5 粉々の魔石を祈りでくっつける
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レイナルドの私室。
共鳴する王家の魔石。
射抜くような殿下の視線。
凛子の前世を思い出してからの数日、私は少しおかしかったわ。
だって、凛子の記憶があまりにも大きくて、エレノア自身の記憶が曖昧になっている。
祈りの言葉は覚えている。
妃教育の記憶も、この世界で生活できる程度には残っている。
なのに、レイナルド殿下との思い出がないんだわ。
エレノアの記憶から、殿下への思慕や憧れも感じられなかった。
嫌いだったの?まあ確かに、こう上から目線の男じゃねえ。
でも、そんな言い訳はできないし、したって信じてもらえない。
私は、凛子らしく進むしかないんだわ。
元から凛子だもん。
そもそも私が別人になるのは無理だもの。
考えろ!ここから逃げ延びる方法を。
よしこれで行こう!
立ち上がって、床に平伏した。
「殿下、数日前、神の啓示が下りてから、私の記憶がところどころ抜けております。婚約式で賜りました首飾りは、王妃様にお預けしてございます。ただ」
「ただ、なんだ」
「ただ、耳飾りは、大切な証として手元に置いておきたくて。王妃様にもそう申し上げました」
殿下がせせら笑う。
「何が大切な証だ、これを見てそう言えるのか、そんな口からでまかせを私が信じるとでも」
これ真剣に怒ってる。
私も悪気はなかったのよ。
今の今までこれが共鳴の魔石だとは知らなかった。
「信じていただけなくても構いません。人の言葉など、信じるに値しないこともございます」
そう、愛なんて言葉は信じるに値しないわ。
私は元カレに裏切られた。
婚約していたのに、私の海外赴任中に別の女と結婚したんだから。
忘れていたことまで思い出して胸が痛い。
なんで今思い出すのよ、もう終わったこと。
「なら、何をもって信じろと言うのか」
「自分の目で見たこと、だけ」
さっきあの丸太を引き摺った時、か弱い手のひらがヒリヒリして痛くて思い出した【鈴蘭の聖女】の祈り。
エレノアの記憶では、この祈りを捧げていた。
たぶん神殿で祈ったのかもね。
エレノア、思い出すのよ。
ローテーブルの上には、バラバラになった耳飾りの魔石。
殿下の指輪。
そして色とりどりの果物とフルーツナイフも。
「だから見ているではないか、この粉々の魔石を」
ふんと嘲笑うように、殿下の目がまた鋭くなった。
怒っているのは魔石のことだけ?
この方の胸の奥には、押し込められた青い炎がある。
ああ、思い出した、一字一句!
よし、いくわよ!
「殿下、お目汚しをお許しください」
私は手を伸ばしてフルーツナイフを掴み、銀細工の小さな容器も手に取って、殿下から距離を置いた。
「エレノアっ、何を!」
「殿下を傷つけたりはしません。祈るだけしか能がない私の祈りを」
私は床に銀細工の容器を置き、その前に正座する。
《天よ、我の祈りを聞き届けよ、
純粋なる心を呼び戻せ、謙虚なる鈴のその音色で、
純潔なる蘭の香りで、幸せを訪れさせよ》
とても良い香りがどこからか漂って、リーン、リーンと澄んだ鈴音が聴こえてくる。
私は、粉々になった魔石の上で、フルーツナイフを両手で握り締めた。
っ!
ポトリと落ちた一滴が魔石にかかると、魔石がキラキラと輝き始める。
ローテーブルの上、殿下の指輪の輝きが部屋中に広がる。
バラバラの魔石が共鳴し合い、真ん中に集まっていく。
リーン、リーン。
そして香りが霧散し鈴の音が止んだとき、銀細工の容器の中には数日前に割った耳飾りがあった。
やったー!できた!
殿下が私と魔石を凝視している。
私も殿下を見上げる。
サファイアブルーの瞳と視線が重なる。
「レイナルド殿下。これが、鈴蘭の聖女の心です。私の心をあなたにお渡しします」
祈りの言葉を言い切った!
そして、ドヤ顔をしようとして――意識が途切れた。
ブクマ、評価をありがとうございます。頑張ります。
不定期更新ですが、完結します。




