3.そなたを勇者○○と認めよう!
勇者の剣改め“ゴリラの剣”は、めちゃくちゃうるさかった。
これまでの監禁生活がよほど不満だったのか、王城へ戻る間中テル坊相手に延々と喋り続けたのだ。
外に出たことないくせに、よくもそこまで喋るネタがあるもんだ。
そして、テル坊もよく聞いていられるものだ。
「高揚してるときのサーリスにそっくりですよね」
「は? 何言ってるの? 似てるわけないじゃん」
呆れたカシェルの呟きも解せない。
なぜ私があの剣に似てると思うのか。
だがまあ、輝きといいみなぎるパワーといい切れ味といい、勇者の剣に相応しいのは間違いない。これを勇者の剣と認めずして何だというのか。
念のため、人里に戻った時に、通りすがりの適当な人間に頼んで、テル坊でなければ剣が抜けないことも確認済である。
ちなみに、私とカシェルが試さなかったのは、以前、オリさんに付き合ったおかげでアベちゃんレベルを超えてしまっているからだ。
* * *
王城に到着すると、すぐに謁見の間へと案内された。
剣には謁見の間は黙っててくれとよく言い含めてある。あの調子でしゃべられたら、“勇者の剣”のありがたみが薄れるからだ。
「王様! これが勇者の証、“ゴリラの剣”です!」
「おおおおお!」
「なんと……真実、そなたが勇者であると……!」
王様はもちろん、集まっていた貴族たちからもどよめきが起こる。
連発される“ゴリラ”という単語に、私はひとりだけ吹き出さないよう、ひたすらに堪えていた。
ふと、王様だけが妙に感無量といったようすで震えていることに気づいた。今のところ、テル坊の自称“勇者”が、自分で“ゴリラの剣”と名付けた立派な剣を持ち帰っただけにすぎないのに、どうしとそこまで感銘を受けているのか。
そしてその傍らに、まだ幼い……たぶん十歳くらいのお姫様が、胸の前に両手を合わせてキラキラと輝く目でテル坊を見つめていた。
――え? お姫様?
そのまま流そうとして我に返り、私はそのお姫様を二度見してしまう。攫われた姫が、なぜここに?
「ね、カシェル。姫って攫われたんじゃなかったっけ?」
「聞いてなかったんですか? 攫われたのは姉姫で、あそこにいらっしゃるのは妹のカタリナ姫です」
「え? え……? 姫ってひとりじゃ……?」
「この国の姫はふたりです」
「うそ……」
ゲームじゃお姫様はひとり……だったはず。
ほかにきょうだいはいなくて、だから魔王倒して戻った勇者が姫と結婚して次の王になって……だったはずだ。
まさか、テル坊即位ルートが変わっちゃった?
いや、長子が次の王なら姉姫が女王のはずだし、助けに行くのは姉姫だから、テル坊王配もワンチャンあるはず?
「――では、そなたこそが勇者であると認め、勇者“ゴリラ”の称号を授けよう!」
私が妹のほうとかいう姫に驚いてる隙に、話はトントン拍子に進んでいたらしい。テル坊はしっかり勇者認定を受け、勇者の称号まで賜っていた。
というか、勇者の称号が“ゴリラ”?
「勇者――“ゴリラ”?」
王様の宣言から間髪入れず、わああああと歓声が上がる。
テル坊までもろ手をあげて喜んでいる。
私だけが不意打ちを食らい、唖然としている。
次から次へといったい何なのだ。なぜ勇者の称号がゴリラなのか。
おかしくない?
「さよう。かの大魔王を倒し、世界と女神をお救いした勇者は“ゴリラ”と称される者であったと、我が国の史書に伝えられている。
ゆえに、我が国では勇者たる者の称号を“ゴリラ”と定めたのだ」
「なんで?」
たしかに歴史は歪んで伝えられるっていうけど、それ、もしかして私がオリさんのこと「ゴリラ勇者」って言ってたから?
私のせい?
だから王様は“ゴリラの剣”で納得したの?
だから勇者“ゴリラ”誕生でこんなに皆喜んでるの?
「カシェル、“ゴリラ”って……」
「いつもサーリスが口にしてる言葉ですよね」
ああ、とカシェルがワケ知り顔で頷いた。
「“並び立つものがないほど強い”くらいの意味だと解釈しています。だから、勇者の称号にもなったんでしょうね」
「あ――たしかに、ゴリラは強いけど」
忘れていたが、この世界にゴリラに相当する生き物はいない。
私も特に「ゴリラ」について説明したことはない。
何よりも、いちいち説明するのは面倒くさい。
――その結果がこれか。
私がオリさんをゴリラと呼んでたから、皆、勝手に「ゴリラ」を解釈して意味を当てはめたのか。
ゴリラの解釈違いってやつなのか。
ここで本物のゴリラがどうこうと説明しても今さらだ。理解されないどころか信じてもらえるかも怪しいうえに、水を差すだけになってしまう。
この秘密は私が墓まで抱えていくしかない。
何より、テル坊も喜んでいるし。
「テル坊、よかったね」
「はい! 勇者ゴリラとして、必ず魔王を倒してお姫様を救います!」
うん。勇者ゴリラとしてがんばってくれ。
実際、実力はゴリラなのだから。
「ゆ……勇者ゴリラ様! お姉様を……お願いします!」
「はい、任せてください!」
カタリナ姫が王様の横からすすっと歩み出て、テル坊を縋るような、けれど期待に輝く目でキラキラしながら見つめている。
テル坊はもちろん、力強い笑顔でそれに応えている。
本人たち以外の全員が察する、あの雰囲気である。
「それで、その、無事にお戻りになったあかつきには、わたくしと……」
「大丈夫、ちゃんと無事にお姉さんを連れて戻ります!」
カタリナ姫はもちろん自覚の上だろうが、テル坊はもちろんミリも察することなくいつもの調子で元気よく答えている。
まずい。
これはまずい。
「あ、あの、では私たちはさっそく旅立つので!」
ここでフラグを立てられても困る。テル坊の将来が変ってしまう。テル坊とカタリナ姫の間に慌てて割り込むと、私は適当な辞去の挨拶を口にしつつ、テル坊を引きずるようにそそくさと謁見室を後にした。
* * *
「さすが、お姫様はきれいでかわいかったですね!」
城を出るなり、無事に勇者として認められたと、ニッコニコのウッキウキなテル坊のテンション高い。
『あったり前じゃないの! なんたってオヒメサマよオヒメサマ! 可愛くなかったらやる気半減よ! いえ、むしろマイナスになるわ!』
城を出てもういいと判断したのか、剣までおしゃべりを再開する。
「お姉さんのお姫様もきっときれいなんですよね」
「そ、そうそう! 攫われた方はもっときれいなんだよ! だからがんばろう!」
『――あら、あんた姉姫推しなの?』
やや食い気味に返す私に、剣が訝しむような声音だ。
表情まで見えるように喋るとか、どうやったらこんな剣が生まれるのか。これぞ神のお力というやつなのか。
『アタシは今のところ妹姫ね。ちょっとあざとさはあるけど、健気な感じがかわいかったわあ。勇者ちゃんと年回りもちょうどいいんじゃない?』
「え、いや、推しっていうか、そんなの姉姫にあってみなきゃわからないじゃん? 姉のほうがテル坊に釣り合うかもしれないし?」
「――いったい何の話をしてるんですか。そんなことよりも、まずはここからどこへ向かうかですよ」
妹姫じゃテル坊の将来に関わるのだ。
だが、ここで剣とそんな言い合ったところで不毛でしかない。
呆れたカシェルの声に気を取り直して、「まずは」と話を元に戻すべく、私は改めて口を開いた。
「持ってかれてた鎧と盾を見つけるところからかなあ」
剣だけでは片手落ちというものである。
テル坊の実力を遺憾なく発揮するためにも、良い防具は必要だ。
本来、手持ちで一番いい鎧を買ってから武器を買うのが、良い脳筋の武装というものなのだ。剣だけ良くても、被ダメージで負けたら馬鹿の骨頂ではないか。
故に、持ってかれた防具は早急取り戻さねばならないのである。
「えーと、ゲームでも勇者装備は散逸してたから、探さなきゃいけなくて……そうだ、武器屋だ! それとも鍛冶屋だったかな?」
「心当たりがあるんですか?」
「たしか、名店だか名職人だかがいて、そこにいけば手がかりがあるだろうって、ゲームで聞いた気がする」
うろ覚えすぎて細かいイベントは今ひとつ思い出せない。
オリさん時代のことならいくらでもわかる。だが、シリーズの他の作品にあまりハマらなかった私は、諸々の大筋しか覚えていないのだ。
「百年前に行った武器屋の子孫が後の名工だかになってるとかいう小ネタがあったはずなんだよ。そこ行ってみよう!
武器屋なら、武具の情報に詳しいだろうし、あの銘品が今も残ってるなら絶対噂になってるはずだからさ」
こねた? と首を傾げながら、カシェルとテル坊は頷いた。
鎧も盾も、神の鉄を使っちゃいないとはいえ、百年後の勇者のために性能もデザインも拘った逸品である。武器屋が知らないなら、永遠に無くなってしまったと考えるのが妥当だろう。
その時は、代わりの防具を考えなければならない。
思い立ったが吉日だとばかりに、私たちはすぐに王都を出た。
目指すは南東にあるオアシスの街だ。そこにくだんの武器屋があったはずなのだ。いろいろうろ覚えすぎる以上、情報は足で探すしかない。
だが――
「うっそ……マジで……? まさかの村焼きとか、魔王、仕事早すぎない……?」
かつてオアシスの街だった場所は、もうずいぶんと前に焼き払われたらしい、廃墟となっていたのだった。





