夢を持てなかった少年
ラストライトへ向かう街道は、徐々に人が減っていった。
木々が増え、
道は細くなり、
風の音だけが大きくなる。
「そろそろだな。」
グランが呟いた。
「何がです。」
レインは歩きながら聞く。
「境界だ。」
「境界?」
「“向かう側”と“戻る側”の境目だ。」
レインは空を見上げた。
雲が低い。
妙に静かだった。
その時だった。
草むらから音がした。
ガサッ。
レインは手を止める。
グランも止まる。
「誰だ。」
グランが言う。
草の中から、一人の少年が出てきた。
年齢はレインより少し下に見える。
だが目が妙に濁っていた。
「……迷った。」
少年はそう言った。
グランは眉をひそめる。
「こんな場所でか。」
少年は答えない。
ただ立っている。
レインはその少年を見ていた。
どこかで見たことがある気がした。
いや、
違う。
“昔の自分”に似ている。
「どこへ行く。」
グランが聞いた。
少年は少しだけ間を置いて言った。
「どこにも。」
レインは息を止めた。
「どこにも?」
少年は頷く。
「別に行きたい場所がない。」
静かな声だった。
レインは何も言えなかった。
グランが小さく舌打ちする。
「面倒なやつだな。」
少年は気にしない。
ただ立っている。
レインは一歩近づいた。
「何をしていた。」
少年は答えた。
「いた。」
それだけだった。
レインは言葉を探した。
だが見つからない。
少年の目は空っぽだった。
欲がない。
怒りもない。
希望もない。
ただ、そこにいる。
「何も欲しくないのか。」
レインが聞く。
少年は少し考えた。
「分からない。」
「分からない?」
「昔はあった気がする。」
レインは黙った。
その言葉に覚えがあった。
グランが腕を組む。
「お前、名前は。」
少年は少しだけ間を置いた。
「忘れた。」
グランはため息をつく。
「じゃあ帰る場所は。」
少年は首を振る。
「ない。」
沈黙が落ちる。
風の音だけが聞こえる。
レインは気付く。
この少年は、
“夢を持っていない”のではない。
“夢を持つ前に止まった”のだ。
「お前は。」
少年が突然言った。
レインは顔を上げる。
「何をしている。」
レインは答えに詰まった。
ラストライトへ向かっている。
でもそれは目的なのか。
それともただの流れなのか。
「分からない。」
レインは正直に言った。
少年は少しだけ目を細める。
「そうか。」
それだけだった。
やがて少年は草むらへ戻っていく。
どこへ行くでもなく。
ただ消えるように。
グランが呟く。
「嫌なやつに会ったな。」
レインは答えない。
その背中を見ていた。
なぜか胸がざわつく。
「グランさん。」
レインが言う。
「なんだ。」
「夢って。」
そこで止まった。
言葉が出ない。
グランは歩き出す。
「行けば分かる。」
レインは少年が消えた方を見る。
そこにはもう何もない。
ただ風だけが吹いていた。
そして初めて、
レインは少しだけ怖くなった。
“何も持たずに終わること”が。




