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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百年目の勇者と拐かされたお姫様

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9.勇者用装備がそろったので

 ともあれ、ゴオレムは灰になって消えてしまった。

 私の皮算用は、取らぬままに終わってしまった。


「最初からなかったものだと思えば……思えば……そんなに割り切れるかぁっ!」

「はいはい」

「――それはそれとして、今後だけどさ」


 おざなりすぎる態度のカシェルにひとしきり愚痴を垂れて、心の折り合いを付けた私ははあっと大きく息を吐いて、切り出した。

 ガリルーは、約束どおり領主から手に入れた竪琴を、テンション爆上げのままこれでもかというくらい弾きまくりながら外へと繰り出していった。

 お人好しのテル坊はガリルーに引っ張られるまま一緒に出て行った。

 きっと、ガリルーはテル坊をダシに、エピソード盛り盛りの勇者譚でも吹聴するつもりだろう。勇者であるがゆえの有名税というやつか。


「切り替えが早いのは、サーリスのいいところですね」

「まあね。で、ぶっちゃけ、テル坊も十分に仕上がってるし、武具もそろったし、さっさとお姫様救出に行ってもいいと思うんだよね」


 カシェルがじろりと私を見る。じろじろと、嘗めるように私を凝視している。


「――いや、別に、細かいとこ忘れたからいきなり本命いってもいいかなってわけじゃないよ。そういうんじゃないから」

「そうですか?」

「伝説編の一作目って、ロム容量すくなかったからシナリオもあっさりめで細かいイベントとかなかったし、その中でも終盤のイベント戦闘はもう終わっちゃったし、あとはお姫様助け出したあとラスボス魔王にワンパン入れれば終了だから、もう行っちゃって大丈夫だと思ったんだよね」


 カシェルはじいいいいいっと私を見つめながら考えて……「サーリスが言うならそうなんでしょうね」と溜息を吐いた。

 そこ、溜息を吐くところなのだろうか。


「実際、カステルはオリヴェルさんに比べて若い分成長著しく体力もありますから、あまり心配はいらないかもしれませんね。

 ……今回は、あの女神も関わってないですし」

「あー、うん、そこはかなりの安心材料だね」


 あのクソ女神が解放されたという話も回ってきていないし、おそらくまだ反省中なのだろう。なら、変な横やりもないはずだ。


「それに、あまり時間をおいてしまうのも心配です。姫君は人間ですから」

「あ、そっか。それもあった」


 最近忘れがちだけど、人間というのはすぐ歳を取って死んでしまうのだ。

 あんまり待たせて姫がおばさんになってしまったら目も当てられないうえ、変な恨みまで買ってしまいかねない。


「で、本題。この南大陸と北大陸の間に、海峡があったでしょ。オリさんの時、船雇って無理矢理渡ったところ」

「はい、ありましたね。潮の流れが結構な早さで、小舟では外海に流されてしまう危険があるんでしたか」

「そこに、海峡を渡る橋だかトンネルだかを作ろうとしてるんだよ。その工事で掘り当てた深い洞窟があって、そこに姫を浚った竜の巣があるんだわ」

「竜の巣……ですか? 魔王城ではなく?」

「うん。姫は魔王城とは別口で監禁されてるんだよ、たしか」


 カシェルの表情が真剣になる。

 竜は野外(オープンフィールド)で遭ってもやっかいな相手だが、その巣に押し込むと危険度がさらに増し増しとなる。

 何しろ、巣である。つまり竜のホームグラウンドだ。

 侵入者に対する罠だの魔法だのなんだのをてんこ盛りの盛り盛りにして守っている場所ゆえ、危険きわまりないのである。

 その分、倒せれば一生遊んで暮らせるくらいの収入と栄誉が得られるのだが。


「……カステルならあまり心配ないでしょうが、救助した姫をかばいながらでは厳しいかもしれません」

「やっぱそうだよね。リアルじゃNPCは背景にならないし」

「背景?」

「うん。敵味方問わず攻撃が姫だけ避けてくれないよねってこと」

「当たり前でしょう」


 カシェルが怪訝な顔になる。

 たいていのゲームでは、戦闘に関係ないNPCは基本的に背景扱いで、攻撃の当たり判定対象にはならないし範囲攻撃にも巻き込まない。だが、ここはゲームじゃないので姫ももちろん当たり判定の対象だし範囲攻撃にだって巻き込んでしまう。

 ゲームだったら何の心配もいらないのにな。


「だから、姫を助けたら、可及的速やかかつ確実に、姫の安全を確保しなきゃならないでしょ? 誰がやるかって言ったら……私はあちこち走り回るし、やっぱカシェルかなあ――」

「かまいませんよ。後方からでも援護と回復はできますから」


 カシェルなら万が一のことがあってもすぐに姫を回復できるし、防御やらなんやらのバフもかけられる。テル坊と私でドラゴン戦に集中して、カシェルには姫の安全確保を任せるのが、やはり順当だろうな。


 そうと決まれば話は早い。

 ゴオレム撃破の勝利に浮かれる町をよそに、私たちは翌日旅立った。

 なぜか、ガリルーもついてきた。



 * * *



「たしかに、あそこにはトンネルができてますよ。最初は橋を渡そうとしたんですけど、潮の流れが速すぎて橋桁を置くのが難しいとかで、トンネルを通すことにしたんだそうです」

「え、もうできあがってるの? 海峡トンネルみたいなヤバイくらいすごいやつなのに!」

「もう三十年は前にできてますよ」


 さすが放浪の吟遊詩人だけあって、ガリルーはトンネルのことを知っていた。

 ほんの少し前に工事始まったとか聞いたのに、ずいぶん早いな。


「じゃ、そこになんか洞窟があったとかなんとかいう話は知らない?」

「ああ、それですか。そのトンネルってもともとあった洞窟を利用したものなんですよ。地の底に続く大きな洞窟があるから掘り進めれば北につながるんじゃないかって、人を雇って中をくまなく調査させたって話が残ってます」

「くまなく……なるほど。じゃあ、その調査記録が残ってれば、ドラゴンの巣の場所も丸わかりになるかな?」


 ここまで流れるようにすらすら語っていたガリルーは、「それはどうでしょうね」と苦笑を浮かべた。

 これはつまり、ダンジョンマップどころか中の情報も期待できないということか。

 私もさすがにドはまりした伝説編以外のダンジョンマップまではそらんじていない。

 ロム容量的にそれほどでかいダンジョンではなかったはずだ、くらいのうろ覚えでしかない現状、あらかじめ中のことがわかればラッキーだったのだけど。


「記録、散逸しちゃったんですよ。魔王城に異変があったころに町が襲撃されて、あちこち壊されたり焼かれたりしちゃったから」

「マジで?」


 ここでも町焼きか。なんでもかんでも焼けばいいと思ってんのか魔王は。


「おかげで町の古い記録とかがだいぶ無くなってしまったとかで……さすがに工事に携わった人ももういませんからねえ」

「小人族もいないのかな? ドワーフとか」

「あまり見かけませんでしたね。山に帰ってしまっているのでは?」

「そっかあ……」


 ドワーフ族が関わってれば寿命の長さ的にワンチャン、と思ったけれど、さすがにそうもいかなかった。

 ゲーム設定のおかげなのか、この世界のエルフとドワーフもあまり仲はよろしくないし、エルフの私が山中のドワーフの居住地を知ってるはずもない。

 これはしかたがない。


「内部は、海峡を渡るためにほとんど一本道に整備されてたはずなんだよな。

 で、そこにいくつか横道があって、その先にひっそりこっそりドラゴンの巣部屋があったような覚えがあるんだ……」


 私は眉を寄せてぶつぶつと呟いた。

 突撃するのはいいが、ドラゴンを刺激して姫に危害を加えられてはたまらない。

 ドラゴンの沸点がどのくらいの高さにあるのかわからない以上、そこそこ慎重にしたほうがよいだろう。

 たぶん。


「まずは現地調査だねえ」


 遭遇戦も警戒して、全員でトンネルから内部調査をしつつドラゴンの巣を目指し、あわよくばそのまま姫を浚い返してしまえばいい。


「いつもながら雑な作戦ですね」

「でも師匠はいつもうまくいかせてましたよ」

「わくわくしてきました」


 カシェルの講評とテル坊のフォローとガリルーの期待感に、私は「うん」とただ頷いた。ほとんど未知の冒険というのは、こうも不安なものなのか。


「ま、安心できる要素は、ドラゴンと野外戦しなくて済むってことかな」

「そうですね」


 こっちには空を飛ぶ手段がない以上、陸海空を制するドラゴンと空の下で戦うのはさすがにぞっとしない。さすがにただの獣と違って頭が回るから、あいつら自分に有利な空から執拗にブレス攻撃をしてくるのだ。

 魔法使い(アルカナマスター)さえいれば、空から無理矢理引きずり落とせるのに。


 あーでも対ドラゴン戦か。魔王戦に次いでの華やかな舞台だよね。

 冒険者なら一度はドラゴンぶち殴りたいものだし。


「念のため、酸の矢と爆撃矢多めに用意して、ブレスはカシェルの秘蹟になんとか対策して――」

「遭遇したからといってむやみに戦うのではなく、穏便に撤退することを優先しますよ。遭遇戦で十分な力を発揮できると思わないでください」

「――ハイ」


 カシェルの念押しにいちおうは首肯したけど、遭遇しちゃったらやっぱり戦いたいなあ、と考えていた。



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