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百周目の勇者と異世界転生した私  作者: 銀月
百年目の勇者と拐かされたお姫様

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5.旅は道連れ

「テル坊、次は右奥。スリーカウントで倒して」

「はい!」

『無茶言うのね――え!? 嘘でしょお!?』


 私の指示に応えて、テル坊は剣も驚く殲滅能力を発揮する。

 カシェルのすべての秘蹟の詠唱が終わるまで、あと数分。

 私はカシェルに近づこうとする鎧やその他の魔物たちを牽制しながら、テル坊に指示を出す。さらにその合間合間に雑魚へと矢を射込み……とんでもなく忙しい!

 まだ五月雨程度に現れるだけだからなんとかなってるけど、魔物の数が増えたらそうもいかなくなってしまう。


「どうやって保たせようかな……」


 せめてここに魔法使いがひとりいれば、有象無象の雑魚たちの処遇は任せて、カシェルとテル坊のフォローに専念できるのに。

 私たちがいかにゴリラだと言っても、手数には限界があるのだ。

 相手が単数の魔王なら余裕があっても、大量の雑魚を引き連れたそこそこ強い魔物はちょっと手が余る。

 でっかい芋虫一匹の駆除は楽勝でも、アリの巣退治は手間暇かかって大変だ、というやつである。

 点の駆除は得意でも面の駆除は不得手なのだ。


 とにかく、カシェルの集中を守るのが、最優先だ。途切れさせたら元の木阿弥、もっとダメになった状況で最初からやり直しになってしまう。


「何かいい方法……なんとかいい方法考えないと……え?」


 何かが聞こえた気がして、私はちらりとだけそちらに視線を向けた。

 何かを抱えた白っぽい人影が闇の中にぼうっと浮かび上がっている。


「うっそ、まさか死霊(ゴースト)?」


 死霊はやばい。

 何がやばいって、物理が効かないところがとてもやばいのだ。カシェルが浄化にかかりっきりな今、私とテル坊ではなすすべがない。

 物理無効は、ゴリラにとって最大の弱点なのである。


 ぽろん、と音がした。

 単なる音ではなく音楽だ。白い影が抱えているのは、どうやら楽器らしい。


 優しき女神よ

 すべての母たる女神よ

 彷徨える御魂に導きを

 終焉の安らかなる眠りを

 

 どこかで聞いたことのある音楽に乗って、歌声が響く。私もテル坊も、驚きに思わず手が止まってしまう。


「女神の鎮魂歌(レクイエム)……吟遊詩人(バード)? なんで? こんなところに?

 いや、それはどうでもいいか」


 集まった魔物のうちの、アンデッドが動きを止めた。そのうちの最下級のスケルトンがふるりと震え、カラカラと乾いた軽い音を立てて崩れ去る。


「テル坊、味方だ! アンデッド無視してそれ以外を潰して!」

「はい、師匠!」


 どうやらアレは魔物とかではなく、結構な力のある吟遊詩人(バード)らしい。吟遊詩人は呪歌(まがうた)という手段で魔法を使うのだ。

 なんでか知らないが、通りすがりの吟遊詩人が私たちに加勢してくれたらしい。

 ラッキーだ。


 魔王に焼き払われた街ということで、集まった魔物の多くはアンデッドだった。

 強力な鎮魂の呪歌(レクイエム)はアンデッドの力を削ぐ。弱いアンデッドなら、そのまま滅ぼしてしまうくらいの力がある。

 つまり、あの歌が続く間はアンデッドを無視していい。


 私はカシェルを狙う魔物を牽制し、その合間に鎧の魔物が動かないように影縛りの矢を射込み……と、これまでのルーチンに戻る。

 テル坊は、鎮魂の呪歌が効かないアンデッドと魔物を、順番に潰していく。

 吟遊詩人のおかげで弱いアンデッドを無視できるのは、かなり楽だ。なにしろ、弱い奴ほど数が多いものだから。




「いやあ、助かったわ! 最悪、鎧潰さないとダメかなって思ったし!」


 カシェルの秘蹟が完成したら、あとはすぐに終わった。カシェルが戦闘に参加できれば、そこそこ強い程度のアンデッドなんて即昇天だし、その他の魔物は三人の物理で問答無用に潰すくらい朝飯前なのだから。


「いったい何がと思いましたが、勇者様だったんですねえ」


 おっとりと喋る吟遊詩人は、ゴリラには程遠い線の細い男性だった。

 私たちが確保しておいた野営場所に戻り、改めて話を聞く。


「申し遅れましたが、私はガリルーと申します、吟遊詩人です」

「私は魔弓使い(フェイアーチャー)のサーリスでこっちは時の神の神官(クロノマンサー)カシェル。そんでこの子が勇者(ゴリラ)のカステルね」

「勇者殿は王より“ゴリラ”の称号を戴いたと聞きましたが、まだこんなに若いお方だったとは」

「カステル・ロアレスです」


 ぺこりと軽く会釈を返すテル坊に、ガリルーは驚いたようだった。

 それからガリルーは、先祖の遺産である竪琴を探しているのだと語った。

 なんでも、高名な職人の手によるその竪琴を、やはり高名な吟遊詩人であった先祖が爪弾けば、どんな獣や魔物でもたちまち戦いを止めて聞き入ってしまうほどの素晴らしい音色を奏でたのだという。


 どこかで聞いたことのある話だなあと思いながら、私は続きを促す。


「その竪琴を、数代前の先祖が借金の方に売り払ってしまいまして……」


 はあ、とガリルーが溜息を吐く。

 その先祖は呑む打つ買うのフルコースを嗜むなかなかのクズで、借金で生命を出すか家宝を出すかの選択に、迷わず生命を取ったのだそうだ。

 気持ちはわからないでもないが、そもそもその選択を迫られる前にフルコースから卒業すればよかったのに。


「まあ、私の先祖の全員が音楽を嗜んだわけでもなく、吟遊詩人の道を選ぶ者もそう多かったわけではありませんが……やはり、どうしてもその家宝だった竪琴の話を聞いてしまったら、一度は手にしたいと考えてしまいまして」

「そりゃ、ねえ……私もとーちゃんの“追尾の弓(ハートシーカー)”と“無限の矢筒(エヴァーラスティング)”、ドサマギで持ち出したまま有効活用してるわけだし、すごく良いものがあるならなんとかして手にしたいっていう気持ちはすごくわかる」


 うんうんと頷く私に、カシェルが物言いたげな視線を寄越す。


「――では、この廃墟しかない街に何か手がかりが?」

「いえ、このさらに先にある城塞の街の、さる貴族家に売り払われたという情報を掴みまして、そこを訪ねてみようかと」

「ひとりで、ですか?」


 カシェルの問いににっこり笑って答えるガリルーに、テル坊が目を丸くする。

 私も思わず上から下までじろじろ眺めてしまうほどには驚いた。護衛も何も連れずにひとりで大移動とか、魔物に襲ってくれと言ってるようなものだ。


「ひとりはひとりで、やりようがあるんですよ。勇者殿のように強くはありませんから、正面から戦うなんて方法以外でね」


 へえ、と思う。

 銀色の流れるような長髪に紫眼と、見た目だけなら深窓の佳人を名乗ってもいいくらいのヒョロい優男だけど、なかなか肝は据わっているらしい。


「つまり、隠れるにしろ逃げるにしろ、そういう方面は得意ってことかあ」

「ええ、そうですね。いざとなれば、歌もありますし」


 私は考える。

 私とカシェルとテル坊の三人は、物理と火力、それから回復方面に突出している。強化(バフ)弱体化(デバフ)もかなりのものだ。

 ただし、少数相手なら。


 何しろ、私ができるのは矢を介しての魔法で、それは多数を狙って掛けられるものではない。単体かごく狭い範囲に限られる。

 テル坊だって、剣を振り回して大ダメージ出すのは得意だが、一度に多数相手に大ダメージを出すことはできない。


「吟遊詩人は、クラウドコントロール向きのジョブだしね」

「くらう……なんですか?」

「私、短期決戦系パーティ組むのが好きだったからあんま使ったことないんだけど、イロモノパーティ組む時はよく入れてたんだよね。

 だいたい火力少なめだから継戦能力必要になるし、眠らせたり弱体したりじゃ吟遊詩人がピカイチの性能だったからさ」

「はあ……?」


 ガリルーはパチパチとまばたきをして首を傾げる。この人いきなり何言ってるんだろうという表情だ。

 カシェルが小さく嘆息する。


「サーリスは時々こうして自分にしかわからない言葉で独り言を言うんです。あまり気にしない方がよいですよ」

「そうなんですか?」

「ともかくさ!」


 カシェルの言葉は無視して私は続けた。


「ガリルーはきっと時の神(クァディアマル)が遣わしてくれた奇跡! 我らに足りないクラウドコントロールの担い手! そういうことなんだよ」

「すごいです師匠!」

「え? そうなんですか?」

「そんなわけないでしょう。なんでも都合よく捉えるのはサーリスの悪癖です。

 とはいえ、ガリルーさんが同行してくれたらうれしいですね。吟遊詩人といえばいろいろな情報に精通しているものですし、盾を探すうえでとても心強いです」


 話は決まった。

 あれ? あれ? と私たちの顔を順番に見て引き攣り笑いを浮かべるガリルーの手をがっしりと握り締め、私も満面の笑みを返す。


「ガリルー、勇者パーティインてことでこれからもよろしくね」


※クラウドコントロール

→MMOやRPGでよく使われるゲーム用語

 パーティ内の役割を表す言葉

 対多数の戦闘で、前線の脳筋が一度に多すぎる数を相手にしなくても良いように、後衛が背後や側面からアタックされないように、敵勢力の行動制御を担当する、頭のいい熟練でないと熟せないポジション

 幻惑催眠等の搦手の魔法を使い熟す渋くクレバーな魔法使いとかがさらりとこなすと、死ぬほどかっこいい

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