はい!」


 頭の中で効果時間のカウントダウンをしながらゴオレムによじ登り、身長の半分は超えるサイズの頭に手をかける。


「お……重ッ!」


 ゴオレムの頭はとんでもなく重かった。

 カシェルと二人がかりなのにびくともしない。

 マジか。


「も、もっと力を……」

「やってます」


 効果時間はみるみる減っていく。

 なのに、ちょっと傾けることすらうまくいかない。


「なんで、こんなに……」


 エルフ族はその華奢な見た目から力弱いと誤解されがちだが、実のところそんなことはない。ちょっと敏捷寄りなだけである。

 なんたって戦闘民族なのだから、筋力だってそれなりにある。

 なのに、びくともしない。

 もう時間がない。

 やばい。


「これ以上がんばると、腰やっちゃいそ……」

「――師匠、どいてください!」


 とうとう中和の効果が切れてしまった。

 ゴオレムがゆるゆると動き始め、立ちあがろうとする。

 私とカシェルはチッと舌打ちをして、ゴオレムから飛び退(すさ)った。

 そこへ間髪入れず、テル坊が飛び込んだ。


「な、ちょっ、テル……」

「やりました!」


 ゴオレムが頭をもたげたところを狙い、テル坊は剣を鋭く一閃すると、動き始めたゴオレムがまた、がくりと膝を突いた。


 つまり、再起動したゴオレムが自分で頭を持ち上げた隙を狙った、ということか。


「――テル坊、すごい!」

「やった! やりました師匠!」


 カシェルもほうっと息を吐く。

 ガラガラと崩れ落ちるゴオレムの姿に、城壁からも歓声が上がる。


「やった……これでオリハルコン万歳生活だよ……これだけあればきっとなんでも作れるよ――え?」


 あとはゴオレムの残骸を回収して資源をより分けるだけ。

 そう考えて視線を向けると、その先に横たわるゴオレムの身体がサラサラと崩壊していくところだった。


「え? あ? なんで? 何?」

「――灰に変わったみたいですね」


 愕然とする私に、カシェルが冷静な声で告げる。


「うっそお……貴重なオリハルコン……」


 百年前、探しに探してようやく剣一本分をかき集められたくらいに、オリハルコンは貴重でレアな金属だ。さすが、“神の鉄”である。

 そのオリハルコンを惜しげも無く使ったゴオレム――のはずだ。倒した暁には神鉄ゲットだぜでウハウハだったはずだ。

 なのに、そのゴオレムに死が訪れた途端、輝いていた身体がぼろぼろと腐り、灰のように崩れ去ってしまった。


「なんでよお……なんでオリハルコンが腐るの……あり得ないでしょう……」

「――これにこんなに使ってたからなかなか手に入らなかったというより、手に入らないから偽のオリハルコンで作ったんでしょうね。錬金術師(アルケミスト)ですし」


 カシェルがもっともなことを呟いて頷き、ひとり納得している。テル坊は「全部灰になりましたね」と残骸の山をブーツの爪先でつついている。


 マジか……マッドなアルケミストはオリハルコンの生成に成功してたのか……天然がダメなら養殖でいこうということか。

 嘘だろあんなに頑張ったのに、と私はがっくり項垂れる。


「あ、師匠」

「ん?」

「ここ、何かあります」


 パッと立ち上がった私は、テル坊の指差すところへ走った。

 せめて何かいいものが残っていてほしい。

 そんな気持ちで駆け寄り、かき分けた灰の中から出てきたのは――


「え、なんでこんなこところにあるの」


 かつて勇者用に作り上げた、盾だった。



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