14 殿下寝所に連行されました
お飾り14話
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エレノアの寝所
私は箒ごと天蓋の布が絡まって身動きできない。
居間の方から足音と声が聞こえる。
「エレノア様、如何されました?」
マーサだけじゃなくてアリスの声もする。
どうしよう、見つかったら。
殿下が、右手を居間側の扉へ向けて手を上げると、鍵がカチリと締まった。
同時にあの青い瞳で見据え、寝台に飛ぶように向かって剣を振り抜いてくる。
ああ、死ぬのね、私。
えっ?その瞬間、殿下に箒布も布も丸ごと小脇に抱えられていた。
ガラガラドサッ!
割れた天蓋が寝台の上に落下した。
ドンドン、ドンドンドン。
「エレノア様、ご無事ですか」
扉を叩く音がするが、施錠されているので開かない。
殿下は私を見て片方だけ眉を上げてフッと笑った。
「大事ない!少し激しく動き過ぎて寝台が壊れただけだ、エレノアは私の腕の中にいる。私の寝所に移るので案ずるな。それと明日の朝は起こさずともよい」
「なっ」
「……殿下!それはようございました。ごゆっくりなさいませ」
マーサもアリスも待って!ようございません。
二人を呼ぼうとしたら、私の顔を殿下の胸に押し付けたので、声が出せない。うー。
そして侍女たちの足音は遠くなった。
周りが静かになり、殿下の寝所へ運ばれ、箒ごと殿下の寝台に放り投げられた。
殿下は寝台前の肘掛け椅子に腰掛け、その横に剣を立て掛ける。
「っ」
「さて、エレノア、説明してもらおうか」
「これはマホマで」
「それは聞いた」
「……あの、助けて頂きありがとうございました」
「ほう、礼が言えるようになったのか」
青い目が、私の全身を突き刺すように見ている。
「見事な眺めだ」
「なっ!」
「箒を持った侯爵令嬢が破れた天蓋布に絡まっている、まるで蓑虫」
「笑ってないで助けてください」
「助けたではないか、放っておいたら天蓋の下敷きだった」
「それはお礼を申し上げました。でも殿下がいなければ、ちゃんと飛んでいました」
「夜中の寝所で、箒に乗って飛ぶ王子妃など聞いたことがない」
「婚約者ですっ」
「王子妃として扱っている」
嘘?とりあえず、でしょ?
「さっき言ったであろう」
何を?私は身動きできない布の中で首を傾げる。
「私の寝所に移る、明朝も起こすなとな」
え?それが何よ!
えっ、ええ?
まさか、そういう意味?
なら、さっきなんか言ってた。もっと過激なことを。
「殿下、たわけたことをっ!」
蓑虫みたいにちょっとずつ動くけど動けない。
「どっちがたわけているか、まだわからぬか」
「だ、だって祈るばかりの無能な聖女は嫌です」
「それがお前の役目だろうが」
「ち、違います、私はもっと」
「もっと、なんだ」
「もっと、いっぱい思い浮かぶから、役に立ちたいの」
殿下が大きなため息をつき、頭をくしゃくしゃっとした。
「お前は、エレノアではなく、リンコか」
「……そうとも言います」
「……悪魔つきか」
「やめてください、真っ当な人間です、神の啓示で、エレノアとリンコの記憶があるだけです。魔法があるならもっと利用できるでしょう」
「聖女をやめたいのか」
「祈りは続けます、国のために。でも好きにしたい」
「好きになぞできるはずがない」
「そういう意味ではなくて、思ったことを形にできる力があるのに、もったいないでしょう?」
「木箱で走って、箒で飛ぶことがか」
「だって、箒は馬より早いし」
殿下が立ち上がってこっちに来る!
いや違った、あっちに行くの?
「今日はそのままで寝るがいい」
「ちょっと待ってください」
「なんだ」
「その、普通に眠りたいので何とかしてくださいませんか」
「………箒か私か選べ」
何?その究極の選択?
どうしよう。
「悩むことか?」
殿下が呆れた表情になる。可愛い、こういう顔するんだ。
「眠いんだ、明日の朝も早い」
「で、でで、ででん」
噛んだ。
「もういい」
殿下は剣を持ってさっと布を切り裂いた。
「きゃっ、危ないじゃないですか」
「薄布くらい切れるわ、マホマは渡せ」
あ、取り上げられちゃった。
それから殿下はどこからかブランケットをたくさん持ってきて、丸めては寝台の真ん中に土手を盛り上げた。
「こっちに来るな、大人しく寝ろ!いびきをかいたらクビを絞める。この部屋は結界が強い、逃げ出したら怪我をするぞ」
それだけ言って、殿下は土手の向こうに消えた。
私も眠くなってくる。
今日は、侯爵邸で目覚め、フキボー作って、殿下に王城へ連れ戻され、マホマ作って宙を飛んで、忙しい一日だったわ。
ふわぁ、大きなあくびが出る。
「おやすみなさい」
◇
レイナルドの土手側では。
——なんなんだ、この女は!
何がおやすみなさい、だ。
黙って祈っていただけのお飾りの聖女ではなかったのか。
箒に乗って飛ぶなど、馬鹿げているにも程がある。
しかも、あられもない姿で箒に跨り、天蓋に突っ込む。
まるで蓑虫。
フッ。
必ず、お飾りに戻してやるから覚悟しろ!
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