3 ダイシ至急大発注
あれから数日後、私はこっそり《ダイシ》の様子を見に行っていた。
「エレノアお嬢様、すごいですわね」
「ええ、マーサ、今の見た?」
「ええ、あの厨房係の少女は、走りながらダイシを押していますわ」
数日前、転ばされて泣いていたあの女の子は、嬉しそうに台車を走りながら押している。木箱には山盛りのじゃがいも。
「あら、エレノア様、ほら」
マーサの指差す方を見ると、別の厨房係のお仕着せを着た女の子が、山盛りのにんじんとキャベツが乗ったダイシを押している。
「早いわね」
「ええ、エレノアお嬢様の乗馬より早いですわ」
ギクッ。
そうなのよ、このエレノアは侯爵令嬢にして聖女。だからお淑やかで、運動をしない。少し歩くと息切れする。
なんとかしないと、薄幸の美少女で消えてしまいそうだわ。
凛子は段ボール箱も平気で運んでいたのに。
あ、あの二人の後ろから、野菜カゴを引き摺っている女の子が。
「マーサ」
「はい」
「足りないわね」
「はい、私もそう思います」
マーサも同じ事に気がついたようね、ダイシが足りないことに。
「では、今夜」
「はい、今夜」
⌘
そしてその夜の王城の設備品処分場にて。
「マーサ、それはちょっと小さいわ」
「お嬢様、ではこれでは」
「いいわ、それ。長いものを入れるのに使えるわね」
「では、ダイシに積んでまいりますね」
「マーサ、重いから気をつけるのよ」
「お任せください」
少しずつ木箱や車輪、押し手になるような木を探しては、マーサが台車へ運んでくれる。侍女は力持ちね。
でも私も力持ちになりたい。
その時、私は丸太を発見。
「これ、すごい!輪切りにすれば車輪がたくさん作れるし、何台分になるかしら」
私は丸太を持ち上げようとするけれど、重い。
「うーーん」
これはお祈りでは動かせない。
「うーーーーーーーん、重くてダメだわ」
「私が持とう」
おお、用務員さん、こんなところにいた。
凛子を時々助けてくれたあの用務員さん、どうしてるかな?
「ありがとう、助かるわ、おじさん、いつもありがとう」
え?あれは前世。
今は異世界。
「誰?」
「こっちが聞きたい」
私は振り向いて絶句した。
暗闇にサファイアのように輝く青い瞳。
「レ!」
レイナルド殿下。
「レ、とは何だ、鈴蘭の聖女よ」
「な!」
何で!
「エレノア、聖女殿がゴミ漁りを?」
「ち!」
違うのよ、これは。
「聖女は一言で祈るようになったのか」
「……ごきげんよう」
万事休す。
⌘
——その数刻前、レイナルド執務室。
レイナルドの指輪が今朝から何回も些細な光を帯びる。
「レイナルド、これは何だかわかるか」
「オスカーでもわからないとは、何だ」
オスカーが書類を見て考え込んでいる。
「注文書なんだが、ダイシ、十台、至急」
「ダイシ?どこの部署だ」
「厨房係の物品注文担当から、大至急」
「予算は」
「厨房の予算はあるが、ダイシがわからない」
部下を厨房係の調達室へ確認に行かせたが、しばらくして、走って帰ってきた。
「殿下、オスカー殿、見たこともないものが、走っています」
「何を言っている」
「いえ、こんな、木箱でじゃがいもが早く」
「ダイシはイモか」
「違うんです、木箱が走って」
「ジェイ!文官らしく整理して報告しろ!」
オスカーがキレかけている。
いつもは冷静なジェイが説明できていない。
結局、よくわからず、オスカーを伴って厨房係へ行くことに。
⌘
厨房係
「これは……誰がこんなものを」
レイナルドが目を見張る。
厨房係の上の者の話によると、数日前、気がつくと野菜貯蔵庫の前に置いてあり、使い方を絵で示したものが貼り付けてあったということ以外はわからなかった。
「その説明の紙を見せよ」
オスカーが厨房の者から紙を受け取って、吹き出した。
「オスカー、何を笑っている」
「申し訳ありません。レイナルド殿下、こちらを」
オスカーがレイナルドに紙を渡す。
そこには幼児が描いたような、『人?が、木箱を押す?ような拙い絵』が描かれていた。
しかも上質な紋入りの紙に。
レイナルドはその紙を灯りに透かした。
「……オスカー、今夜、設備品処分場を見てくる」
不定期更新ですが、完結します。
もし、なんか面白いな、と感じていただけたら、ブクマや評価をしてくださいるとうれしいです。




