21 十二年ぶりの故郷
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重厚な王家の馬車に揺られ、私達はヴァルト侯爵領へ向かっている。
レイナルド殿下は国王陛下の命で、ルクス王国の東北エリアの視察のため、王都を出発しすでに一ヶ月以上、馬車の旅をしている。
国境の要である辺境伯領では、国境の守りのため領地を離れられない辺境伯との会議、辺境騎士団とレイナルド様が率いる黒碧騎士団との合同訓練が行われた。さすが王国最強と言われる両騎士団の凄まじさに圧倒され、国を守るという気持ちに喝が入った気がしてる。
それに先頭で指揮を執る殿下は、ちょっとカッコいい。
葡萄酒で有名な伯爵領では、葡萄の収穫祭に遭遇し、女性達のぶどう踏みに参加し大変な事になったの。
国でも有名な【鈴蘭の聖女】に是非、と伯爵に頼まれ、収穫の祈りを捧げながら葡萄を踏んでいたら、大きな木のタライの葡萄果汁がどんどん増えて、葡萄の中で溺れる寸前で、殿下に助け出された私は泥酔状態。
私が酔っ払っていたので、葡萄果汁を調べてもらったら、これから熟成させるはずの葡萄果汁が、なんと葡萄酒になっていた。
その日その場にあった木のタライの全てよ!
領民からは【聖女様の奇跡】と拝まれ、大量の聖女の葡萄酒を前に殿下は頭を抱えることに。
その新酒は門外不出ということで、殿下が王家で高額で買い取る話をつけ、すでに葡萄酒の大量の木箱は、黒碧騎士団に守られて王都へ向かっている。
もちろん、収穫祭に参加した皆様には、《その場で新酒になった葡萄酒》が振る舞われ、収穫祭が新酒祭になっていたけれど。
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そして最後の視察地は、私が生まれ育ったヴァルト領。
「久しぶりです、この景色!十二年ぶりかしら」
私は懐かしいヴァルト領の広大な草原を見て心が躍る。
ところどころで野生の馬が群れて駆けている。
お父様のお考えで、野生は野生のまま保護している。
五歳で聖女の力に目覚め、王都に連れて行かれた。
王都の侯爵邸で淑女教育を受け、神殿で修行し、第二王子の婚約者になってからは王城での妃教育、もう教育まみれだった。
「ヴァルト領の景色は変わっておらぬな」
「え?レイナルド様は、侯爵領にいらしたことがあるのですか」
「うむ、十二年前にな」
「……」
ええっ!記憶にない。
「あなたが聖女の力に目覚めた頃だ、覚えてないのも無理はない」
殿下は珍しく笑って、窓の景色に視線を移した。
殿下が侯爵領に来てらしたなんて。
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侯爵領の邸は城に近い。
馬の生産地なので邸の裏が全て馬場になっていて、訓練を終えた馬たちが遊んでいる。その周りに羊や山羊も勝手にウロウロしている。これが侯爵邸。
馬車が到着すると、すでに馬車寄せのエントランスには、お兄様、お義姉様をはじめ、使用人たちが出迎えのためにビシッと並んでいた。
私はレイナルド殿下のエスコートで馬車を降りると、挨拶をしようとしていたお兄様に抱きついた。
「アドルフお兄様っ!会いたかったの」
誰かの咳払いが聞こえる。
しまった!ここはお兄様と殿下のご挨拶の場。
殿下は私をお兄様から引き剥がし、小脇に抱え一歩下がる。
何事もなかったように、お兄様が挨拶を始める。
え?この状態で挨拶するの?
つつがなく堅苦しい挨拶が終わり、お兄様と殿下は軽口を交わしながら邸に入る。
「アドルフ、アカデミー以来だな。すっかり次期侯爵の顔になった」
「レイナルドも騎士団総帥の貫禄が漏れているぞ」
「ひよっこだったからな、しかしここは変わらぬな」
「これでも少しは、新しい設備は入れているのだが」
「ここは、変わらぬ方がいい」
ねえ、下ろしてよ。わざと無視しているな、男どもは。
「レイナルド、前触れをもらったが黒碧騎士団の数が減ったと?」
「半数を先に王都へ返した」
「王都で何かあったのか」
「いや、王都は平穏だ。やらかしたのはお前の妹だ」
「いやいや、お前の婚約者だろう」
二人が軽く睨み合っている。何してるの?
「あのー、そろそろ下ろしていただきたいのですが」
そしてお兄様の雷が落ちた。
「エレノア、お前はそうやっていつもレイナルドに迷惑をかけているのか!淑女教育はどうなっている。もうすぐ王族の一員になるのだぞ。それにその格好はなんだ!未だにお仕着せとは、父上はこの有り様を……」
殿下の小脇に抱えられたまま、完璧主義のアドルフお兄様から説教をくらい続けた。それにしても、未だにお仕着せって?
そして、やっと解放されて、私のお部屋に入る。
ここを出た時の昔のまま。
コンコン。
「はいどうぞ」
「エレノアお嬢様っ」
ずっと育ててくれた乳母のマミーナだった。
「マミーナ!会いたかった」
私はマミーナに抱きつく。
「お美しくご成長されて。王都ではきっととっても努力なさったのですね」
懐かしさと、この十二年の色々な思いが溢れて、マミーナの腕の中で泣いていた。
マミーナに湯あみを手伝ってもらって、着替えをしようとして、マミーナが笑っている。
「エレノアお嬢様は、今もお仕着せがお好きなのですね」
え?これは罰です、お父様の。
「マミーナ、今も?」
「お転婆をしては、旦那様にお叱りを受けて、罰でお仕着せをお召しでしたよ。ただ小さなお仕着せはございませんでしたから、お嬢様用に特別に仕立てておりました。まだ衣装部屋に置いてございますよ」
私は衣装部屋に駆け込んだ。
ハンガーにはずらーっと小さな可愛いお仕着せがかかっている。侯爵令嬢に相応しいドレスの数が異常に少ない。
そうよ!お父様の罰は、お仕着せでお手伝いをする、というものだったのよ。
後から入ってきたマミーナが、笑いながら言う。
「お嬢様にとっては、お仕着せ姿が罰になっておりませんでしたけれど。」
確かに動きやすいから、山羊や羊まみれで遊び、馬にも勝手に乗って駆けまわっていた。
私、ずっと黒歴史だったの?
結局、マミーナに、レイナルド様から贈られた王城仕様の高級なお仕着せを着せてもらって、髪も三つ編みにしてもらって散歩に出た。
もちろん馬に乗って!
久しぶりに庭である草原を駆け抜け、伸び伸びとする。
大好きだった小さな湖のほとりに出る。
柳の木に馬をつないで、草の上に寝っ転がり空を眺める。
羊みたいな雲がポン、ポン、と流れていく。
少し眠たくなって、私は夢の中へと引き込まれていった。
次話で完結予定です。




