ラストライトの記録
その街には、ギルドがあった。
それはどの街にもあるものだったが、
ここだけは少し違っていた。
空気が重い。
人の話し声が少ない。
誰もが何かを知っているようで、
何も語らない。
「ここだ。」
グランが言った。
レインは頷く。
ギルドの扉を開けると、
中には古い書庫のような空間が広がっていた。
壁一面に並ぶ記録。
巻物。
石板。
壊れかけた紙束。
「ラストライトの記録はどこだ。」
グランが受付に声をかける。
受付の男は一瞬だけ黙った。
そして視線を上げる。
「閲覧許可は?」
「いらない。」
グランは即答した。
男はため息をつき、
奥へと案内する。
地下へ続く階段。
降りるたびに空気が冷たくなる。
やがて一つの部屋にたどり着いた。
そこには“箱”があった。
木でも石でもない。
何か分からない素材。
「これが記録庫だ。」
男が言う。
レインは近づく。
「中は。」
「見てもいいが、保証はしない。」
グランは迷わず蓋を開けた。
中には無数の記録片が入っていた。
破られたページ。
焼け焦げた紙。
誰かの筆跡。
レインは一枚を手に取る。
そこにはこう書かれていた。
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『ラストライト第七層にて、生存者なし』
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別の紙。
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『光の底に“帰還”した者は存在しない』
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また別の紙。
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『それでも進む者は消えなかった』
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レインは顔を上げた。
「これ、本当なんですか。」
受付の男は少し黙った。
「分からない。」
「分からない?」
男は頷く。
「書いた人間がもういない。」
沈黙が落ちる。
グランが笑う。
「いつも通りだな。」
レインは箱を見つめる。
真実と嘘が混ざっている。
どれが本当なのか分からない。
いや、
そもそも“本当”という概念が崩れている。
そのとき一枚の記録が目に入った。
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『ラストライトは到達する場所ではない』
『到達した瞬間、それは別の場所になる』
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レインは手を止めた。
「これは……」
受付の男は肩をすくめる。
「誰かが書いた戯言だ。」
だがグランは笑っていた。
「面白いじゃないか。」
レインは記録を握りしめる。
到達した瞬間、場所が変わる。
では、誰も到達できないのは当然だ。
「行く意味はあるんですか。」
レインは思わず聞いた。
グランは少しだけ黙った。
そして言う。
「意味があるかどうかを決めるのは、行った後だ。」
レインは目を閉じる。
ラストライト。
千年誰も戻らない場所。
そして、
“到達した瞬間に変わる場所”。
その時だった。
レインは初めて、
「ただの目的地ではないもの」を見た気がした。
箱の中にはまだ無数の記録が残っていた。
それでもレインはもう一枚だけ読んだ。
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『光の底には、まだ名前のない何かがある』
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レインはゆっくりと箱を閉じた。
外へ出ると、空は暗くなり始めていた。
「行きますか。」
グランは笑う。
「当たり前だ。」
レインは少しだけ間を置いた。
そして頷く。
初めてだった。
ただの義務でもなく、
ただの流れでもなく。
自分の意思で、
その言葉を口にしたのは。
「行きましょう。」
風が吹いた。
ラストライトはまだ遠い。
だが確かに、
そこに“何か”があると知ってしまった。




