叶わぬ王道、それでも⋯⋯
帝歴401年4月19日
「今日は何するんだ?
一応、ミナモから夕飯の買い出し頼まれてるからあんまり遠いところは勘弁して欲しいのだが⋯⋯」
「んー、じゃあお芝居見に行くとかは無理そうだね」
「気になるのでもあったのか?」
「前にシグレちゃんが紹介してくれた舞台の続編が今公開されてるらしくてね。
端末でも過去作は見れるけど、やっぱり実際に見るのとは違うからさ?」
「なら、シグレと合わせて行けば良いだろ?」
「ソレは⋯⋯そうなんだけど、とにかく気になってたから見に行きたいなぁって思ったの。
向こうに戻ったら、直接見る機会なんてあまりないだろうし⋯⋯」
「なるほど、それもそうか。
そういや、今月末までだもんな交換留学⋯⋯」
「うん、だからさ今のうちに後悔しないよう、色々とやっておきたい事は済ましておきたいの。
ミナモのご飯も、向こうに戻ったら食べれなくなるでしょ?」
「ここに来てまで食い意地だけかよ?」
「それだけじゃないよ勿論!
とにかく、後悔はしないようにしたいってこと。
私はとにかく、ルークスはどうなの?
進級したんだし、これを機に何か新しいことでもしたりとか考えないの?」
「新しい事って言われてもなぁ。
俺の方は今年の闘舞祭で良い結果を残す為に頑張るって辺りくらいかな」
「最近は毎日早起きして、鍛錬してるもんね?
調子はどうなの?」
「正直去年よりは鈍ってる、ここ数ヶ月は謹慎みたいなもんでろくに身体を動かしてなかったからな。
この間なんか、メルサに不意打ち食らって大怪我するところだったからな」
「メルサさん、凄く強いもんね。
身体の鍛え直しは、色々大変そうだね」
「今年からはシグレも参加するからな。
色々無理ばかりしてるし、ラクモも無理しない程度にリハビリもしている。
俺一人が鍛えるってだけでもなくなってるからな」
「ラクモさん、日常生活には支障はないんだよね?」
「ミナモと一緒に料理やら家事の手伝いはしているからな、義肢の調整でまだ本調子ではないが。
しかし、あいつは剣士として再びカタナを振るう道を目指している。
それに応えられるように、俺なりのやり方で手を差し伸べるしかない、結局はあいつが出来るかどうかだからな」
「ルークスはどうなの?」
「言ったろ、謹慎で鈍った身体の調子を取り戻して今年こそ良い結果を」
「そうじゃない、ルークスはどうしたいの?
祭典で勝って、何がしたいの?」
「……勝って、どうしたいか?」
「うん、ルークスは剣を握ってるけど別に勝ち負けが全てじゃない。
でも、あの祭典で勝ちたいって気持ちがある。
それじゃあ何の為に勝ちたいの、ルークスは」
「自分の生まれについてだとか、あの祭典にかつ事で俺の過去、帝国についての事を知りたい。
その為の権限を得る為、元々はその為に勝ちたいって思ってあの祭典で勝つ為の努力は惜しまなかった。
でも、この前の賢人祭で自分や帝国について色々知る機会を得た」
「賢人祭で、確かアーゼシカって人だよね?
ヴァリス王国から来た知人みたいだけど、帝国やルークスの事を知っていたの?」
「まあそうだな、色々聞けたんだ。
結果として言うなら、全てが良いものって訳じゃない」
「何かあったの?」
「まあ、色々とだな。
詳しいところは話すと色々長くなる。
表に出せない情報もそれなりに多かったが……、とにかくある程度の方針は前から決めていた」
「何をするつもりなの?」
「俺には夢があった。
自分が王となって人々の可能性をその理想を体現出来る国を作りたい」
「王に?」
「ヤマト王国の王位の継承とはまた別に、新たな国の王として自分がなりたいんだ。
自分の宿命やしがらみに関係なく、誰もが努力をすれば夢が叶うのだと……。
そんな絵空事が実現するような、そんな国が」
「⋯⋯⋯」
「無理なのは分かってる、勿論な。
王様になる以前に、俺はオラシオン帝国の忌み子であり俺が王になる事で世界に混乱を招くだろう。
努力すれば、その結果必ず報われる⋯⋯馬鹿な話だ。
そんなことがあり得ない事くらい、俺が一番目の前で見てきた。
不可能だって決めつけてる、いや俺がこの身をもってわかりきってる現実。
俺の生まれのせいで、昔の知り合いが謎の死を遂げた事もあった、兄貴の一人が田舎に飛ばされた事もあった。
下手な騒動を避ける為に、学院ラークに来ておいて真面目に授業も受けることもなく怠惰に過ごす日々。
でも、諦められなかった。
だからこうして、鍛錬してまで次の祭典に出場しようとしている。
俺の生まれも知りたいのもあるが、一番は武勲やら何やらで結果を出して、いち早く力を、王様になりたいって夢を叶えたいが為でもあった」
「王様になりたい……」
「そうだ。
でも俺はお前と違って、王となる事は愚か……。
組織を束ね皆を導く存在となる事を誰よりも疎まれて、避けられて生かされてきたからな。
俺の存在が表沙汰になれば、メルサみたいな穏健派ならまだしも、帝国の栄光を取り戻したいって過激派の連中が何をしでかすか、分かったもんじゃない……。
だが、下手に俺を処分しなかったのは母であったヒイラギ王女の存在か、ヤマト王国が今後何らかの目的の為に利用出来る有用な駒として残しておきたかった。
神器の所有に関しても、特別に契約出来る機会を得れたのはその点に関して幸運だったと言えよう。
でもそれは、俺が何をしようと結局は全て、俺を利用したい勢力にとっては無意味は愚か管理できる手中である事の裏返しでもあるのも事実。
今の家族も実質人質みたいなものだからな、目立つ行動は避けてるつもりだが、結局全部は諦められない半端者だよ……」
「ルークスはヤマト王国が嫌いなの?」
「………全部が嫌いな訳じゃない。
生まれ育ったのも、今の家族が居るのもヤマト王国あっての、そして母であるヒイラギ王女が俺を自分が死ぬ覚悟でその存在を託した国でもある。
母自身、ヤマト王国だけじゃない、この世の在り方の改革の為に動いていた御方だったとかどうとか……。
その功績や歩みはこうして、ラークに訪れてその過去の資料をみることで足跡を辿る事が出来た。
でも、それはあくまで過去の記録………」
「過去の記録……」
「そうだ、記録だよ。
過去にその人が何をしたのか、その功績が本や雑誌のほんの数行程度に残されている。
代表生徒だった当時の記録は、確かに多くあったが今の俺達の世代からすれば過去の遺産。
同じくその道を志す者達にとってそれは前例であり、可能性が確かに存在出来る証明。
でも、記録を読み解けば分かってくる。
俺には無理な話、当時の状況や環境が違うのは勿論だがあの人はそもそもヤマトの王族としてなるべくして成った人だったからだ。
その後の結婚やらは関係ない、生まれた時から王となるべく素質があり、その道を学んで実行してきた。
そしてそれを周りが強制した、故に最年少での代表生徒就任という異例が起きたんだ。
王、いや上に立つ人間って奴は生まれもってそうなるべき教育と実力があった。
でも俺は違う、確かに俺はあの人の子だが俺の存在は誰よりも疎まれてきた。
俺のせいで友人が何人か音沙汰も無くなったこともある、俺のせいで家族が田舎へ飛ばされた事もある。
俺が王を目指そうする事は、かつて滅んだ帝国の再興そのものであって、俺がそんなものに興味がなくとも周りはそれを疑わない。
オラシオン帝国最後の皇帝が残した唯一の存在、そう生まれた事実は何があっても覆らない。
そして、その事実がある限り俺の目指す王というのは帝国の再興そのものであり、今の混迷とした世界情勢の中で生まれてはならない存在なんだ」
「っ……そんなの、やってみなきゃ分からない」
「やってみなくてもわかる」
「でも、貴方はルークスよ。
私の見てきたルークスは……」
「お前から見ての俺と、他の奴等から見る俺の存在は同じじゃない!!
王になりたいのは本心だよ、でもその王になる道を選んだ事で、今俺の手元にある大切な人達を犠牲する事は容認出来ない。
俺が王になって示したいのは、誰かのため以上に彼等の為でもあるからだ。
だから無理なんだよ、半端なんだよ俺は………」
「関係ない……生まれなんて絶対に……」
「おかしな話だ、サリアの王族として生まれたお前がそれを言うのかよ?」
「でも私は知らないわ」
「何を言って……」
「私は、今の家族を覚えてない。
もう今の私に家族と過ごした記憶は存在しない」
「…………」
「でも、そうかもしれないね。
生まれは絶対に変わらない、でもその先は違う。
選択するのは私達自身、周りがどうとか関係ない、その選択をした私達自身の結果が今なんだよ。
今の貴方は逃げてるだけ、選択から逃げてるだけの臆病者よ」
「そうだな、臆病者だよ。
だから選択から逃げてる、王になりたい道を夢見て、誰よりもその道から離れようとしている」
「でも、諦めてない。
貴方の王道は、まだ終わっていない」
「………」
「メルサやラクモさん、シグレちゃんにそれに私だって貴方が差し伸べてくれたから、進んだ道を諦めないでいられる。
自分の夢を、その可能性を捨てずに進めていられるのはルークスが、あなたが誰よりも私達に寄り添ってくれたおかげなんだよ⋯⋯。
だから、あなたが困ってるなら力になりたい。
私達を助けてくれたように、今度は私がルークスの夢を叶える手助けがしたい」
「なら、どうするつもりなんだよ?
王様になるなんて無謀もいいところで⋯⋯」
「あなたが王様になれるように、今度は私が協力してあげる。
まず手始めに、今年の代表生徒の立候補して就任させる。
それで私が本気だってことを証明するから」
「な⋯⋯、お前本気で?」
「私は本気だよ、ルークス?
まさか、今更怖気づくの?
王様になるんだよね、だったら堂々としなさい。
実際に今年から代表生徒に就任する、この私が協力するんだからさ」
「でも、俺のせいで周りが⋯⋯⋯」
「関係ないよ、そんなの。
だってルークス本人は何も悪くないでしょ。
それを生まれや育ちでつるし上げて馬鹿にする奴等なんか、私が絶対に許さないから!!
だから私を信じて、ルークス。
私があなたを王様にする、その為なら⋯⋯。
私に出来ることは何だってするから!」
そう言って、まっすぐな目で俺に訴えかけてくる彼女の姿に俺は思わず息を飲んだ。
あまりの気迫、その過剰な自身。
口先だけ、でも本気で、本心から言っている。
彼女は本気だ⋯⋯。
レティアは本気で俺を⋯⋯、
「⋯⋯⋯」
「今すぐには難しいかもね。
私、来月には交換留学が終わって向こうに戻るから⋯⋯。
早くて闘舞祭の予選始まった辺りから⋯⋯、でもルークスはその時、忙しいよね?
んー、でもそれくらいの時期から色々準備とか宣伝とかやりたいし⋯⋯」
そう呟きながら、すぐに端末を取り出し色々と調べ始めるレティア。
色々と思うところはあったが、彼女から溢れる謎の自信と情熱に絆され、俺は気付けば彼女の想いに折れていた。
「はぁ⋯⋯、分かったよ⋯⋯」
「ルークス?」
「お前を信じるよ、レティア。
まずは代表生徒だっけ?
目指してみるかな、丁度いい機会だしさ。
なんか、就任すると色々特権もあるって話だし悪くはなさそうだ」
「信じてくれるの?」
「ああ、まぁな。
それともさっきまでの話は嘘なのか?」
「そうじゃない、でも私⋯⋯てっきり⋯⋯」
「信じるよ、レティアは本気なんだろ?
なら、その本気に応える。
なってやろうじゃないか、代表生徒。
そして、未来の王様にな?」
「うん、絶対になろう!
ルークスは絶対に凄い王様になれるから!
現役の王女である私が言うんだから、間違いなく王様になれるよ!!」
そう言って、自分の事のようにはしゃぐ彼女。
彼女が何処まで本気なのか、分からない。
でも、俺に対して向けたあの確固たる熱意と覚悟は本物だった。
応えたいと、彼女の想いに⋯⋯。
今まで、何処か夢で終わりそうだった俺の幻想。
もしかしたら、実現出来るかもしれない。
いや、実現出来なくても⋯⋯彼女となら⋯⋯。
「ルークス、それじゃあ今日は作戦会議だね?
近くの喫茶店で色々計画立てようよ!」
「お芝居見るんじゃないのか?」
「今日はいいの、また今度にする。
今さっきの事、全部忘れない内に色々まとめておきたいの!!
ほら、早く行こうルークス!!」
そう言って俺の手を取り引っ張る彼女。
ただ引っ張る力が強く、制服が破れそうな勢いだ。
「分かったから少し落ち着けって!
そうやって転んだらどうするつもりだよ?」
「大丈夫大丈夫!!
転んでもルークスが何とかしてくれるから!!」
「俺頼みかよ!!」
そして結局、最後まで彼女のペースに振り回される。
それとも、俺が彼女をそうさせているのか。
いや、もしかしたら⋯⋯。
「ほら、早く行こう?」
「分かったから、落ち着けって⋯⋯」
この時を何より待ち望んでいたのかもしれない。
自分の夢を肯定してくれる、誰かの存在を⋯⋯




