6 過去を知った第二王子、激怒する
【レイナルド視点】
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レイナルドの私室
エレノアが祈りの後に意識を失った。
侍医の診察では、浄化魔法を極限まで使ったことによる魔力枯渇。
浄化魔法の際たるものが状態異常を治すもの。
まさか、あの粉々になった魔石を状態異常として元通りにしたのか。
あのとき、魔石はエレノアの血を受け入れた。
王家の魔石は代々伝わる宝物。それを持つ者を保護する。
妃となる女性に贈ることで相手をも保護できる。
王族にとって聖女は囲い込みの対象。
それも王子教育で習ったが。
数日前、エレノアはあの耳飾りを粉々にして『ダイシ』に組み込んだ。それでもあの魔石のかけらはまだ稼働している。
なぜだ。共鳴の魔石は壊れたら全ての機能を失う。同時に壊そうとしたものを攻撃する。
しかも壊して、また元に戻してこの石はまた輝きだした。
ありえない。
あんな女だったろうか。
兄上に婚約者が決まってから、エレノアは変わった。
いつも神殿で下を向いてじっと祈る姿しか見たことがない。
そして私の婚約者になってからは、笑顔など見たことがなかった。
月二回の茶会でも、何も言わず、茶を一杯のむと帰って行った。
ただのお飾り人形のように、心がまるで無いような、抜け殻のようで気味が悪いだけで距離は離れるばかり。
そして先日、エスコートしようとした私を突き飛ばした。
その夜にダイシを作ったらしい。
オスカーが専属侍女から聞いた話では、厨房係の少女が重い野菜籠を運ぶのを見て負担を減らすべくダイシを作った。
祈り以外にそんな事をしたのは初めてのはず。
この数日はよく喋り明るくなって喜んでいたそうだ。
あの侍女は侯爵家から連れて来た者で母上の評価も高い、話は本当だろう。
本当に聖女だったのか?
そして私の目を見つめて、こともあろうかこう言った。
『私の心をあなたにお渡しします』
まるで騎士の誓い。
私は幼い頃より厳しい指導を受け鍛錬を積み、叔父上から近衛騎士団総帥を引き継いだ。
騎士の誓いがどれほど高尚で強固で永遠かを知っている。
あの目には穏やかな澄んだ光が湛えられていた。
あの女のあんな目を見たのは初めてだ。
何が起きている。
まさか怪しき何かが、そう思いかけて首を横に振った。
しかし、そんな馬鹿げたことを考えるほど変なことが起き、そこに巻き込まれている。
しかも、聖女が夜中にゴミを漁りとは。
母上に聞くしかないな。
王妃である母上は【薔薇の聖女】と呼ばれ稀代の聖女とも言われるお方だ。
禁書庫の聖女に関わる文献は母上の許可がないと閲覧できない。
許可も下りるかどうか。
ダイシも早急に作らねばならん。
あれを見た王城の各施設から問い合わせが殺到している。
単純な作りだが、画期的で使用人の負担が減り効率も上がる。
しかも廃物利用で作れる。
必要なのは微細な魔石。
フッ、いとも簡単にあんな物を作りおって。
知らぬ間に私は笑っていた。
緊急だったので、エレノアは私の寝所で休ませた。
触れたくもなかった女を寝所に入れるなど、私もどうかしている。執務室の簡易寝台で眠ろうと、私室を出た。
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翌朝、執務室の簡易寝台で仮眠を取っていたら、早朝に母上から呼び出された。
母上の私的な応接室に急いで向かう。
これは王族案件かつ家族の問題、もう耳に入ったのか。
こちらからお伺いを立てる手間が省けたが。
が、挨拶もそこそこに、母上から質問攻めにあった。
「レイナルド、一体何があったのです」
隠しても仕方ないので、起きたことを全て話した。
「エレノアがまさか」
鈴蘭の祈りの話で母上が顔色を変えた。
いくら家族とは言え、母上は滅多に表情を変えないお方だったから、何かまずかったか。
「レイナルド、その祈りを見たのですね」
「もちろん目の前で」
「あなた達、昨夜まさか」
母上が扇子を握りしめている。
ああ、そういう誤解?
もちろん全否定する。
「まさか、その祈りの直後に倒れたので。それより共鳴の魔石の」
「レイナルド!」
「はい」
「もしエレノアが倒れてなかったなら」
まだ仰るか、母上殿。
「ありえません!私達が不仲だったのはご存知でしょう?白い結婚のつもりで受けたのですから」
「だからなのよ。その祈りは、あなたに全てを許します、と言う意味なの。婚姻の夜、夫になる人の前でしか使わない」
え?今度はこっちが絶句する。
「……なぜそんな」
母上が扇をパチリと鳴らした。
「母が尋ねているのですよ」
「失礼、しかしエレノアはその祈りで魔石を」
母上が大きなため息をつく。
こっちがため息をつきたい。
「エレノアにとっては、共鳴の魔石を元の形に戻したい一心だったのでしょう?けれど、そんな簡単な話ではないわ」
「別に共鳴の魔石が元に戻ったから良いのでは?私も手出ししていませんし」
母上が扇子を掴んで、反対の手のひらにトントンと当てている。
「一度しか使えない祈り、なのよ」
「それは伺いました。昨夜、私の前で祈ったが、もともと婚約者です。婚姻後も白い結婚のつもりなので、問題ないのでは?」
別にいつ祈ろうと問題にする必要はない。
どのみち婚姻は免れない。
「レイナルド、よくそんな簡単に、乙女に対してそんな言い方をしなくても」
「そう言われましても相手はお飾り聖女ではないですか」
口が滑った。
「そうでもないのよ、でもおかしいわ」
「何がです?」
母上がポツリと言った。
「アウグストの時は共鳴しなかったのに」
は?兄上の時ってなんの話だ。
「……なぜ兄上の名前が出るのですか、兄上の婚姻のときに共鳴しなかったのですか」
王太子である兄上の妃になったのは【ひまわりの聖女】。
「アウグストの婚姻のときは成功したわよ、それより以前にエレノアがアウグストに祈りを捧げた時は共鳴しなかったわ」
今なんと?エレノアがあの祈りを兄上に?
「母上!」
「急に怒らないで」
「なぜ、エレノアが、兄上にいつ?」
声が震えてきた。
あの言葉を兄上にも言ったのか?
「アウグストの婚約者が決まる前よ、エレノアはアウグストに思いを寄せていたから」
なんてことを、あの女!
「先ほどあの祈りは生涯に一度だと」
「そう、もちろんアウグストはエレノアを拒否したし、共鳴もしなかったし問題はない。でもあの祈りは、もう二度使えないと思っていたわ。だから昨夜、共鳴したと聞いて驚いたのよ」
「二度と共鳴しないのがわかっていて、王命でエレノアを私に?」
「エレノアの聖女としての力は国に必要だし、王族との婚姻は必須。そのくらいわかって受け入れたのでしょう?でも昨夜は共鳴したのだから婚姻は安泰ね、良かったじゃない」
母上の斜め上さに何も言えない。
「……父上はご存知なのですか」
かろうじて絞り出した質問に、母上はいとも簡単に答えた。
「ええ、ご存知よ。王族の男子は色々と大変なのよ、アウグストにはエレノアがやらかした時に全部説明したわ。そして今日はレイナルドあなたよ」
そこから母上の長い話が続き、私は心底消耗し、禁書庫の鍵を預かって母上の部屋を出た。
勘弁してくれ!
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不定期更新ですが、完結します。
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