16 狂犬王女ヴィヴィアン
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謁見の間。
謁見の間へ急ぎ、王城側の者が入れる奥の入り口から滑り込む。
間に合ったみたい。
殿下を探すと、一番奥の高い場所の近くにいた。
中央の王族の座に王太子殿下ご夫妻、そして一段下がってレイナルド殿下。
皆様は正装。
急いで殿下の元へと向かうが、途中で殿下と目が合う。
殿下が目を見開いてこっちを見ている、早く奥まで行かなきゃ。
「殿下、なんとか間に合いました」
「エレノア、着替えろと言ったはずだ」
殿下が小声になる。
「だから、着替えてきました。新しいお仕着せに」
「っ!」
「どうされましたの」
「いや、エレノア、落ち着いて聞け。今日は正装だ」
「えっ?でも、私は罰で半年間は侍女ですから」
「………それは内輪の話であって、社交では正装を。いや確認しなかった私のミスだ。とにかくすぐ、目立たないようにここから出ろ」
さすがに私も意味がわかった。
凛子の世界でも、ガラパーティでドレスを着ていないと、どんな目で見られるか、そのくらい知っている。
後退りをしながらそっと移動しようとした時。
「ブルベール王国ヴィヴィアン王女殿下、芸術交流団のご到着でございます」
全員が定位置につく。
今は動けない。
ヴィヴィアン王女がしずしずと謁見の間の青い絨毯を進む。
属国の王女と言う身分なので、国王陛下ではなく王太子殿下ご夫妻が迎えることになっている。
真っ赤な髪色に緑の目、華やかな方ね。
王族同士の挨拶もつつがなく終了。
芸術交流としての訪問なので、音楽家の挨拶もあり少しざわざわしている。
この隙にここから出よう。
殿下が後ろ手を振る、出ろ、の合図。
目を伏せつつ下がろうとした時、前方に真っ赤なドレスの裾が視界に入った。
そして甲高い声。
「レイナルドお兄様、お会いしたかったですわ、わたくしも成人して十六歳になりましたの。これからは舞踏会でレイナルドお兄様と踊れますのよ」
なんかこう、圧が強めの王女殿下だわね。
しかも殿下の腕にしがみついて来た。
殿下がやんわりと手を触れぬように身体を捻っているのがわかる。
王女が他国の王子に公の場で触れるのは明らかなマナー違反。
しかもブルベールは我が国の属国、主国の王子に触れる?
「ヴィヴィアン王女、ここは謁見の間、成人なされたならば、振る舞いに気をつけられよ」
おお、殿下が嗜めてるわ、やっぱり誰にでも同じね。
その時だった。
「あらあ、あなた、そこの侍女!レイナルドお兄様に近いわよ。あなたのような身分低き者がこの場所にいるなど、場違い甚だしいわ」
ズン!とヴィヴィアンの扇先で胸を突かれた。
え?
ふらついたが踏ん張った。
ここで転ぶわけにはいかない。
「ヴィヴィアン王女、この者は」
「あらあ、レイナルドお兄様、まだお姉様に未練がおありなのかしら、淡いハニーブロンドにピスタチオグリーンの瞳。いくら亡きお姉様に似ているからと言って、下賤な者を【お飾り人形】になさるなんて」
バシッ!
ヴィヴィアン王女が扇を振りかざし、私の頬を打った。
よける暇もなかった。
少しよろける。
頬が熱い?
その上、この王女、今何て言ったの?
お飾り人形って言ったわよね。
「ヴィヴィアン様っ」
王女の側近が、ヴィヴィアン王女を止めに入る。
殿下が私を支えようとするのを、目で止めた。
「大変失礼いたしました、御前を下がらせていただきます」
私は侍女風の礼をして後退りする。
「侍女風情が口を聞くなど不敬だわ」
もう一度、扇が飛んで来そうになった時、王太子妃殿下【ひまわりの聖女】のお声が響く。
「ヴィヴィアン王女、その者は修行中の我が国の聖女です。それ以上は、いくらヴィヴィアン王女であっても、我が国への不敬とみなします。鈴蘭の聖女は、一旦お下がりになって」
私は一礼をして出来るだけ静かに、でも急いで謁見の間を出た。
レイナルド殿下がついてこようとしたが、まだ芸術交流団の挨拶が途中。
さっと目を合わせて、来なくてもいいという意味を込めて目配せをする。
青い目が頷く、通じたわ。
私はさっさと謁見の間を出た。
出口では、マーサとアリスが待っていた。
ホッとする。
「エレノア様、間に合わずに申し訳ございません。王妃様が、えっ!」
アリスが途中で絶句する。
マーサに至っては固まっている。
「どうしたの、二人とも」
「……エレノアお嬢様、中で何が」
そう言いながら、真っ白なハンカチを頬に当ててくれる。
「っ!」
痛い。さっきの。
「とりあえず、お部屋に戻りましょう。ここにいてはまずいわ」
ジンジンと痛む頬をそっと押さえながら、王子妃の部屋に戻る。
アリスは途中で王妃様にご報告せねばと、また走って行った。
アリス、よく走るわね。
そして、鏡を見て、私は絶叫し、気を失った。




