4 第二王子に見つかった
「さて聖女殿、話を聞きたいので同行願おう」
「………」
同行、任意同行って、任意だっけ?
「エレノア、聞いているのか」
その低く凍るような声で名前を呼ばれただけで、震え上がるんですけど。
「……」
あれ?立てない。さっき丸太を掴んで引っ張った時だわ。何、このやわな身体。今、私は地面に座り込んで膝に丸太乗せている状態。
殿下が近づいてくる。
「その丸太が気に入っているのか」
「も、申し訳ございません。その重くて動けないのです」
もう一歩殿下が近づき、片手で私の膝から丸太をどける。
「あ、ありがとうございます」
「では、付いてくるように」
足が痺れて立とうにも立ち上がれない。それで必死で、歯を食いしばって立ち上がるけど、生まれたての小鹿状態、痺れて痛い。
「殿下っ!どうか先に。後から参ります」
「私は忙しい、こんな夜中にこの国の王族が、何のために設備品処分場まで赴いていると?」
ああ、目が鋭くなってるし、眉間に皺が。絶対怒ってるわ。
「申し訳ございません、っ、殿下っ」
「黙れ!手のかかる女だ」
私は一瞬で抱き上げられていた。ちょっと待って、人生初のお姫様抱っこ。元カレだってこんなことしてくれなかった。
「あ、丸太」
舌打ちが聞こえた。
「聖女殿は丸太をご所望か」
「ごめんなさい、でもあれが必要なのです」
殿下は私を抱き上げたまま、控えていた騎士にその丸太を回収するように指示をし、どんどん歩き出す。
足が痺れているから、殿下の歩みで揺れる度にもん絶するほど痛い。
これって不敬案件?そして思い出した。マーサと私の台車。
「あ、マーサ」
「侍女は護衛をつけて先に返した。あなたには聞きたいことがあるのでな」
殿下の胸越しに後ろを見ると、私の台車に丸太が載せられ、騎士が押してついて来る。
⌘
レイナルドの私室。
今、私は、高級だけれど質実剛健というべき部屋のソファに降ろされ座っている。変装していた黒いローブは剥がされた。部屋の入り口に私の台車、色々入っている。
目の前に香り高いお茶が置かれると、殿下は人払いをした。
殿下の私室で二人っきり、ってまずくない?
殿下は、どっかりとソファに腰掛けると騎士服の襟元を少し緩め、
カップを手に取り足を組んだ。一口飲んで大きなため息を吐いた。
なんか、近くでまじまじと見ると、すごいイケメン。これは自分が眉目秀麗とわかっている人の態度。まあ王族だもんね。
「私の顔に何かついているか」
底冷えのする声で睨まれた。
「整ったお顔立ちだなって、でももったいないわ、眉間の皺が」
しまった。この何でも思った事を言う凛子の性格。
「エレノア、単刀直入に聞く。このダイシは何だ、知らぬとは言わせぬ」
突然始まった尋問。
「……」
「しらばっくれるのも良かろう、だがこれはあなた以外に作れない」
「そんな、そんな木箱なんて、誰でも」
「そうだ、木箱も丸太もあの王城の設備品処分場で調達可能だ、そしてダイシに使われている木には、王室御用達の刻印がある」
「王室御用達?」
「エレノア、妃教育は優秀だったと聞いていたが」
あ、そうだ、王城で使われるものは、品評会で選ばれて……。
「思い出したようだな、よろしい、そして、この取り扱い図」
「それは」
「これはこの国で一人しか使えない花の紋章が入っている」
だって部屋にあった適当な紙、あ!
殿下はその取り扱い図を書いてある紙を灯りに透かせた。
鈴蘭の花の紋章が浮かび上がる。
「エレノア、あなたしか使えない紙だ」
私はどんどん項垂れていく。
「エレノア、王命である以上、婚約解消はできない。私も不本意な婚約であったが、受け入れる努力はして来た。ここまで侮辱される覚えはない!」
え?なんで台車で、婚約の話しがでるの?
「侮辱などしておりません」
「何をしらばっくれている」
こっちも黙って聞いていれば、腹が立って来た。
「ダイシは私が作りました!でも殿下を侮辱したりなんかしていません」
「したではないか」
「していません」
「では何だ、これは」
ローテーブルの上にあった銀細工の入れ物の蓋を、殿下が開けた。
あ、この前壊した魔石の粒。
「それ、私の、なぜここに」
「これが何だったか忘れたのか」
え?何って、耳飾り。
殿下がご自分の指から大きな指輪を外して、魔石の粒の横に置くと。
両方の石がキラキラと光り出す。そう共鳴する魔石。
しまった、これは。
殿下を見上げると、怒りと諦観の混じった鋭い瞳で射抜かれた。




