4.何は無くともまずは防具だ
前話ちょっと書き直して、話の切れ目も変更してます。
冒頭部分は、書き直し前の前話の終わり部分と被っています。
これはどう見ても廃墟だ。私でも十年以上前には既に焼かれていただろうと判断できるほど、年季の入った廃墟である。
そんな崩れて焼け焦げた瓦礫の山を前に、私たちはただただ呆然としていた。
「この街ってゲームでも焼かれてたっけ? 全然覚えてない……」
「師匠。もしかして僕たち、師匠が言うところの“詰んだ”ってやつですか?」
「魔王は意外に早く活動を始めていたようですね」
『あらまあ、ずいぶん酷いことになってるわねえ』
カシェルは眉を寄せて考え込んだ。テル坊は不安げにあたりを見回している。
「やっばいなあ……どの街に情報あるんだろう。鎧も盾も絶対どっかにあるはずなんだよ。でなきゃ勇者装備揃わないことになるし――まさか総当たりしなきゃだめ? ゲームと違って街とか住人とかやたら多いんだけど、それでも総当たり?」
顔を顰めてブツブツ呟く私に、カシェルが小さく溜息を吐いた。
ここまで堂々とひとを引っ張っておいて今さら「わからん」なんて許さないとでも怒られるのだろうか。
「ここでこうしてても仕方ありません。ともかく、どこか安全な場所に拠点を定めて、サーリスの心当たりだという武器屋の跡地を探しましょう」
「あー、うん、そうだね。何か残ってるといいなあ……鎧とか」
「さすがにそんな虫のいい話はないでしょう」
それでも探さない訳にはいかないが、バラバラに手分けして歩くには、少々物騒だろうと、三人プラス一振りで固まって、街の端から端まで探すことにした。
そして、虫のいい話なんて無かった。たしかに無かった。
どこもかしこも、昔……前世のニュースや写真で見たような、戦争で破壊され尽くした街並みだった。
無事な建物なんて、ひとつも無いんじゃないか。おまけに、魔物の巣までできてるようじゃ、期待なんてしても無駄だろう。
あちこち歩き回って、明らかに違う建物は飛ばして、ようやく半分朽ち果てた武器屋っぽい看板を見つけた時には、この街に到着してから数日が経過していた。
推定武器屋の建物は案外残っていたので、野営するには十分と判断した私たちは、ここで今日のキャンプを張ることにした。
もちろん何が襲ってくるかわからないから焚火は最小限で、夜番も決めてだ。最初はテル坊、夜中は私、明け方はカシェルという担当割である。
「――今考えると、前回のオリさんの時は、なんていうか、イージーモードだったんだなあってわかったわ」
『いーじーもーどって何かしら?』
睡眠なんて必要ない剣と、声を落としてぽそぽそ喋る。
「めっちゃ簡単だったんだよね。全部知ってるからさ、迷いもなくアレやってあそこ行ってができたし、どのくらい頑張れば魔王殺れるかわかってたし」
『それはたしかに楽勝ね』
「でも私が自信持って知ってるって言えるのは、百年前の魔王のことだけなんだよね。シリーズ全編通してハマってれば違ったんだろうけど、私の魂に響いたのは伝説編だけだったからさ」
『ちょっと何言ってるかわからないわよ』
まあたしかにわからないだろうなと、私は溜息を吐いた。先がわからないだけで、こんなに難易度が上がるものだったのか。
「まあ……今のテル坊なら、最悪一般品のいい装備でもなんとかなるくらいのパワーがあるから、魔王戦も心配ないけどね」
『あの子のことどれだけ鍛えたのよ。最初触られた時、アタシめっちゃくちゃ驚いてゾクゾク来た……あら?』
剣の声音が変わり、私も「ん?」と顔を上げた。
『ねえ、鎧ちゃんの気配がするわよ?』
「え? ヨロイちゃん……て、もしかしてテル坊の鎧?」
私は弾かれたように立ち上がってあたりを見回すが、もちろん鎧なんて影も形も見えない。そもそもここにあったらとうの昔に見つけていたはずだが。
『そう。アタシと一緒に監禁生活送ってた鎧ちゃんよ。少し前に気配が消えてからどうしたのかと思ってたけど、こんなところにいたのね』
「剣、鎧の気配とかわかるの? 先にそれ言ってくれない!? ってかまさか、鎧まで喋るの? マジ!?」
『そんなことより、早く皆のこと起こしなさい。嫌な感じもするわ』
ハッと我に返る。嫌な気配とは、魔物のことだろう。
慌ててカシェルとテル坊に声を掛けようとしたが、カシェルはすでに目を擦りながら「うるさいですよ」と起き上がるところだった。
テル坊も、半分寝ぼけたように唸りながら寝返りを打って身体を起こす。
「カシェル、テル坊、魔物が来るみたい」
「――こんな時間に活動するなら、死霊系の魔物かもしれませんね」
テル坊が黙ってゴリラ剣を手に取った。鎧は、寝る前から着ている薄い鎖帷子だけだが、死霊相手なら硬さはあまり関係ないので問題はない。
「それから、鎧の気配がするってさ」
「気配ですか?」
怪訝そうな顔をするカシェルに、剣がすかさず『そうよお!』と応じた。テル坊が目を丸くして「わかるの!?」と剣を凝視する。
「ともかく、鎧の確認は魔物倒した後だね。まずは私が偵察するから」
「はい!」
腕をぐるぐる回しながらテル坊が立ち上がる。私は弓弦の張りを確認し、カシェルは錫杖の石突をトンと軽く鳴らした。
気配を殺し、影を縫うようにして、私は外へと滑り出た。
野営に使っていたのは、比較的壁も天井も残っていた廃墟の一室だ。だから、まだ魔物に位置までは気取られていないだろう。
ガシャ、ギギ、と金属の擦れる音がして、私は動きを止める。空気を揺らさないよう細心の注意を払って呼吸しつつ、周囲を伺いながらそっと動く。
魔物がいたのは、もともと庭か何かだった思しき広場だった。
周囲に邪魔なものはない開けた場所で、月明かりだけに照らされたその魔物を、私はじっくりと観察して――
「げ」
思わず声を漏らしてしまい、たちまち魔物に気付かれる。
慌てて私は矢を三本いっぺんにつがえて放ち、あたりを煌々と照らし出した。すぐにカシェルとテル坊がこちらへ向かって走り出す。
放った矢は灯りの魔法を込めた矢だ。
私とカシェルだけならこの月明かりでも眩しいくらい十分に明るいけれど、テル坊には暗すぎるのだ。
魔物は真っ直ぐに私を見て、ギシギシと体を軋ませながら向かってくる。
「サーリス、打ち合わせと……え?」
「師匠、この鎧の魔物って、もしかして……」
駆けつけたふたりは、魔物の姿を見て絶句する。
『やだー、鎧ちゃんじゃない。いつの間に魔物になんかなってるのよ』
「やっぱそうかー!」
朽ちた鎧に瘴気が作用したか取り憑くかして生まれるのが、通称「鎧の魔物」だ。正式名称や種族名は知らない。何しろ空っぽの鎧を瘴気が動かしてるだけなので、喋ったりできるはずがない。
だが、この鎧の魔物の母体はどう見ても探していた“勇者の鎧”で、もちろん、魔物になった今も新品同様に輝いている。
そして、この魔物を倒す一番手っ取り早い方法は――
「だめ、動かなくなるまでボコったら鎧が壊れる! 物理禁止! テル坊は防御のみ、カシェルは浄化でなんとかして!」
「簡単に言わないでください!」
「わかりました、カシェル師匠よろしくです!」
うまいことこれを倒せば鎧ゲット、とテル坊は色めき立ち、カシェルはうんざりした顔になる。
基本的に、この手の魔物を倒すためのセオリーは、“動けなくなるまで破壊する”だ。本来なら今回もそうするべきだろう。何しろテル坊はゴリラだ。たとえ勇者用に作った鎧でも、テル坊なら難なく破壊できる。
もちろん、そうしてしまえば母体の鎧を回収することは叶わない。
だがしかし、神職の浄化があれば、多少手間は掛かっても瘴気だけを払える。
そしてカシェルは、秘蹟に関してはなかなかのゴリラでもあるのだ。
テル坊はさっそく魔物に打ち掛かりながら、カシェルをチラチラ伺っている。当然だが、カシェルなら絶対やってくれると、その目は期待と喜びにキラキラと輝やかせつつ防戦一方に甘んじている。
あれだけ気を散らしてても危なげなく凌げるのはさすがだが、それでも油断しすぎだ。あとでお説教しないとダメだろう。
【我、ここにおおいなる神、時を定めしお方の加護を希い――】
カシェルの浄化の秘蹟が始まったらしい。
詠唱には時間がかかる。だから私とテル坊で、カシェルの集中が邪魔されないよう、魔物を引きつけなければいけない。
鎧の魔物は主にテル坊が相手をし、私はテル坊をサポートしつつ、他の魔物が来ないかに気を配る役目だ。
「なんだっけ。呪文なしで魔法が使えたら、楽だよね。あ、いや、その場合は超能力になるのかな」
「ちょうのうりょくってなんですか、師匠」
他の魔物が現れていないのをいいことに、喋りながら鎧の魔物を捌く。
本体に傷をつけないよう、テル坊は魔物の攻撃を受けるのみだ。私は視界を確保するように、灯りの範囲を増やしながら、魔物の足元に矢を射込むだけである。
間もなくカシェルの浄化結界が完成して、次の詠唱が始まった。
次は、言うなればお祓い的な秘蹟らしい。正式にはいろいろあるようだが、専門家でない私は、悪霊退散とか邪気払いとか、そういう類の効果だと考えている。
「あー、やっぱ集まってくるよね……」
カシェルの詠唱は進むが、完成まではまだ少し掛かる。しかもこの秘蹟だけで終わりではなく、あといくつか重ねないとお祓いは完了しない……はずだ。
そんな長時間、他の魔物に見つからないはずもなく。
「師匠、ちょっと多いです!」
「テル坊、こいつの動きを止めるから、その間にあっちのデカくてヤバそうなやつ頼む。止められる時間は、十数えるくらいだけ!」
「わかりました!」
「合図したら行って、その後も同じルーチンで」
「了解です!」
『腕が鳴るわあ!』
まともな集団戦はこれが初になるが、まあなんとかなるだろう。
うちの勇者は勇者ゴリラだしね。





