2.勇者の剣ゲット!
ふらふら現れる魔物をサクサク倒しながら、私たちは進む。
勇者テル坊は、齢十六に満たないながらもバフてんこ盛りの熊相手に無双できるゴリラである。こんな人里近くに出没する魔物なんざ敵ではない。
ましてや、私やカシェルが同行しているのだ。
ここいらじゃ無敵を誇ってもいいくらいだろう。
「着きました。ここが勇者装備(改)を隠してあるダンジョンです」
丘の麓にちんまりと口を開けた小さな洞窟の入り口を、私が示した。
ちょっと見ただけでは気づかないような、人がひとりやっと通れるくらいの亀裂みたいな穴だった。まさかこの奥にダンジョンの入り口があるなどとは誰も思うまい。
「師匠が作ったんですか?」
「元からあったやつを再利用しただけだよ」
穴をくぐって慎重に少し進んだ先は、やや広くなっている。突き当たりの少し手前に、本当の入り口である隠し扉があるという構造だ。
この私自らが渾身の隠蔽を施したのだから、これまで誰にも見つかってないはずである――たぶん。
だが、意気揚々と隠し扉の場所まで進んだ私を、嫌な予感が襲う。
この穴をねぐらにした獣か何かの荒らした痕跡が残っていたのだ……いや、獣ならいいが、マイナーとはいえ冒険者とか探検家みたいな山師は皆無じゃない。
いちおう盗難防止の仕掛けもしておいたけれど――
隠し扉を開けて黙々と進む私の後を、テル坊が神妙な顔でついてくる。しんがりはカシェルだ。もちろん、ここにブツを隠した時はカシェルも一緒だった。
「誰かが入った跡がありますね」
「やっぱり? あー、やっぱ隠しダンジョンが完璧に隠されてるとかあり得ないんだわ。穴があったらとりあえず潜って調べたくなるのが人情ってものだもんね!」
「そんな人情は知りませんが……武具が残ってると良いですね」
カシェルの余計なひと言に、テル坊が不安な表情を浮かべる。
「師匠、なくなってたら、僕どうすれば……」
「大丈夫。最悪、剣だけあればどうとでもなるから。アレは正真正銘、勇者じゃないと抜けないようにしてもらってるからね」
「勇者かどうかって、どうすればわかるんですか?」
「んんん……レベル?」
「れべるですか?」
「うん。最低でもアベちゃんくらいのパワーがないと抜けないように設定したっていうか――アベちゃんのひ孫が来るってわかってたら、アベちゃんの子孫じゃないとアウト判定に設定したんだけどねえ」
さすがにテル坊が来るなんて想定してなかったから、と私は笑う。
この世界にレベルというものが本当にあるのかは知らないものの、カシェルが時の神の神官になった時、時の神クァディアマルにお願いしてそんな制限を付けてもらったのだから、隠しステータス的にあるんだろう、きっと。たぶん。おそらく。
シリーズ三部作で、伝説編以外の勇者は全員レベルをそこまで上げずともクリアできた。つまり、伝説編後のこの世界の平均レベルは低いということだ。
故にアベちゃん並の強さを設定しておけば勇者以外に抜ける者はいないはず、という理屈である。
そして、テル坊はさすがオリさんとアベちゃんの子孫というポテンシャルを持つ子供である。未だ十六歳に届いておらずとも、アベちゃんを凌ぐほどに仕上がったパワー溢れるゴリラ勇者なのだ。
剣を抜くくらいちょろいだろう。
なんなら、そのまま魔王に凸ったっていい。
ふふんと笑いながら、各種仕掛けを避けつつ目的の部屋にたどり着いた。
「……師匠、この石板て?」
「ん? 勇者の遺言的な石板かな。私が作ったやつだけどね!」
「サーリスの謎理論では、ここにはこれがないといけないのだそうですよ」
何故だかしょっぱい顔のカシェルが言う。
カシェルも一緒にノリノリで作ってたくせに、なぜそんな顔をするのか。
石板には、もちろん未来の勇者へ向けてのメッセージが刻まれている。要約すると「魔王はまた現れるから備えよ」というメッセージだ。
残念ながら伝説編以外はうろ覚えなので、文章自体は適当である。
「だってほら、アベちゃんは何にも残さずサクッと帰っちゃったから。次が来るのはわかってるのに何の警告も無いと、万が一の時にまずいかなあと思ってさ」
喋りながら、私は武具を隠した場所を調べた。
嫌な予感どおりか。
「あー、鎧と盾なくなってる……マジかあ……当代一のエルフ職人に発注したスペシャルアーマーなのになんで持ってくかなあ……」
「鎧も盾も大きいですからね。隠してあってもわかったんじゃないですか?」
「でも剣は大丈夫だった。剣だけ隠し場所最小限サイズにしといてよかったあ」
石板の台座の下の石を固定した漆喰を、短剣の先で無理やりほじくり返す。どうせ次に来るまで開けないんだからと、普通に固定したのが良かったらしい。
金槌と鉄杭くらい持って来ればよかったなと考えながら、力任せに床石のひとつを外すと、その下には丁寧に埋めておいた細長い包みが残されていた。
「あったあった、コレだよ。魔法剣だし神の鉄製だから、絶対錆びないと思って普通に埋めといたんだよね」
目をまん丸にしたテル坊が包みを受け取り、梱包を解いた。
多少汚れてはいるが、埋めた時と変わらない輝きの鞘に収められた細身の長剣がコロリと出てくる。
嵌め込んだ宝石やデザインにも拘った、“勇者の剣”に相応しい逸品である。
「百年ぶりに見ても、派手派手しい剣ですよね……」
「――かっこいい!」
「そう! 派手なんじゃなくてかっこいいんだよ! テル坊わかってるね!」
似た者師弟と呟いて、カシェルが小さく溜息を吐いた。
うわあ、と口を開けたまま剣を鞘ごと掲げ見るテル坊が、わくわくと期待に満ちた表情で柄に手を掛ける。
ここまでしといて抜けなかったらどうしようかと、さすがの私もほんのり緊張したけれど、しゃりんと軽く金属の擦れるような音と共に難なく輝く刀身が現れた。
ゴリラに育てておいてよかったと、私はほっとする。
「すご――」
『ちょっとお! 遅かったじゃないのさ!』
――が、すごい、と言い掛けたテル坊の言葉に被るように、変な声が響いた。
「は?」
『いったいどんだけ待ったと思ってるのよおおおお! アタシ、埋められたまま忘れ去られたんじゃないかってすっごく不安だったんだからね!』
どう見ても剣が喋っていた。
ちょっと無機質な声質なくせに、やたらと捲し立てるおばちゃんのような口調だ。いや、おばちゃんというよりこれは――
テル坊が「師匠、これって……」と訳がわからないという顔で私を見るが、私にも訳がわからない。
「カシェル、これ、別に知性持つ剣じゃなかったよね?」
「そのはずです」
オリハルコン製だし勇者専用だしと、魔法は付与した記憶はあるが、知性を与えた記憶はない。なんでこいつは喋るんだ?
『もう、細かいことはいいじゃないの! それで、この子が今代の勇者なワケね? アタシが必要なワケね?
ようやっとアタシの出番なワケねええええええ!』
――うるさい。キンキン声じゃないだけマシだけどうるさい。
「神気を感じますね」
「は? 神気? なんで?」
「“勇者にのみ使える”という条件を付けるために、時の神クァディアマルのお力を借りたじゃないですか。たぶんそれですよ」
カシェルがすごく真面目な顔で妙なことを言い出した。
「カシェル師匠、神様のお力で剣がしゃべるようになったんですか?」
「ただの魔法ではなく、神力ですからね。十分あり得ます」
「ええ……なんでそんな余計なことまで……」
『ちょっと! あんたたちまだアタシを放置しようっていうの!? そういうプレイなの!? いい加減にしないと怒るんだから!』
キャンキャンがなりたてる剣の口調は、あまり教育に良くなさそうな気がする。
だがしかし、今から別な剣を仕立てる時間もなければ職人もいないし、何よりオリハルコンはもう無いのだ。
オリハルコン探しから再スタートとか、今さらだろう。
「仕方ない。これが勇者の剣ですって持っていくしかないか……いざとなればテル坊が勇者だって剣が保証してくれると思えばいいか……」
『アタシをがっつり抜き放ったんだからこの子が勇者に決まってるじゃない。今さら勇者変更とかナシのナシよ』
「大変心強いお言葉です……」
「神様のお力で話ができる剣……すごい」
口調がアレなうるさい剣でも、テル坊のツボには刺さったらしい。
抜き身の刀身を掲げて、「これからよろしくです!」とニコニコ笑うテル坊は、さっそく剣に“ゴリラの剣”という名前を贈っていた。
は? 何故ゴリラ?
――と思った時にはすでに遅く、名付けで輝きを増す剣の銘は、「ゴリラの剣」に固定されていたのだった。
※この世界に「ゴリラ(動物)」はいません





