10 フキボーを作って掃除大会
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ヴァルト侯爵家エレノアの私室
鳥の囀りで目が覚めた。
両手を頭の上にやり全身で伸びをする。
あー気持ちいいわ。
しかしこの軟弱な体、何とかならないのかしら。
ほんとに祈るだけで能がないなんて、女が廃るわ。
まずはウォーキングかピラティスか、この世界なら、剣術?
柔術はやっていたけど、こっちの世界であるのかしらね。
「お嬢様、お目覚めでございますか」
あれ、その声はマーサ?
私はガバッと跳ね起きて、カーテンを開ける。
「マーサ無事だったの、いつ戻ったの、王城はどうなってるの」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ、今朝早くに戻って参りました。レイナルド殿下よりお手紙をお預かりしております」
「………」
今、一番読みたくないやつ、後回しよ。
遅い朝食をとりながらマーサに体力増強計画を相談していたら、部屋の外で大きな音がした。
ガッシャン!
食器の割れる音。
マーサより先に部屋の外を見に行ったら、あらまあ、廊下で食器が粉々に飛び散っている。
お仕着せの色が違うから、侍女見習いの子ね。
「申し訳ございません、ごめんなさい、申し訳ございません」
半泣きでパニクってるわね。
何人か侍女達が駆けつけてくる。
「エレノアお嬢様、危ないのでお部屋でお待ちくださいませ」
「ほら、早く片付けを」
メイド達はリネンや箒や塵取りを持って走ってくる。
みんながしゃがんで、割れた陶器のカケラを拾い集める。
それ危ないわよ、手を切るわ。
「痛っ」二人が指を押さえてる。ほらやっぱり。
この時代、傷パッドなんて無いんだから、怪我しちゃダメ。
もう、見ていられないわ。
あ!
「お待ちなさい!」
皆が一斉に私を見る。そりゃ、ここのお嬢様なので注目される。
「みんな、一回手を引きなさい、怪我をしてはあとの仕事に差し支えるでしょう」
私はマーサに持ってきて欲しいものを伝える。
侍女長のマルグリットまで来てくれた。
みんなには、ちょっと休憩しなさいと言ってそのあたりで待機。
怪我をした子達は、ささっとヒールで治癒。
私は侍女長のマルグリットとマーサを連れて自分の部屋に引きこもる。
まずは、凛子の時代にあった、何とかワイパーを三本作る。
真ん中に穴をあけた板に、長い丸い棒の先をはめ込む。ここは角度が大事なので小さな魔石を入れて松ヤニで接着。
次は一本目の板の裏側に、細い木の角棒を貼りつける。
これで押せば、水は抜けて陶器だけが押し出される仕組み。
完全ではないけど、粉々の陶器を触らなくて済むわ。
残りの二本の板には、布を挟めるように薄い板状の物をつけるが、隙間に小さな魔石をつけバネ代わりにする。
そこに使い捨てシートをつければいいけど、ここにはそんなご大層なものはない。
なので古いリネンをハンドタオル大に切った物を挟む。
一本は水の吸い取り用。
もう一本は、ワックス掛け用。
「これでよし!どう、マーサ?」
「お嬢様、これは、ダイシに次ぐ発明ですわ」
「発明なんて言うほどのものではないわ、工作よ」
侍女長マルグリットが目を丸くしている。
「エレノアお嬢様、こんなすごい物」
「これで、うちの侍女達やメイドは怪我をせず済むでしょう?」
マルグリットが涙ぐんでいる。
「やだわ、マルグリット泣くほどのこと?」
「下々の者までにお優しい」
まだ若い少女達に怪我をしてほしくないだけ。
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侯爵家の長い廊下にて。
なんとかワイパーの試作品をメイド達に使ってもらう。
まだ幼さが残るメイド達は、奉公して家族の為にお金を送っている子も多いらしい。怪我はさせたくない。
ほぼ女子中の放課後の掃除タイムみたいになってきた。
スーッと滑るようにワイパーが動くのは、板を少し反らせたからだわ。上手く動いてる。
紅茶浸しの割れた陶器、先に陶器だけ、紅茶だまりから排除、次は紅茶や湯を拭き取る。最後にワックスがけ。
で、元通り。
作業が終わったあと歓声がわっと出た。
「お嬢様すごいです」侍女達も口々に騒いでいる。
少し下がったところで、メイド達も手を取り合って喜んでいる。
私はマルグリットに頼んだ。
「ねえマルグリット、身分や立場の差があるのはわかっているわ、でもみんなで完成のお祝いをしましょう、お茶とお菓子の用意を」
「エレノアお嬢様、さすがにここでは、百歩お譲りして侍女達の休息室とメイドの休息室ならば」
私は頷いて、みんなで一階奥の裏側にある侍女の休息室へ向かった。メイドは庶民の子達なので、もっと奥に休息室があるそうだ。
休息室にはいると、メイド達が跪いている。
この世界の身分制度は嫌になるわね。まあ、平社員とCEOの違いという事で受け入れるしかないわ。
みんなで簡単にお茶とお菓子を頂き、その後、私は追加の《フキボー》をマーサと量産した。
なんとかワイパーって言っても、みんなが「拭き棒」と言い張るので《フキボー》になった。
そして午後から、量産したフキボーの大掃除大会。
みんなで棒の押しっこで掃除をしていたら、お父様とお母様がご帰宅され、エントランスホールで見つかった。
「お父様、お母様、お帰りなさいませ」
フキボーを手に駆け寄る。
「エレノア、その棒は何だ!」
「フキボーですわ」
いつもと違う視線を感じて、お父様の後ろを見ると、まさか。
侯爵家の入り口の大扉を抜けて、こちらを見る人が。
漆黒の髪、透き通るサファイア色の瞳。
なんでうちに来たの?
側近のオスカー様も一緒だわ。
私は慌てて、フキボーを持ったままカーテシーをした。




