11 殿下が耳元で爆弾発言
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咄嗟にカーテシーをしたものの、なぜ、レイナルド殿下がうちに?
その疑問は頭の中をぐるぐるしている。
誰かがブブッと吹き出した。
私がチラ見をすると、口元に手を当て肩を震わせているのはオスカー様だった。
オスカー様は、シュタイン侯爵家の次男で、お父様同士が親友。
レイナルド殿下の親友で側近。
私も幼い頃はオスカー様とよく遊んでもらった。
お父様が私をジロリと見る。お母様は、すでにくすくすと笑っておられる。
だって私、侍女のお仕着せを着て、フキボーでエントランスホールを、スゥーッと滑ってワックス掛けをしてところだったから。
お父様が殿下を振り返って、仰った。
「レイナルド殿下、もう手打ちにしてくださって構いませぬ。罪状は不敬だけではない。愚娘は聖女でもなんでもございませぬ」
「お父様、聖女の魔力は健在ですわ」
「黙りなさい!エレノア!第二王子殿下の御前である」
しゅん、そんなに怒らなくても。
殿下が片手を上げてお父様を制する。
「まあ待て、ヴァルト侯爵、エレノアがおかしい事は承知している」
誰がおかしいって!こいつ!
「さあ、殿下、サロンのほうへ」
流石、お母様、皆様をサロンへ、と家令にも指示を出している。
「エレノア、あなたは着替えをなさい、殿下に失礼ですよ」
「はい、お母様」
「侯爵夫人、御息女はそのままで良い、また逃亡されてはこちらも困るゆえ」
バレてる、逃げようと思ったのに、やるな殿下。
そして私は侍女のお仕着せのまま、サロンへ連行された。
フキボーは、オスカー様が嬉しそうに取り上げる。
「エレノア嬢、またすごいの作ったね。作り方を後で教えてほしい」
「これも簡単よ。三種類あるの」
二人で小さな声で話しながら歩いていたら、お父様の雷が落ちた。
「エレノア!早く、殿下のお相手を!」
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ヴァルト侯爵家サロン
サロンには、レイナルド殿下、お父様、お母様、私が残った。
お父様が口を開き、王家との協議内容を話される。
国王陛下、王妃様と侯爵家の話し合いで、婚約は継続になった。
私の状況を全てお話した上で、レイナルド殿下も了承されておられ、あとは二人で誤解を解くように、ということで侯爵家に出向いてくださった。
「良いか、エレノア、よく聞きなさい。レイナルド殿下との婚姻は、我が侯爵家の後ろ盾を得て、王家の立場を安泰にすること。つまり国政を正しく行い民の暮らしを守ることである」
それはわかっているけれど。
「お父様、私でなくてはならないのでしょうか」
「まずはヴァルト侯爵家が代々、国の法務を預かっているゆえ。それとお前に鈴蘭の聖女の力があるからだ」
「もし私にその力がなかったら」
「変わらぬ。私が法務大臣を預かる以上、状況は変わらぬ。そしてお前の兄がその後を継ぐ事も決まっている」
私が殿下の顔を見ると、顔色一つ変えずに、お父様の話に頷いている。
「してエレノア、今回はお咎め無しとなった。しかし次はない。もし王家に不敬を働いたら、父がこの手で断罪せねばならぬ。しかと肝に命じよ」
「承知いたしました」
これはもう覆せないことなのね。
「あとは二人で話しなさい。殿下は、対話を望んでおられる」
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サロンには殿下と私だけが残された。
「エレノア、朝の手紙は読んでくれたか」
「え?」
あ!後回しにしていたあれ。
「申し訳ございません。失念しておりました」
殿下がフッと笑った。笑った?
「フキボーとやらを作っていたのだな」
「はい、メイドが手を怪我してしまって」
しまった!殿下の手紙よりメイドを優先したと白状してるわ。
「殿下、わたくし」
穴があったら入りたい。もう完全に不敬オンパレード。
「構わない、今のあなたはそういう人なのだろう」
「申し訳ございません」
「エレノア、昨日は私もあなたを追い詰めてしまった。それに今、起きていることは、普通とは思えない。あなたをこの婚姻から解放してやれれば良いが、国として決定した事は覆せぬ。ここで決裂したまま形だけの婚姻をする事も可能だが、思っていることを話さないか」
「……なぜ急に」
「急も何も、先日の茶会から、あなたはいつものあなたではなかった」
「いつものわたくし、ですか」
「そう、口も聞かず、ただ祈るだけで、私の目を見た事もない人だったのでな。それが、突き飛ばされる、ゴミ漁りはする、最後は、大っ嫌いとまで言われた」
「………」
そうだったのね、私。
「あなたに感情があると知って、ある意味ではホッとした」
「え?」
「それまでは、抜け殻のような、人形のようだった」
殿下はそこで言葉を止める。
「気持ち悪くて白い結婚でも無理、というお気持ちでした?」
「そうだ。だが王族としての使命は逃れられない」
ふと思った事を聞いてみる。
「思いを寄せた方がいらっしゃったのでしょう?」
殿下が瞠目する。図星だったのね。
「その方とは、私がいなくなれば、一緒にはなれるのですか」
殿下は首を横に振る。
「もう過去のことだ。病で儚くなった」
あ。
「ごめんなさい、お辛い事を」
「いや、あなたこそ、男は裏切ると言っていたな。それに『リンコ』とは?」
「う……」
「私は話したぞ。今話さないと、こじれて庇えなくなる」
確かにそうね。
「殿下、わたくし、あの日、神の啓示を受けました。違う生き方をしろと。エレノアではないリンコという女性の人生を見ました。そこで男性に婚約破棄されて不安定になったのです」
「ふむ、確かに、あなたは私以外とは婚約はしていないから、あなたの人生ではなさそうだ」
「そして、これまでのエレノアとしての過去の記憶が少なくなって、レイナルド殿下とご一緒した記憶も無く不安になりました」
「確かに、私との思い出はなくて当たり前だ、共にいた事などなかったからな」
やっぱりそうだったんだ。少しホッとする。
「それから、色々と周りのことが気になって仕方がなくて。何か手助けをしたいと思い立つと動いてしまいます」
「それがダイシか」
私は首肯き意を決して告げる。
「どうかこれだけは信じてください。王太子殿下に祈りを捧げた記憶が全くないのです」
「わかった、兄上のことは魔石の共鳴もなかったと聞いている。あなたの血を受け入れた石は私の魔石だった。それに身の潔白を証明する方法が、もう一つあるので、気にせずともいい」
「え?方法があるのですか?」
「ああ」
「ではすぐに」
「やめた方がいい」
レイナルド殿下は笑って立ち上がり、私のそばに来て耳元で囁いた。
それは!待って!流石に固まる、顔が熱くなってきた。
「急ぐことでもない」
殿下は、席に戻って足を組み、カップを取り優雅にお茶を一口飲んで、サファイア色の目で私を見て、フッと笑った。
「では、エレノア、あの『フキボー』とやらのことを聞こうか」
もうこの男!一筋縄ではいかないわ。




